第58話 集い来る力

 ついに始まった、恐怖の大王との戦争。


 神族連合軍に加わったドラゴンシフター達は、宇宙ルートを進んでいた。


 海王星宙域に次元を裂いて現れたのは、巨大なカブトムシ型の怪物の群れ。


 先陣を切ったのは、黄金の鎧に盾と槍で武装したギリシャ神軍。


 輝きを身に纏い突撃して行く様は、流星のごとしであった。


 だが、他の神族達もただ見ているわけではない。


 次々と次元を裂いて現れる敵の進撃を防ぐべく、防衛ラインを構築していく。


 ドラゴンシフター達も、龍宮大合神で敵の侵攻を阻むべく立ち向かう。


 「行くぜ、龍宮大合神っ!」

 「帰ったらデートですね♪」

 「ああ、俺もジンリーとイチャイチャしたい!」

 「そのお気持ちが、私の力になります!」


 二人で一人の太極ドラゴンシフターが、自分達のコックピット内で語る。


 「一家総出の大戦じゃあっ!」

 「予算は気にせず、ジャンジャンぶっ放すわよ!」


 龍王とクイーンも機体操作を行う、演算は大龍宮の担当だ。


 「ドラゴンバズーカ、転送だよ♪」


 三号が自分のコックピットでデジタルスクリーンを操作し、武装を選択。


 龍宮大合神の手に、虚空から巨大なバズーカ砲が現れる。


 「うおお、ドラゴンバズーカフルバースト!」


 シューティングゲームのようにバズーカから、火炎弾を連射する龍宮大合神。


 自分達へと向かって来た敵は撃破できた、だが一匹撃破しても次が来る。


 「タワーディフェンスゲームかよ!」

 「雑魚を倒しつつ、ふざけた運営を殴る機会を切り開きましょう!」

 「家もゲーム運営してる会社だよな?」


 遠距離攻撃を抜けて来た敵を、格闘で撃破しつつ語る太極ドラゴンシフター。


 物量で攻めて来る敵に対して、諦めず抗っていた。


 「まずいな、漏れた敵が他の惑星に行ってる!」

 「何とかしたい所ですが、こちらも手が足りませんね!」

 「目の前の敵を倒して行くしかねえ!」


 自分達の防衛ラインを抜けて来た敵に焦りを感じる太極ドラゴンシフター。


 『大丈夫だ、そちらは任せてもらおう』

 『我等ユニバーマン、宇宙の安寧の為に君達に加勢する』

 『まだまだ味方はいる、共に戦おう』

 

 テレパシーと共に宇宙空間に複数の輝きが生まれる。


 輝きは、巨人の形を取り太陽系の各惑星へと散開して行った。


 「餅は餅屋、手厚いですね」

 「ありがたいな、後ろはユニバーマンさん達に任せて押し返して行こう♪」

 「ご主人様が元気になって、私も元気になって来ました!」

 「いや、ちょ他の皆も乗てるから! ジンリー、ステイ!」


 龍宮大合神の中、太極ドラゴンシフターの左半身が猛烈に発光する。


 「うおっ! 金龍合神側からエネルギーが上昇しておる!」

 「ジンリーが何かテンション上がることしたのね!」


 急激なエネルギー上昇に戸惑う、大龍宮部分。


 「ごめん、こっちの制御受け付けない! お姉ちゃん達に付き合おう」


 特急龍神部分の三号は諦めた。


 「こうなりゃ乗るしかねえ、暴走上等だっ!」

 「荒ぶるご主人様、素敵ですっ♪ テンション上げて行きましょうっ!」

 「長崎のおくんちみたいにか?」

 「龍舞は中華の方が本場です!」

 

 「「暴走乱舞、ファンロンスタンピードッ!」」


 太極ドラゴンシフターがレバーを押し込む。


 龍宮大合神の全身が輝き、ロボット形態から巨大な光の龍に変形して突進っ!


 味方を避けつつ、踊るように宇宙空間を動き回り敵兵の群れを撃破して行く。


 「中華の新入りに負けるな! 大和魂を見せてやる!」

 「我らに大神オーディンの加護あり、アインヘリヤルに恐れる者なし!」

 「インド神族のブラフマーストラを受けて見よ!」


 龍宮大合神の突然の突出に、他の神々の軍勢も遅れてなる者かと奮起し出す。


 「何か、周りの友軍達も勢いづいて来たな?」

 「ふっふっふ♪ わざと目立つ真似をして友軍の功名心を煽る策です♪」

 「いや、今思いついただろ?」

 「いえいえ、日本の三国志のコミックで学びました♪」

 「漫画かよ!」

 「ああ、ご主人様のツッコミが嬉しい♪ テンションが上がります♪」

 「いや、自重しろ!」

 「戦場で自重してる暇はありませんよ♪」

 「ボケの合間に正論入れて来るな! 死なない為にも暴れるぞ!」


 戦場であろうとも、夫婦漫才をしながら龍宮大合神で戦う太極ドラゴンシフター。


 太陽系のあちこちで爆発の花が咲き乱れ、光の玉が生まれては弾ける。


 戦況は神族連合側に有利になって来ていた。


 「敵の指揮官に当たる奴らが見当たらないな?」

 「そもそも敵側に指揮や作戦と言う、軍や戦術などの考えがないとか?」

 「流石に相手も馬鹿じゃないはずだが、どうなんだろうな?」


 性質の悪い敵が物量で攻めて来たから、守る為に対応している神族連合軍。


 今、太陽系を攻めている敵の兵は弱くはないし数も多い。


 物量で攻め続けられれば、いつかはこちらが力尽きる。


 自分達はただ、ここで持ち場を守る為に戦っていれば良いのか?


 コックピットの中で熟考する。太極ドラゴンシフターの黒い右半身こと立磨。


 「もしかすると、敵の狙いは別の場所か?」

 「つまりこちらの戦場は陽動で、我々はおびき寄せられたと?」

 「ああ、こっちもハードだが次元を割れるなら地球が直で攻められる!」

 「ファイア&ムーブメントですね、地球へと急ぎ戻りましょう!」


 宇宙の守りも大事だが、狙いは別だと判断し機体をターンさせる。


 「天界軍へ報告と他の軍へ連絡はした、相談各自でともな♪」

 「悠長に相談してたら地球が滅ぶから、結果出して手柄渡せば良しよ♪」


 龍王シフターとクイーンシフターが連絡してくる。


 報告と連絡と相談は大事だが、今回は相談に時間はかけられない。


 「ということなので、責任はお祖父様達に任せましょう♪」

 「いや、ありがとうだろ?」


 龍宮大合神を飛ばしてフロートシティを目指す、ドラゴンシフター達だった。


 ドラゴンシフター達の考えは正解であった。


 真昼のフロートシティの中央通りに、虚空を裂いて異次元のゲートが開く。


 ゲートからはまず豪奢だが気味の悪い模様の、闇のカーペットが敷かれた。


 次に耳目をもたぬ黒き異形の軍楽隊が現れ、不快で悲しくなる音楽を奏でる。


 軍楽隊の後ろから、黒衣を纏った衛兵が高々と槍を掲げて行進する。


 異形のパレードの最後は、首なしの黒馬の馬車に乗ったナミダ―メが現れた。


 周辺の一般人達は、次々と呻き声を上げて倒れて体から黒い人魂を出して行く。


 「ドンが狙っていた銀行に、デーモニウムの大結晶があったのねキーロック」


 自分で殺した部下の名を呟くナミダ―メ。


 彼女が欲する量のデーモニウムは、発電所ではなく中央銀行にある。


 キーロックが残した情報から彼女は動いた。


 「お父様、私がデーモニウムを食べたらお越しくださいね♪」


 ナミダ―メの狙い。


 デーモニウムの大結晶を取り込み、自分が恐怖の大王のコアとなる事。


 宇宙に出た敵は囮。


 「ドラゴンはお留守♪ 戦士も盗賊も忍者もいない♪ 魔女がお宝独り占め♪」


 勝利を喜ぶように、他の悪の組織を出し抜いたと歌うナミダ―メ。


 美声ではあるが暗く怖い歌声は、鼓笛隊が凍り付いた事で止まった。


 「悲しいわ、私の歌を止めるのは誰?」

 「スノウブリンガー、ヒーローの一人だ」


 ビルの屋上から氷の塊を投げ、鼓笛隊を止めたのはスノウブリンガー。


 「ヒーローは他にもいるぞ、火の神ブレード!」


 ヒノカミレッドの抜刀から炎が迸り、氷漬けのクライゾーン鼓笛隊が両断される。


 「ドラゴンはいないけど虎はいるっしょ、タイガースラッシュ!」


 コンビニから飛び出したアームドタイガーが爪を振るい、衛兵を切り捨てた。


 「私達もいるよ♪」

 「ナミダ―メ、勝負だ!」


 プリティボックスとプリティジャスティスの二人が虚空から煙と共に現れキック!


 「邪魔ないたずらっ子たちね、お菓子はあげないわよ?」


 二人の魔闘少女の蹴りをバリヤーで弾いたナミダ―メ。


 「いや、お前からお菓子なんざもらいたくねえよ」


 スノウブリンガーが降りて来て呟く。


 「我らヒーロー高専選抜組、スクールフォースが貴様らを止める!」

 「委員長、リーダーっぽいっしょ♪」


 ヒノカミレッドがチーム名を名乗り、学生ヒーロー達が立ちはだかる。


 「いたずらっ子達にはお仕置きが必要ね? クライ獣、蹴散らしなさい」


 冷淡な口調でナミダ―メが呟くと、空に穴が開き黒い巨人達が落ちてきた。


 「おのれ、街中で巨大戦か!」

 「俺達、ロボとかないっしょ!」

 「日高、ロボ持ちの仲間はまだ宇宙か!」


 生身戦編成のスクールフォースが、衛兵達と戦いつつ悔しがる。


 「悲しいわね、大きさは強さだと知りながら絶望なさい♪」


 ナミダ―メが暇つぶし感覚で手下とヒーローの戦いを見物しながら笑う。


 「諦めちゃ駄目だ!」


 叫びと共に空に一筋の緑の光が生まれ、筋肉質な緑色の巨人が出現した。


 「芽吹っち,来てくれたっしょ♪」


 アームドタイガーが嬉しさの余り、巨人を本名呼びしてしまう。


 「いや、エメラルドマンって呼べよ虎っ!」


 スノウブリンガーがツッコむ。


 緑色の巨人、エメラルドマンの正体は芽吹伸長。


 「学闘祭のリベンジだ、エメラルドセイバー!」


 右手から光線を剣状に放出して振るい、クライ獣達と戦うエメラルドマン。


 「忌々しい子供達ね、眩しい希望の輝きは嫌い!」


 ナミダ―メが憎々しげに、スクールフォースへ向けて衝撃波を放つ。


 「おっと♪ 私の教え子達に、手出しはさせませんよ~♪」


 地面からスーツ姿の黒山羊男、ゴートマン先生が出現しバリヤーを展開する。


 「あなたは魔王ゴートマン! 魔族が人間達を守ると言うの?」


 自分に匹敵する魔族が突如現れた事に驚き、動きが固まるナミダ―メ。


 「私は彼らの引率の教師です♪ 人間は楽しい遊び相手ですから、守りますよ♪」


 気持ち悪い笑顔をナミダ―メに向ける、ゴートマン先生。


 「先生、理事長に報告しますね?」

 「失礼、では皆さんに口止め料です♪ 出でよガラドーン♪」


 ヒノカミレッドの言葉に苦笑いしたゴートマン先生が叫んで口笛を吹く。


 空を暗雲が覆い、雲の中から三匹の黒山羊型の巨大メカが現れる。


 「お、おっきな山羊さん?」


 プリティボックスが驚く。


 「はい、私の愛機に皆さんをご招待しますパチッとな♪」


 ゴートマン先生が指を鳴らすと、彼とスクールフォースの面々は姿を消した。


 同時に、三匹の山羊メカが合体し山羊の頭を持つ人型ロボットへと変形した。


 「うおっ! どこだここ?」

 「丸テーブル、描かれてるのは魔法陣か?」

 「もしかして俺達、あの山羊メカの中に来た?」


 突然の事に驚くスクールフォースのヒーロー達。


 転移した場所は学校の教室風の部屋。


 自分達は魔法陣が描かれた円卓の周囲の席に着いている。


 「はい、皆さんようこそ我が愛機の中へ♪」


 彼らの背後に玉座に座ったゴートマン先生が現れた。


 「先生、私達はどうすれば良いんですか?」


 プリティボックスが手を挙げる。


 「はい、良い質問です♪ これから皆さんには巨大戦をしてもらいます♪」


 ゴートマン先生が笑顔で告げる。


 地球に戦場を移し、迫りくるラスボス戦を前にヒーロー側の戦力は集って来た。

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