第六章:春節昇雲編
第37話 鬼市騒動
一月も半ば、学業に仕事にと励む中での日曜日。
立磨とジンリーは、新たな仮住居のリビングで寛いでいた。
「うふふ♪ この饅頭は、かぼちゃ餡で作りました♪」
「おお、ジンリーの手作り中華まんだ♪」
台所で中華まんを作ったジンリーが、皿に載せてやって来る。
白シャツと黄色のワイドパンツの上にピンクのエプロンと言う姿のジンリー。
機嫌良く立磨の隣に座る、立磨はジンリーの笑顔にときめいていた。
「あら♪ どうなされましたか♪」
「ジンリーの笑顔にドキッとしたんだよ、キラキラした笑顔が染みる」
「まあまあ♪ その言葉が私を笑顔にしてくれる♪ ああ、素晴らしき生活♪」
照れる立磨、良い笑顔から発せられる陽の気に当てらる。
「うん、何と言うか俺達って陰と陽だよな?」
「はい、あなたが私の光♪ 私は貴方に寄り添う影、離れません♪」
「いや、逆だろ? 俺の方が陰じゃね? めっちゃ、ジンリーは陽なんだけど?」
「それはつまり、互いが互いの光であり影であると言う事ではないでしょうか?」
「いや、急に真面目な口調になるな?」
「私達が結ばれるのは真理だと言う事です、陰はお陰様と言うように邪な物ではないのです♪ 光と影が合わさり太極となる、光と闇が手を取り合い結ばれる♪」
「うん、リビングだからハグですませようね?」
ヒシッと抱き合う二人、交際期間は数カ月だが立派な番であった。
「あ、このハグしたポーズで自撮りをさせていただきますね♪」
「……良いけれど、SNSには上げるなよ?」
「アナログの一眼レフのフィルムカメラなので、ご安心下さいませ♪」
ジンリーが金色の龍の尻尾を生やして伸ばし、器用に操って虚空からカメラを取り出して撮影する。
「SNSには上げませんが、出版予定の自伝には資料として使用いたします♪」
「いや、出す予定あるのかよ!」
「ええ、ヒーロー夫婦の愛の物語として永遠に語りつがれる名著の予定です♪」
「いや、そう言うのでコケる人結構いるからやめような?」
ジンリーにツッコむ立磨、やはり自分は陰だなあと思った。
「そう言えばご主人様、今日はこの後で社会見学は如何ですか♪」
「とうとつだけど、どんな社会かによるよ?」
「
「それ、この世に帰って来れるの?」
「鬼市は私達の別荘のある仙界のような、この世とあの世の交差する場所なので行き来だけなら龍である私たちなら可能です♪」
「あの世とか聞くと怖いけど、邪仙とかも関わってきそうだから行くよ」
とんだ休日になったなと思いながら、立磨はジンリーとの飲茶を終えて着替えなどの支度をするのであった。
空は夜よりも暗い闇の色、地上は赤い建物が多く火を焚いたようなオレンジの灯りで包まれた中華街のような場所。
それが立磨の感じた鬼市の印象だった。
「うん、改めて思うが人外魔境だな」
「うふふ、私達も人ではないですから♪」
「そうだけど、俺はメンタル的にはまだ日本人だよ?」
牛頭な店主が肉を捌くケバブ屋、三つ目の妖怪が雑多な瓶を売る店。
人間の姿をしている者もいるが、体が透けていたり肌の色がゾンビと同じとかこの世ではなくあの世サイドの人間だとわかる者が大半とホラー映画の怪物の街と言った鬼市を見て呟く立磨。
「一般人が紛れ込むと正気度が下がる光景ではありますね、昔からですが」
「納得だ、うちの会社はあの世とも取引してるお?」
「こういう場所では特にはしておりませんね、現世メインです」
「所で、鬼市の店の料理って俺らは食って平気なの?」
「ええ、こちらでは日本で言うヨモツへグイのような事はないですね♪ 一応は生者には生者用の物しか売らない決まり事があるにはあるので」
「全くセーフティーがないとかではないのか、それなら良かった」
「どの場所にも、それなりの掟や秩序はあると言う事ですね」
鬼市の通りを見物しながら歩く二人、夜の墓場で運動会なノリのデートであった。
「もしかして、ここで邪仙とか魔界の奴らが企んでるのか?」
「その可能性はありますが、本筋は社会見学です」
「中華の神様が関係する場所だし、知っておくのは大事だよな」
「ここは正義も悪も利用する混沌とした市場、上手く利用して行きましょう♪」
「そうか、こう言う所で事件の手掛かりとか探せるんだな」
「そう言う事です♪ まあ、私が毛色の変わった場所でデートしたかったというのもありますが♪」
ジンリーが微笑み、立磨が呆れ顔になる。
飲食店に囲まれた広場で空いているテーブル席に座る二人。
中国映画の屋台広場みたいな賑やかで平穏な場所だ。
人間らしい客も妖怪な客も飲み食いを楽しんでいる。
立磨達の席へと近づいて来た人間の幽霊のウェイターに、海外であるマナーのようにチップをあの世の金の一種の
「生者用と死者用と更に人間と人外用があるんだな」
「あの世もグローバル化してますからその影響ですね」
タピオカラテが来たので代金を日本円で支払う、二千円は高いと思ったが円での支払いも可能らしい事に驚いた立磨。
油断せずに異物混入を警戒し、瞳を光らせてドラゴンアイの力を使って出された物が本物かどうか確認する立磨。
「よし、本物だな」
「ご安心下さい、私がいる限りあなたの口に害のある物は入れさせませんので♪」
「そうだな、甘くてわらび餅みたいだ」
「一休みをしたら、また見物を再開しましょう目ぼしい品があるやもしれません」
「何も事件が起きなければいいんだがな?」
フラグになりそうなことを言い、立磨達が席を立った時であった。
「むぐ~~っ!」
「うるせえ、大人しくしやがれ!」
立磨達の方へと暴走して来る牛人間の妖怪、その肩には体を縄で縛られ口は白い布で塞がれたピンク色のカンフー着を着たお団子頭の人間らしい少女が担がれていた。
「「ドラゴンシフト!!」」
目の前で事件が起これば見過ごせない!
立磨とジンリーは即座に変身して、妖怪へと突進。
ドラゴンシフターが鉄山靠で体当たりをすれば、放り投げられた少女をドラゴンシフター二号が空中を舞って受け止める。
縄がないので、ドラゴンシフターが龍形態になり倒した牛人間を逃さず殺さず締め上げて捕縛する。
泡を吹いて牛人間は気絶した。
ドラゴンシフター二号が着地して、少女の口の布を外し縄を解く。
「あ、ありがとうございます龍のお姉さん」
「いえいえ、ヒーローとして当然です」
少女の礼に答える二号。
「誰か、役人を呼んで来てくれ!」
ドラゴンシフターは、周囲に呼び掛ける。
ドラゴンシフター達の活劇を見た周囲の客達は拍手し、屋台の店主達によって牛人間は空いたテーブルに縛り付けられた。
「さて、役人が来るまで待とうか?」
「そうですね、あなたもまずは甘い物でも食べて一息入れましょう♪」
変身を解いたドラゴンシフター達、少女に何か甘い物でも食わせて落ち着かせようとすると屋台側から干菓子やら饅頭やらが差し出された。
「えっと、取り敢えず君の名前と事情を聞かせてもらえないかな?」
「私達は株式会社ロンスターの者です♪」
軽く自己紹介をする立磨とジンリー。
「私は西王母様に仕えている侍女の蘭です、お休みをいただきこちらに遊びに来た所を運悪くあのような邪悪な輩に捕らわれてしまいました」
少女も事情を軽く語る。
「そうでしたか、冥府側のお役人が来られたようですし後はそちらで」
「西遊記で聞いた名前だな? 何かそう言うビッグネームを聞くと面倒な予感がするから、後は役人に任せるか」
立磨は妙な予感がしたので、蘭に関しては冥界の役人達に任せる事にした。
「お二人ともありがとうございました、このご恩はいつかお返しいたします♪」
蘭の方は立磨の態度を気にすることなく改めて二人に礼を言うと、牛人間を捕えに来た冥界の役人達の所へと向かい彼らに事情を話す。
「失礼いたします、黄金麗様と日高立磨様ですね?」
その後、役人達の中からキョンシー服を着た冥界の役人の男が立磨達の所へとやって来る。
「ええ、私達は狼藉者を取り押さえただけですが何か?」
「俺ら、普通に悪党懲らしめただけなんですが?」
「いえいえ、龍王家の姫君と公子様にはご協力感謝いたします♪」
役人から嫌味さがにじみ出る笑顔で礼を言われる立磨達。
口では礼を言いつつも、役人から言外にお前らここで余計な事はするなよと釘を刺された二人。
「あらら、何か目を付けられちまったな?」
「実家から、冥府に話を付けてもらうとしましょう♪ あの世と揉めると面倒なのですが、あの手の輩に舐められてもいけません」
「政治って面倒だな? 覚えておくよ」
社会見学の名の通り、中華の神々の暗い面を見学してしまった立磨。
特にお咎めはなく、冥府の役人達が去ってから再び鬼市の散策に向かう立磨達。
「さあさあ寄ってらっしゃい、見てらっしゃい♪ 世にも不思議な
景気のいい掛け声で客寄せをする、茶色い中華服に丸いサングラスをかけたミノムシの様なボサボサの長い黒髪の青年男性が売り子兼店主のようだった。
「胡散臭い露天商ですね? モグラの化身でしょうか?」
「だな、売っている物はどれも何かピカピカ光って見えるから本物だろうけど?」
ドラゴンアイで、店主と商品を見定める立磨とジンリー。
「この一見、刀身が伸縮式の稽古道具にしか見えない剣っ! 知る人ぞ知る伝説の妖怪ハンター、
「その剣、買ったっ!」
「我々は馬立心の親族です、値段を言いなさいっ!」
「ひ、ひいっ龍が二頭やって来たっ! お、お買い上げありがとうございます!」
怪しい店主が出した、曽祖父の名前に反応して駆け寄る立磨とジンリー。
立磨達の気迫にビビり、剣を差し出す店主と受け取る立磨。
「何処で入手したかは問いません、取り敢えずこれで如何でしょうか?」
ジンリーが金の延べ棒を一つ、虚空から取り出して店主に差し出す。
「あ、ありがとうございます十分です! お帰り下さいませっ!」
ジンリーから出る気迫にビビる店主。
「はい、ストップ♪ 物が手に入ったから気にしない帰ろうぜ♪」
「そうですね、まさか本当に貴重な品が手に入るとは思いませんでした♪」
「これは、今後も定期的に見に行く必要が出て来たな」
偶然にも曽祖父ゆかりの武器を手に入れた立磨達。
次も見に行こうと、鬼市を去り現世へと帰るのであった。
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