第55話 誕生、龍宮大合神っ!

 「キーロック、どうして召喚の儀式を行ってはいけないの?」


 サッドパレスの玉座の間、ナミダ―メが跪くキーロックに尋ねる。


 「恐れながら申し上げます、シミュレーション結果ではコスト不足でございます」


 執事姿のキーロックが指を鳴らすと、虚空に巨大なスクリーンが浮かぶ。


 「お父様本体の召喚成功率が、たったの五パーセントなの? とても悲しい事だわ」

 「このままでは、運に恵まれても陛下の異母兄弟の落とし子様しかお招きできません」


 ナミダーメが、魔法のスクリーンに表示されたグラフの結果に涙を流す。


 キーロックが示したのは、黄金の髑髏聖杯に溜まったマイナスのエネルギーの量。


 それをコストとして使用した場合の、いわばガチャシミュレーターであった。


 「では、成功率を上げる方法はあるの?」

 「はい♪ こちらが用意した、この触媒をご覧下さいませ♪」


 キーロックが別のスクリーンを虚空に展開する。


 スクリーンの向こうに映るのは、大きな鼓動音を立てて脈打つ黒い心臓。


 「ドン・バンクラーの心臓を頂戴して参りました♪」


 ニヤリと口角を上げ、邪悪な笑みを浮かべるキーロック。


 バンクラーの金庫番だった彼は、保管されていたボスの心臓を密かに盗み出していた。


 「あらあら、金庫破りが好きな彼が破られちゃったのね♪ 悲しいわ♪」

 「ドンからの薫陶です、奪われた方が悪いのだと♪」


 笑い合う二人、恐怖の大王の召喚成功率は三十五パーセントに上昇していた。


 「……キーロックめ、やりやがったな?」


 海の底のような暗い雰囲気の酒場。


 岩礁で出来たバーカウンターで唸る、白スーツ姿のアンモナイトの怪人。


 ドン・バンクラーが握る手には、キーロックの犯行声明の手紙。


 「フロートシティに隠したか、ならド派手に奪い返してやるぜ!」


 偽情報を掴まされたとも知らず、酒瓶をラッパ飲みしてから壁に投げつけるドン・バンクラー。


 「ちまちま手下を使うのはやめだ、この基地ごと殴り込んでやるっ!」


 ヒーローと市民を巻き込む、大迷惑なバンクラーの心臓奪還作戦が決定した。


 「何か海が荒れてねえ? 親戚のおじさん達に何かあった?」

 「いえ、伯父がこのような粗相をするほど酔う宴会は開かれてませんね?」


 事務所のテレビに映る天気予報、急な高波の発生に立磨は義理の親戚を疑った。


 ジンリーも同じく、太平洋を管轄する親戚の龍王にテレパシーで確認を取った。


 天候管理の神の一族として、天気の異変にはまず身内を疑う立磨達。


 「向うでも確認したそうですが、自分達ではないとの事です」

 「なら次点で、悪の組織だ!」

 

 立磨が悪の組織の仕業かと考えたと同時に、スマホからアラートが鳴る!


 「ご主人様、このアラートは巨大戦警報です!」

 「マジか、行くぜ! ドラゴンシフト!」


 事務所内でドラゴンシフターに変身してから外に出撃する二人。


 「何だよ、あの巨大すぎるサザエ!」

 「噂に聞く、バンクラーの本拠とやらでしょうか?」


 次元を裂いて海上に躍り出て来たのは、巨大な黒い巻貝状の異形。


 ドラゴンシフターが叫ぶように、巨大なサザエとしか言えない物体。


 当然の如くフロートシティを守るべく、巨大ヒーローやロボ達が出撃する。


 「陽動の可能性がある、歩兵に備えよう!」

 「ええ、巨大な敵も等身大の怪人もどちらも厄介です!」


 市民にとって身近な等身大の脅威である、怪人が歩兵として来る。


 ドラゴンシフターと二号は、敵の歩兵の上陸を警戒して港へと向かった。


 予想は当たり、海上からは人間大の強盗獣。


 バンクラーの本拠地外装のサザエの突起からは、巨大強盗獣が発射。


 生身戦と巨大戦が入り乱れて展開された。


 「……ついに完成だね新しい実家、大龍宮が」


 仙郷のとある場所に聳える巨大な真紅の平城。


 御殿のような造形の建物の土台は石垣のようになっていた。


 大龍宮だいりゅうぐうと書かれた城門の門前で、疲れた様子のジンリンが呟く。


 「ちょっと和風かしら、沖縄の城っぽいのね?」


 ジンファが呟く。


 「お義兄さん、日本人だし良いんじゃない?」

 「そうじゃな、あちらのご家族も遊びに来やすいじゃろ♪」

 「和風も良いわね♪」

 

 ジンチャオがガハハと笑い、ジンファが納得する。


 「何処にでも行けて、変形してロボと合体もするお城って大変だったよ」


 開発者のジンリンは眠そうにぼやく、彼女は徹夜続きで寝たかった。


 「お疲れ様、有給使って休みなさい♪」

 「……三十年くらい有給で、ボーナスも欲しいよ」


 気のない返事をするジンリン、立磨達の所に泊まりに行こうと考えた時だった。


 「うそ、あっち大変なことになってる!」


 ジンファがスマホでニュース動画を見て、フロートシティの様子を知った。


 「何じゃこりゃ! 早速、大龍宮で出撃じゃ!」


 ジンチャオも娘のスマホを見て事態を知る。


 「タイミングが良いのか悪いのかわからないよ!」


 ジンリンも遊びに行こうとした場所の異変を知り、特急龍神をスマホで召喚する。


 「えらいこっちゃ、黄家龍王軍スクランブルじゃ!」

 「立磨君のピンチ、ヒロインとして無視できないわ!」


 ジンチャオとジンファも城の中へと走!


 二人が城の正殿に入ると、大龍宮が土台からブースターを点火し浮上した。


 「良し、俺達も金龍合神で行くぜ!」

 「ええ、小者も纏めて蹴散らしましょう!」


 ある程度上陸を目論む強盗獣達を蹴散らした、ダブルドラゴンシフター。


 自分達も巨大戦に移行だと、ロボを召喚しようとした時に通信が入った。


 「お義兄さん、皆で加勢に来たよ~♪ 褒めて~♪」

 「ロボも運んで来たぞ、皆で合体じゃ♪」

 「一家で力を合わせて戦いましょう!」

 「いや、何か空からでかい城が出た!」

 「金龍合神もあの城にいますね」


 空を雷雲が覆い、稲妻と共に大龍宮が顕現する。


 大龍宮からドラゴンシフター達へと牽引ビームを放ち吸い込んだ。


 「うお、いつの間にかコックピットの中にいる!」

 「しかも私達、太極ドラゴンシフターになってますね!」


 太極ドラゴンシフターが、金龍合神のコックピットの中で呟く。


 「申し訳ないが、こちらで操作させてもらったぞ」

 「最初から、全部合体で行くわよ♪」

 「お義兄さん達は龍宮大合神りゅうぐうだいごうじんって叫んで!」


 金龍合神のモニターに、仲間達が映る。


仲間達からの説明を受けて頷く太極ドラゴンシフター。


 「ついに来たか、龍宮大合神りゅうぐうだいごうじんっ!」

 「いきなりですが全部合体、行きますよ!」


 天からの稲妻が、敵が合体シークエンスの妨害をするのを防ぎつつ大龍宮が変形。


 正殿と城門が胴体,北殿と南殿が手足と巨大なパワーローダーとなり、金龍合神が玉座に座るように胴体部に収まる。


 特急龍神は前部と後部が分離し前部が左足、後部が右足に合体する。


 「完成、龍宮大合神りゅうぐうだいごうじんっ!」


 太極ドラゴンシフターが金龍合神のコックピット内で叫ぶ。


 金龍合神、大龍宮、特急龍神の三つが一つとなり巨大な龍の王が誕生した。



 「一家一軍いっかいちぐん黄家龍王軍こうかりゅうおうぐんの大暴れじゃ!」

 「勝ったら皆にボーナス出すわよ、頑張って♪」


 戦艦の指令所のような大龍宮のブリッジでは龍王シフターが檄を飛ばす。


 ドラゴンシフター二号に似た、クイーンシフターのスーツを身に纏ったジンファ。


 オペレーターとして働くヒョウモンダコ達ドラゴンイレギュラーズを激励する。


 仙郷へと連れ戻された彼らは、大龍宮のクルーとして原隊復帰していた。


 「連れ戻されたと思ったら、大惨事ね!」

 「出力安定、計器類問題なしです」

 「ひいいい! 陛下も姫も若旦那もと偉い人多すぎる!」


 ヒョウモンダコ、ナマズ、フグはオペレーター。


 シャコと亀は調理スタッフだ。


 「お母さんもお祖父ちゃんも気合入り過ぎだよ」


 龍宮大合神の両足となった特急龍神のコックピット。


 三号となったジンリンが疲れ気味にぼやく。


 「皆さん、お力をお借りします!」

 「お祖父様達はサポートをお願いしますね」

 「うむ、後ろはこちらに任せてそちらは存分に暴れるのじゃ♪」


 龍王シフターが、自分の席のコンソロールパネルに印鑑状のデバイスでタッチ。


 太極ドラゴンシフター達にメインの指揮権を譲渡する。


 「色々細かい事は後回し、突っ込むぜ!」

 「大火球鉄山靠だいかきゅうてつざんこう、行きます!」


 三百メートル程になった龍宮大合神が、巨大な火の玉となり周囲の敵を爆破しながら山のような巨大サザエに突進する!


 装甲をぶち抜き侵入する龍宮大合神、洞窟のような基地の中を飛び進む。


 「敵の腹の中なら、幾ら暴れても怒られないな」

 「性能をテストしましょう」


 基地の中を守る巨大強盗獣達を、まずは格闘で蹴散らす。


 「完成したばかりなのと、私達の家でもあるからあまり破損はしないでね?」


 私が過労死するからと、ドラゴンシフター三号が恨めし気に通信を入れて来る。


 「熱源反応、大物が来ます!」

 「そりゃボスがいるよな、気張って行くぜ!」


 龍宮大合神の前に巨大アンモナイトの怪物、ドン・バンクラーが現れた。


 「金蛇~っ! 地獄へ落ちろ~ぅt!」


 ドン・バンクラーの纏う巻き貝から無数の穴が開き、弾丸の雨が放たれる!


 「陰気重力結界いんきじゅりょくけっかい、発動っ!」


 龍宮大合神の周囲が黑く歪み、放たれた弾丸が粉砕され砂と化し霧散化する。


 「お返しです、陽気光子砲ようきこうしほう発射っ!」


 白き光条が龍宮大合神の額から放たれ、ドン・バンクラーの頭部に着弾し爆ぜる!


 「ぐわっ! 畜生めっ!」

 「的がでかいと当たりやすいな! 龍尾穿孔脚りゅうびせんこうきゃくっ!」


 龍宮大合神の右足の爪先、特急龍神の尾が回転しドリルと化す!


 「喰らってたまるか馬鹿野郎!」


 ドン・バンクラーも触手を振るい襲い掛かる!


 鞭のように振るわれた触手は、龍宮大合神のドリルに切り落とされた!


 「くそ! 心臓を取られてなけりゃ!」


 ドン・バンクラーが悔しがりつつ、触手を再生させる。


 「本調子じゃないのは、因果応報だな!」

 「同情はしません、そちらもそうでしょう」


 改心する気もなく悪行を重ねて来た輩に情け無用。


 ここでバンクラーを黙らせると、龍宮大合神が拳を振るう。


 「決めるぜ、七龍宝珠弾しちりゅうほうじゅだんだ!」

 「ええ、宝珠セット!」


 太極ドラゴンシフターが、コンソロールのスロットに宝珠を嵌め込む。


 龍宮大合神の前に巨大な七つの光の球が顕現する。


 「げげっ! 何だそりゃあっ!」


 ドン・バンクラーが驚く。


 「お前を倒す虹の宝珠だ、喰らえっ!」


 龍宮大合神から宝珠が射ち出され、巨大な虹色の光弾となりドンを襲う!


 龍宮大合神ごと七龍宝珠弾が炸裂し、空間内が虹色の光に包まれる。


 その日、小笠原沖に巨大な虹の柱が撃ち上がった。


 柱が消えて残るは龍宮大合神のみ、この戦いでバンクラーは壊滅状態となった。


 だが、こ勝利の影でクライゾーンが笑っていた事を参加者達は知る術がなかった。

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