第44話 ドラゴンシフター 怒りの巨大戦

 「来週はバレンタインだな♪」

 「ああ、どこもかしこもチョコレートが目立って来てるな」


 学校の教室で、立磨と委員長こと飯盛鋼ノ助が語り合う。


 「女子達もウキウキっしょ♪」

 「お返しも考えないとな」


 虎吉と徹も立磨達の会話に入って来る。


 「何か、クラスに笑顔が溢れてるな♪」


 教室内の明るい空気に立磨も笑顔になる。


 「あ、日高君♪ おはよう♪」


 立磨に声をかけて来たのは、温和そうな顔の黒髪天然パーマの少年だった。


 「ああ、おはよう芽吹君めぶきくん♪」


 立磨が天パ少年、芽吹伸長めぶき・のぶながに挨拶をする。


 「あ、めぶきっちだ♪ おはようっしょ♪」

 「おはよう、虎君♪ 皆もおはよう♪」

 「おはようさん♪」

 「ああ、おはよう♪」


 伸長が虎吉や皆に挨拶をする、学闘祭での負傷した彼も復帰してからは教室で立磨達と交流するようになっていた。


 立磨は久しぶりに来た学校で、普通の学生のように友人達とバレンタインの話題で雑談を楽しんでいた。


 立磨が学校生活を楽しんでいるのと同じ時。


 何処とも知れぬ場所にある、闇に包まれた高級中華料理店のような場所。


 いるのは二人の人物、どちらも世間では悪の組織に所属する人間だ。


 一人は着ている服は白の高級スーツ、耳に付けた金の錠前。


 吸血鬼のような青白い肌に、紫の髪をオールバックに纏めた眼鏡の美青年。


 目の色は黄色、口角を上げれば牙が見える怪人物。


 彼の名はキーロック、バンクラーの幹部だ。


 キーロックが赤い丸テーブルに座り対面する相手は、邪仙の機甲真人。


 黒い中華風の着物を着た、紫の肌に真紅の瞳の老人。


 「あなたが機甲真人? ロボ作りの名人と噂の?」

 「左様、貴殿と我が邪仙力士に関する商売がしたくてお招きいたした♪」

 「ええ、こちらも呼ばれたからにはただでは帰れませんのでお互いにとって良い商談になれるようにお話ししましょうか?」

 「ああ、悪いようにはせんよ♪」


 悪党同士が微笑み合う、そこに信頼などあるわけがない。


 お互いが虚空から機甲真人は巻物を、キーロックはタブレットPCを出現させる。


 「古風なデバイスをお使いで?」

 「見た目はな、其方や俗人共が使うPCと使い方は変わらんよ」


 機甲真人が巻物を開けば、ホログラフのように映像が浮かび上がる。


 浮かんだ映像を機甲真人がフリック操作のように指でなぞれば、デジタルスクリーンのような画面が浮かび上がりグラフなどを映し出す。


 「ほう、これは失礼♪ もしやネットに接続も?」

 「できるよ、どの回線よりも早くな」

 「その巻物の技術も、興味が出てきました♪」

 「まあ、些事はおいておいておこう売りたいのはこれでな?」


 機甲真人がホログラフをフリックして、ロボットの映像を見せる。


 「どことなく、ドラゴンシフターのロボットに似てますねえ?」

 「当然じゃ、あの龍共も仙術を用いておる以上こちらがコピーできぬわけがない」

 「著作権や肖像権など権利無視で遠慮なく奪う、素晴らしい♪」

 「素材も連中から奪っておるから、性能も期待していいぞ♪」


 機甲真人が見せた映像、ベースはツインアイの黒の人型のスーパーロボット。


 頭に白い龍の骨を被り、双肩に白骨の龍の爪と黒いロボが龍の白骨を身に纏ったデザインであった。


 「ほうほう、良いですねえ♪」

 「であろう、凡人共のゲームのように龍共なぞ狩猟の獲物よ♪」

 「ひとかりして装備に加工ですか♪」

 「メイン武装は龍の骨の槍じゃ♪」

 「気に入りました、買わせていただきますお幾らですか?」

 「ほう、強盗というのは買い物をするのか?」

 「勿論です、強盗団とはいえ仕事道具は買いますよ♪」

 「では、デーモニウムを五百kgでいただこうかのう♪」

 「かしこまりました、後日振り込ませていただきます」

 「こちらも支払いを確認次第、龍骸魔りゅうがいまを納品させていただく♪」

 「楽しみにお待ちしております♪」


 商談の成立した、キーロックと機甲真人は互いに握手をすると姿を消した。


 節分で集められた陰気を元に生み出された悪の巨大ロボット。


 邪仙力士龍骸魔じゃせんりきし・りゅうがいまの魔の手が平和な現世に迫っていた。


 「ジンリーッ! 何があった?」


 事務所に帰宅した立磨が見たのは、バシバシと一人で武術の型を行うジンリーの姿であった。


 「……ご主人様、戦の予定が入りました」

 「わかった、敵は何をした?」

 「当家の墓荒らしです、父の遺骨が奪われました!」

 「絶対に許さねえっ!」


 その言葉は立磨の逆鱗も刺激した、立磨の戦闘モードのスイッチが入ったのを確認したジンリーがPCを操作して画像を見せる。


 「黒社会に潜入したエージェントが調べて来た、邪仙力士のカタログデータです」

 「ロボット販売のも手を出しやがったか、この骨格は間違いないな」

 「まさか、墓を荒らされ復元されて素材化されるとは侮辱の極みです!」

 「生きてる時に会いたかったよ」


 立磨達も龍骸魔の画像を見て怒りを燃やす、黒いロボットが纏う龍の白骨。


 立磨は白骨を見ただけで、ジンリーの身内だと理解し存命中の対面が叶わなかった義父に当たる人だと確信した。


 「社長達は何て言っている?」

 「完全に消滅させよと、父の魂魄は母が取り込んでいるので遠慮は無用だと」

 「わかった、探し出して悪用される前に供養しよう!」

 「ええ、報いを受けさせましょう!」


 立磨とジンリーは抱き合った、二人の想いは一緒だ。


 『お姉ちゃん達、邪仙達のアジトの空間が特定できたよ!』


 事務所のPCにジンリンから通信が入る。


 「ありがとうリンちゃん、俺達もカチコミに行くぜ!」

 「流石です、私達も直ちに襲撃に合流します!」

 『金龍合神に自動で邪仙郷じゃせんきょうへ行くように設定したから!』

 「おう、リンちゃん達は本社を頼むぜ」

 『ごめんね、お母さんと私も行きたいけれどお義兄さん達の仕事があるから』

 「支援も大事な役目です、あなたと母には苦労を掛けます」

 『お祖父ちゃんや親戚のおじさん達が代わりに援護してくれるから頑張ってね』


 本社のジンリンとやり取りを終えると、立磨達は変身して外へ出る。


 事務所の真上に来ていた、金龍合神に牽引ビームで吸い込まれたダブルドラゴンシフターはロボに乗って空に空いた穴へと飛び込んだ。


 宇宙空間にも似た黒い次元の狭間。


 怪獣軍団と言う言葉が似合う、虹の七色に加えて白黒の九色の龍達の軍勢に合流した金龍合神。


 出た先は、赤黒い空の古代の中国の都市であった。


 待ち受けていたのは、邪仙達が乗り込む異形の人に似た巨大ロボットの群れ。


 そして龍の白骨を纏いし黒きロボット、龍骸魔。


 「仁義外れの外道共、絶対に許さねえ!」

 「あの骨は私達が、皆様は他の邪仙達を!」


 金龍合神の中から叫ぶ、ドラゴンシフターとドラゴンシフター二号。


 『くっくっく、素材共が来よったな♪ 貴様らも狩ってくれるわい♪』

 「お前が機甲真人か、逆鱗げきりんに来たぜ!」

 「報いを受けなさい!」


 自分達に通信をして来た、龍骸魔に乗る機甲真人に吠えるドラゴンシフター達。


 ハンター気取りの邪仙ロボ軍団と、金龍合神達の黄家龍王軍こうけりゅうおうぐんが激突する!


 龍達は自然の化身らしく、嵐雨や雷に吹雪や火炎と操り爪牙や尾と全身を武器に猛威を振るう。


 「他人様の墓を荒らし、死者を凌辱する外道は許さねえ!」

 「父の骸を弄んだ罪、万死に値しますっ!」


 金龍合神も龍牙雷鉞を振るい、龍骸魔も尾骨で出来た白い巨大な槍で打ち合う。


 「ヒャッヒャ♪ 試運転は楽しいのう♪ こちらの槍は手だけではないぞ♪」


 龍骸魔のコックピットで、子供のように無邪気に笑う邪悪な怪物ジジイ。


 龍骸魔の胸部を覆う龍の肋骨が開き、槍となって伸び金龍合神へと襲い掛かる。


 「お父様の骨を返せっ!」

 「怒り爆発だ!」


 普段のクールな態度と打って変わって、感情を爆発させたドラゴンシフター二号の操作で金龍合神の全身から稲妻が放たれて龍骸魔の肋骨の槍を打ち砕く。


 ドラゴンシフター達が暴れる中、龍達も暴れる。


 「我が息子の死を辱めた者達が住まう汚れた大地よ、我が怒りを受けよ!」


 ジンリーの祖父、金朝が変じた黄龍が吠えれば地震が発生し邪仙郷の大地が激動し街が崩れていく。


 周囲が燃え上がり大地が割れると大災害の中。


 金龍合神と龍骸魔の戦いは続いていた。


 「ジンリーの親父さんの骨、手強いな!」

 「ええ、ですが木っ端みじんに粉砕しましょう!」

 「ああ、龍頭鉄拳弾っ!」


 骨とはいえ、腐っても相手も龍の力を持つ敵。


 金龍合神も楽勝とは行かず、機体が傷付きながらも拳を飛ばす。


 その拳は、兜のように龍骸魔の頭部を守っていた龍の頭蓋骨を粉砕する。


 「ううっ! お父様っ、申し訳ございません!」

 「ああ、俺も義理のお父さんの遺骨を壊すとか嫌な気分すぎるぜ!」


 体は無事だが、メンタルにダメージが来るドラゴンシフター達。


 龍王軍達が次々と敵を打ち取った雄叫びを上げる中、懸命に金龍合神を操り他t買うダブルドラゴンシフター。


 「ちい、こちらもダメージがたまってきおった!」


 龍の骨と言う装甲が砕かれて、ヘビーウーンズな機体のダメージ具合の龍骸魔の中で舌打ちする機甲真人。


 金龍合神の猛攻に耐えうる機体を作った、彼のロボ作りの才能は本物であった。


 「良し、これでもう遺骨はなくなったぞ!」

 「はい、サンダーパニッシュで止めを刺しましょう!」


 激闘の末、龍骸魔を覆う身内の遺骨を破壊しきった金龍合神が鉞を大乗打に構えて必殺技の構えに入る。


 金龍合神の頭上には龍王軍が集い、一斉にドラゴンブレスを吐き出して白と黒を加えた九色の虹の光を鉞の刃に纏わせた。


 「行くぜ、ドラゴンレインボーパニッシュ!」

 「お願いいたします!」


 ドラゴンシフターが決めるとばかりに機体を操作すれば、金龍合神が虹を纏った鉞を振り下ろして龍骸魔を両断するだけではなく虹の光に包んで消滅させた。


 「これにて解決だな、帰って皆で法事をしよう」

 「ええ、帰ったら父の話を語らせて下さい」

 「ああ、何度でも聞くよ♪」


 敵の消滅を確認しドラゴンシフター達は、次元に穴を開けて龍王軍と共に邪仙郷があった空間から撤収したのだった。


 「ふう、あのロボットは惜しかったですねえ? まあ、データはすでにいただいてますが♪」

 「うむ、我らダークカルテットを出し抜いたつもりであろうが甘いのである」


 ドラゴンシフター達龍王軍と邪仙との戦いの数日後。


 壊滅した後の邪仙郷に降り立つ、キーロックとテツベンダー。


 「ええ、力はあったとはいえ所詮は旧時代の小口の悪党です♪」


 キーロックが指を鳴らすと、つるはしやスコップといった道具を持った戦闘員達が出現してがれき撤去などから発掘作業を開始した。


 「貴殿らは強盗以外もやるのであるな?」

 「我らバンクラー、死体漁りや火事場泥棒もいたします♪」

 「漁夫気取りが漁夫の利を取られたのは痛快である♪」


 ドラゴンシフター達は邪仙達を壊滅させた。


 だが、邪仙達の遺物やノウハウはダークカルテットの手により回収されその邪悪のミームは引き継がれてしまったのであった。

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