父との「別れ」

病院に無事到着し、父のいる病室へ足を踏み込む。父は前よりもつながれている管が多くなっていた。そして父の顔色、そしてこの病室の雰囲気。全てから父が危険な状態だと、これは確定事項だと自分の体中が悟っている。母はずっと父の手を握っている。「お願い、まだ向こうへは行かないで。」と。その時、父が目を開けた。「母さん、弥生、来てくれたんだね。」と父は言う。父の横顔から、もう父もわかっているんだと思った。自分の死期が近いということを。その時、父が笑った。まるでヒマワリが咲いたような、若いころに戻ったような顔で。そして「ありがとう」といった。その一瞬だった。ピィーピィーと父の管がつながっているモニターが鳴った。そのあとのことはもう記憶が定かではない。多分、父が死んだという事実だけが急に目の前に現れたから、何もかもが夢だと、全身が、心が、受け入れなかったのだ。それから一週間はただひたすらベットの上でゴロゴロとしていた。だからと言って注意する人間もいなかったし、母はひたすら部屋で泣いていた。ようやく少しは心が追いついてきたころにはもう、「霊」が見えるようになっていた。

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