第35話 新基地を作ろう

 「敵に基地を襲撃されるとはついに来たか」

 「敵の拠点を潰すのは戦いでは普通の事ですからね」

 「やられる方はいい迷惑だよ、被害状況はドアぐらい?」

 「ええ、幸いな事にプライベートな部分は無事でしたが」

 「敵にセキュリティを抜けて来られるのが面倒だな、情報が漏れたら他の組織にもやられるだろうし」

 「元から身軽な事務所でしたし、お引越ししましょうか?」

 「いや、敵がこっちと同じく空間を操作できるならどこにいても変わらないよ」


 邪仙の襲撃から数日後、取り敢えずの被害であるドアの修理だけした事務所にて。


 「つまり、今後に備えて戦える基地づくりをするのですね♪」

 「そういうこと、同じ日にイレギュラーズ達のアジトもやられたみたいだし」

 

 立磨とジンリーは、今回の件から戦える基地作りを行う事にした。


 邪仙はドラゴンイレギュラーズの事も嗅ぎつけていたらしく、立磨達だけでなく彼らのアジトも同時期に襲撃をされていた。


 「では、会社だけでなく実家と相談して華僑の不動産屋や建設会社に風水師に仙人の方にと集めてもらい新たな基地づくりをいたしましょう♪」

 「ああ、次はきっちりと迎え撃ってやる!」

 「でも、新築ならばどのみち一旦は引っ越しですね」

 「まあな、越すなら港湾地区の倉庫街かな?」

 「そう言う感じですね、ヒョウモンダコもシャコもフグもナマズの倉庫で働いてますし」

 「屋台の海亀さんと、倉庫会社のナマズさんだけが被害が酷くなかったんだよな」

 「ええ、皆の体が無事なのは良かったです」

 「彼ら表稼業も気に入っていたみたいだし、そこら辺も何とかできtらな」


 イレギュラーズの事も確認する立磨、元々が龍宮のエージェントで世を忍ぶ仮の姿とは言え彼らの店もどうにかしたいと考えた。


 「いっそのこと、新基地はビルにしてテナントで寿司屋等を入れましょうか?」

 「マンション形式にして、他のヒーローにも貸出とかもする?」

 「そう言うのもありですね、会計事務所や法律事務所も入れれば」


 仮の拠点ではなく、戦う為の新たな基地造りを目指して気合いを入れる立磨。


 「ご主人様、狩りの基本は尻尾切りです!」

 「どうしてこうなった!」


 二号に指示されたドラゴンシフターは、草原を駆け回り鱗がキラキラと光輝くアンキロサウルスもどきの怪獣の背後に回り込み龍牙大刀を振るって尻尾を切った。


 基地作りを決めた翌日、ドラゴンシフターと二号は基地の建材を狩りに怪獣達の住む島へとやって来ていた。


 「怪獣の皮や骨や鱗は、建材として重宝されてますので!」

 「いや、建築資材の材料から自分達で集める事になるとは思わなかったよ!」

 「DIY精神は大事ですよ、修行にもなりますし♪」

 「わかるけど、ログハウス立てるんじゃないんだから!」


 ドラゴンシフターと二号が、掛け合いをしながら怪獣を攻撃して行き二号が獲物の首を切り落とす。


 「会社と相談した結果、動画の企画ができましたからね」

 「……うん、業務になっちゃったから仕方ないけどさ」

 「週末は素材のハント生活ですね、夫婦の共同作業なので良い事ですが」

 

 倒した怪獣を撮影しながら語り合う、ドラゴンシフターと二号。


 その経緯はリモート会議の結果であった。


 「新しい基地を作るのは良いけど、素材はこだわった方が良いよね?」

 「そうね、全部業者任せにするのも会社的には面白くないわ」

 「いや、面白みとかはいらないような?」

 「確かに、こだわりは大事ですね」


 ジンリン、ジンファを相手にパソコンの画面越しで話し合う立磨とジンリー。


 「立磨君としても、全部任せるのは男の子としてつまらないでしょ♪」

 「特殊な物だけで良いから、業者さんに提供する素材を二人で採取するとかどう?」

 「え? 確かにメンタル的には、気が楽になりそうですが?」


 ジンファとジンリンの言葉に戸惑う立磨。


 「では、私達の素材採取の様子を動画撮影して配信すれば仕事になりますね♪」

 「いや、ジンリーさんちょっと待とうか? 敵に情報バレるよね?」

 「ええ、こっちもやる気だと敵に見せましょう♪」

 

 こうして、特殊な建築資材の材料を手に入れてその様子を動画撮影して配信する企画が動き出してしまった。


 ドラゴンシフター達がいるのは、以前にも来た怪獣達の島。


 怪獣の狩猟が解禁されている時期なので、素材確保にはピッタリな場所だった。


 「この怪獣アンキロンの鱗を粉にして混ぜて作ったガラスは、ロボや宇宙船にも使われていてヒーローの光線にも耐える優れ物なのです♪」

 「ああ、だから鱗がキラキラ光っていたのか♪」

 「怪獣に捨てる所なし、ありがたくはぎ取らせていただきましょう♪」

 「肉も美味しくいただきます、この動画では各種法令などのルールは守って狩猟をしております」


 知らなかったので、二号の解説に素直に感心するドラゴンシフター。


 「さて、次はコンクリートに混ぜる怪獣の骨を狩りに行きましょう♪」

 「ちょっと待って、コンクリートに怪獣の骨ってマジ?」


 相方の言葉にツッコみを入れるドラゴンシフター。


 「マジですよ♪ 怪獣の骨粉を混ぜた強化コンクリートは、官公庁や駅などに使用されております」

 「その手の理屈だと、俺ら龍の骨とか皮とか鱗とかも素材にされちゃう系?」

 「はい、霊獣の王である我ら龍も生き物である以上は循環の連鎖の中です」

 「だよね~、生命の循環のサイクルとか輪廻とかからは抜けられないのか」

 「食べる者はまた食べられる者でもある、広い意味で世は平等ですね」


 アンキロンの亡骸に手を合わせるドラゴンシフターと二号、感謝をしつつ命をいただく事について思いを馳せた。


 「それはそれとして、もうひと狩りいきましょうか♪」

 「いや、気持ちの切り替えが早いよ!」

 「私達にも生活がありますから、感謝の気持ちで狩猟をしましょう♪」

 「割り切り切れないが、頑張るしかねえな!」


 次に二人が獲物を求めて進んで辿り着いたのは、ジャングルの中の沼地。


 「いかにもモンスター達の水場と言う感じの沼だな、ここだと何が出るんだ?」

 

 木陰に身を隠しつつ、相方に尋ねるドラゴンシフター。


 「サイトの情報では、この辺りに出る水牛型の怪獣のお肉が絶品だと♪」

 「建材の次は食材かい!」

 「そろそろお昼時ですので、狩ったら美味しく焼きたいと思います♪」


 二人が夫婦漫才をしていると、ジャングルの奥から凶悪な角を生やした黒い水牛型の怪獣がのっそりと草木を分けて出現した。


 「あれ、水牛と言いうよりはゲームとかだとベヒモスとか言わねえ?」

 「油の少ない牛肉だと思いましょう♪」

 「よし、ひと狩り行くぜ!」


 木陰から躍り出るドラゴンシフター達、驚いた怪獣がドラゴンシフターに角で襲い掛かるがドラゴンシフターは怪獣の角を陽手で掴んで突進を止めた!


 「……ふん、悪いが俺達の飯になってもらう! 今だ、二号っ!」

 「はい、赤龍宝珠セット、赤熱突きっ!」


 ドラゴンシフター二号が、龍牙大刀に赤い宝珠をセットして刀身を赤熱化させてからジャンプし槍を薙げるかの如く大刀を投擲して水牛怪獣の後頭部を貫いた!


 「すまない、その命は残さずいただく!」


 ドラゴンシフターは、相方と倒した水牛怪獣に黙祷した。


 倒した水牛怪獣を、変身を解いてきちんと焼いて食べ切った立磨達。


 「ごちそうさまでした」

 「骨は砕いて水に溶かして、大地に撒きましょう」

 「ああ、島の養分にして命の循環させよう」

 「こういう狩猟は人間からすれば残酷に見えるかも知れません」

 「まあ、人間も同じような事をしてきて今があるからそうは言えないんだどね」

 「そう言っていただけると幸いです」

 「身を持って知り、感じる事は大事だから」

 「流石は、龍王候補♪」

 「いや、さらっと何言ってるの?」

 「うふふ、実は祖父からご主人様を龍王の候補として鍛えろと母経由で言伝が♪」

 「ああ、そう言う花婿修行みたいなもんなのね?」

 「ええ、天候を司る他にも生命のサイクルの管理も龍神の仕事ですから♪」

 「わかった、俺を見込んでくれてると言うなら頑張るよ」


 ジンリーから、自分が次代の龍王の候補として見込まれたと知った立磨。


 ただの無茶振りではないと知った彼は、気持ちを落ち着けてやる気を入れる。


 食後の後片付けだと、怪獣の骨を砕いて水に溶かして大地に散布する二人。


 立磨は自分達もいつかは死んで、生命の循環の輪へ入るのだろうと思った。


 必要な碔だけ怪獣を狩り、素材を集めた二人は空を飛び怪獣達の島を去った。


 次に変身したドラゴンシフター達が巨大ロボットの金龍合神ごんりゅうごうじんに乗って訪れた場所は、宇宙空間だった。


 「まさか、天の川に来るとは思わなかったぜ」

 「美しいですね、私達は織姫と彦星のように離れはしませんが♪」


 コックピットの中から銀河系を見る二人。


 「しかし、鉄筋の鉄の材料も採掘しに来ることになるとはなしかも銀河に」

 「普通の鉄筋では激戦には耐えられませんから、神珍鉄しんちんてつで建てましょう♪」

 「いや、孫悟空の如意棒と同じ素材で作るって神の要塞かよ!」

 「龍たるもの、巣作りにはこだわりませんと♪」

 「逞し過ぎねえ、そのDIY精神っ?」

 「この金龍合神も、実はフレームは神珍鉄製なんですよ♪ 関節部分には、如意宝珠も組み込まれてます♪」

 「つまりこのロボット、無数の如意棒で出来てるから変幻自在だったのか! そう言う事なら性能は保証できるな」


 無人島とかあったら、嬉々として村を作りそうな嫁にやや呆れつつも機体を操作するドラゴンシフター。


 金龍合神の肩アーマーになっている龍の頭がスライドして、拳にアタッチメントされる。


 其処から龍の頭がぱっかりと百二十度で、口を開けば龍の牙がドリルとなりパンチと共に天の川の隕石に当てられる。


 「さあ、掘って掘ってまた掘って♪ と参りましょう♪」

 「まあ、生身で掘るより疲れないかな?」

 「お弁当もご用意してまいりました♪」

 「いや、遠足か!」


 銀河に来てまで、夫婦漫才を繰り広げるドラゴンシフター達。


 採掘した鉱物は、空間操作で虚空に穴として開けられた異次元のゲートに入れられれていく。


 「集められた鉱物は太上老君たいじょうろうくん様の八卦炉はっかろで加工していただける手はずになっております♪」

 「そこって、孫悟空を処刑する為に入れた所だよな?」

 「あれから何度か、改良されたらしいですよ♪」

 「いや、神仙の業界ってべらぼうじゃねえ?」

 「今更ですよ、ご主人様♪」

 「うん、今更だったな」


 採掘を終えたドラゴンシフター達は、地球へと帰還した。

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