第43話 胡蝶の悪夢
「何だこれ、ゴーグル付きヘッドギア?」
「ご主人様、太平オンラインはご存じでしょうか?」
「紹介動画撮ったよな、うちの会社のRPGでゲーム内に俺らに関連した装備があるんだろ?」
「ご主人様、今からでも私と我が社のゲームをやりませんか?」
「えっと、何かそう言うのって良いのかな?」
「部署は違いますし、不正とかではないので是非♪」
立磨は所属会社の作品を含めて、ソシャゲはプレイしていなかった。
「それはさておき、ヘッドギアが届いたのは妹から私達に変身した上でゲームの中に入ってくれと依頼があったからです」
「そう言う仕事が来るって事は、ゲームから出られなくなるとかじゃないよな?」
「その手の悪事をするのがクライゾーンや邪仙なので、探って欲しいとの事です」
「変身してダイブするのは、ゲーム内でも能力を使えるようにする為か?」
「はい、ゲーム内で戦う為の特製のゴーグルだそうです」
「何だか、物理で殴ってバグを退治するデバッグ作業みたいだな?」
「ゲームでモンスターを狩る感覚で、事件を解決いたしましょう♪」
「ひと狩り行きましょうって、ノリだな?」
ジンリーとやり取りをする立磨。
節分も終わり、数日後。
事務所のPCに繋がれた、中国のお札で見る赤字の呪文が刻まれた中二病チックな痛々しいデザインがされたゴーグル付きの黒いヘッドギアを手に取る立磨。
事実婚で交際している公私の相棒で、マネージャーのジンリーから説明を受ける。
立磨とジンリーが、ヒーロー業務の他にちょくちょく本社から依頼される仕事。
今回は、自社が運営しているオンラインフルダイブRPGでのパトロール業務と言う物であった。
ヒーロー達の技術が民間に流れて、ゲームなどの文化も進化しているこの世界。
フルダイブのオンラインRPGも人気となっているが、悪の組織はゲームの中でも悪さをしていた。
ヒーローと悪の組織との戦いはゲーム内でも起こる。
ゲーム会社所属のヒーローである立磨達も、自社作品を守るべくゲーム内にダイブしてくれと言う案件に挑む事となり現在に至る。
「後は心配なのは、俺は学校もあるしジンリーも他の仕事があるからログインしっぱなしとか無理だよな?」
「私達がダイブするのは、一日に交代で二時間ほどで良いそうです♪ それ以外の時間は、AIを利用して操作をさせるNPCモードと言うのがあるとか?」
「ボットプレイって奴だな? まあ、変身してやってみるか」
「ええ、いざ冒険の世界へ♪ ゲームでも二人で繋がりましょう♪」
立磨とジンリーは、事務所内に簡単には攻略されないように改良した結界を展開してから変身してゴーグルを被りダイブする。
視界に映るのは自分達が所属する会社、ロンスターのロゴマーク。
立磨は、目の前が光に包まれた。
「……さ、最悪の事態になりました!」
「えっと、剣と魔法の世界はどこいった?」
ドラゴンシフターに変身してゲームの世界に入ったはずの二人。
だが、二人がやって来たのは周囲が牧歌的な緑の野山に囲まれた学校。
周囲に似合わない西洋建築の建物を加工赤レンガの校門には、中国における富裕層の為の私立学校の総称である
「げげっ! 変身して来たはずなのに学ラン姿?」
「私、五年前の姿になってます~っ!」
ドラゴンシフターの姿から、黒い学ラン姿に変えられた立磨。
ジンリーは、ピンク色のブレザーにグレーのスカートと女子高生姿。
そう、ジンリーにとっては嫌な思い出であるデブゴン呼ばわりされて太っていた学生時代の姿にされてしまったのだ。
「ううっ、何と無様な事でしょう! 私、あの頃から一念発起して痩せて我が身を鍛え直したと言うのにっ!」
「ちょ、ジンリー? 大丈夫か?」
「私、恥ずかしながらこの頃の姿ではご主人様の隣にはおられません!」
「待てよ、ジンリー! 俺はその姿のジンリーも大好きなんだってばっ!」
「いいえ、ここは私が痩せるまで別行動とさせていただきます!」
立磨の制止を振り切り、校内へと駆け出すジンリー。
「冗談じゃない、お前いつも俺達は離れないって言ってただろうが!」
普段とは逆にジンリーを立磨が追う、体は離れても魂と感覚は切れてはいない。
この事件を起こした敵の組織の陰謀か、ジンリーが焦りパニック状態に陥っているのが立磨には伝わって来ていた。
「くそ、ジンリーと俺を分断させようっって罠か! とにかくまずは、ジンリーの心を助けてから敵をぶっ飛ばす!」
愛するパートナーを追いかけて、校内を走る立磨。
愛する者を救えず、何がヒーローか?
先祖の縁とはいえ、自分に愛と力と未来への活路を与えてくれたジンリー。
最初は戸惑いはしたがもはや彼女は立磨にとって、魂の半身。
今度は自分が彼女を知り、助け出す番だと使命感を燃やしジンリーの気配を探りながら走る。
立磨の行く手には、学園ゾンビ物の如く現れる教師や生徒の姿をしたゾンビもどきのエネミーが立ちはだかった。
だが、立磨は敵に対して怯む事無く全身から黄金の光を放ちどこかのゲームの星の力で無敵になったキャラクターのように迫りくる敵の群れを次々と蹴散らして行く。
今の立磨にはジンリーの事しか頭になかった。
「ジンリー! 誰よりも何よりもお前を守りたい! お前が欲しい!」
他者から見れば、大したことはないように見える出来事。
しかし当事者からすれば些細な事でも、世界の危機。
愛する者の心身のピンチに直面した立磨。
世間体や社会常識に法律、理性に自制心と縛った心を解き放ち愛を燃やす。
異形の怪物の群れに突如現れた行く手を塞ぐ壁、次々と襲い来る障害。
「どいつもこいつも知った事か! 俺のジンリーを返せっ! 世界を滅ぼしてでも俺はジンリーを取り返すっ!」
立磨の瞳が真紅に染まる、髪が黒から金に変わる。
肌に鱗が浮かび、音を立てて顔の下半分がワニのように突き出して伸びる。
頭部だけではなく体も、バキバキと音を立てて衣服を弾き飛ばし胴体や手足が伸び人間から龍へと変化して行く!
立磨の怒りと愛する者を求める心が敵の呪詛を破り、彼の姿を龍へと変える。
龍となった立磨は、雄叫びを上げて愛する者の名を叫び周囲を破壊し巨大化しながらジンリーを求めて暴走した。
「……この気配、そしてこの胸のときめきはご主人様が私を求めているっ!」
暗闇に覆われた学生食堂の中、檻に囲われたテーブル席で漆黒の闇で出来た満漢全席を無限に食わされ続けるトラップに嵌っていたジンリー。
「……くっ! 呪詛だとわかっているのに、本物ならいざ知らずこのような物など食べたくはないのに箸を持つ手が止まりませんっ!」
料理もどきの呪詛の塊を無理やり食わされれるトラップ、一般人なら一口で発狂して死ぬレベルを耐えられていたのは高位霊獣である龍の身だからこそ。
だが、龍であるジンリーの身でも耐えられる限界が近づいていた時であった。
建物の壁を破り、ジンリーごと直火焼き状態で放たれた金色の光が彼女を救う。
立磨が放ったドラゴンブレスが、ジンリーを蝕む呪詛を消し去ったのだ。
立磨により呪詛からジンリーも龍の姿となり、彼の元へと合流する。
「良かった、ジンリーが俺の傍にいる!」
「……私、幸せ過ぎますっ♪」
敵の呪詛から解放された二人、ドラゴンシフターがドラゴンシフター二号をお姫様抱っこしている状態で花畑の上に立っていた。
「これ、変身解いた生身の姿なら様になったんだろうか?」
「私、現実の生身も鼻血まみれになっているはずなのでご容赦下さいませ」
ドラゴンシフター二号ことジンリーは、ゲームの世界でも現実でもギャグ漫画のように興奮し過ぎで鼻血が出ているらしかった。
「やべえ、急激に恥ずかしくなってきた!」
「あなたはやはり、私の運命のスーパーダーリンです♪」
「凄い恥ずかしいんだけど?」
「恥ずべきことなど何もありません♪ ログアウトしてお祝いをしなければ♪」
「いや、そう言うのは良いから敵は何処だ!」
相棒を助け出したら急速に正気が戻り、恥ずかしくなったドラゴンシフター。
とにかく敵を殴り倒して、気恥ずかしさから逃れたかった。
「ご主人様、お待ちかねの敵のようです」
二号が空を見るように告げると、ゲーム世界の空に黒い穴が開きポリゴンの様に角ばった黒くとげとげしい水晶の巨人が落下して来た。
「よし、こっちも金龍合神で勝負だ!」
「私達の愛のパワーなら負けませんね♪」
「ああ、恥ずかしさ全開でぶっとばす!」
ドラゴンシフター達も巨大ロボット、
「俺達の方は、アニメっぽいデザインだな?」
「ロボット戦略シミュレーションゲーム風ですね♪」
敵がポリゴンなら、こちらはSDアニメ化された巨大ロボだとコックピットの中で気合を入れて戦闘に入るドラゴンシフター達。
邪仙が作ったらしい黒水晶の巨人が雄叫びを上げ、ドシドシと土煙を上げて走り格闘戦を仕掛けようと襲い来る!
「へっ、ぬるぬる動いて避けるぜ♪」
「はい、アニメだと作画が死ぬと言われる動きで回避します♪」
ゲームの世界だからと、アニメーション全開で無駄にキレのいい動きで敵の攻撃を回避して背後を取る金龍合神。
「よっし、行くぜここだけのオリジナル!」
「ラブラブジャーマンスープレックスです♪」
金属質な効果音を響かせて、敵を投げ倒す金龍合神。
「よっし、止めと行こうか♪ サンダーパニッシュだ!」
「
サックスなどジャズ調のノリノリなBGM を流しながら、カットインアニメのような演出で天から落雷と共に必殺の武器である斧の刃がが口を開けた龍の頭の形をした巨大な鉞を召喚して手に取る金龍合神。
敵が起き上がりかけた所に、落雷を纏った巨大鉞を大上段に構えて突進し振り下ろして真っ二つに両断し爆散させる。
敵の爆発を最後に残心を決める金龍合神。
「……決まったぜ♪」
「愛の力で大勝利です♪」
かくして、勝利を収めた二人はゲームからログアウトして現実に戻って来た。
「ふう、現実の肉体は動かしてないのに疲れたぜ」
「ご主人様の愛で満たされた、幸せな時間でした♪」
変身を解いた二人、敵の目的は不明だが立磨とジンリーは精神を疲れさせつつもお互いの愛を再確認したのであった。
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