第10話「俺の責任でした…」
ハンドメイド部と思いがけない形で偶然にも出くわすこととなった。
というよりも、いつも偶然にしては出来過ぎた出会いばかりしてしまう。
「お前ら…ハンドメイド部か…?」
「その通りだ! でもって仮でも俺らだって入部の言質とってんだし、その話し合いには俺らも通して貰わねえとな」
まるで俺のマネージャーかのような口振りの間丈。
いや、確かに言質は取られたがこの話し合いは流石に関係ないと思うが。
「お前らの噂は聞いてるぞ…それで部員数が必要だからってこいつを無理やり勧誘したんだろ!
こいつが断らないやつだと思って!」
「確かにほぼ合ってはいますが…」
「あーらら、やっぱ噂の方は尾ひれ付いちゃってそうだね~」
久川先輩の言葉に間違いはなく、彼らを追い払うような言動も、まあ解らなくはない。
だが俺が引っかかった点はそこではなく。
「…噂って…何ですか?」
本当に俺は野球以外は無頓着で無知だと思い知らされる。
唖然としているのは久川先輩だけではなく。
ハンドメイド部の皆もであった。
「お前ってやつは…」
呆れたように小さくため息をつく先輩。
それでも彼はハンドメイド部に代わってその『噂』を語り出す。
「この部はそもそも大所帯のファッション部と統合するって話だったらしいが、部員同士で大もめにもめて騒動になり…まあ強引なやり口で結局ハンドメイド部を存続はさせたようだ。が、それをきっかけに半分以上の部員が現部長を見限ってファッション部に鞍替えしたって噂だ」
しかも4月に、一斉に。
先輩の説明を聞いた俺は、改めてハンドメイド部の皆を一瞥する。
平然と、先輩の言葉を否定する様子もなく。
「思った以上の尾ひれになってるみたいですよ?」
「まあファッション部に部員が行っちまったってのは事実だけどな」
開き直ったかのような素振りで会話しているほどだ。
その『噂』に驚いた顔をしているのは、ここでは俺だけだった。
「…他のことにも少しは興味持っとけよ」
ぼそりと聞こえてきた後輩の呟きが、ちくりと痛い。
「そんなわけでこいつらはファッション部の闇って呼ばれるくらい、色々と問題のある部なんだ。先ず関わらない方が身のためってもんだ」
だが何故か、先輩のその言葉にも俺はちくりと痛んだ。
「……皆から爪弾きにされている部って…こと、ですか?」
俺の質問に先輩は「そう言えるかもな」と即答した。
何故か女子生徒にまで受けが悪いという、ハンドメイド部に抱いていた違和感。
その原因はこの噂のせいだったのかと、ようやく俺は理解した。
『えー…、ハンドメイド部に?』
『…それは良いかな』
『えー…何かあの部って色々独特だし…―――』
敬遠というか、距離を置くようなその言葉。
その冷ややかな彼女たちの態度を思い出すと同時に。
俺の脳裏で、別の光景が描かれ始めていく。
小学校から何となくという理由で始めた野球。
与えられたポジションはピッチャーだった。
努力で身につけた実力は元より、その当時から恵まれた高身長と体格は外見でも相手を恐れさせた。
そのため、名前から取って付けられたあだ名が『藤斗美のフランケン』。
中学でもそこそこに名の知れた存在だったらしく、他の高校からの勧誘や推薦の話もあった。
だが、俺はそれなりに有名な野球部があり、かつ同じ町内であることから藤斗美高校を選んだ。
—――『藤斗美のフランケン』と、まだ呼ばれたかったと言えば、否定はできない。
周囲の期待は大きく、1年の時点で練習試合にも何回かマウンドに立たせて貰ったし、3年が
引退した後は即レギュラー入りを果たした。
練習も怠らなかった、場数も踏んでいた。
何のぬかりもないはずだった。
しかし―――。
春大会予選。
予想外の選手による盗塁とバントが俺を狂わせた。
緊張からか、驕りがあったのか。
俺は焦ってしまい、内野手に任せればいいボールを奪うように拾い、そして慌てて投げた。
俺の大暴投に驚いた仲間はボールをキャッチ出来ず―――結果、それが相手の加点につながる。
その1つのミスが尾を引き、その後も俺はミスを連発。
しまいにはデッドボールまでやらかしてしまった。
自分でも驚いた。
俺はこんなにもメンタルが弱かったのか、と。
その試合は惨敗という結果になり、俺に冷ややかな視線が集まった。
「俺の責任でした…すみませんでした…!」
だが、試合後の空気は俺を許していないようだった。
語り掛けられた言葉は少なく、それが落胆や期待外れを意味しているように思えた。
無言のまま帰路に立つ仲間たちの背に、俺は続くことが出来なかった。
そのときだった。
俺の何かが脆くあっけなく、折れてしまった。
もう、マウンドに立つ意志が失せてしまった。
大失態の責任を取るという、体の良い言葉を利用し俺は野球部から逃げた。
その際に引き留めてくれたのが顧問の先生くらいであったことからも、もう誰も俺を期待していないのだろうと思った。
そもそも俺などが野球選手になれるわけでもないし、俺一人退部したところでこの名門野球部ならば替えの選手はいくらでもいる。
—――と、まあ俺のトラウマ話についてはこんなところだ。
こうして振り返ってみればただの『舞い上がっていた男のよくある逃げた話』だろう。
「―――とにかく、こんなヤバい部に関わるくらいなら野球部に戻ってこい! それに今ならまだ、お前も戻り易いはずだ!」
そう言うと久川先輩は強引に俺の腕を引っ張る。
こんな奴らとは関わるな、と言うかの如く。
俺も出来るならばこんな奴らとは関わりたくはなかった。
俺の肩書きが目当てかと思えば騒々しい勧誘をしてきたり、更にはヤバい計画の話を聞かされたり…随分な巻き込まれだ。
だが、しかし―――。
「―――何かそれ、可笑しくねえか?」
そう声を上げたのは間丈だった。
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