第5話「度肝貫くから」
仮入部とは言え、ひょんなことからハンドメイド部に加わることとなってしまった。
これからどうなるのやらと頭を悩ませていると、おもむろに部長が掌を差し出した。
手製だろう紺色のヘアバンドが特徴で、強引で騒がしい雰囲気の部長だ。
「そんじゃま、仮入部だけどこれからよろしく! 俺は部長の
部長の自己紹介に呼応するように、他の面々も紹介を始める。
次に頭を下げたのは眼鏡と爽やかに見える笑顔が特徴の部員。
「ああ、自己紹介してませんでしたね。僕は副部長の
続けて編み込んだヘアスタイルが特徴の所謂陽キャという風貌の部員。
妹が興味を持っていた―――というか、こんな男がタイプなのかアイツは。
「ああ、俺は
「でもって最後の一人は…」
と、皆の視線が部室の端へと集まっていく。
そこで作業中だった部員はその視線を感じたからか、手を止めため息交じりに自己紹介をした。
「……一年、
「
確かにネクタイの色は赤色—――1学年を表すそれを着用している。
薄いオレンジ色のカーディガンを羽織り、前髪をヘアピンで留めているところが特徴だろう。
「以上がハンドメイド部部員全員だ。質問があれば受け付けるぞ」
「いや、ない。俺は
俺はそう言って部長である間丈の差し出していた手に応え、握手を交わした。
そして、仮入部員となった初日。
てっきりまた清掃活動をすることになるのかと思っていたが、どうやら違った。
「そんなわけで南野さん、部活動のいろはについてこれから教えてあげてくださいね」
意外なその言葉に驚いたのは俺だけじゃなかった。
「何で俺が…」
「僕たちの作業が中々滞っていまして、貴方が一番順調のようですから。それに、最近入部したもの同士の方が何かと
何だか尤もらしい台詞を言っているが、要は面倒ごとである俺を押し付けているような気がしてならん。
そう感じ取った南野も明らかに不満げなため息を漏らしている。
「…面倒を掛けてすまない。解らないことはその都度質問するからとりあえずかいつまんで説明してくれないか?」
そう言いながら俺は彼の隣の席へと移動する。
と、小さく聞こえてきた舌打ち。
これを聞いて気分がよくなる人間などいないだろうな。
俺もだ。
「……とりあえず、何やりたいか決めてよ。そうじゃないと説明できないから」
そう言われたものの、ビーズに粘土に編み物にと。意外に選択肢が多くて何処に手を付けて良いのか困ってしまう。
できるなら簡単なものから触ってみたいのだがと、そう思いながら俺は南野がしている作業が気になった。
灰色の粘土で作っているのは―――ネックレスのトップというやつか?
「銀粘土だよ」
「銀? が、粘土なのか? あの銀が粘土でできるのか?」
思わず出た言葉の語彙力のなさは仕方がない。
「…簡単に説明すると粘土状の銀で、これで造形して乾燥、焼成、仕上げの工程を経て銀製細工に出来上がる。俺は主にこれでアクセサリーを作っていて、手間ひまこそ掛かるが出来上がったときの達成感は中々だ」
そう丁寧に説明してくれた南野。
無愛想な雰囲気を醸し出していたが、意外と良い奴のようだ。
わざわざ完成した作品も見せてくれた。
一見するとアクセサリーショップにありそうな蛇を模したような指輪だ。
これを粘土で作ったとはとても思えない。
というより、入部して直後の腕前にも見えない。
「お、ハンドメイドの奥深さ解ってきたって感じ? けどそれだけじゃないんだよね~。今度手芸店行ってみたら解るよ。度肝貫くから」
すると俺たちの会話に上居が参加する。
明るく笑いながら彼は色んな手芸作品を教えてくれた。
「裁縫系もそうだけどさ~、ハーバリウムとかちりめん細工もそうだし、あと編みかごの材料なんかも売ってんの」
「籠? 籠も編むのか? 自分で?」
「編みかごにも色々とありますけど、ライさんが言ってるのはクラフトバンドっていう平たい紙製の紐のものですよ」
と、大神が作品を収納していた段ボールから取り出したそれは、間違いなく編みかごそのものだった。
ただ驚いたのは白色やら水色やらの紐で編まれており、思っていたよりカラフルだったことだ。
今の籠ってこんな感じなのか。
確かに―――手芸と言えど奥が深い、というか幅が広い気がする。
「ハンドメイドも言うならばDIYと同類ですしね。自分で作ってみようと思った数だけやりようがあるということですよ」
「なるほどな……ところで、DIYっていうのは…どういう意味だ?」
俺の一言に部室内が凍り付いたのは言うまでもない。
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