第46話 バレンタイン防衛戦 前編

 二月十四日、バレンタインデー。


 中国では西方情人節と言われる恋人の日、七夕も七夕情人節と言う恋人の日だ。


 日本では女性が男性に本命や義理のチョコを贈る日。


 中華圏では男性が、女性にプレゼントを贈る恋人達の日で義理チョコがない。


 日本全国が悲喜こもごもする、愛と金が飛び交う日であるバレンタイン。


 当然ながら、そんな日をは悪の組織も派手に暴れるに決まっている。


 「殺せ、奪え! 俺達こそが愛を弄ぶ馬鹿共をぶち殺す正義の使者だ!」

 「非リア充の味方、チョッパー参上!」

 「モテタイヨ~~~~ッ!」

 「バレンタイン、殺すべし!」


 好き勝手な事を叫び、悪事を働くダークカルテットの各組織の怪人や戦闘員達。


 悲しいかな、奴らの言う事にも一理はあった。


 奴らの行動の成功を願い、支持する非リア充な人達もいた。


 だがしかし、一理があろうとも悪の言葉と野望に抗う者達がいた。


 「お前らが悪さをするから、非リアな俺達の肩身が狭いんじゃ!」

 「邪悪な力で愛は奪わせない!」

 「反抗期の娘がチョコをくれる、パパ頑張るぞ! デヤッ!」

 「女の子にとっても大事な日、私のバレンタインライブの邪魔はさせない!」

 

 魔闘少女が、仮面の戦士が、チームヒーローが、宇宙の巨人が立ち向かう。


 リア充も非リアも関係なく、バレンタインの平和を守る為に立ち上がる。


 それがヒーロー!


 各地でぶつかり合うヒーローと悪の組織。


 ゲームのレイドバトルイベントの如く、この日は全国各地でヒーロー対悪の組織によるバレンタインの戦いの火蓋が切って落とされた。


 「やっぱり、バレンタインデーに悪さしに来やがったか!」

 「何故かホワイトデーには悪さをしないんですね、悪の組織って」

 「バレンタイン程には、盛り上がりがないから旨味がないんだろう!」


 嫌な予感は、当たるもの。


 ドラゴンシフターとドラゴンシフター二号のヒーローコンビも、バレンタインを守る戦いに朝から召集されていた。


 「まあ、お金が入るし武器のテストもできるし平和も守れるから頑張るぜ!」

 「恋は世界平和の後ですね♪ ファンロンセイバーを試しましょう!」


 現在の自分達のホームから近い、港湾地区で戦うダブルドラゴンシフター。


 「ヒャッハ~♪ 積み荷のチョコレートはいただきだ~っ♪」

 「「クラ~~~ッ♪」」

 

 島へ物資を運びに港に停泊した、大量のコンテナを積んだ貨物船。


 船からコンテナを下ろしてコンテナヤードへ搬出している最中に、十人ほどの戦闘員を引き連れた頭が黄色のクレーン車と言うバンクラーの怪人。


 その名も、クレーンクラーが現れた。


 「そうはさせるかよ!」

 「迷惑千万、船には他の品もあるんです!」


 龍の姿で空から現れ、人型になり着地するダブルドラゴンシフター。


 「出たな、賞金首の金蛇共っ!」


 ダークカルテットでは、ドラゴンシフター達を金蛇きんへびと呼んでいる。


 「またか、人を海賊漫画の賞金首みたいに言いやがって!」

 「ええ、無知蒙昧な輩ですね」


 二人は、虚空からファンロンセイバーを召喚。


 敵に呆れて溜息を吐きつつ、ドラゴンシフター達は動き出す。


 「うるせえ、お前らなんざかば焼きだ! かかれ~っ!」

 「「クラ~~ッ!」」


 バンクラーにしては頭が切れるのか、まずは手下をけしかけるクレーンクラー。


 「上等だ、新武器の力を見せてやる!」

 「ええ、まずはノーマルで行きましょう!」


 ドラゴンシフター達が手に持ったファンロンセイバーを上段に構えて、刀身に気を込めればファンロンセイバーの真紅の刃が金色の光に包まれた。


 ドラゴンシフター達は、襲い来るバンクラーの戦闘員達に向けて刃を振り下ろす。


 二人が振り下ろした金色の刃から光り輝く衝撃波が飛び、戦闘員達を両断した!


 「ちい、やはり戦闘員は盾にも時間稼ぎにもならねえ!」


 クレーンクラーは何処にあるのかわからない口で舌打ちし、両でをクレーンに変えて鞭の如く振るって来た!


 「行くぜ、凍らせるぞ二号!」

 「了解です! 黒龍宝珠セット!」


 ドラゴンシフター達は、素早い動きでファンロンセイバーのナックルガードに黒い宝珠をセットし武器を構えて上段受けでガードする。


 ピキピキと音を立てて、クレーンクラーの両腕が変化したクレーンは凍り付いてファンロンセイバーとくっつけられてしまった。


 「ちくしょう! 俺の腕が凍っただと?」

 「凍るだけで済むと思うなよ!」

 「相手の手を取りコキッと捻る、基本技ですね♪」

 「ギャ~~ッ! お、俺の腕がっ!」


 ドラゴンシフター達が武器を捻り下ろせば、クレーンクラーの体は倒れて凍った両腕が折れて砕ける。


 「さて、止めと行くか?」

 「ええ、龍牙大刀と合体させて止めです♪」


 ドラゴンシフター達は虚空から、薙刀に似た大刀と言う武器を取り出して先端を折り曲げて新たにファンロンセイバーを大刀の先に取り付けた。


 「「完成、龍牙大戟りゅうがだいげきっ!」」


 どこからか銅鑼の音が鳴り響き、ドラゴンシフター達は新たな武器を完成させる。


 それは先端の刃が、カタカナのトの字の如く並んだ複合の長柄の武器。


 「畜生っ、このままやられてたまるかっ!」


 腕を無くしたクレーンクラーが、最後の悪あがきだと自身をクレーン車の姿に変形させて突進してドラゴンシフターの二人へと襲い掛かる。


 「被害は出させない、てりゃ!」

 「では、私が足止めを!」


 ドラゴンシフターが跳躍し、戟を振るいクレーンクラ―が振り回すクレーンをバシバシ叩いて押さえつける。


 「霹靂一閃へきれきいっせんっ!」


 二号の方は、劇の先端に電撃を纏わせながら突進して突きを繰り出す。


 ドラゴンシフター二号の電光石火の一撃で、心臓部を貫かれたクレーンクラーは小さな爆発を起こして絶命した。


 「ナイス、被害ゼロでフィニッシュだ♪」

 「ありがとうございます、後始末をしておきましょう」

 「そうだな、港の人達の仕事の邪魔になる」


 バンクラーなどの人間が材料でない怪人の死体は、産廃処理業者に売れる。


 ドラゴンシフター達が、クレーンクラーの死体を運ぼうと近づいた時であった。


 「そうはさせません、リサイクルさせていただきます!」


 突如虚空から白スーツの怪人が出現する。


 「あいつは、キーロック!」

 「バンクラーの幹部ですね!」

 「……ふん、忌々しい蛇が二匹! 貴様達の相手はそいつだ、甦れっ!」


 キーロックが、懐から黒い呪符を取り出し怪人の死体へと投げつける。


 「させるかよ!」

 「あれは邪仙の札!」


 投げつけられた札を妨害しようとするドラゴンシフター達だが、呪符は意志を持つかのように逃げ回りクレーンクラーの死体に張り付くと吸収された。


 「ざまあみろ、巨大化を邪魔されないのはこちらも同じだ!」


 キーロックが更に懐から法鈴ほうりんと呼ばれる黒い鐘を取り出す。


 「邪仙から奪った技術を見よ、起きろキョンシー強盗獣っ!」


 キーロックが法鈴を鳴らせば、倒したクレーンクラーの死体が黒く変色し巨大化して甦った!


 「マジか、畜生!」

 「金龍合神はまだ修理中です!」

 「なら、ロボ無しで頑張るしかねえ!」


 ドラゴンシフター達は、龍の形態に変化して港を守るべく立ち向かう。


 キーロックは、どさくさに紛れて消えて行った。


 「行くぜ、壺中天フィールドだ!」

 「はい、被害は出させません!」


 ドラゴンシフター達が嘶き、自分達と巨大化して甦ったクレーンクラーを異空間へと引きずり込む。


 「よし、ここならでかい龍の姿になっても怒られない!」

 「はい、決めましょう♪」


 水墨画のような世界。

 

 龍形態のドラゴンシフター達が巨大化して、仙術によりキョンシー化した巨大なクレーンクラーと対決する。


 振るわれる敵の頭のクレーンを、巨大な龍の尻尾で迎え討つ!


 二号も再生した敵の腕のクレーン攻撃を、相手の動きに合わせて腕に体全体を巻き付けて締め潰すと特性を生かした攻撃で迎え撃つ。


 「……くっ、一度死んだだけあってしぶといな!」

 「相手の邪悪な陰気で、気分も体調も気持ち悪くっ!」

 「ちょ、くそっ! こっちも気持ち悪いっ!」


 クレーンクラーの全身から吐き出された黒煙が、ドラゴンシフター達を苦しめる。


 「え、エネルギーが吸い取られますっ!」

 「うおっ! しっかりしろっ!」


 力を吸い取られ落下しだした二号を空中で絡みつくように受け止めて自分も落下するドラゴンシフター。


 何とか地上に着陸した二人は、変身が解けてしまった。


 「ヤバイ、このままじゃこの空間も俺達ももたない」

 「……申し訳ございません」

 「大丈夫だ、まだあきらめる時じゃない」


 立磨は守ったジンリーを抱いたまま、必死に起き上がる。


 窮地に陥った二人の変身バックルから、列車の到着音が鳴り出した。


 『間も無く、救援♪ 特急龍神とっきゅうりゅうじんが参りま~す♪』

 「な? リンちゃんの声?」

 「……流石、我が妹ですね」


 聞こえて来たジンリンのアナウンスに驚く立磨と、妙に納得したジンリー。


 空間に巨大なトンネル状の穴が開き、光のレールが穴から射出されて立磨達を襲って来た敵のクレーン攻撃を弾き返す!


 穴から響くは電子音的な龍の嘶き、飛び出すは真紅の龍の頭を持つ列車っ!


 真紅の龍の列車が尾になっている後列車両を鞭の如く振り、クレーンクラーを張り倒すと立磨達の傍に降り立ち停車した。


 「よし、乗るぜ!」

 「お願いいたします」


 ジンリーをお姫様抱っこした立磨が、気合いを出して走り列車の中に乗り込んだ。


 「お待ちしておりました、こちらは食堂車です♪ まずはこちらの霊薬を♪」


 ラウンジのようなカウンターやテーブル席のある車内。


 カウンターで作業していた、ジンリンがモデルらしいツインテール状のパーツが特徴の黄色と銀のカラーの給仕ロボからドリンクを立磨は受け取る。


 グラスの霊薬を一気に呷った立磨は、ためらいもなくジンリーへ口移しで霊薬を流し込んだ。


 給仕ロボは空いたグラスに再度霊薬を注ぐと、今度は立磨が飲み干す。


 『お義兄さん達、大丈夫? 食堂車は切り離すから、ちょっと休んでてね?』

 「悪い、あいつは任せた」

 「ああ、私幸せ過ぎます♪」

 『はいはい、ラブシーンは良いからちょっと待ってて』


 音が鳴り、立磨達が乗る列車は切り離された。


 「外の様子はモニターでご覧下さい」


 給仕ロボが壁のスイッチを押すと、車内の天井からモニターがおりてくる。


 食堂車を切り離した列車が、今度は個々に動き出す。


 先頭車両の龍の頭が胴体となり、残りの列車が左右に分かれて手足となって立ち上がれば胴体から人型のロボの頭が出てくる。


 「完成、特急龍神とっきゅうりゅうじんっ!」


 操縦システムも列車に似たレバー操作のコックピットで叫ぶのは、金の龍頭の胴丸を纏ったロボっぽい黄色のヒーロースーツの戦士。


 フルフェイスのマスクに付いたツインテール状のパーツが、装着者のこだわりを現していた。


 「ドラゴンシフター三号、巨大戦からデビューするよ♪」


 ジンリンの声で語るドラゴンシフター三号。


 特急龍神がクレーンクラーと対峙すれば、敵は頭のクレーンで襲い掛かる。


 「ハイヤッ! 特急鉄山靠とっきゅてつざんこうっ!」


 両腕で敵の攻撃を捌き、体当たりを喰らわせる特急龍神。


 「とっとと成仏しなさい、龍神列車砲りゅじんれっしゃほう発射!」


 特急龍神の胴体の龍の頭が口を開ければ、舌の代わりに砲塔が飛び出す。


 砲塔から太陽の如き巨大な火の玉が発射されれば、クレーンクラーの巨体を包み込み消し去る。


 「取り敢えず、初勝利♪」


 火の玉が消え、敵の消滅を確認してから操縦席でVサインをする三号。


 新たな味方の登場で、何とかバレンタインの前半を乗り切った立磨達であった。

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