第47話 バレンタイン防衛戦 後編
「大丈夫か、ジンリー?」
「……はい、何とか起き上がれる位には」
「リンちゃんが来てくれて助かったけど、謎が多すぎるな?」
戦闘後、テーブル席で寝ていたジンリーが目覚めたので気遣う立磨。
さてどうしようかと立磨が食堂車の中を見回してみると、カウンターの給仕ロボが立磨に向かって語り出した。
「おにぎりですがご用意いたしました、まずは体力の回復を」
「おお、ありがとう♪ 君の名前は?」
「私はスー、この四番列車担当の管理ロボです」
「そうか、これから宜しく♪」
「はい、我々もお二人をサポートいたします」
球体型の頭部の側面にツインテールが付いた、準人型のロボットが名乗る。
立磨はカウンターに向かいスーからおにぎりの載った皿を受け取り、ジンリーの元へと向かうと皿から一つおにぎりを手に取り彼女へと差し出す。
ジンリーは彼からおにぎりを受け取ると、一気に平らげて微笑む。
「ご主人様てから私への愛が伝わって、誠に美味です♪」
「喜んでくれて何よりだよ、俺も食おう♪」
「では次は私の手でどうぞ♪」
「あ~ん♪」
今度はジンリーがおにぎりを手に取り、立磨に食べさせる。
「イチャラブ指数の上昇を確認、ジンリー様のみ回復率が急上昇」
スーが謎の数値を計測した。
立磨とジンリーがおにぎりを食べさせ合う中、外から列車の連結音が鳴り響く。
前列の車両のドアが開き、ドラゴンシフター三号が食堂車に入って来る。
「お疲れ様、二人とも無事でよかった♪」
「……えっと、リンちゃんが変身してるのか?」
「ええ、妹の気配が感じられます」
立磨とジンリーが目の前にいる三号を見ると、三号の全身が白く発光する。
「いや~♪ 間に合って良かったよ、様子見たらピンチになってたし」
黄色のツナギに、白い工事用ヘルメットを被った姿のジンリンが微笑む。
「ありがとうございます、助かりました」
「ああ、リンちゃんはありがとう♪ しかし凄いなこの列車とか?」
「詳しい解説とかは長くなるから後でね、ひとまず二人を事務所まで送るから」
立磨達が礼を言うと、変身を解いたジンリンは欠伸をしながら応じる。
「マスターは、仮眠のお時間です」
「ああ、リンちゃんはおやすみ」
「無茶をさせてごめんなさい」
立磨達が後列の車両に向かうジンリンを見送る。
「そっちも、ご飯食べて回復させといてね? おやすみ」
ジンリンも眠そうに、彼らの声に応じて歩いて移動して行った。
「後はオート進行で、お二人を現世まで送迎をいたします」
現実空間の事務所前まで三号により送り届けられた二人は、虚空に穴を開けて走り去る特急龍神を見送った。
「取り敢えず、飯食ってインターバルだな?」
「はい、今度は不覚は取りません!」
「知り合い達も各地で頑張ってるしな」
「ですが、腹が減っては戦はできませんのでまずは料理に腕を振るいます♪」
「ああ、ガッツリ食って燃料補給しよう♪」
「はい、食は力ですからね♪」
事務所二階の住居に入った二人、手洗いなどの身支度を素早く済ませる。
ジンリンが、居間の奥にあるキッチンへと向かい、ガス台の下の棚から調理器具。
壁側に置いた銀の冷蔵庫から鶏肉などの食材を取り出して、シンクで食材の洗浄や下拵えを済ませるとご飯と水の入った鍋に入れてコンロに置く。
「はしたないですが、一気に行きます」
ジンリーは口から火を噴いて黒の土鍋を加熱した。
「鶏玉おじやです、いただきましょう♪」
料理ができると居間の食卓に座る立磨の元に鍋を持ち運んで食卓に置き、彼と向き合って座る。
「すげえ調理法だな、いただきます」
「愛情込めて作りました、ささどうぞ♪」
ジンリーが鍋を開け、おじやをお玉で掬って丼に盛り付けて立磨に差し出す。
「うん、美味いな♪」
「私が作りましたから♪」
仲睦まじく食事を摂り英気を養う二人、食後の後片付けは二人で素早く行う。
食事が終われば、一階の事務所でメールチェックなど再出撃の前の準備。
「運が良いですね、工場から修理完了の連絡が届いております♪」
「うん、今度工場の人達に差し入れとかしないとな」
「整備に開発にと、色々と無茶して貰ってますからね」
立磨がジンリーの横に並び、彼女のデスクのPCのモニターを見ながら語る。
次に見るのは、ヒーロー連合の作ったこのバレンタインの防衛戦の情報サイトだ。
「全国的にヒーロー側が優勢だな、そうでないと市民が困るが」
「お友達の皆様も、各地域で活躍されているようですね♪」
「委員長は岩手で、虎と垣花さんは沖縄で徹と春原さんが北海道か?」
各地に出張して行った学友達の武運を祈る立磨。
「よし、俺達も頑張ろう♪」
「ええ、再出撃ですね♪」
立磨とジンリーは、バックルを取り出して装着してドラゴンシフターに変身する。
変身してから事務所を出た二人、跳躍して空中で龍形態になり空を飛び索敵する。
「大体どの地域も、ヒーローが対応できているな?」
「ええ、ですが発電所の当たりに不穏な邪気を感じますね?」
「……発電所か? そこが本命臭いな、急ごう!」
ドラゴンシフターと二号は、金色の龍の姿で島の発電所のある方へと飛んで行く。
人型に戻り発電所の入り口前に着地するドラゴンシフター達。
「出たな、蛇共! 今度こそぶっ殺してやる!」
周囲に響くは、野太い男性の声、ドラゴンシフター達が声の方へと顔を向ける。
ベアゴールドが、デーモマスクで強化した戦闘員達を引き連れて現れた。
「上等だ熊野郎っ! 今度は負けねえっ!」
「こちらもパワーアップはしているのです!」
ドラゴンシフター達が、ファンロンセイバーを取り出して構える。
「洒落臭えっ! 行くぜっ!」
ベアゴールドも斧を手に取り、ドラゴンシフター達へと突進して来た。
「壺中天フィールド作動っ!」
「こちらの縄張りで決戦です!」
敵が全て効果範囲に入った所で、異空間に取り込むドラゴンシフター達。
灰色の空、周囲の山河の景色は墨で描かれた水墨画のような世界。
戦闘員達を、新武器で切り捨てて行き残るはベアゴールド一体にまで敵の戦力を削るドラゴンシフター達。
「オラッ! 俺はそこらの雑魚みたいにやられねえぞ!」
「うるせえ、必ず倒すっ!」
「あの時とは違うのですよ!」
斧と刀、お互いに真っ向から電撃を纏った武器を振るいガンガンと打ち合うドラゴンシフター達とベアゴールド。
ドラゴンシフターと二号は、片方が防御で片方が攻撃と役割を分担して交互にベアゴールドを相手に戦いダメージを与えて行く。
「ちい、こうなりゃ巨大戦だ覚悟しろ!」
ベアゴールドが飛び退いて距離を取り懐から黒い札を取り出す。
「望む所だ、行くぜ二号っ!」
「ええ、行きましょうっ!」
ドラゴンシフター達もロボを召喚する。
ベアゴールドが呼び出して乗り込んだのは胴体が熊の頭の漆黒の巨大ロボット。
ドラゴンシフター達は、龍の兜を被った中華武将風のロボット金龍符合神。
両者向き合い、仕切り直しの大一番。
「くたばれ~っ!」
「負けてたまるか~っ!」
ロボに乗っても真っ向勝負、力こそパワーなベアゴールドの邪仙力士と金龍合神がぶつかり合い互いの機体が火花を散らして両者共に吹き飛ぶ。
「がふっ! あっちも固いな」
「チョッパーの得意分野ではない巨大戦でも、やりますねえ」
『二人共、お金かけて突貫修理したのに無茶しないでっ!』
巨大戦では一日の長があるドラゴンシフター達。
機体は飛ばされても、倒れる事はなかった。
今度はこっちから攻める番だと言う時に金龍合神の機内のモニターに、ドラゴンシフター三号が映り通信を入れて来る。
「あん? 今度は何が来るってんだ?」
ベアゴールドがふらつく頭で機体を立ち上がらせて、空を見上げる。
虚空に巨大な黒いトンネルが開き、中から赤き龍の列車が現れて体当たりでベアゴールドの機体を轢いて飛ばすと金龍合神の元にやって来る。
「二人共、もっとロボを大事にしなさい! 合体シークエンス強制作動っ!」
特急龍神の操縦席、ドラゴンシフター三号が叫び正面にあるコンソロールのレバーを押すと特急龍神の車両が分離する。
「うおっ! こっちもの機体が急に飛び上がって足が変形し出したっ!」
「妹のロボとこちらと合体するようですね、拒否できません!」
金龍合神は飛翔し、両足が展開し差込口が開く。
そこから、長靴を履くように左足が特急龍神の前半部分の龍の頭と車両と合体。
右足が特急龍神の後ろ半分車両と、それぞれが合体する。
「クソ、奴ら新顔と合体しやがったな!」
特急龍神に吹き飛ばされ、倒れていたベアゴールドの邪仙力士が立ち上がり唸る。
ドラゴンシフター側も、合体して列車を履いた状態になり敵と向き合う。
「はい、
「うお、後ろから来たっ!」
「これが新合体ですか?」
二人がいるコックピットに、ドラゴンシフター三号の操縦席が移動して来る。
「はいはい、漫才は良いから新機能使って行くよ! ビームレールキック!」
三号が二人を黙らせて操作をすれば、特急合神の右足から金色の光のレールがベアゴールドの機体に向けて放たれ敵の足へと突き刺さる。
「ぐおっ! 何だこいつはっ!」
敵が足に刺さった光のレールを外そうともがく中。
特急合神が猛ダッシュし、左足の龍頭が炎を吐きながらの廻し蹴りを叩き込んだ!
蹴り飛ばされ、炎に包まれながら転げ回るもまだ生きているベアゴールドの機体。
「マジか、仕留めきれなかったか!」
「ですが、結構ダメージは与えられたはず!」
「うん、あっちのパイロットはわからないけれど機体なら次で確実に行ける!」
「よっし、じゃあ止めだ龍牙雷鉞は?」
「ごめん、龍牙雷鉞は作り直してるからこれで決めて!」
三号が機内のモニターに新技を表示する。
「
「レールウェイパンチだよ♪」
「打ち貫きましょう!」
「よっし、決めるぜレールウェイパンチ!」
最後はドラゴンシフターが機体のレバーを操作する。
今度は、特急合神の両足から光のレールが発射されその上を突進する。
「畜生、かかってこいやっ!」
機体の火を消して、熊の如く突進して飛び掛かるベアゴールドの機体。
特急合神の方が早く、金色に輝く拳で敵の頭部を撃ち抜き爆散させたっ!
「畜生め~っ!」
大爆発の中、断末魔の叫びを上げながらベアゴールドは光の玉となって消滅したのであった。
爆発を背に合掌して残心を取る特急合神。
ドラゴンシフター達のバレンタイン防衛戦は、彼らの勝利で幕を閉じたのだった。
「ふう、何とか勝てたぜ」
「お疲れ様でした♪」
「お義兄さん、お疲れ様♪」
戦いを終えてロボを後方へと送還した三人。
現実世界に戻り事務所へと帰宅していた。
「ジンリン? 私達はこれからバレンタインを過ごす予定なのですが?」
「うん、二人の漫才を見てから帰るよ♪」
「いや、漫才とかっしてないからな?」
「ちょっと待った! 私も立磨君にチョコを上げるわ♪」
今度はジンファが居間に転移して来る。
「うん、人生で一番騒がしいバレンタインだぜ」
戦いが終わったが、騒がしさからは逃れられない立磨であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます