第57話  破られし扉

 「天の川って、採掘場兼演習場だったんだな?」

 「こちらはユニットが少ないですね、縛りプレイでしょうか?」


 金龍合神のコックピットの中で太極ドラゴンシフターが呟く。


 体は一つで中身は二つ状態だから、一人の人物から男女の声が同時に出る。


 「ロボを増やす予定はあったけど、開発が間に合わなかったんだよ~!」


 特急龍神から、ドラゴンシフター三号が恨めしそうに通信で呟く。


 「まあ、手持ちでやるしかないわい」

 「ロボは後でも作れるから、お金も戦いも何とかしましょう♪」


 龍王シフターとクイーンシフターが、ローダー形態の大龍宮から通信を入れる。


 孫悟空、馬超、関羽。


 自分達の属する中華神族グループの、大物神格達による稽古を受けていた立磨達。


 馬超による、基礎身体能力の強化と白兵戦の鍛錬。


 関羽による戦術の座学。


 最後の仕上げは、悟空が担当する天の川での巨大戦の演習と言う事になった。


 立ち向かう相手は、巨大化した孫悟空と分身猿軍団。


 苦手ステージの宇宙でドラゴンシフター達は、隕石帯に陣取りつつ戦っていた。


 「全砲門、一斉発射じゃ!」

 「照準セット、食らいなさい!」


 ローダー形態の大龍宮から、金色のビームが四方八方に放たれる。


 襲い来る猿軍団のトループが、ビームで霧散化されて行く。


 「私の機体はしばらく、隕石食べて回復専念!」


 自機の通信でドラゴンシフター三号が叫ぶ。


 彼女が操る特急龍神は、列車形態で頭部で隕石を噛み砕いて取り込む。


 汽車が石炭を燃料にするように、隕石を食い機体を修復させる。


 「行くぜ、龍人拳法・大刀円舞だいとうえんぶっ!」


 金龍合神は両手に二振りの大刀を持ち、竜巻の如く回転して振るう。


 金龍合神の回転攻撃は、襲い来る猿軍団を切り刻み撃破した。


 「まだまだ行くぞ!」


 孫悟空が叫ぶと、分身猿軍団も棒で武装して筋斗雲に乗り速度アップ。


 「ちい、これだからチートの元祖クラスの相手は面倒なんじゃ!」

 「今も成長中って嘘でしょ! 日本のアニメのせい!」


 分身猿が金色のゴリラになり、掌突き出してビームで攻撃。


 難易度が上がる中、必死に応戦するドラゴンシフター達。


 「ゴリラもお猿も、皆纏めてバナナランチャーを喰らえ~っ!」


 ドラゴンシフター三号が叫び、操作スティックの引き金を引く。


 列車形態の特急龍神が、背部車両のミサイル砲門から大量のバナナを射出する。


 「ウキ~~~~ッ!」


 分身猿軍団も本体の悟空すらも、発射された大量のバナナに食らいつく。


 「今だ、チェスト~ッ!」

 「大将首狙いです! 龍頭鉄拳弾っ!」


 金龍合神が悟空の背後に回り、拳を射出して攻撃する。


 「うおっ! やりやがったな♪」


 バナナを食い終えたからか、攻撃を受けてもニヤリとする悟空。


 「音に聞こえた孫悟空、真っ向から挑むぜ!」

 「ええ、霹靂鉄山靠ですっ!」


 金龍合神が機体全体に電撃を纏い、体当たりを仕掛ける。


 「その意気や良し! だが、状況終了だ♪」


 金龍合神の突撃は悟空に片手で止められる。


 分身猿軍団も全て消えていた。


 ドラゴンシフター達は、どうにか演習の合格を勝ち取った。


 演習を終えて天界の軍学校に戻って来た立磨達。


 関羽や馬超は戦争本番に向けて軍に戻っていた。


 「ありがとうございました!」

 「ご指導、ありがとうございました」


 変身を解き分離した立磨とジンリーが、軍学校の校庭で悟空に礼を言う。


 「おう、だが演習を終えたら実戦だからな? 終わりじゃねえぞ?」


 立磨達に釘をさす悟空、彼も猪八戒や沙悟浄と合流し戦に備えるとの事だった。


 「おっす、肝に銘じます」

 「調子に乗って酒を飲んで寝ている、家族達にも伝えておきます」

 「……お前ら龍は本当に、酒好きだな? まあ、今の内に食って寝て休んどけ」


 悟空が呆れながらそう言って立ち去る。


 かくして、決戦前の追い込みの特訓は終了した。


 所変わって、暗黒宇宙。


 ドラゴンシフター達が追い込みをしている頃、悪の組織も動きがあった。


 「見くびるなよハンゾー? 我も宇宙生まれの寄生生物だ」

 「フォッフォッフォ♪ 知っておるわ毒虫の王よ♪」


 狭い茶室の中、金のバッタ怪人と黒の忍者がぶつかり合う。


 キングチョッパー対ノットリ・ハンゾーによる、組織のボス同士の対決。


 「こちらが貴様の下に出向く事も読まれていたか?」

 「左様、依頼の先約はあちらでな♪」

 「忍者とは汚いものよな、チョッパーチョップ」

 「千年ぶりに聞いたのう、暗黒忍法・ナノマシン分身っ!」


 キングチョッパーの手刀を、分身の術で回避するハンゾー.


 ハンゾーは、先にナミダ―メからキングチョッパーの暗殺依頼を受けていた。


 依頼は先約優先、ハンゾーにとってはいつかは殺し合う相手同士。


 余人が見れば、双方が無数の拳を繰り出し合う殴り合い。


 マンガじみた動きで、キングチョッパーと素手の格闘戦を繰り出すハンゾー。


 「忍者は素手での真っ向勝負ができないと思うたか? 拳法こそ忍者の神髄よ!」

 「……いいや、格闘する忍者との戦いは経験済みだ」

 

 狭い茶室である事など関係なく、互いに絶技の猛襲を出し合いながら語らう二人。


 遥か古代から生き続けて来たとうそぶく漆黒の忍者、ハンゾー。


 ヒーローに何度も組織を潰されても、宿主を変え生き伸びたキングチョッパー。


 両者の戦いは互角。


 ハンゾーもベテランスーパーヴィランであった。


 だが、宇宙から来た寄生生物のキングチョッパーは、データ蓄積能力があった。


 その力が互角の戦いを成立させていた。


 「貴様にはこの技で葬ってやろう、チョッパー抹殺キック!」

 「ぐはっ! 見事なり、だが我らに死は意味はなし♪」

 「知っている、暫くはお互い雲隠れだ」


 自身を倒して来たヒーローの最強技をコピーできる怪物、キングチョッパー。


 最後に自分を倒したヒーローから盗んだ跳び蹴りが、ハンゾーの体を爆散させる。


 同時に二人が戦っていた、庵型宇宙ステーションも爆散する。


 悪の組織のボス二人は生死不明で闇に消えた。


 第四次恐怖の大王戦争の間、チョッパーと凶星忍軍は行方をくらます事となる。


 「……く、あの老人と羽虫め!」


 サッドパレスの玉座の間で、キーロックが悔しがる。


 彼の手に握り潰されているのは、ハンゾーからのバックレ宣言の巻物。


 「……悲しいわね、キーロック?」


 ナミダ―メが、冷たい視線をキーロックへと向けて召喚成功確率を尋ねる。


 「……四十パーセントで、変化なしでございます」

 「じゃあ、あなたの悔しさと命で成功率を上げましょうね♪」

 「……はい、覚悟はできております」


 ナミダ―メが座る玉座から影の手が伸び、跪くキーロックを握り潰した。


 「手駒を自分で潰すなんて悲しい、けれどこれでお父様をお招きできるわ♪」


 ナミダ―メが瞳を光らせ、邪悪な笑みを浮かべる。


 玉座の間からナミダ―メが消える。


 灰色の石造りの壁に囲まれ、紫色の床に銀色の魔法陣が描かれた部屋。


 魔法陣の中から現れたのは、黄金を髑髏聖杯を持ったナミダ―メ。


 陣の中心で彼女が両腕を広げると、聖杯は宙に浮かぶ。


 「……時は来た、恐怖の大王が娘にして女王ナミダ―メが訴える!」


 天井を見上げて叫ぶナミダ―メ、召喚の呪文の始まりだ。


 「黄金の髑髏聖杯に満ちた闇の力を対価に捧げる!」


 呪文の一節目で、黄金の髑髏聖杯の眼窩が光る。


 「世界の扉を閉ざす、神々のかんぬきを解き放て!」


 二節目で床の魔法陣が輝く。


 「闇の魂を目印に、破城槌を振るえ恐怖の尖兵達よ!」


 三節目で、黄金の髑髏杯から闇の柱が立ち上がった。


 「三節目までしか持たないなんて悲しいわ、でも門は開けた」


 恐怖の大王の軍団を、一気に召喚するには七節までの詠唱が必要。


 三節目迄の詠唱は達成したので、神による世界を隔てる扉の門は破られた。


 恐怖の大王の軍勢と宇宙のパスは繋がり、侵攻の道は舗装された。


 「足りない魔力は、あの島からもらいましょう♪」


 ナミダ―メの瞳には、フローシティのデーモニウム発電所が映っていた。


 「戦の前だけど、のんびり食っていて良いんだろうか?」

 「孫大聖も、食って寝て休めとおっしゃられていますから♪」

 

 高級中華料理店と言う内装をしている大龍宮の食堂スペース。


 特急龍神で寝ているジンリン、大龍宮内の自室で寝ているジンファとジンチャオ。


 三人の仲間を除き、立磨達は戦の前の腹拵えに来ていた。


 「ではご主人様、特訓でお預けだったラブラブタイムを要求します!」

 「……いや、いきなりでこっぱずかしさが爆発したわ!」

 「まずは定番の食べさせ合いからでお願いいたします、キリッ!」

 「いや、キリッ! じゃねえからな? はい、あ~ん?」


 ジンリーに要求され、まずは食卓の満漢全席の中から適当な点心を選ぶ。


 「うん、好吃~♪ ご主人様、では次は私がこちらを♪」

 「わかった、あ~ん♪」

 「み、耳からも幸せが襲ってきます♪」

 「うん、こうして過ごせる時間って幸せだよな♪」

 「はい、この幸せを未来永劫守り抜きましょう♪」

 「ジンリー、テンション上がり過ぎ~♪」

 「もう爆上がりですよ♪ 萌えて来ました、最高です♪」


 久しぶりに二人きりで仲良く食事を取る、立磨とジンリー。


 戦いが迫るからこそ、平和な時間でメンタルの強度を補う。


 自分達が何の為に戦うのか?


 自分達は何を守りたいのか?


 ヒーローとして人として、大事な物を再確認するように立磨達は食事を摂る。


 自分達が負ければ、誰かの大事な時が失われる。


 「しっかりいただきましょう、勝って皆で祝う為に♪」

 「ああ、食ったエネルギーで敵を倒す」

 「戦いの後は、温泉旅行に行くのも良いですね♪」

 「日本横断で温泉巡りでもするか♪」

 「食レポ動画も上げましょう、ヒーローの温泉飯めぐり♪」

 「良し、恐怖の大王に負けないように夢と希望もチャージするぞ♪」


 他愛もない会話と食事で、自分達の気力を高めていく立磨達。


 恐怖や負の力に立ち向かうには、愛や友情幸福感などのプラスの力。


 絶望に抗うのは希望の力なのだと、立磨達は英気を養った。


 それぞれが休息を終えた立磨達、大龍宮のブリッジに集う。


 「皆、演習はご苦労じゃった♪ だが、これからが本番」

 「パパ、スピーチは良いから! 皆で宇宙へ出撃よ!」


 ジンチャオの言葉をジンファが遮る。


 「海王星付近の空間に切れ目が入って、敵が出現だって」


 ジンリンが天界の情報も見れるタイプのスマホで、ニュースを見る。


 「うむ、これより黄家龍王軍は神族連合軍に加わり乱を治に平す!」


 ジンチャオの叫びに、応とレスポンスする立磨達。


 ドラゴンシフター最大の戦いが幕を開ける。

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