第三話:富士山ファイト 前編

 広大な草地に富士山、ここは山梨県側の自衛隊の北富士演習場。


 静岡側の東富士演習場と並ぶ自衛隊の演習場だ。


 天気は快晴、富士山をバックに草原に横並びに整列した巨大ロボット達。


 そして、ロボの前に並ぶパイロットの学生達の中に金馬達もいた。


 金馬が学校の名が書かれたプラカードを持っている。


 金馬達の前には自衛官達に警護された観客席とスピーチ台


 スピーチ台には坊主頭に黒スーツと言う姿の中年男性が登壇する。


 「これより、第二十五回全国高等学校巨大ロボット戦闘競技会山梨県大会を開会いたします! 選手諸君は、全身全霊を持って競技に臨んでいただきたい!」


 熱を込めて語る男性、大会側の偉い人の挨拶が終われば拍手の嵐。


 全国高等学校巨大ロボット戦闘競技会、通称ロボファイトやロボット甲子園。


 金馬達は学校を代表して、この大会に参加していた。


 「ご主人様、金馬の晴れ舞台ですよ♪」

 「ロボファイト、まさか金馬が大会に出るとはな♪ 頑張れ~♪」

 「私達もまた出たいですね♪」

 「ああ、ロンスターもスポンサーしてるし機会があれば参加しような♪

 

 立磨とジンリーは観客席から見守る、立磨達の学生時代にも存在したこの大会。


 立磨達は学生時代、先にプロでの大会に出た為この甲子園には出場できなかった。


 全国各地の学校を代表する巨大ロボが集い、トーナメント方式で戦うこの競技。


 決勝は北海道の大演習場で行われる。


 立磨達が所属するロンスターを始め、各企業が協賛しチーム運営や選手の育成を行うロボファイト。


 世界中で人気のモータースポーツで、オリンピックの正式種目にもなっていた。


 今日は同日開催で、静岡側の東富士演習場では静岡の県大会だ。


 開会の挨拶が終われば、対戦相手の発表。


 一回戦第一試合Aブロックは、金馬達が所属する山梨県立ヒーロー高等学校と甲府にあるカンピオーネ女学院となった。


 「一回戦はカン女か、気合い入れて行くぜ皆♪」


 カードを見た金馬が拳を握る。


 「うん、頑張ろう♪」


 カナメは笑う。


 「お~っほっほ♪ 私達の実力を見せて差し上げますわ♪」


 メープルは高笑い。


 「マグナデウスの名を轟かせましょ~♪」


 ドロシーは闘志を燃やしていた。


 「うん、燃えるね」


 マッシュもやる気を打出す、金馬達はやる気に満ちていた。


 事の起こりはしばらく前に。


 「出やがったな、メタロココのロボット野郎っ!」

 「今回もフランスもどきの敵で~す」

 「八ヶ岳の景観を荒らす輩は許せませんわ!」

 「今日は燃料大丈夫だよね?」

 「この時間で帰れなくなるのはキツイ」

 「しっかり晩飯食ったから、問題ねえ! コンバットゴー!」


 今度の敵は上半身がナポレオンのような青い軍服で下半身は戦車。


 マグナデウスは、右腕がウルフ、左腕がタートル。


 足は右足がロコモで左足がフェニックスと部位をシフトしての勝負だ。


 「砲撃が来ました、シェルフィールドですっ!」


 ドロシーが叫んでキーボード操作で武装を選び、レバーを押し込む。


 マグナデウスの全体を亀の甲羅のようなバリヤーが多い敵の砲撃を防いだ。


 「おのれ、我が自慢の一撃が!」


 唸る砲兵ロボ。


 「迷惑なのは許せない、ガブリと行くよサンダーバイトッ!」


 マッシュが静かに怒り、機体を操作する。


 ウルフの頭部が口を開き、牙に青白い電流が迸る。


 「アシストいたしますわ、ロコモダッシュ!」


 メープルの操作で右足のロコモが煙突から蒸気を出して猛ダッシュ。


 その勢いに乗り、ウルフ頭部が敵の頭に噛み付き電撃を流しながら噛み砕いた。


 電撃に苦しみつつ頭部が砕かれて爆発する敵、核は頭部にあったようだ。


 頭部を破壊された敵は動きを止めて、マグナデウスは勝利を収めた。


 「よっしゃヴィクトリー♪ マッシュはナイスファイト♪」

 「ナイスで~す♪」

 「お見事ですわ♪」

 「お疲れ様♪」


 金馬達がマッシュを讃える。


 「いや、嬉しいけど恥ずかしい」


 照れるマッシュ。


 「それじゃあ、学校に退治したって連絡入れるか」

 「面倒だけど、報告しないと成績に響くしね」

 「部活動みたいなもので~す♪」

 「学校からの報奨金が少ないのが残念ですけどね♪」

 「公立だから仕方ないよね、生徒の活躍は学校の実績だし」


 機体の中で語らいつつ学校へ連絡する。


 「……じゃ、敵の死体学校に持って行ってから解散だな」


 マグナデウスで機械の塊である敵の骸を持ち上げて飛翔する。


 メタロココの敵兵の死体は、資源として学校経由で業者に売られる。


 金馬達にも一万円ほど支給はされるが、高校生の小遣いには物足りない。


 翌日、昼休みだと言うのに金馬達は校長室へと呼び出された。


 校長先生と担任の飯盛先生、それと見慣れない黒いスーツ姿のお姉さん。


 大人はその三人だけだった。


 「俺達、どういう理由で呼ばれたんでしょうか?」

 「私達、やましい事はございませんわ!」

 「マグナデウスで成果を出してま~す!」

 「僕達、問題児ってわけじゃないと思いますけど?」

 「うん、成績も素行も普通だよね」


 何で呼び出しを受けたのか、まったくわからない金馬達。


 整理整頓された執務机に座る女性の校長先生は笑顔だった。


 「ああ、誤解しないでくれ? 君達には頼み事があって呼ばせてもらった」


 飯盛先生が口を開く。


 「皆さんの素行が問題なく、成績も優秀なのは存じていますよ♪」


 グレーのスーツに白いシャツと事務的な服装の校長先生が口を開く。


 黒髪を後ろで団子にまとめた地味なヘアスタイル。


 眼鏡もメイクも地味と、場所によっては事務員さんと間違えそうな風体の中年女性が微笑みながら語る。


 「そんな皆さんだからこそお願いしたいお話があります、どうぞ♪」


 校長先生がスーツのお姉さんい話を振る。


 「初めまして皆さん、高ロボ蓮から参りました大鉄寺だいてつじエツコと申します♪」


 お姉さん、エツコさんは名乗った。


 「皆さんはロボファイトはご存じでしょうか?」


 エツコさんの問いかけに金馬達は頷く。


 「皆さんには、我が校の代表として全国高等学校巨大ロボット戦闘競技会に出場していただきたいのです♪」


 校長先生が笑顔で語り出した、エツコさんはポスターを開いてみせる。


 「えっと、俺達で良いんでしょうか?」


 金馬が尋ねる、他にも代表として相応しい面子がいるのでは?


 そんな疑問が金馬には浮かぶ、ヒーローとして悪と戦てはきたが競技者としては全くの無名で無実績だからだ。


 「問題はない、君達の地域防衛の戦績は我が校のロボット使いの中でもトップだ」


 飯盛先生が笑顔で誇らしく告げる。


 「まあ、敵が出れば速攻で出張ってるからスコアは稼いでるよね?」

 「撃破数と補習数がタイで~す」


 カナメがたじろぎドロシーがぼやく。


 「皆様、名誉ある事ですしお受けするべきですわ♪」


 メープルは乗る気だ。


 「うん、勝てばテレビとか出るよね? スカウトとか来るかも♪」


 マッシュがやる気を見せた。


 「勿論、優勝すれば賞金は皆さんが受けと取っていただいて構いませんよ♪」


 校長先生が止めのひと押しを告げる。


 「はい、やります♪ 僕達が学校に優勝旗を持ち帰るつもりで行きます♪」


 賞金と聞いてカナメが乗った。


 「仲間の半数以上が乗り気なんで、お受けいたします」


 金馬は面倒だったが、仲間のやる気に乗っかる事にした。


 かくして、金馬達は賞金い目が眩み等の理由から全国高等学校巨大ロボット戦闘競技会と言う公の場に出る事となった。


 「で、俺ら部活になっちまったな?」

 「顧問は飯盛先生だしね」

 「山ヒロロボファイ部の旗揚げで~す♪」

 「部長は金馬君、副部長は私ですわ♪」

 「メープルさん、そう言うの上手いよね」

 「つけ入るの上手すぎ」


 校長室で出場決定と共に、部活動の申請もさせられた金馬達はロボットファイト部を立ち上げる羽目になった。


 放課後、部室棟の空き部屋を割り当てられた金馬達。


 テーブル一つに人数分の椅子、まだ何もない資料棚とホワイトボードと看板。


 わずかな備品があるだけの部室の掃除から、金馬達の部活動が始まった。


 「良い事ですね、会社的には♪」

 「ロボファイトデビューか、がんばれよ♪」

 「父ちゃん達、別宇宙の開発はどうしたんだよ?」

 「ぼちぼちですね、こちらとあちらを繋げたので行き来は自由です♪」


 帰宅したら両親がいたので話はしておく金馬。


 「支援が必要ならいつでも相談に応じますからね♪ 会社にも連絡しないと♪」

 「ああ、シンリンおばちゃん達には素直にお世話になります」

 「父さん達は応援するぞ、試合はいつだ♪」

 

 両親に試合の日程を離す金馬。


 「あらあら、部活動は良いわね♪ 金ちゃんも青春を楽しみなさい♪」


 祖母の雛菊さんも喜び、家族の応援は得られた金馬であった。


 家族の応援を受けつつ指導したロボファイト部。


 「まずは代表戦だ、我が校以外にもロボットを持つ学校がある」


 部活の時間、飯盛先生がホワイトボードにマジックで書いて説明してくれる。


 出て見ませんかと打診は来たが、いきなり全国というわけではない。


 県大会を勝ち抜いて、代表の座を掴まねば決戦の舞台である北海道には行けない。


 地区大会などを経てから、県大会で全国大会と言うのが普通のスポーツ競技。


 だが、県ごとに巨大ロボットを保有する学校の数にばらつきがある。


 ロボはお金もかかるので、ロボファイトは地区大会はなく県大会からスタートだ。


 そして時は現在に戻り、試合の用意。


 対戦相手のカンピオーネ女学院からまずはエントリー。


 巨大トレーラーから五十メートルのスーパーロボットが起き上がり大地に立つ。


 「ジガンプジレ、リングインですわ♪」


 ピンクと白のカラーリングの愛らしさとは、太く巨大な両腕にマッシヴなボディのアンバランスさが印象的な機体だ。


 スピーカーから愛らしい美少女の声が鳴り響く。


 カンピオーネ女学院の頬るスパーロボット、ジガンプジレの登場であった。


 「良し、俺達も合体だ! シフトコード、マグナファンロン」

 「シフトコード、マグナフェニックス」

 「シフトコード、マグナロコモですわ♪」

 「シフトコード、マグナタートルで~す♪」

 「シフトコード、マグナウルフ」


 金馬達が自機を出して巨大化変形させ、吸い込まれるように乗り込む。


 「マグナデウス、コンバットゴー!」


 そして、五体のメカが合体しマグナデウスが完成した。


 両者が向き合い、拳を打ち合わせて試合が始まる。


 唸る巨体、客席にまでドシドシ響く足音と振動。


 「行きますわ、ルーチェ・デ・プーニョ!」


 先手はジガンプジーレ、拳に青く光るビームを纏わせて殴り掛かる。


 「タートルで受けます、フィールド全開で~す!」


 ドロシーが動く。


 左腕のマグナタートルが、甲羅を盾のように構えてバリヤーを張る。


 「甘くってよ、ルーキーさん♪」


 だが、相手のパンチがバリヤーを叩き割った!


 「ロコモスクリューですわ!」


 右腕のロコモをメープルが操作しドリルを回し、コークスクリューで反撃。


 「ぐわ~~っ!」

 「ちいいっ! やりますわね、メープルさん!」


 クロスカウンターで双方が吹っ飛び倒れる!


 「ドロシー、無事か? 皆は?」


 起き上がりながら、仲間の安易を確認する金馬。


 「無事ですわ♪」

 「こっちは平気!」

 「こっちも無事」

 「はう~っ、ちょっとグロッキーで~す」

 「よし、パートシフトだドロシーはカナメとタッチだ」

 「オッケ、お疲れ様」

 「宜しくでーす」


 マグナデウスは甲羅にひびが入ったタートルをパージ。


 無事なフェニックスと部位を交代する。


 ジガンプジレも立ち上がる、こちらはまだまだ元気だった。


 「合体変形型ならではですわね、ですが一体型はシンプルイズベストでしてよ!」


 ジガンプジレのコックピットの中。


 機体とリンクするヘッドギアにグローブシューズとボクサールックの美少女


 鋼鉄院こうてついんマリアがニヤリと笑い拳を構える。


 イタリア人の母を持つ、日本のロボット開発シェアで五指に入るお金持ち。


 鋼鉄院グループのお嬢様であるマリアの自家用機、ボクシングが得意な彼女の第二の拳がこのジガンプジレだ。


 メープルとは、お嬢様友達で顔なじみでもある。


 初手のぶつかり合いで両者に一ポイント得点が入る。


 ロボファイトの勝負はポイント制。先に二ポイント取られた方の勝ち。


 「これで決めますわ、てりゃ~~~っ!」


 ジガンプジレが突進し、青く輝く拳のストレートを繰り出す。


 「マグナデウス、散開っ!」


 金馬が叫び、瞬時にマグナデウスが分離してジガンプジレの攻撃を回避する。


 背後に回り再合体したマグナデウスが、相手のバックを取った。


 「行くぜ、マグナスープレックスだっ!」

 「出力全開ですわ~っ!」

 「これで決めるよ!」

 「離さない!」

 「さっきのお返しで~す!」


 全力で相手の胴を両腕で締めてクラッチし、持ち上げ後方へと反り投げる。


 轟音を上げてダウンするジガンプジレ、ポイントを取って勝ってからマグナデウスが助け起こす。


 初の地球陣営同士でのロボ対決を、マグナデウスはギリギリで乗り越えた。

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