第50話 陰陽の力 前編

 「修行の次は会社のラボで実験ですか?」

 「不思議な空間を出ても、また不思議空間だったよ」

 「ちょっとしばらく、有給申請したいですね」

 「ああ、普通に温泉旅行とかに行きたいな」


 修行を終えた立磨とジンリーは、本社の開発室を訪れていた。


 「二人共、休みたいのは私もだよ!」


 デスクに座り仕事をしていた開発室長のジンリンが、立磨達に振り向く。


 ジンリンは、ぼさぼさの髪に疲れた表情と美少女が台無しであった。


 「ジンリンは、実務作業はロボットに任せればいいのでは?」

 「任せていても、上がる報告の対応で仕事が増えて行くんだよっ!」

 「うん、お疲れ様」

 「お義兄さん、膝枕して私を癒して~♪」

 「待ちなさいジンリン、それは私への挑戦と見なします」

 「はいはい、姉妹喧嘩しないの! ツッコミが追いつかなくなる」

 

 立磨がジンリー達を止める。


 「まあ、今後に備えて実家のお城のロボ化も進めてるよ」

  「うん、お疲れ様です」

  「まさか、母もバックルで変身するとか言いまえんよね?」


 ジンリーが気になった事を妹に尋ねる。


 「うん、お母さんにも作ってるよ? 家の方針、一家一軍だし」

 「鎌倉武士みたいだな、ありがたいが」

 「推しの為なら戦もします、ご主人様の人徳ですね♪」

 「まあ、話すならコーヒーでも飲みながら」


 ジンリンが話をしつつ動き回り、近くに置いていたコーヒーサーバーから紙コップにコーヒーを入れて立磨達に配る。


 「ありがとう♪ それで、俺達に振りたい仕事って何?」


 立磨がジンリンに改めて用件を尋ねる。


 「もしや、バックルのバージョンアップの話でしょうか?」


 ジンリーが思いついた事を呟く。


 「ああ、そっちはまだ時間が掛かるから宝珠だけ渡したくて」


 ジンリンがデスクの引き出しからジュラルミンケースを出して開けて見せた。


 自分達が作った白と黒の陰陽の宝珠をケースから摂る立磨達。


 「もしかして、今のバックルでこの宝珠を使って限界を試せと?」

 「データ取りは大事ですからね、引き受けましょう」

 「うん、相変わらずデータは自動でこっちに来るようにしてるから」

 「わかった、そっちも宜しく頼む」

 「宜しくお願いしますね」

 「うん、三号が必要な時はロボに代理で着させて出すから」

 「コピーロボットみたいなのがあるんだな」

 「分身の術の応用ですね、体の一部をコアにした物があるのでしょう」

 「そういや宝貝人間ってあったな」

 

 ジンリンとのやり取りを終える立磨達、二人は開発室を出て社員食堂へ赴く。


 「マグマを食った後だと、普通の食事が美味いな」

 「私達にはマグマはお湯を飲むのと変わらないですしね♪」


 食堂のテーブル席で向き合い、チャーハンと餃子とラーメンの定食を食う二人。


 天地自然を食うのも良いが、人間らしく食事をするのもまた楽しかった。


 「しかし、ご主人様に待ち受ける戦いが気になりますね?」

 「俺も予想がつかないが、やるしかないな生きる為に」

 「ええ、黄家一丸となってがんばりましょう♪」


 ジンリーの言葉に、今更ながら自分も黄家の一員なんだなと感じる立磨。


 「何にせよ、一人じゃないのはありがたいぜ」

 「孤独や孤立は、心を蝕みますからね」

 「悪の組織につけこまれるしな」

 「邪仙郷の跡地は、やはり何者かにごっそり遺物などが奪われたようです」

 「マジかよ? やりそうなのはバンクラーだな」

 「クライゾーンも噛んでいると言う所でしょうね」

 「ベアゴールドが邪仙のロボット使ってたし、ヤバいな」

 「敵が次にどんな手を打って来るかですね」


 食事をしながら語り合う二人。


 「今後と言えば、ホワイトデーにも注意しないとな?」

 「休みだと思っていたら、事件だったなんてありますからね」

 「お返しは何が欲しい?」

 「勿論、あなたが私と共に過ごしてくれる事です♪」

 「うん、バレンタインみたく何事もなく過ごしたいよな」

 「楽しいホワイトデーを迎える為にも、仕事ですね」

 「そうだな、何処かからオファーとかはある?」

 「スケジュール的には、ジンリンからのテスト依頼だけですね」

 「それじゃあまた、フロートシティに戻って頑張るか」

 「はい、学業に仕事に頑張りましょう♪」


 食事を終え、トレイを片付けると立磨とジンリーは帰国の途についた。


 「ふう、仮とは言えこの事務所も愛着がわいて来たな」

 「ですねえ、新事務所も楽しみですが大事に使いましょう」


 フロートシティの事務所へ戻って来た立磨達。


 さて、明日からまた学校だヒーロー活動だと思いつつリビングで寛ぐ。


 「それでは日本に戻って来た事ですし、私が腕を振るいます♪」

 「うん、ジンリーの飯は美味いから楽しみだよ♪」

 「今晩は、牛肉の塊を捌きますよ♪」


 ジンリーが作った夕食は、アメリカンサイズなステーキであった。


 「おお♪ デカイ肉は良いな食欲が燃えるぜ♪」

 「はい、私も同感です♪ 怪獣化した牛肉は良い食材ですね♪」


 立磨はジンリーと食卓で向き合い、デスクトップPC位の大きさのステーキを二人で仲良く平らげたのであった。


 肉を喰らい、自分達の中の動物性を満たして英気を養ったのであった。


 翌日の夕方、変身して街のパトロールをしていたドラゴンシフター達。


 仲間のヒョウモンダコから、怪しい船が港に入港したという聞き駆けつける。


 二人が到着した時、出航した不審船を追わせないかのように一人の怪人が立ちはだかった。


 「チョッパーの新手の幹部怪人だと!」

 「インド象でしょうか。仏像みたいな敵が出て来ましたね?」


 ドラゴンシフターと二号は、遭遇した全身が金色の象の怪人を見て呟いた。


 敵の姿は、ゾウの神様であるガネーシャ神に似た風体のマッチョな巨漢。


 「貴様らが噂の金蛇共かっ! 我はインド支部大幹部、エレファントゴールド!」


 エレファントゴールドが名乗る、チョッパーは老舗の悪の組織なだけあって世界各地に支部を作って活動していた。


 「熊の次は象か、これだから悪の組織は!」

 「新たな幹部が出て来るのは、もうお約束ですね!」

 「ベアゴールドを倒した位でいい気になるなよ? 我は奴よりも強いぞ!」


 エレファントゴールドの垂れていた鼻が起き上がり、砲塔の如くドラゴンシフター達に向けられる。


 「やばい、宝珠チェンジ緑龍フォーム! ブッシュシールド!」


 ドラゴンシフターがフォームチェンジをして緑色に変わり、地面に手を付けると瞬時に巨木を生成して自分達の盾にした。


 巨木の生成と同時に、エレファントゴールドから鼻息の空気砲が発射される。


 巨木と空気弾がぶつかり合い、互いに相殺された。


 「宝珠チェンジ、黒龍フォーム! アイスウォール!」


 続いて二号がフォームチェンジをして、今度は分厚い氷の壁を展開する。


 「甘いわっ!」


 エレファントゴールドが繰り出した掌打から、衝撃波が発せられえ氷の壁が粉砕されると同時にドラゴンシフター二号が吹き飛ばされる!


 「あぶねえっ!」


 吹き飛ばされた二号を受け止めて、後方に跳び着地するドラゴンシフター。


 「まだまだ行くぞ、ふんっ!」


 キングエレファントが足踏みをすれば地面が揺れる。


 だがその攻撃にはドラゴンシフター達は耐えた。


 「私達大地の龍は、地震攻撃などにやられません」

 「地力が強いのはわかるが、やってやれない相手じゃない!」

 「ええ、幹部らしい強さですが家のジジイの方が強いですね♪」


 相手の技を見て強さを計り、行けると判断したダブルドラゴンシフター。


 「何を小癪な! ならば貴様らの力とやらを見せて見ろ!」


 ドラゴンシフター達に怒るエレファントゴールド。


 「「壺中天こちゅうてんフィールドッ!」」


 ドラゴンシフター達が、地面に黒い穴を開けてエレファントゴールドを自分達ごと

異空間へと吸い込む。


 「ぐぬぬぅっ! 何だこの灰色と墨の世界はッ!」

 「ここがお前の死に場所だ!」

 「水墨画の風情がわからないとは哀れですね」


 灰色の空気に、墨で描かれた山河の景色と水墨画の中のような世界。


 ドラゴンシフター達が、現実世界で一般市民の生命財産に被害を出さない為に作りだした特殊空間に舞台を移しての戦闘。


 「何処であろうと我は負けぬ!」


 ドシドシとエレファントゴールドが四股を踏めば、大地が激しく揺れる。


 だが、ドラゴンシフター達はびくともしない。


 「張り手や鼻息の方が強かったぜ、そっちが鼻ならこっちは尻尾だ!」

 「ツインファンロンテイル、行きます!」


 ダブルドラゴンシフターがジャンプし、敵を左右からクレーンほどに巨大化した金色の龍の尾を振り鞭打つ!


 「ぐおおぅっ! まだまだこれしきっ! パオ~~ン!」


 二人の打撃に耐えたエレファントゴールドが、巨大な耳を翼の如く羽ばたかせてソニックブームを発生させる!


 「うおっ!」

 「どこかのアニメですか!」


 敵のソニックブーム攻撃を、こちらも耐えて着地するドラゴンシフター達。


 「くたばれ~~っ!」


 今度は自らの巨体を用いて、体当たりを仕掛けて来たエレファントゴールド。


 「良し、宝珠チェンジ陰!」


 ドラゴンシフターが、陰の宝珠を試そうと宝珠を好感してフォームチェンジ。


 黒龍フォームよりも手足や肩の鱗が、刃物の如く鋭利になり肥大化した禍々しい形状の黒いドラゴンシフターへと姿を変える。


 ドラゴンシフターいんフォームであった。


 「……ドシドシうるさい、大人しくしろ」


 迫りくる敵に向け、五指を開いて右掌を突き出すドラゴンシフター。


 爪も指も鋭利な刃物に変化したその手から、漆黒の砲弾が発射される。


 闇の砲弾の直撃を受けたエレファントゴールド、その巨体を闇で出来た檻が取り囲み動きを封じる。


 「ぐぬぬっ! う、動けぬっ!」


 動きを封じられて呻くエレファントゴールド。


 「……これが、陰の宝珠の力?」


 二号は、愛するパートナーから恐怖を感じた。


 絶対に離れたくない相手なのに、近づきがたい陰気に体が止まった。


 「これで終わりだ、グリップエンド」


 ドラゴンシフターが突き出した右手を握ると、敵を閉じ込めた闇の檻が瞬時に爆縮しエレファントゴールドを爆散させると闇も消滅した。


 「……気持ち悪い、どんどん気が滅入って来てっ!」

 「……え? ご、ご主人様っ!」


 倒れ込んだドラゴンシフターを動けるようになった二号が受け止めに行く。


 二号が受け止めたと同時に、パリンとガラスが砕ける音がしてドラゴンシフターの変身が解除された。


 「えっ! ご主人様のバックルも壊れた?」


 意識を失った立磨を抱えつつ、二号は陰の宝珠と割れた変身バックルを回収した。


 「……これは、調査の為にも事務所よりも本社に帰った方が良いですね」


 二号は、そう呟くと立磨と共に現実空間へと帰還するのであった。

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