第6話「話しちまうか。俺らの計画」
俺は一番興味を持った編みかご作りにチャレンジしてみることにした。
「…一見難しく見えるけどやり方さえ理解出来れば案外単純作業だから」
と、南野は言っていたがクラフトバンドの長さをきちんと測ったり、糊付け作業があったり。
もっとこうインスピレーションで適当に編んでいくものかと思っていたら結構違っていて驚いた。
「直感的な感覚も必要だがモノづくりでサイズを測るくらいは基本中の基本だろ…」
後輩だと言うのにその冷ややかに見える視線が痛い。
その上「よくも俺の時間を邪魔してくれて」という恨めしさも感じずにはいられなかった。
そうこうとご教授いただきながら完成した編みかご。
ペン立てサイズの小さめのものであるが、我ながら中々の出来だと思う。
「覚えも早いですし、何より意外と手先が器用なんですね」
「人は見かけによらないってね~」
「意外は余計だ」
思い返せば図工は嫌いじゃなかったし、完成することの達成感はひとしおだ。
こうなってくると他のものにもチャレンジしたくなる。
俺は見本がてら、他の作品も見せてもらうことにした。
「―――そう言えば、これは誰が作った作品なんだ?」
と、無意識に出た質問。
すると南野は視線を右前方へと向けた。
囲むように置かれた複数の机(折り畳み式の長方形のテーブルのこと)—――視線の先に座っていたのは部長である間丈だった。
「お? どうしたんだ?」
視線に気付いた間丈は作業を止め、此方を向く。
というか先ほどから会話に参加していないと思ったら、随分と集中して作業していたらしい。
今やっているのはビーズか?
「これ、間丈が作ったんだな。凄いなと思って」
俺の言葉を聞くなり間丈は満面の笑みを浮かべて「だろだろう!」と無邪気に笑う。
集中していた先ほどまでとは比べものにならないくらいの騒がしさだ。
「俺が作ってんのはこれだけじゃないぜ。ハーバリウムもやってるし今はビーズの作業中だかんな!」
得意顔でアレコレと取り出しては見せてくれる。
確かにビーズ1つとってもアクセサリーものからキャラクターを模したものまで様々で。
どれも繊細で個性もあって凄い出来だ―――が、随分と色々見せてくれるな。
「ああ…最近誰も褒めてくれませんから、もっと褒めてもらいたいんですよね」
「子供だね~、ハルくんは」
大神と上居にそれぞれ茶化された途端、間丈の表情はまたコロリと変わる。
「子供じゃねえ。が、褒められたいのは誰だってそうだろ。つか俺ばっかこんなに作業してんのに誰も褒めてくれねえからだ」
確かに間丈が見せてくれた作品たちは随分な数で、小さいものから大きなものまで沢山ある。
しかも、それら全ての作品に一貫してテーマがあるように―――思えた。
「確かに凄い数の作品だが…こんなに作って何処かに販売でもするのか?」
俺の言葉を聞いた途端、部員全員が顔色を変えた。
それは真面目のような、悪だくみのような。
そんなことを考えているといった顔だった。
販売用ではないという沢山の数の作品。
これらを一体どうするのかという俺の問いに、しばらくの間をおいてから間丈が口を開いた。
「―――まあ仮だとしても部員であるには違わねえし。話しちまうか。俺らの計画」
計画?
そう言おうとしたが、それよりも早く南野が言った。
「俺は反対っす。未だ第三者の人間に話していいものじゃない…」
俺にはタメ口だったのに間丈にはそこそこ敬語なのか。
そう思っている間にも上居と大神も作業の手を止め会話に参加してくる。
「確かに富良野くんてさ、几帳面感ハンパないよね~。話しちゃったら反対しそうじゃん」
「僕は構わないと思いますよ。強行は決定事項なんですから…彼が計画を妨害するというなら話は別ですけど」
そう言って微笑む大神。だが微笑んでいないように見えるのは気のせいか?
と、皆の視線はいつの間にか間丈へと向けられている。
俺もつられて彼の方を見つめる。
間丈は少しばかり唸り声を上げた後に言った。
「やっぱここにいる以上、一人でも事情知らねえ奴がいるのは俺が不愉快だ。話しちまおうぜ」
間丈はそう言うと大神の方へ視線を移す。
軽くため息をついた後、大神は彼らが抱く『とある計画』の全貌を話してくれた。
それは、素晴らしいとも馬鹿げているとも、面白いとも悪ふざけとも言われるような内容だった。
これを聞いてまず誰もが思う感想は2種類。
笑って賛同する奴か、真面目に反対する奴か、だ。
そして俺は―――。
「―――待て、そんなことをしたら部の責任問題に繋がる…停学だって考えられるだろう」
後者だった。
俺の返答に想像通りと言った顔をする部員の面々。
白けた雰囲気になっていく中、間丈が口を開く。
「みんなで話し合って決めたことだ。反論は受け付けねえからな」
「いや、だが…色々と実行するには強引過ぎる…せめて許可は…」
「教師に話したって反対するだけだろ?
それに驚きがねえと楽しくねえ」
と、断言する間丈。
何も考えてないような顔が気に障る。
俺は思わず反論してしまった。
「『楽しい』だけで出来ないことだって世の中にはある」
その台詞を言った瞬間。
俺の脳裏に、春大会の光景が浮かんだ。
台詞のせいというのもあったが、彼らが向ける視線があの光景と似ていたのもあった。
気付けば俺は、席を立っていた。
「大丈夫ですか? 随分と顔色が悪くなってきましたが」
「…問題ない。が、ちょっと…用事を思い出したから、帰宅させてもらう」
別の何かがフラッシュバックしてきそうで、俺は思わずそのまま部室を飛び出た。
これは流石に気まずくなる行動だという自覚はあったが、それでも飛び出さずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます