第4話「だから俺たちの部に来い!」









「あれから5日間だぞ? なんで部室に来ねえんだよ」


 別に入部したわけじゃなく、単なる見学だったというのに。

 このハンドメイド部員の様相はなんだ?

 ちょっと苛立っているようで…俺が悪いのか?


「俺たちにあんな熱意まで見せつけてあれは何だったんだ? 遊び半分だったのかよ!」


 遊び半分と言う単語は語弊を生みかねない。

 それにあんまり怒鳴らないでほしい。他の生徒たちが奇異の目で見始めている。

 ひそひそ声まで聞こえてくる。


「この俺が認めてやる、必要としてやる。だから俺たちの部に来い!」


 どんだけ自意識過剰な発言なんだ…。

 そもそもこの勧誘は何なんだ、漫画やアニメの世界じゃないんだぞ。

 駄目だ、頭の中が突っ込みだらけでオーバーヒートしそうになる。


「部長に気に入られたら最後…とことんまでしつこいですよ―――って、忠告したかったんですよね。僕もそうして根負けした口ですから」


 いつの間にか背後にやって来ていた眼鏡の男子部員。

 「残念ですね」と微笑むその顔が何故か気にくわない。

 つまりこれはなんだ、俺が入部しないといけない流れなのか?

 そんな感じで入部って、アリなのか?

 そんなことを考えている間にも、部長と呼ばれた生徒は周囲に迷惑を掛けそうな声で俺に訴えてくる。


「もういい、わかった! わかったからもう叫ぶな!」

「お、やっと入部する気になったか?」

「いや、まだそうと決まったわけでは…」


 ずいずいとグイグイと迫ってくる部長。

 こんなことは初めてだった。

 野球部に入部するときだってここまでの勧誘はされていない。


「仮入部、は駄目か…?」

「仮?」

「実は今、野球部を休部中の身でな…復帰する可能性もあるからハンドメイド部に入部するかどうかは考えてから決めたいってことで…」


 本当は復帰するつもりはないんだが。

 俺の本心を知らない部長は「そうか、わかった」と素直に受け取ってくれた。


「じゃあ仮入部を認めてやる。ってわけで早速今日は部活動の日だからな。部室に戻ろうぜ?」


 悪い勧誘に捉まった人間とはこういう心情なのだろうか。

 後悔に変貌しそうな不安とその言い訳を脳内で葛藤しながら。

 俺は強引に背を押され、ハンドメイド部へとまた行く羽目になってしまった。








 第二家庭科準備室—――ハンドメイド部、部室へ行くとそこには既に先日の面々が作業をしていた。


「お疲れ~、ちゃんと勧誘できたの?」

「できていたらこんな顔にはなっていなかったでしょうね」


 そう言って彼らは俺の顔を覗き込んでいる。

 随分と顰めた顔をしているのだろう。

 だが仕方がない。あんな生徒たちが見ている中で叫ばれてしまったら、断るものも断れなくなる。

 強引とも手荒とも呼べるようなやり口に満足のいく人間は、そうそういない。


「だってしょうがねえだろ? 俺の直感からするとこいつには才能があると出ているからな」


 掃除の、ではないのかと思わず言いたくなる。

 だが彼としては決してふざけたわけではなく、真面目な熱意はあったのだろうと今更ながらには思う。

 でなければあんな勧誘はそうそうしない。


「それに、ようやっと来てくれた奴だぜ? 歓迎だって勧誘だってしたくなるだろ」

「思ったんだが…何故こんなに部員が少ないんだ? ハンドメイドなら普通もっと興味を持つ生徒がいても可笑しくないようだが…」


 特に女子生徒辺りには。

 編み物や粘土細工やビーズ、マニキュアというのも先日の整理整頓中に見かけた。

 そういった類を好きな女子は少なくはないはずだろう。

 なのにこのハンドメイド部には何故こうも女子がいないというか―――違和感があるのか。


「あらら、ホント野球以外は何も知らないみたいだね~」

「諸々の事情はありますが、1番の理由はこの藤斗美ふじとみ高校にある特殊な部のせいなんですよね」


 特殊な部?

 文化系の部活動も色んなのがあると妹は言っていたが…何も知らない。

 どうやら俺はこういった情報に本当に疎い方らしい。




 彼らの説明によるとこの藤斗美ふじとみ高校には『ファッション部』というものがあるらしく。

 その部がちょっとした有名なのだとか。


「―――20年近く前のことですが、この高校の女子生徒数名がファッション部を立ち上げ、それで町おこしの一環としてファッションショーを開催したんです。彼女たちのデザインもなかなかのものだったようで結構話題になったんですよ」


 そして、部員の一人が卒業の後にファッションデザイナーとして有名になったこともあり、それ以降ファッション部はこの近隣では服飾系の仕事を目指す生徒の登竜門になっているんだそうだ。

 —――全く知らなかった。妹からも聞いたことがない。

 妹が教えてくれなかっただけかもしれないが…。


「そんなわけで手芸といえばファッション部の方が目立っちゃってて、僕たちハンドメイド部は日陰者扱いなんです」


 それで先日、この部は裁縫の方はやっていないと言っていたのか。

 ようやく合点がいった。


「…ま、向こうは向こう。俺たちは俺たちだかんな。俺たちのやり方で有名になっていこうぜって話だ」


 そう言って部長は拳を堅く握り締めている。

 が、部員の一人は俺を利用して知名度上げようとしていたんだが。

 随分な事情のある部へと来てしまったもんだと、俺は人知れずため息を漏らした。


 





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