最終章:第四次恐怖の大王戦争編

第54話 四度目の戦争

 「テツベンダーが倒されたか、忌々しい蛇め!」


 暗く灰色の玉座の間、クライゾーンの本拠地サッドパレス。


 髑髏の形の肘掛けの付いた紫色の玉座に座る女性が呟く。


 長い紫の髪、美人だが蝋燭のように白い肌をした細身の女性。


 喪服にも見える黒のドレス、黒い落涙の様なメイク。


 彼女の名は女王ナミダ―メ。


 クライゾーンの首領にして、ダークカルテットの一角。


 「だが奴の死で我が組織の分の怨嗟が溜まった、お父様を召喚できる♪」


 ナミダ―メは恐怖の大王の娘。


 彼女が右腕を突き出すと、虚空に巨大な黒いスクリーンが三つ浮かんだ。


 スクリーンに浮かぶ影は他の組織のボス達。


 これから、悪の組織のボス同士のリモート会議が始まる。


 「何の用だナミダ―メ?」


 スクリーンの一つに映るのは金色のイナゴの怪人。


 チョッパーの首領、キングチョッパー。


 「おうおう、どうした泣き虫女?」


 別のスクリーンには、白スーツを着たアンモナイト人間。


 バンクラーのボス、ドン・バンクラー。


 「我らを呼び出すとはどのような用件だ?」


 最後のスクリーンに姿を現したのは、黒の忍者頭巾を被った青肌の老人男性。


 凶星忍軍の首領、ノットリ・ハンゾー。


 「最近勢いづいている、神の蛇共を始末したいと思わない?」

 「当然だ、だが我らの上級幹部を倒すほどに急成長した奴らをどう倒す?」


 ナミダ―メの問いに、まず答えたのがキングチョッパー。


 「連中と同じ技術は、この間パクっただろ?」


 ドン・バンクラーも続いて口を出す。


 「然り、敵を知れば百戦危うからず」


 ノットリ・ハンゾーは慎重な姿勢。


 「一気に片を付ける手があるの、私がお父様を召喚するわ♪」


 ナミダ―メがプランを語る。


 「恐怖の大王、我らにも御せる者ではないぞ?」


 キングチョッパーがナミダ―メに問いかける。


 「制御する必要なんざねえ、勝手に暴れさせればいい」


 ドン・バンクラーが笑う。


 「然り、我らはあくまで我らの悪を貫くのみ」


 ノットリ・ハンゾーも自分の意見を答える。


 クライゾーン以外の三組織は、恐怖の大王と縁があるわけではない。


 参加者の誰かが何かをするなら、利用できる物は利用する。


 彼らはあくまでも、トップが必要な時にすり合わせをする寄合。


 仲良しグループと言うわけではないのがダークカルテットと言う集まりであった。


 「ならお好きになさい、第四次恐怖の大王戦争の開戦よ♪」


 ナミダ―メが宣言する、クライゾーン主導の悪の大作戦。


 宇宙規模の大迷惑、第四次恐怖の大王戦争が始まりを告げた。


 一方、悪の陰謀を知る由もないヒーロー側の立磨とジンリー。


 「ご主人様、ホワイトデーですよ♪」

 「用意はしてるよ、永遠の愛の意味があるマカロングラッセだ♪」

 

 登校前にジンリーにプレゼントを渡す立磨。


 「ありがとうございます、これは永久保存したくなります♪」

 「いや、きちんと食え!」


 夫婦漫才をしてから立磨は学校へ、ジンリーは仕事と別れる。


 太極ドラゴンシフターとなり、テツベンダーを撃破しても日常は進む。


 日本全国、どこもかしこもホワイトデーと言う中。


 密かに進む悪の陰謀に、気付いている者は少なかった。


 「どうぞ♪」

 「……失礼します」


 ドアを開けて理事長室に入る立磨、桃井理事長が笑顔で出迎える。


 ジンリーも理事長室にいた。


 「えっと、わけがわかりません!」

 「ご主人様を他の女性と二人きりにさせるわけには参りませんので♪」

 「いや、理事長先生だよ?」


 ジンリーにツッコむ立磨。


 「良いのです♪ 私が先にお呼びしたのですから♪」


 理事長が立磨達の漫才を見て笑う。


 「で、用件は一体?」

 「出席日数はともかくご主人様の素行と成績に、問題はないはずですが?」

 「多分そう言う問題じゃねえと思うぜ?」

 「日高君の言う通りです、お二人には占いの結果をお伝えしようと思いまして♪」


 立磨達に理事長が用件を切り出す。


 「嫌な予感しかしねえんですが?」

 「私達なら乗り越えられます♪」

 「保護者の方は素晴らしいですね♪」

 「ジンリー、ここは聞いておこう?」

 「単刀直入に言いますと、お二人は近々恐怖の大王と戦います」


 理事長が笑顔でぶっちゃけた。


 「……それ、普通は恐怖の大王の復活を阻止するとかじゃありません?」

 「ご主人様、ラスボスは大概は復活を防ごうとしても復活します」

 「頑張れば、ギリギリ春休みが取れると思いますので頑張って下さいね♪」

 「俺の春休み潰されるって、学校から宣言されたよ!」

 「ならば頑張って退治して、春休みを過ごしましょう♪」

 

 立磨は理事長から、春休み中に恐怖の大王を倒せと言外に命じられたのだった。


 「しかし、戦うにもどうしろってんだ?」

 「ええ、敵がどこに出るかとかわかりませんからね」

 「お爺さんからふんわりと聞かされたから、俺達も色々して来たけど」

 「まだまだ、ロボの最終合体とかありますからね」

 「間に合ってくれないかな?」


 事務所に帰り、ジンリーにマカロンを食わせつつ話し合う。


 恐怖の大王を倒せと言われても、どうすれば良いのか?


 「ネット検索でも、わかる情報は少ないですからね」

 「ああ、もっと詳しい資料はお偉いさんとかしか見られないはずだしな」

 「天界の方も同じですね、天軍は龍王の管轄ではないので」

 「官僚社会なのは何処も変わらずか」

 「冥界でも嫌味を言われましたが面倒です」

 「正規の手続きしてたら、戦いに間に合わないとかになる奴だな?」

 「ですね、頼れるのは身内だけとお祖父様達と相談しつつ考えて行きましょう」

 「何はともあれ、今日は平和に過ごしたいなあ?」

 「そうですね、ホワイトデーは事件を起こすメリットがないはずですから」


 天の助は待ってはおれずな状態になった立磨達。


 後が怖いので迂闊に天界には頼らずに行こうと決めた。


 ホワイトデーは例年なら平和に過ごせる、この時は誰もがそう思っていた。


 「げげ、アラートが!」

 「来やがりましたね!」


 立磨とジンリーが鳴り出したスマホを見る。


 事件が発生した時に情報が発信されるヒーロー専用のアプリが作動していた。


 「バンクラーが全国で強盗だとっ!」

 「ホワイトデーもお返しで、金品が動くと目を付けましたか!」


 立磨達は事務所を出て変身してから空を飛び、近くの現場に向かう。


 「ヒャッハ~♪ 色恋におぼれた奴らから金も命も奪え~♪」

 「シマ荒らしは死にさらせ~っ!」


 ドラゴンシフター達が向かった近くの現場は歓楽街。


 ホワイトデーに便乗したクラブやガールズバーで動く金を狙うバンクラー。


 迎え撃つの歓楽街でシノギをしていたチョッパーの怪人。


 悪の組織同士の抗争が起きていた。


 「助けてくれ~!」

 「うちの店が~っ!」


 巻き込まれた一般人がパニックになる。


 「これは、どちらの組織も人権のない敵ですね」

 「よし、壺中天フィールドに引きずり込むぞ!」


 現着したドラゴンシフター達は、敵が完全に倒していい相手だと判断する。


 チョッパーの怪人は、ブロンズ級なので人権はないと素早く確認。


 世間様の迷惑な怪人達を戦闘員諸共に異空間に引きずり込んだ。


 「ゲゲっ! こいつは一体!」

 「しまった、これは噂の金蛇共の特殊空間!」


 チョッパーのシカ―ダブロンズと、バンクラーのプラスドライバーの怪人が驚く。


 「ご名答だ悪の組織共!」

 「我らダブルドラゴンシフターが成敗します!」


 ドラゴンシフターとドラゴンシフター二号が、敵に対して高所から断罪を宣告。


 「畜生、抗争の前に奴らからだ!」


 チョッパーの怪人の方は、戦闘員達をドラゴンシフターっ地へと向かわせる。


 「甘いんだよ三下っ!」


 バンクラーのドライバークラーは、一人になったシカ―ダブロンズに襲い掛かる。


 「ふざけんなこら!」

 「ヒャッハ~!」


 悪の組織同士が共闘するとは限らない。


 蝉の怪人とプラスドライバーの怪人が格闘し合う。


 「醜い争いだな」

 「まったくですね、一気に行きましょう!」


 ドラゴンシフター達は、宝珠を変更し陰と陽の姿にフォームチェンジする。


 「握りつぶすぜ、グリップエンド!」


 ドラゴンシフター陰フォームが、戦闘員達を闇の檻に閉じ込め握りつぶす。


 「怪人は私が♪ 羽の雨を喰らいなさい、フェザーレイン!」


 ドラゴンシフター二号陽フォームが、華麗に腕を広がると無数の光の羽が射出されて怪人達に降り注ぎ爆発する!


 「ナイスだぜ二号♪」

 「ああ、推しの称賛が染みます♪」

 「取り敢えず、敵は倒したな?」

 「ええ、生命反応なしです♪」

 「じゃあ、帰ろうか♪」

 「ええ、ラブラブタイムです♪」

 「夕飯はカレーで頼む♪」

 「最高のカレーを作ります♪」


 怪人達を倒して現実空間に戻ったドラゴンシフター達。


 「奴らの後始末は警察とかだな」

 「はい、ヒーローの仕事は怪人退治♪ 被害調査などは警察、分業です♪」


 二人は空を飛び、現場を離れた。


 アラートでの出動はボランティアなので、仕事は終わりだ。


 大きな戦いが迫ろうとも、日常で起こる小さな事件にも立ち向かう。


 変身を解き、買い物をして帰宅した立磨とジンリー。


 食卓に着き、二人で作ったカレーライスで夕食だ。


 「はい、ジンリー♪ あ~んして♪」

 「あ~ん♪ おいち~~っ♪」


 立磨がジンリーに、スプーンですくったカレーライスを食べさせる。


 「では、たっくん♪ あ~ん♪」

 「その呼び方はどきっとするな、あ~ん♪」


 今度はジンリーが立磨に、スプーンでカレーライスを食べさせる。


 「美味いよ、平和の味だ♪」

 「……ああ、私悟りました♪ これが幸せ、ここが私のガンダーラ♪」

 「インドもいつか二人で行くか♪」

 「はい、向こうのナーガ族にご主人様が狙われそうですが」

 「そういや、インドにも龍がいるんだよな?」

 「ご主人様は、全世界のドラゴンからモテるのでお気を付けを♪」

 「いや、それは流石に盛り過ぎであって欲しいなあ?」


 相も変わらず夫婦漫才を繰り広げる立磨達であった。


 「……戻りましたか、キーロック?」

 「……は! 陰謀執事いんぼうしつじキーロック、ただ今帰参いたしました」


 クライゾーンの宮殿で、ナミダ―メに跪くのは執事服姿のキーロック。


 「出向ご苦労、これよりはクライゾ―ンとして我に仕えよ」

 「……仰せのままに」


 ナミダ―メが命じ、承諾するキーロック。


 決戦に向かい、時は流れ出した。

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