第56話 善悪双方の追い込み

 「……悲しいわ、ドンが死ねば確率が各段に上がる予定だったのに」

 「まさか、あの金蛇達がドンの魂を浄化するとは」

 

 魔界にある悲しみの王宮サッドパレス。


 玉座の間にて、ナミダ―メがキーロックからの報告を聞く。


 クライゾーンが企む恐怖の大王召喚計画。


 ドン・バンクラーがヒーローに倒される事で一気に成功率が上がるはずであった。


 だが、ドラゴンシフター達のロボが使用した技によりドンの魂は浄化された。


 邪気を払う力で戦場が清められた事が成功率の上昇を抑えていた。


 「四十パーセント、次は誰を生贄に狩ろうかしら?」

 「やはり、ドンに匹敵するスーパーヴィランが必要かと?」


 キーロックがナミダ―メに進言する。


 「なら、キングかしらね♪」

 「ノッタリの老人ではないのでしょうか?」

 「忍者は駄目ね、死んでも甦るしコストに使えないわ」

 「かしこまりました、ではチョッパーに襲撃をかけます」

 「ええ、ついでにあの蛇達にも手下を差し向けましょう♪」

 「では、そのように手配いたします♪」


 クライゾーンは次のターゲットをチョッパーのボス、キングチョッパーに定めた。


 所変われば窓の外は闇。


 暗黒宇宙にある、庵型の宇宙ステーションの茶室。


 和風な造りの部屋で、二人の怪人が正座で向き合っていた。


 「ドーゾ・キングチョッパーさん、ソチャです」

 「ドーモ・ノットリ・ハンゾーさん、いただこう」


 これは、チャカイと呼ばれる上位の暗黒忍者に依頼をする時の作法。


 黒装束の忍者の老人が差し出した、紫色の宇宙茶を受け取る金色のバッタ男。


 キングチョッパーが茶器を手に取り、一気に飲み干して茶器を置く。


 「オテマエ・ケッコー」

 「キョ―エツ♪」


 ノットリ・ハンゾーと、依頼の話をするための儀式は終わった。


 「フォッフォッフォ♪ して、狙うのはナミダ―メの首か?」

 「当然だ、あちらが生贄として次に狙うはこちらの首だろう」

 「そなた自ら刺客を出迎えてやらぬのか? 負ける道理はなかろうに?」

 「乗り込んで来たのがヒーローならばそうしよう、だが奴らにはその資格はない」


 自分と真っ向から対決するのは、ヒーローだけである。


 キングチョッパーには、ヒーローと対決する事に拘る妙な矜持があった。


 「まあ、いざと言う時の保険と後継ぎの用意はしておくとよかろう」


 ハンゾーがキングチョッパーに忠告をする。


 「問題ない、各支部の幹部に仕込み済みだ」

 「じゃろうな♪ こちらも抜かりはない、悪党の種は尽きまじよ♪」


 キングチョッパーもハンゾーも、ただでやられる相手ではなかった。


 悪の組織同士での潰し合いも動き出す。


 前回、バンクラーとの戦いを乗り越えた立磨達。


 彼らは天界の法廷で、被告席に立たされていた。


 頼んでもいないのに、弁護人には斉天大聖と馬超と言う大物が付けられた。


 「西王母様から頼まれた、報酬は貰ってる俺に任せろ♪」

 「貴様が立磨か? 我が名は馬超、貴様の先祖である♪」


 「……いや、何で俺達ここにいるんだろ?」

 「不当です! 断固として無罪をを主張します!」

 「我らの行動は、天命に定められた物じゃ!」

 「作る時も、天帝陛下や太上老君様から許可はもらいました!」

 「龍宮大合神は恐怖の大王を討つ為の兵器です!」


 龍王とその一族の身分から物を奪われたり、拘束はされていない。


 天界の裁判所は地球の法廷とほぼ同じ構造であった。


 戦いを終え、仙郷に機体と共に帰還した立磨達。


 休息を取ろうとしていた彼らの下に、天界軍の兵士達が訪れた。


 「被告人達は静粛に」


 裁判長である関羽が厳かに呟くと黙る、ジンチャオ達。


 「被告側の兵器は人界を騒がせ、天界への叛意を現したものである!」


 原告に立つのは、青白い肌の冴えないキョンシー服の男。


 立磨達が鬼市で出会った、嫌味な冥界の小役人がビビりながらも叫ぶ。


 ビビる理由は立磨達の弁護に立つのが、馬超と斉天大聖孫悟空と大物だから。


 「裁判長、異議ありだ」

 「異議を認める、申して見よ」


 悟空の異議を関羽が認める。


 「ああ、叛意だとか言うがあんな玩具でどうにかなるほど天界は弱いのか?」

 「弁護人、煽るような発言は控えなさい」


 悟空を関羽が窘める。


 「傍流とは言え我が子孫への侮辱、許さん!」

 「ご先祖様、リベンジは法廷が終わってからでお願いします」


 立磨が馬超に必死で頼む。


 「この裁判、訴え自体が悪の組織の陰謀である証拠を提出する!」


 悟空が指を鳴らすと虚空に巨大なスクリーンが浮かび上がる。


 『あなた、お金にお困りのようですねえ?』

 『お、お前はキーロック!』

 『あなたも気に食わないでしょう、黄家龍王の一族?』

 『いや、流石に小役人がおいそれとは?』

 『大丈夫ですよ、費用はこちらで用意いたします♪』

 『わかった、報酬は弾んでもらうぞ?』


 原告席の役人とキーロックが、取引をしている映像であった。


 「ひ、ひいいっ! 一体どこでこの映像を!」

 「お前の中の三尸さんしの虫からな♪」


 ビビる役人、言い逃れしようにも関羽や馬超たちの発する圧で体が動かなかった。


 「やはりか、冥界にまで悪の組織の魔の手が及んでいようとは不甲斐ない」

 「この裁判は訴え自体が無効だ、これから被告になるのはお前だ木っ端役人!」


 関羽が溜息を吐き悟空がニヤリと笑う。


 「では、どうしてくれようか?」


 馬超が指を鳴らす。


 「何というか、俺達は天界の膿を切り取る出汁かな?」

 「そのようですね、これだから天界は!」

 「私、帰って寝たいよ」

 「ふう、年寄りには答えたわい」

 「さあ、勝訴のお祝いよ♪」


 巻き込まれた立磨達、役人が引き立てられて消えて行くのを見送る。


 「さて、黄家の皆様には迷惑をかけたね♪」

 「まったくだ、我が子孫が天への謀反など起こすはずがなかろう?」

 「いやいや、馬超の旦那? 俺も人の事は言えないがブーメランだ」


 関羽、馬超、悟空が立磨達を見て微笑む。


 「お詫びに立磨君には、天界軍士官学校の推薦枠をあげよう♪」

 「謹んで辞退させていただきます!」

 「地上の学校の卒業後だから安心したまえ、向こうの理事長とは話をつけよう」

 

 関羽の誘いを立磨は全力で断ったが、引き延ばせただけだった。


 「まあ、それはさておき日本人の坊主?」

 「……はい、何でしょうか?」


 関羽を遮り悟空が立磨に語りかける。


 「西王母様からお前を助けろと頼まれたが、これも縁だ稽古を付けてやる♪」

 「うむ、我も稽古を付けてやろう♪」

 「そうか、ならば私も加わろう関羽式ブートキャンプのお試しだ♪」

 

 悟空、馬超、関羽の三名から稽古のプレゼントを提案された立磨。


 「……お、おっす! 宜しくお願いします!」


 この状況、逃げられないなら進むしかないと立磨は覚悟を決めた。


 「立磨君、頑張るんじゃぞ!」

 「私達はお酒飲んで、会社で待ってるから!」

 「私、機体のチェックがあるから不参加で!」


 ジンチャオ、ジンファ、ジンリンは逃げたがっていた。


 「ご主人様と私はセットなので、私も修行を受けさせていただきます」

 「ジンリー、ありがとう♪」


 ジンリーは立磨と共に修行に臨む構えを見せる。


 「良い根性だ、ジンチャオの孫にしては立派だぜ♪」

 「私、ご主人様の最強の妻で母となる予定ですので♪」

 

 悟空がやる気を見せたジンリーに微笑む。


 「まあ、他の三人もみっちり関羽式で鍛えて上げよう♪」

 「これは、貴様らが恐怖の大王に勝つ為の追い込み特訓である!」

 

 関羽と馬超がジンチャオ達も逃がさない。


 黄家龍王軍は一蓮托生で、修行を悟空達からの修行を受ける事となった。


 キーロックによる、ドラゴンシフター達の動きを封じる作戦は成功した。


 悪の組織の仕掛けた罠を乗り切ったかと思えば実は嵌められていた。


 「まさか、キーロックの奴は俺達を修行で動けなくするために?」

 「とはいえこれは必要な修行ですから、罠であっても回避不可ですね」


 キーロックの狙いに気付いた立磨達であったが、どうにもできなかった。


 「天界、何か学校みたいな現代っぽい施設だな?」

 「ご主人様、ここは天界軍の学校だそうです」

 「……ここ、変わっとるがわしの母校じゃ!」

 「パパ、天界軍の学校通ってたのね」

 「私、学校って好きじゃないな」


 合宿で修行だと関羽達に連れて来れたのは、西洋風の学校だった。


 教室に案内されて席に着く立磨達、関羽が教壇に立ち語り出す。


 「それではこれより、諸君らの強化合宿を行う!」

 「「宜しくお願いします!」」

 「時間の流れなどは心配無用、座学も行い諸君らの心技体を鍛え上げる!」


 関羽が言うにはこの学校は、時の流れなどが特殊な空間らしい。


 「訓練用の装備を受け取りに行き、装備したら校庭に集合だ!」

 「「了解しました!」」


 教官である関羽の言葉に、従う立磨達。


 式神に案内され、売店みたいな場所で装備入りの袋を渡されたら次は更衣室へ。


 全員が黑く重い中華風の鎧兜を纏い、槍を持って校庭に整列した。


 「体の修行担当の馬超である、兵の基本は走る事! まずは校庭三十周だ!」


 関羽式ブートキャンプは、フル装備でのランニングから始まった。


 ランニングを終えた立磨達に小休憩が与えられる。


 立磨とジンリー以外は、バテて倒れていた。


 「ふう、足元から気を吸い上げながら走れってアドバイスが効いたぜ」

 「私の内助の功です♪」


 ドヤ顔をするジンリー、キョンシー服姿の幽霊達がやって来て立磨達に桃を配る。


 「これ食って、周回しろって奴だな」

 「ソシャゲのユニットの気分ですね」

 「俺達以外の味方ユニット、ダウンしてる編成だけどな」


 桃を食って回復させた立磨達の下へ、今度は悟空がやって来た。


 「ほう? お前らはこの修行のコツがわかってるな」

 「ええ、私達はゲーム会社の人間なのでゲームの攻略は得意です♪」

 「いや、ジンリー? 調子に乗らない方が良いよ?」


 立磨がジンリーを窘める。


 「そうだ、調子に乗り過ぎると岩山に封印されたりするからな♪」

 「説得力が高い!」

 「まあ、さておき次は巨大化した俺とロボットでの稽古だ仲間を起こしてやれ」

 「はい、皆起きて! 次の訓練が始まるから!」

 「次は巨大戦です、リベンジしますよ!」


 悟空に促されて仲間を起こす立磨達、今度はロボでの巨大戦の訓練だと意気込む。


 決戦に向かい、悪の組織の陰謀も立ち向かう立磨達の訓練も追い込みが始まった。

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