第7話「叶えてやりたいって思ってんだよね」
—――翌朝。
鏡で見た俺は酷い顔をしていた。
それもそうだ、あんな言葉を投げて部を飛び出して…随分とひどい奴だと思われただろう。
だがこれで仮入部の話もなくなっただろうな。
そう思えば、少しばかり気も楽になるはずだ。
「お兄ちゃん大丈夫? 具合悪いなら学校休めばよかったのに」
「休むわけにもいかないだろ。具合など悪くないからな」
むしろまた気楽な帰宅部生活に戻れるんだ。
足取りも軽いさ。
そう思っていたはずなのに、何故こんなにも気が重いのか。
それはきっと他にも作ってみたかった作品があったからだ。
そんなことを時たま思いながら過ごし―――時間は昼休みとなった。
「富良野く~ん、いる~?」
突然教室にやってきた訪問者。
その特徴のある声を聞くなり、弁当を食べていた俺は盛大に咽てしまう。
「ねえねえ、良かったら一緒に昼食べない?」
俺の席へと近付いてくるなりウインクを見せる訪問者こと上居。
即答で拒否したかったものの、そうすると周囲の女子たちが酷い反応をしそうで恐ろしくなる。
というより既に教室内は女子たちがざわざわしていて居心地が悪い。
俺は仕方なく上居を追い出す形で一緒に教室を出た。
「あははは、俺が男と飯食うなんてレアケースだからさ。なぁんかこうしてると調子狂うね~」
上居はそう言って焼きそばパンを頬張る。
場所は教室から移り、屋上。
中休み、昼休みと生徒たちのために開放されてこそいるが、フェンス越しに吹き付ける風が強いため滅多に人がいることはない。
実際俺も弁当のアルミカップやらビニールやらが吹き飛んでしまわないか心配しながら食べていた。
「…それで、俺に何の用だ?」
「単刀直入にそれ聞く? 味気ないしやっぱ生真面目だよね、富良野くんて」
上居はそう言うと紙パックにストローを刺し、話しを続ける。
「俺の用件は一つだけ。昨日の計画のことでさ、反対して入部取り消すのは良いけど…計画の邪魔だけはして欲しくないってことなんだよね」
随分な強風の中、靡く髪をかき上げるその横顔は男の俺でも解るくらい様になって見える。
彼とこうして昼食を共にしていると、妹が知ったらどう思うだろうか。
「邪魔や妨害など…それは絶対にない」
「そっか……それならいいんだよね」
上居はストローに口をつけ、フルーツ牛乳を飲んでいく。
一方で俺は黙々と食事を続ける。昼休みだって長くはないからな。
と、上居はちょっとした沈黙の後、おもむろに口を開いた。
「―――俺もさ、実を言うと計画自体は反対なんだよね」
意外だった言葉に、思わず俺の箸が止まる。
てっきり満場一致であんな計画を立てたのかと思っていた。
「あんなの下手しなくても部活動停止もの案件っしょ? ハルくんは部のためにって躍起になってるし、ヒロくんも
髪をかき上げ、そう話す上居。
俺は手を止めたまま、耳を貸す。
「俺としては…ダチが『やろう』って言ってるから。だから叶えてやりたいって思ってんだよね」
そう言って俺へと向けた流し目は、「君なら解るでしょ」と言いたげのようで。
俺は沈黙するしかない。
俺も、かつては仲間のためにと躍起になっていた人間だ。
チームが、部が、仲間が目指したからこそ。
俺もそのためにと思って貢献してきた。
一心不乱にボールを投げ続けていた。
だが今は―――その熱意は、ない。
「…見た目に寄らず意外と仲間想いなんだな」
「意外は余計だよ。富良野くんだって見た目に寄らず几帳面だけどね~」
どうせ俺はふてぶてしい仏頂面ではあるが。
あまり正面切って言われたくはない。
「昨日のアレだって、やっちゃったって思って後悔して、変に責任感じちゃってるでしょ?」
「いや、そんなことは…」
無いと、断言はできなかった。
「ほらほら~その顔がもう真面目に考え込んでるじゃん? 富良野くんが思ってるほど部の皆な~んも気にも留めてなかったからさ、気が向いたらいつでも部に戻って来なよ」
ベンチから立ち上がり、上居は俺を置いて屋上を去ろうとする。
「待て。そのことじゃなくとも俺がいることで部や計画の邪魔になる可能性も……」
「居るだけじゃなんないよ。だってまだ仮だとしてもさ―――富良野くんはハンドメイド部の仲間なんだから」
そう言い残し、上居は消えて行った。
残された俺は少し色々考えたいところもあったのだが。
生憎とチャイムがなってしまい、慌てて弁当も途中のまま、教室へと戻った。
上居はああ言ってこそいたものの、俺は気が向かず。
その日、ハンドメイド部に行くことはなかった。
よしんば行ったとしても、またあの具合の悪さが起こったらと思うと―――。
部員の皆に気を掛け、迷惑を掛けてしまいそうで行けなかった。
―――そしてまた翌日、早朝。
久々に寝付けなかった俺は気晴らしにランニングへと行くことにした。
野球部にいた頃は朝日が昇る前には走り込んで、夕暮れが過ぎても走り込んでいたな。
そんなことを思いながら、俺はひたすらに町中を走り続けた。
がむしゃらに走り続けた。
小一時間走ったところで、時刻は日の出が昇る頃になってきた。
と、俺はそこで足を止めた。
「―――最近は随分とハンドメイド部員に出くわすな」
「俺のは全くの偶然なんだけど…」
通りがかりの道すがらで出会った人物―――南野はそう言うと、不機嫌そうに顔をしかめていた。
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