第41話 休養ラプソディ

 「ああ、地球は青いなあ♪」

 「冬の晴れ間は貴重ですね♪」

 「龍になっても、寒いのは苦手なんでわかる」


 前回の事件を終えて。宇宙から地球に帰って来た立磨とジンリー。


 晴れやかな日曜の午後、フロートシティの海岸沿いの公園のベンチに一緒に並んで腰かけて日光浴を楽しむ二人。


 立磨は黄色のパーカーに、緑のカーキ色のストレッチパンツ。


 ジンリーは、上下黄色の拳法着と二人共自分が龍になった時の鱗の色の服装だ。


 年若いカップルが日向ぼっことは年よりじみた行動だが、二人にとってはのんびり日光を浴びる事は陽の気を取り込み肉体と魂に活力を与える立派なボディケアだ。


 宇宙での素材採掘ミッションを終えて、本当のオフを味わう二人。


 神の部類に属する立磨達でも、宇宙に出ると疲れる。


 神は持つ権能に存在を引っ張られて、得意な活動場所が縛られる。


 地球の自然現象の神格である龍神の立磨達は、宇宙は苦手ステージだった。


 逆に宇宙が得意な神と言うのは星座伝説があるオリュンポス神族や、各神話の星にまつわる神々である。



 「はあ、日光浴も良いが天然の温泉にでも浸かりたい♪」

 「私達なら、直接火山のマグマに浸かるのも癒しになりますよ♪」

 「マジか、岩盤浴ならぬ溶岩浴は興味がわくな♪ 龍になって良かった♪」

 「自然の恩恵を直に味わえるって、素晴らしいですよね♪」

 「あれだな、旅も楽しいが家でのんびりが一番な感覚だよな♪」

 「地球は我が家と言うのは私達には真理ですからね♪」


 傍から見ればアホな会話をする二人。記録には刻まれないが敵の組織の幹部に勝つという大仕事をしてリラックスモードに入っていた。


 「今日は、特に何かの事件に出くわさないと良いよな~♪」

 「ええ、たまには私達も平和を味わいたいですからね♪」


 のんびり日光浴をする二人だが、好事魔が多しと言う言葉がある。


 「きゃ~っ! ひったくりよ~っ!」

 「ひゃっは~っ♪ いただき~♪」


 遠くの方で上がる、一般人の女性の悲鳴。


 立磨達の方へと西の方角から、どう見ても正当な持ち主じゃないだろうお前と言う高そうな皮のバッグをひったくって逃てくるコオロギ怪人が立磨達の視界に入った。


 「そんな事はなかったぜ、出たなチョッパー! ドラゴンシフト!」

 「お約束ですね、ドラゴンシフト」


 すぐさま戦闘モードになって、公園のベンチから立ち上がる二人。


 怪人が現れたなら立ち上がるのがヒーロー、立磨とジンリーは変身して怪人の行く手に立ちふさがった!


 「げげえっ! ドラゴンシフター共が出たっ!」

 「げげえなのはこっちの台詞だよ、叩きのめす!」

 「ノーマル怪人ですから、人間に戻して警察へ引き渡しましょう」

 「ちくしょう、やられてたまるか!」


 コオロギ怪人が、振動波を全身から放って攻撃する。


 だが、怪人の出した振動波はドラゴンシフター達のスーツの装甲をシャンシャンと鈴のような音を鳴らしただけで無効化された。


 「これで終わりだ、チェリャ!」


 ドラゴンシフターが踏み込み、コオロギ怪人の腹へ突きを入れる。


 ドラゴンシフターの手加減した、中段突きを腹に受けたコオロギ怪人。


 彼はくの字に体を曲げ、口から不気味な虫を吐き出して気絶し人の姿へと戻る。


 正体はガラの悪そうな、灰色のツナギ姿の青年男性であった。


 「はい、怪人薬の寄生生物を確保しました」


 ドラゴンシフター二号が、証拠を確保してから通報する。


 数分後、到着した警察官達に怪人だった犯人と被害者の対応を任せる二人。


 変身を解いて場所を変えようと、公園の通りを歩き出す。


 「ふう、こうしてランダムでエンカウントした怪人を倒すと地球だなあと感じる」

 「複雑な気分ですが私もです、春が近づくと変質者と怪人が元気になりますね」

 「怪人が地球の風物詩になってる気がするよ」

 「詫びもさびもあったものではありませんね」

 「だな、怪人に風情を求めるのはやめよう」

 「ええ、そろそろお昼でもいただきましょうか♪」


 ちょっとした運動感覚で悪の組織の怪人を倒した立磨達は、どこかでランチにしようと通りを出て移動する。


 「ちょっと軽く、ハンバーガーでも食べないか?」

 「あら、ドナキンですか? 良いですね、行きましょう♪」


 公園と自分達の仮住まいのある倉庫街を繋ぐ通りを歩き、ドナルドキングと言う名のハンバーガーショップに入る二人。


 「グレートキングセット二つ、ドリンクはコーラで♪」

 「何か、手慣れた様子で頼むんだなジンリー?」

 「私、ファーストフードも好きなのです♪」


 ジンリーが代金を支払い、五分も待たずに出てきたキャベツ位の大きさのハンバーガーと付け合わせのぽてっとコーラのセットを立磨も受け取り窓側の席に着く。


 「ハンバーグ、二段重ねに分厚い目玉焼きか。 これ、顔を隠せるサイズだな?」

 「は~む♪ 好吃ハオチ~ッ♪」


 ハンバーガーの大きさと、愛らしい少女のような声と笑顔でハンバーガーを食べるジンリーに立磨は驚いた。


 「いや、ちょっとお前何そのギャップ?」

 「おや、如何為されましたか?」

 「いや、今はハンバーガー持ってキリッとクールな美人顔してるけど!」

 「美味しい物を食べると、笑顔になりますね♪」

 「CMみたいな事を言ってごまかすなよ!」

 「私がご主人様にとって、美しく愛らしいのは当然の事なのでお気になさらず」

 「駄目だ、ツッコミが追いつかねえ」

 「まあまあ、ポテトもありますよ♪」

 「いや、ときめきと驚きでパニックだわ」

 「私はいつでもご主人様にときめいてます♪」

 「うん、普通に笑顔を見せて食ってくれ?」

 「スマイルはプライスレスですね♪」


 夫婦漫才をしつつ、今度はジンリーは先ほど見せた天真爛漫な笑顔で食べる。


 偶然にも、相方の萌え声を聞くと言うハプニングを体験した立磨であった。


「おや、ご主人様の同級生の方ですね?」

「ああ、徹と春原さんだな」

「あちらも何やら、デートでしょうか?」


 窓の外の通りを歩くのは、立磨の友人。


 短く下ろした黒髪、服装は上下白でカジュアルな装い。


 見た目はクールと言う印象の美少年の徹。


 徹と並んで楽しそうに歩くのはオレンジ色のショートヘアーの美少女.


 ピンクのワンピースを着た春原さんだった、徹はやや困惑気味に春原さんははしゃぎながらだ。


「あの二人、仲良くなったんだな? 休みがちだから、二人が仲良くなった詳しい経緯は知らないが順調そうで何よりだな」

「上手く行くと良いですね、あの二人♪」

「そうだな、ヒーローだって恋愛しないわけじゃないしな」

「長命の種として、彼らが子孫を残して行けるように地球を守りましょう♪」

「んだな、龍の寿命は一万年らしいしな」

「宇宙の超人の皆様よりは短いですが長生きしましょう、そして来世も♪」

「俺らが生まれ変わるまでに、仲間達は何千回生まれ変わるんだろうな?」


 ハンバーガーを食いながら、語らう立磨とジンリー。


 「あ、日高君達だ♪ やっほ~♪」

 「いや、邪魔しちゃ悪いって?」


 徹と春原さんもハンバーガーのセットを持って、立磨達の近くの窓側の席にやって来た。


 「おう、久しぶり」

 「どうも」


 立磨とジンリーも挨拶を返す。

 

 「ねえ、折角だから日高君達の隣で食べようよ♪」

 「ええっと、良いか?」


 春原さんの提案に、申し訳なさそうな顔で尋ねる徹。


 「別に構わないぜ、しかし二人が仲良くなるとはな♪」

 「仲良き事は美しきかなですね♪」


 立磨とジンリーは微笑んで隣席を受け入れる。


 「いや、お前さん達みたいに深くはないからな?」

 「……えっと、まだお付き合いスタートです!」

 「いや、春原さんそう言うのは言わないで良いから?」

 「はわっ、ごめんね?」


 初々しいやり取りをする徹と春原さんであった。


 「ジンリー、隣に春が来たな♪」

 「暖かいですねえ♪」


 初々しい友人達のカップル姿を見守る立磨とジンリー、バーガーの食も進む。


 「か、勘弁してくれまだ慣れてないんだ」

 「ば、バーガー食べよう!」


 照れる徹達。


 「そうか、じゃあ俺達は食い終わったから帰るな♪」

 「ええ、お先に失礼いたします♪」


 素早く飲み食いを終えて立ち上がり、片付けに行く立磨とジンリー。


 「え、ちょっと!」

 「……うう、気を利かせられても困っちゃうね?」

 「ああ、俺達は俺達のペースで行こう?」

 「うん、そうだね寒川君♪」


 照れながらやり取りをする徹と春原さん、そんな二人を素早く店を出て遠くから眺めて微笑む立磨とジンリーであった。


 「尊い光景が見られましたね、ご主人様♪」

 「ああ、ああいうのが守っていく大事な物なんだな♪」

 「やはり私達ももっと甘く爆発すべきだったでしょうか?」

 「いや、あの二人の前じゃそれは却って毒だろ?」

 「私達のハンバーガーの食べさせ合いイベントを思わずキャンセルして来てしまいましたが、これからどうなさいますか?」

 「腕組んで、このままデートするべ? 買い物とかどうだ?」

 「ありですね、スーパーで鶏肉丸ごと買って行きましょう♪」

 「あ、夕飯は丸鶏か?」

 「餃子も一緒に作りましょうか♪」

 「ああ、それは良いな♪」


 立磨とジンリーも徹達に負けないように、がっしりと腕を組み二人で並んで仲良く通りを歩く。


 バーガーショップから歩いて来て、辿り着いたスーパーで食材を買い込んで店を出た二人。


 「カレー粉が安かったので、チキンカレーに献立を変更しましょう♪」

 「ああ、俺もカレーは好きだから構わないが今の所首位は大丈夫か?」


 買った食材を虚空に穴を開けて異空間にしまい込み、周囲の気配を探る立磨。


 事件とのエンカウントは、一回だけとは限らないのがフロートシティだ。


 「はい、こちらでも探りましたが今の所何も起きてませんね」

 「そうか、なら今日はこのまま家に帰ってカレー作りで終われそうだな♪」

 「ええ、たまにはそう言う時もあっていいと思います♪」


 事件の気配を探り、安全を確認した二人はそのまま帰宅した。


 「よし、カレー作りと行くか♪」

 「ええ、今晩はチキンカレーと水餃子です♪」


 仮事務所の居住スペースに帰宅した二人、異空間に閉まっていた食材を取り出して楽しい調理時間に入る。


 悪の組織との戦いの日々の中ので生まれた平和な時間。


 ドラゴンシフター達は、平和な時間を味わえた事を感謝し心身をリフレッシュする事が出来たのだった。

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