第38話 辟邪剣と陰陽の宝珠

 「……おおっ! これはまさしく我が友、馬立心ま・りっしん辟邪剣へきじゃけんっ!」


 金髪の丸刈り頭のガタイの良いイケジジイ、黄金朝ファン・ジンチャオが手にした辟邪剣を見て涙を流した。


 「やはり本物でしたか、良い買い物でした♪」

 「ひい祖父ちゃんのゆかりの品が、変な奴に渡らなくて良かったぜ♪」

 「二人共、でかした♪ これがあの時あれば」

 「おじい様、それだと私達が結ばれない可能性が出るのですが?」

 「おっと、昔を懐かしんでつい失言を! まあ、これは本物じゃお前達なら使いこなせるしそうする事であ奴の追善供養ともなるじゃろう♪」


 鬼市での騒動の後、立磨とジンリーは黄家の龍宮を訪れていた。


 立磨の曽祖父に当たる馬立心の剣と聞いて買ったは良いが、本物かどうかはわからなかったので今も生きていて馬立心を知る人物に確認を取りに来たのだった。


 その人こそ、馬立心の相棒であった黄家の龍王である黄金朝ファン・ジンチャオ


 「ありがとうございます、じゃあこれはリンちゃんに作り直してもらおうか?」

 「あら、ご主人様がそのままお使いにならないのですか?」

 「俺はひい爺さんを知らんけど、俺とジンリーを結んでくれた人の物だし俺達二人のペア武器に作り替えてもらおうと思ったんだ」

 「なるほど、私達の縁結びの剣をペアリングならぬペアソードにしたいとは素晴らしいアイデアです♪」

 「ほうほう、立磨たつま君はそこまでジンリーを想ってくれておるとは♪ 立心の奴も生前はあれこれやらかしたが、それがチャラになる程に良い子孫を孫娘の婿に残してくれたものよ♪」


 金朝は元気に笑い、立磨のアイデアを認める金朝。


 鬼市で偶然手に入れた辟邪劍は、新アイテムとして作り直される事となった。


 「しかし、あの謎の宝貝屋ぱおぺいやは何者だろう?」

 「私が見た限りでは、モグラの妖怪仙人だとは思いますが?」

 「まあ、縁があったならまたその内会う事もあるじゃろうな?」

 「ですね、まあ敵になれば退治すればいいだけですし」

 「退治はさておき、首に縄付けて置いた方が良い人物かもな?」

 「まあ、二人で考えて見なさい♪」


 立磨とジンリーを穏やかな笑顔で見守るジンチャオであった。


 龍宮を出た立磨とジンリーは、ロンスターの本社へと向かう。


 「あ、お義兄さんとお姉ちゃん♪ お祖父ちゃんからメールは見たよ」


 そこは、相変わらずパソコンと仕事デスク以外は立磨には何が何だかわからない物だらけの部屋。


 デスクの周囲には東にロボットアームっぽい工作機械、西に風水でみる八角形の板など科学と魔術が入り混じった配置で物が置かれている本社地下にある開発室。


 不思議空間の真ん中にあるデスクに座っていた部屋の主。


 見た目は十代の白衣を着た金髪ツインテール美少女こと、開発室長のジンリンが二人を出迎える。


 「ああ、なら話が早いな♪ これがその辟邪剣なんだけどさ?」

 「私とご主人様用に二本の剣に作り替えてもらえないかしら?」

 「これが辟邪剣へきじゃけんかあ、じゃあ解析から始めるから時間かかるけど良い?」


 立磨から渡された辟邪剣を見てジンリンが尋ねる。


 「ええ、宝珠を嵌め込むスロットと合体機能は欲しいですね」


 ジンリーが欲しい機能をリクエストする。


 「俺とジンリー以外に使えないような安全装置と、呼べば来る召喚と送還機能が欲しいかな?」


 立磨も欲しい機能をリクエストする。


 「うん、出来なくはないけれど素材が足りないからまた二人に神珍鉄しんちんてつを採掘して来てもらわないとね?」

 「わかりました、優先度は高くなくて良いので宜しくお願いしますね?」

 「うん、素材確保とかは頑張るぜ♪」

 「ありがとう、会社として進める仕事の優先度は二人の変身バックルの改良と合体変身する為の太極宝珠たいきょくほうじゅの方が優先度は高いかな?」


 ジンリンがPCに張り付けたメモを見つつ、二人のリクエストへの返事をする。


 太極宝珠たいきょくほうじゅとは、立磨とジンリーの二人のドラゴンシフターを一人に合体させた強化形態にする為のアイテムだ。


 「それは俺とジンリーが、それぞれ陰と陽の宝珠を作るんだろ?」


 立磨がジンリンに尋ねる。


 「大雑把に言えばそう、でもそれは今のバックルよりもバージョンを上げた奴でして欲しいのグッズ展開する予定があるからね♪」


 ジンリンが笑う。


 「いや、グッズ展開の都合かよ! そりゃお金は大事だけどさ?」

 「今の時代、神や仙人も納税しないといけないし霞食べるだけでもお金がね」

 「世知辛い世の中だよな、今も昔も」


 立磨がジンリンと話し合う。


 「でも、それだけじゃないのでしょう? ボケだけを言わないでちゃんと、私達の力が成長して来たので今のバックルの処理能力を越えそうだからと教えなさい?」


 ジンリーが妹であるジンリンにツッコムむ。


 「いや、ボケてたのかよ! 普通に納得してたよ!」

 「二重の意味があったのです」

 「取り敢えず、ご主人様と掛け合うのは私の正当な権利ですよジンリン?」

 「いや、ジンリーもボケるな!」


 立磨のツッコみの処理も追いついていなかった。


 嫁と義妹も交えた観客のいないトリオ漫才が終わり、改めて本題に戻る。


 「漫才はさておき、今から宝珠だけでも作りましょうか?」

 「そうだな、物は先にあれば越した事はないだろ?」

 「うん、旧正月のお休み前にできるなら良いかな?」

 「そっか、そういう時期か」

 「休みはしっかりとるのが我が社の方針ですからね♪」

 

 立磨とジンリーが、会社の冬休みの事を思い出す。


 「じゃあ二人共、地下二階の実験室に来て」


 ジンリンが席を立ち、立磨達を先導して階段へと向かう。


 「ああ、いかにもヒーローの特訓とかで使いそうな監視ルームのある部屋だな?」

 「床に八卦の図が描かれているのは結界の役割ですね」

 「うん、二人には部屋の中の八卦図はっけずの真ん中の白黒の陰陽いんようマークの上で変身してから作業をお願い♪」


 階段を降りて訪れた部屋は、ガラス張りのコンソロールルーム。


 ガラスの向こうには、風水で見る八角形の図が床に描かれた広めの部屋があった。


 指示に従い、八極図のある部屋に入った立磨とジンリー。


 二人はそれぞれ、立磨が黒の陰でジンリーが白の陽のマークの上に立ち変身する。


 『それじゃあ二人共、結界を張ってから始めてね』


 舞子越しにジンリンが指示を出し、コンソロールを操作するとドラゴンシフター達の立つ場所以外の床に青白い光のラインが走る。


 「結界が展開されましたね、それでは始めましょうか♪」

 「ああ、まずは両掌を胸の前で組まずに合わせるんだな?」

 「ええ、そして掌にイメージをしながらエネルギーを出すのです♪」


 二号に合わせてポーズを取り、ドラゴンシフターは脳内で鬼市の時の空を見ながら陰のイメージをしながらエネルギーを出して見る。


 「やばい、気分が陰鬱になって来て思い切りエネルギーが玉に吸われるっ!」


 ドラゴンシフターは掌の間にブラックホールのような黒く丸いエネルギーが生まれてグルグルと回転しながら徐々に物質化して行く。


 同時に作っているドラゴンシフターは、段々と気分が陰鬱になって来ていた。


 「ああ、これは天にも昇る様な高揚感と幸福感が溢れて来ますっ♪」


 ドラゴンシフター二号も同様に白いエネルギーを生み出して行った。


 こちらは脳内物質が溢れ出して、テンションが急上昇だ。


 「二人共、それぞれ順調に陰の黒いエネルギーと陽の白いエネルギーが出てる」


 コンソロールルームで計器とガラス窓の向こうの義兄達を見比べるジンリン。


 二人のドラゴンシフターは、それぞれが野球のボールほどの漆黒の宝珠と白い宝珠を誕生させると変身が解けて床に倒れ込んだ。


 「ちょ、二人共! しっかりしてっ!」


 義兄達の様子を見たジンリンが、結界のスイッチを切りドアを開けて二人の元へと駆け寄る。


 「……はああ♪ 何とも心地の良い一時でした、今も幸福感が消えません♪」」

 「……やばい、どんどん気分が陰鬱になって来て気持ち悪い」


 陽の宝珠を作り出したジンリーは、幸福感に満ちた恍惚とした表情で今にも天に召されそうに倒れていた。


 反対に陰の宝珠を作り出した立磨はというと、死んだ魚のような目で二日酔いのような陰鬱な表情をして気持ち悪そうに倒れていた。


 「ちょっと、二人共メンタルと体調のバランスをもどして~っ!」


 ジンリンはまず、陰と陽の宝珠をきちんと回収してジュラルミンの保管ケースに入れて確保する仕事の成果は無駄にはしない。


 その上で、母親であるジンファを内線で呼び出して立磨とジンリーを実験室から運び出した。


 「……えっと、俺達なんで一緒に寝てるんだ?」

 「それは私達が運命で結ばれた二人だからです♪」

 「ジンリーは相変わらずで凄いよな?」


 立磨とジンリーが目覚めたのは、フローリングの床に白い壁のベッドだけがる簡素な個室であった。


 「この部屋は、本社の仮眠室だと思います」

 「リンちゃん達が運んでくれたんだろうな?」


 着の身着のままの自分達の格好を見て、己の状態を確認する立磨達。


 「出入り口のそばの壁の内線電話に張り紙がありますね」

 「起きたなら呼び出してって、番号が書いてあるから呼び出すか」

 「私はどんな時でも、ご主人様と二人きりでいられれるなら良いのですが♪」

 「いや、仕事する場所だしな? 腹が減ったし、社員食堂で飯を食おうよ?」


 立磨が電話でジンリンを呼び出した。


 「二人ともお疲れ様、できた宝珠は開発室の金庫に保管してるから♪」


 仮眠室に来たジンリンが笑って答える。


 「そんな、冷蔵庫にプリン入れたみたいな」

 「本社で保管しているなら、セキュリティは問題ないでしょう」

 「そうそう、私も安心して冬休みに入れるよ♪」


 立磨達に対してジンリンが微笑む。


 「そうか、そろそろ旧正月の冬休みか!」

 「どうしましょう、工場も冬休みに入ってしまいます!」

 「取り敢えず、装備のメンテナンスは休み明けたらだからロボットは飾り付けして本社に運ぶから問題ないって♪」


 会社の休みと来て慌てる二人にジンリンが笑う。


 「そっか、工場に置いたまま休みに入られると工場内の結界で術が妨害されれうから金龍合神が呼べなくなるから助かったぜ」

 「本社に置いておくと言う事は、本社で旧正月のお祝いですね♪」

 「ああ、クリスマスの時みたいにパーティーするんだ?」

 

 取り合えずは、休みでも巨大ロボットが使える事に安堵する立磨。


 新たなパワーアップに向けて備えつつ、立磨達は二度目の正月を祝う事になるのであった。

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