第四話:富士山ファイト 後編

 「ドロシーさん、ご無事ですの?」

 「大丈夫、頭打ってるとか?」

 「ヤバいなら、医務室へ運ぼうか?」

 「お疲れ様、頑張ったなドロシー♪」


 試合の勝利よりも、仲間の体調が心配な金馬達。


 「な、何とか大丈夫で~す! そして私達、見事に大金星ですね♪」


 ドロシーが機体からふらふらと降りて来て答える。


 マグナデウスは、公式デビュー戦で去年の県代表に勝ったのだ。


 テントが建っている、控えのスペースへ金馬がドロシーを背負い皆で移動する。


 「流石は全国三位、機体のパンチにも魔力が乗ってたぜ」


 ジガンプジレとマリアに対して、冷や汗を流しつつ感服する金馬。


 学業と練習も兼ねた怪獣退治や日常のあれこれ、補習や課題の提出などの忙しさで他校の調査などはやっている暇がなかった。


 金馬達が他校の実績などを知ったのは、この試合当日である。


 長期戦で試合がダレるのを防ぐための二ポイント先取制。


 機体の分離からの再合体と言う戦法。


 初見殺しが決まらなけらば、相手の必殺パンチでマグナデウスの方が危なかった。


 「機会があれば、ロボファイトの出稽古でも申し込むか」


 金馬が口に出す。


 「ですわね、次の試合を乗り切ったらそうしたトレーニングもいたしましょう♪」


 メープルがその言葉に答える。


 「次の試合のシフトは、タートルは足で固定かな?」


 カナメが金馬に尋ねる。


 「ああ、その方向で行くけどそれで良いかドロシー?」


 金馬が答えながらドロシーに尋ねる。


 「お願いします、私もこれから体も鍛えますね♪」

 「ああ、それと次から皆のパイロットスーツとか実家に頼むぜ」


 ドロシーの言葉に金馬が告げる。


 マグナデウス自体が金馬にとってのヒーロースーツだが、仲間の防具は必要だし自分も両親のようにスーツを纏ってロボに乗れるようにならねばと金馬は思った。


 「そういや金ちゃんの家、ロンスターのオーナーなんだっけ?」

 「金馬君、実家太いよね」


 カナメとマッシュが反応する。


 「それを言うなら私も、オータムウィンド鉄道のお嬢様でしてよ♪」


 メープルが高笑いをしながら、自分の実家のイギリスの鉄道会社の名を上げる。


 「私の家もカンザス一の大農場です♪ 家は家で人は人で~す♪」


 ドロシーは、アメリカの大農場のお嬢さんだった。


 肉牛や乳牛の飼育のみならず。食肉加工や乳製品の工場も経営する大農場である。


 彼女の実家の取引先は、世界大手のバーガーショップやレストラン。


 二人とも、何で日本の田舎のヒーロー高校に来たんだというお嬢様ズである。



 「ま、家の支えがあるのはありがたいって事だ互いに感謝で行こうぜ♪」


 自分の実家より太い実家を持つ女子陣の助け舟が来たので落ち着く金馬。


 「そうだね、家のスーパーも皆がお得意様だし♪」


 カナメが金馬に同意する。


 「家も、山梨県庁の山林防衛軍してる公務員の親に感謝してる」


 公務員なご家庭のマッシュも頷く。


 日本では、悪の組織や怪獣に対抗するべく全部の省庁と自治体がヒーローを構成員に取り込んだ自前の警察と軍隊を持っていた。


 マッシュの両親も、地方自治体が有する軍事組織の一員だった。


 ひとまず仲間達の話が終わる、顧問の飯盛先生が金馬達に語りかけてきた。


 「皆良くやった、次の試合は行けるか?」


 先生が尋ねる。


 「当然、行けま~す♪」


 ドロシーがサムズアップし、皆は頷く。


 「わかった、次の相手は大月の岩殿工業だ」


 飯盛先生が対戦相手の名前を告げる。


 「ワオ♪ ググったらタンクロボでした!」


 ドロシーがスマホで検索すると画像が出てくる。


 「うん、すごく戦車してるね」

 「当人が来たよ」

 「皆様、私達も行きましてよ♪」

 「習うより慣れろで~す♪」

 「面倒なのは後だ。 マグナデウス、コンバットゴー!」


 金馬達は再び試合の場へと駆け出して機体を召喚して乗り込み、皆の機体を一つに合わせてマグナデウスへと合体する。


 マグナデウスの前に現れたのは黒き巨大な戦車ロボ。


 岩殿工業いわとのこうぎょうの機体、ガンパウンドだ。


 巨大な肩と両腕を持つロボの上半身に戦車の下半身と、アニメなら三号機担当だ。


 試合場の周囲に設置されたスピーカーから、試合開始のサイレンが鳴り響く。


 「先手必勝、戦車ロボ舐めんな!」

 「岩校魂いわこうだましい、受けて見るであります!」


 外部通信をオンにして叫ぶ、ガンパウンドのパイロット二人組。


 元気系と幼い感じと二人共美少女の声。


 ロボファイトは、女子の参加率が高い競技でもあった。


 ガンパウンドの上半身パートからは、両肩と掌の指からミサイル。


 足を伸ばしたような姿勢から体育座り形態に変形した下半身パートからは、膝から突き出た二門のビーム砲から青白い光線が発射される。


 「そっちこそ俺達を舐めるなよ! マッシュ、出番だ!」

 「オッケ、ウルフシャウト!」


 ビームを飛行で飛び上がり回避、ミサイルの群れは右手マグナウルフの頭が口を開き吐き出した超音波の衝撃波が爆発させて無効化する。


 「お次は私ですわ♪ 戦車と列車、どちらが陸の王かしらね♪」


 メープルが相手を背後から煽りながらマグナロコモを突き出しスライディング。


 「……いや、カマ掘りキックかよ、エゲツねえ!」

 「あら、お下品ですわよ金馬君♪」


 轟音を上げてマグナデウスが、ガンパウンドを突き飛ばす。


 「がはっ!」

 「最悪であります~っ!」


 吹き飛ばされて転倒するガンパウンド、無事な両腕で立ち上がる。


 「追撃しないの金ちゃん?」

 「ああ、ここは真っ向勝負だ♪」


 ガンパウンドと真っ向勝負を狙って、相手が立ち上がるのを待つマグナデウス。


 「畜生、余裕こいてんじゃねえぞこら!」

 「真っ向勝負で、ポイントを取り返してやりましょう先輩!」

 「おう、岩校魂見せてやらあっ!」


 ガンパウンド、上半身を前傾姿勢に変形させて頭突きで突進する。


 コックピットの中で吠えるのは二人。


 一人は、プードルの様なピンクのアフロヘアの勝気な美少女。


 もう一人は、黒髪おさげに眼鏡が特徴の小柄な美少女。


 服装は岩殿工業高等学校と、学校名が背中にプリントされたグレーのツナギ。


 操縦席は飛行機に似た横並びの席。


 フットペダルと、スイッチ類の複数付いたレバーで操る。


 アフロが上半身パート、おさげが下半身パートの担当だ。


 岩校コンビが同時にレバーを押し込み、マグナデウスにツッコむ。


 「皆、衝撃に備えろ! 迎え撃つぜ~♪」


 金馬が仲間達に指示を出しメインで押す阿を行えば、マグナデウスも手を地に着けて相撲の立ち合いのポーズで待ち構える。


 ガンパウンドの突撃を受けた事で、マグナデウスもポイントを取られて同点。


 マグナデウスは相手のぶちかましに耐えて、ガンパウンドと相撲の如く組み合う。


 「捕まえたぜカナメ、マグナトルネードで決めろ!」

 「オッケー金ちゃん♪ マグナトルネードッ!」


 マグナデウスとガンパウンド、力比べはマグナデウスが勝ちガンパウンドが浮く!


 「ヤベえ、このままじゃやられる!」

 「実弾は最初で使い切り、ビームはさっきの突進で燃料が足りないであります!」


 岩校コンビの危惧は当たり、二人はコックピット内で目を回した。


 その原因はマグナデウスの必殺技。


 掴んだガンパウンドを三百六十度フル回転で竜巻を起こしながらぶん回し、空へと放り投げたからだ!


 マグナトルネード、恐怖の竜巻投げであった。


 投げ飛ばされて場外に落下したガンパウンド。


 機体の性能もあり、運良く大破しなかったガンパウンド。


 自衛隊の人達に機体もパイロット達も無事に回収されたのであった。


 「おっしゃあっ♪ やったぜ皆♪」


 金馬が勝利を喜ぶ。


 「と言う事は、私達が県代表ですわ~っ♪」

 「まさかの初年度からの全国出場で~す♪」

 「マジか、何か実感がわかないんだけど?」

 「うん、まさかの展開すぎだよね」


 仲間達の反応はそれぞれだったが、金馬達は初出場で県代表に選ばれた。


 観客席からは一瞬の間をおいて歓声が出た。


 「よっしゃ~~っ♪ ご主人様、金馬が! 私達の愛児が、勝ちましたよ♪」

 「ああ、俺達の子が仲間と勝利を掴んだんだ♪」

 「我が子の活躍と言う喜びを知れた事、感謝いたします♪」

 「俺もだよ、息子の試合の勝利を君と祝えるなんて♪」


 立磨とジンリーも抱き合い喜ぶ。


 二人が結ばれ金馬達が生まれたから得られた喜び。


 「優勝は何と、今回が初出場の山梨県立ヒーロー高等学校です!」

 「マグナデウスですが、中国のロンスターグループの製品だとか?」

 「全国での活躍も楽しみです♪」


 モブの解説者と実況が語り合う。


 機体から降りた金馬達を、飯盛先生が出迎えた。


 「皆、良くやった♪ 本島にご苦労だった♪」


 金馬達を褒める飯盛先生。


 「先生も引率ありがとうございました」

 「「ありがとうございました~♪」」


 金馬達生徒も先生に礼をする。


 「うむ、さあ表彰式に出ようか♪」


 先生が金馬達に促し、皆で観客席前に作られた表彰台へと向かう。


 二位となった岩殿工業や、自分達が倒したカンピオーネ女学院など他の学校の面々からの圧を受けながらの表彰式を金馬達は終えた。


 式の後は学校に戻って解散、各自帰宅となった。


 「学校の校舎の垂れ幕に、自分達が関わるとは思わなかったぜ」

 

 祝 ロボットファイト部、山梨県大会優勝などと書かれた新品の垂れ幕が掛けられた校舎を振り返り見てぼやく金馬。


 「めっちゃ新しいよね、あれ」


 カナメが乾いた笑いをこぼす。


 「皆さん、鳩に豆鉄砲喰らったように慌ててた感じでしたね♪」


 ドロシーが大げさに笑う。


 「致し方なしですわ、まさか優勝するとは思ってもいませんでしたもの♪」


 メープルもおほほと笑う。


 「うん、僕ら何と言うか扱いづらい奴らみたいな感じだしね」


 マッシュが呟く。


 「どうでもいいさ、出るからには頑張るしまずは飯とかだろ?」

 「金馬君、あっさりしてますわね♪」

 「俺は、仲間や身内と楽しく生きたいだけだよ打ち上げでもするか?」

 「うん、したいけど家から着信来てた近所総出で祝うって」

 「……僕もだ、こういう近所づきあいって何か苦手」

 「地元のしがらみ、あるあるで~す♪」

 「私達は祝辞のメッセージですわ♪」

 「俺は、蟹を用意してるっておばちゃんから連絡が来た」


 仲間達と話をする金馬達、別れて自分達の家へと帰り出す。


 「ただいま~?」


 帰宅して玄関の靴の数の多さに怪訝な顔をする金馬、特に子供用の靴が多い。


 「「小哥~♪ お帰り~~~♪」」


 居間から現れた一族の証、鱗の色に合わせた黄色い子供服姿の弟妹達であった。


 「金ちゃん、お帰り~♪ 家族皆、揃って来てるわよ~♪」


 雛菊さんが割烹着姿で顔を出して笑う。


 「いや、皆って? まさか、あっちからもか?」


 父方の祖母の言葉に金馬が戸惑う、祖母の言う皆と言う単語が日高家の人達のみではない事が明確であったからだ。


 「ヒャッハ~~♪ 元気してた、ジンマ~~~♪」

 「げげっ! 歩くコンプラ違反ばあちゃん!」

 「ヒャッハ~~♪ お祝いだからドンペリよ~♪」


 テンションの高い美女の声に金馬が振り向く。


 そこにいたのは、白の毛皮のストールを巻いた金色のチャイナドレスの美女。


 笑いながら、ドンペリのボトルを片手に持ちラッパ飲みしながら立っていた。


 ハートマークのサングラスをかけているこのパリピ美女は、金馬の母方の祖母。


 今や多くの事業を手掛けるロンスターグループの総裁となった女傑、ジンファだ。


 「ヘイ♪ 久しぶりに、お祖母ちゃんの王子様抱っこよ~♪」


 ドンペリが虚空に消えてジンファの両手が空くとジンファは動く。


 消力シャオリー、または合気と言われる動作で祖母に抱き抱えられた金馬。


 「うん、イケメンは健康に効くわ~♪」


 金馬をお姫様抱っこ、もとい


 「ちょ、何時の間に!」

 「修行が足りないわよ、レッツパ~リ~♪」

 「「ヒャッハ~~♪」」


 祖母の悪影響を受けだしている弟妹達を心配しつつ、居間へと運ばれた金馬。


 和風のお茶の間だったはずの日高邸の居間が、結婚式などが行なわれるような白壁のホテルのようなパーティー会場に変化していたのだ。


 祖母から降ろされて周りを見回す金馬、日高家だけでなく黄家の親類達も揃った大宴会場に呆れ顔になる。


 「おおう、島国の地方大会優勝した程度で相変わらずド派手だぜ」

 「お帰りなさい金馬、おめでとう♪」

 「お帰り、ナイスファイト♪」

 「お兄ちゃん久しぶり~♪ 相変わらず脳筋だね♪」


 「父ちゃんと母ちゃんに立花か、ありがとう」


 両親だけでなく、白衣姿に黒髪ロングの美少女がいた。


 アメリカの大学に飛び級で進学していた、妹の立花りっかだ。


 「ヘ~イ、ジンマ~♪ 今日の主役、カモ~ン♪」


 金馬を中国語呼びで、マイクスタンドのあるステージへと招くジンファ。


 「マジかよ、仕方ねえな」

 「耐えなさい金馬、あれがあなたの祖母です」

 「スピーチは拘らなくて良いぞ~♪」


 母に同情されて父に励まされ、渋々祖母が司会を務める壇上へと上がる金馬。


 「ヘ~イ、優勝おめでと~♪」

 「ありがとうございます、お祖母様♪」

 「う~ん、お酒が美味しくなるイケボ♪」

 「お集まりいただいた皆さんありがとうございます、今後も頑張ります♪」


 壇上で祖母とのハグからマイクのパスが来たので、軽くスピーチする金馬。


 その後起こった狂乱の宴をどう乗り切ったのか、金馬には記憶がなかった。

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