第33話  正月のファイト

「昨日の今日だが、晴れ着姿のジンリーも綺麗だな♪」

「ありがとうございます、この蜜柑の髪飾りも和服にピッタリですね♪」

「元旦の餅つき大会も無事に終わり、一休みだな♪」

「ええ、これで日本のお正月を楽しめます♪」


 大晦日の激闘、元旦の餅つき大会と仕事を経て正月二日目の朝。


 事務所の住居部分は、鏡餅が飾られてお正月モードに模様替えされていた。


 金の龍が描かれた黄色の晴れ着姿のジンリーを見た立磨は、彼女を褒める。


 金髪クレオパトラカットの彼女の髪には、立磨が提案したクリスマスプレゼントの輪切りの蜜柑を模した金の髪飾りが付いていた。


 これで彼女が長ドスを持っていたら、アメリカ映画の武闘派女ヤクザ主人公だ。


「ご主人様にも晴れ着のご用意がございますので、お召し変えを♪」

「相変わらず虚空から物出すよな、って言い終わる間に俺も着替えさせられてる!」

「スマホをなぞるように、サクっとすませました♪」

「いや、相変わらずべらぼうすぎるな!」

「ご主人様のボディサイズは常に計測しておりますので、ベストフィットです♪」

「いや、その目はスカウターか?」

「ドラゴンアイは万能ですから♪」


 夫婦漫才をしつつゲームのアバターのスキンチェンジの如く、ジンリーにより仙術で着替えさせられた立磨。


 その姿は黒の着物に灰色の袴、七五三やらで見る着物だ。


 「まあ着替えちまったし、二人で並んで撮影しようか記念に♪」

 「動画も撮りましょう、永久保存で♪」


 立磨の提案にジンリーが乗り、二人で並ぶと彼女が指を鳴らす。


 それを合図に、虚空からにょろっと首からカメラを掲げたキョンシー服の小さな幽霊が出現した。


 「えっと、召鬼法しょうきほうだっけ?」

 「はい、仙術における召喚魔法です♪ 実家の式鬼達なのでご安心を♪」

 「うん、久しぶりに見たな後で彼らにお礼しないとね♪」

 「ええ、紙銭しせんのチップをはずみましょう♪」


 紙銭しせん、人間が使う紙幣とは異なりあの世で使う紙のお金を払うと告げると式鬼達が張り切り出した。


 ちょっとした撮影会のように立磨達はポーズを取って記念写真を撮った。


 「はい、手間賃です♪ お前達、ご主人様に感謝なさい♪」

 「謝謝♪ 謝謝♪」


 ジンリーが式鬼達へお年玉袋を渡して行くと、式鬼達は口々に立磨を讃えながら消えて行った。


 「じゃあ次は俺が撮るな♪」

 「え? お待ちください!」


 立磨がさらっと、自分とジンリーをスマホで撮影する。

 

 「驚いた顔してるなジンリー、でもいい顔してる♪」

 「……ふ、不意打ちは卑怯です! でも、攻めてくるご主人様も好きです♪」

 「じゃあ、ジンリーもスマホで撮ってくれよ♪」

 「では、後ろから私を抱きしめて下さい♪」

 「ああ、オッケ~♪」

 「船を借りて先端で撮影がしたくなりました♪」

 「いや、年明けから縁起悪いよ!」

 

 年が明けても夫婦漫才。


 互いのスマホで晴れ着姿を撮影し合い、バカップルぶりを炸裂させる二人。


 「明けましておめでとう、二人共♪」


 ほんわかした空気の中、虚空からジンリーに似たピンクの晴れ着姿の金髪を縦ロールのにした美女が出て来る。


 ジンリーの母である、ジンファであった。


 「出ましたね、妖怪あざとい女!」

 「ジンファ、独身の十七歳で~す♪」

 「ちょっと~、私もいるよ~♪」

 

 次に出て来たのは、こちらは金髪ツインテr-ルの眼鏡っ子のジンリン。


 晴れ着は鶯色だ。


 「ああ、二人とも明けましておめでとうございます」

 「ご主人様の心身は私のです!」

 

 ジンリーが立磨の前に割って入る。


 「晴れ着の立磨君との撮影ができると聞いて、来ちゃった♪」

 「お義兄さん、私達の晴れ着姿も似合うでしょ♪」

 「まあ、三人とも美人だからな」

 「二人共お帰り下さい、中国の正月はまだ先ですよ」


 言外に邪魔するなと釘をさすジンリー。


 「日本のお正月も楽しまないと♪ はい、立磨君にお年玉の課金♪」

 「運営側の不正行為はさせません!」

 

 ジンファをブロックするジンリー、立磨は若干あきれ顔。


 「お義兄さんは私達がいても良いみたいだよ、お姉ちゃん♪」

 「く、我が妹ながら小癪な!」

 「まあまあ、私達は側室で良いから皆で幸せになりましょう♪」

 「三人でお義兄さんと黄家の家系と明るい未来を守ろうよ、お姉ちゃん♪」

 「……ぐぬぬっ! 確かに、二人なら千歩譲っても致し方なしですが!」


 立磨を独占したいので火花をスパークさせるも、妹の提案に悩むジンリー。


 「いや、アホな事をやってないで三人共お節食おうぜ?」

 「かしこまりました、ただいまご用意いたします♪」


 だが、立磨当人の声に我を取り戻し食事の支度に取り掛かった。


 「立磨君、私もあ~んで食べさせて、社長権限で♪」

 「私も株主優待で、お義兄さんの手厚い接待をお願いしま~す♪」

 「いや、んな事で権力使わないで下さいよ!」

 「ご主人様、ならば私は正妻権限であなたの膝の上で食べさせて下さい♪」

 「ジンリーも、一番高いお酒頼んじゃうみたいなのやめなさい!」


 立磨は、騒がしいヒロインを含めた三匹の龍を相手に撮影会や食事での接待をする正月を迎えていた。


 「そういやあ、晴れ着を着たけど初詣はどうします? この島は、人工島だし神社はなかったような?」


 ある程度お節を食べ終えた時、立磨が三人に尋ねる。


 「止めておきましょう、私達は中国の神のグループの一派なので中国マフィアが何しに来たんだと思われますね」

 「いや、マフィアとか言うなよ? 妖怪とかからは、そう言う扱いなのは感じていたが」

 「西洋のドラゴンは、火山とかに住んでいる蛮族ですのであいつらの方が我々よりも危険です」


 西洋のドラゴンとは仲が悪いのか、自分達を棚上げして言うジンリー。


 「龍を祀っているお寺や神社なら、親戚の家だから良いかなってくらい?」

 「お酒とか手土産にすればいいんだけれど、未成年がいるから無しね♪」


 ジンリンとジンファが、自分達と他の神様との関係について補足する。


 「なるほど、気を付けときます」


 今後、他の神様と関わるようになった時の参考にしようと立磨は思った。


 「そう言えば兎年か、干支は」

 「ベトナムだと猫年ですね♪」

 「まさか、猫と兎が戦争するとかないよな・」

 「立磨君、迂闊にフラグになりそうな事は言っちゃ駄目!」

 「お義兄さん、言葉は因果を紡ぐから変な事言っちゃ駄目!」


 立磨の言葉にツッコむジンファとジンリン。


 「フラグは立てて打ち砕く物、兎が今年なら我等は来年の主役です♪」


 ジンリーが微笑む、今年の干支が猫であろうと兎であろうと敵なら倒すのみだ。


 「家のお姉ちゃんが脳筋でごめんなさい」

 「昔は丸くて可愛いかったのにこの子は!」


 よよよと泣きまねをする、ジンファとジンリン。


 「まあ、漫才は置いておいて本社の方は大丈夫なんですか?」

 

 会社の公式の冬休みは旧正月だからまだ先のはずだ、経営者がこっちに来て大丈夫なのだろうかと立磨は心配になった。


 「大丈夫よ、上が休まないとしたが休めないでしょ♪」

 「仕事の方は問題なし、金龍合神もメンテはできてるから♪」

 「そうそう、新年会もド派手にやるから参加してね♪」

 

 ジンファとジンリンが笑顔で答える。


 「まあ、次は新宴会と旧正月のお祝いで会いましょう♪」

 「私は今度、強化形態の太極宝珠たいきょくほうじゅの打ち合わせで会おうね♪」

 ジンファとジンリンは、満足したのか虚空の彼方へと瞬間移動で消えて行った。


 「やれやれ、今年も忙しくなりそうだな♪」

 「まあ、商売繁盛ですね♪」

 「あれ? ジンリー、着信来てる?」


 二人が帰って安堵した立磨とジンリー、立磨がジンリーのスマホが鳴り出したのに気づく。


 「はい、どうしましたナマズ?」

 「大変です、新年早々倉庫街でチョッパーのウサギ怪人と凶星忍軍の猫らしい怪人が戦闘してます!」

 「わかりました、出動します。 ご主人様、ナマズより事件の通報です」

 「仕方ないな、雑煮は帰ってからだな♪」

 「はい、行きましょう♪」


 立磨とジンリーは、颯爽と晴れ着から普段着に着替えて出動した。


 正月のめでたさを象徴するかのような快晴。


 海は穏やかだが、港は鉄火場であった。


 「ふざけんな忍者野郎、kのシャケは俺達チョッパーが売りさばくんだ!」

 「貴様らが密漁で奪ったシャケ、我らの祝いの席の為に頂戴する!」


 兎を模した銀色の怪人、ラビットシルバーと白い忍者装束を着た黒猫の怪人が刀と杵で鍔迫り合いをしていた。


 双方の組織の戦闘員達も激しく組み合う。


 「「ダブルファンロンサンダー!」」


 空から男女の叫び声と共に、金色の稲妻が降り注ぎ怪人達を吹き飛ばす。


 「ドラゴンシフター参上!」

 「同じくドラゴンシフター二号、参上です!」


 倉庫の屋根の上から現れたダブルドラゴンシフター。


 二人の雷撃によって戦闘員達は滅び、残ったのは怪人達。


 「おのれ忌まわしきヒーローめ!」

 「出やがったな、金ぴか蛇野郎!」


 ヒーローの登場により、争いをやめてドラゴンシフターに狙いを変える怪人達。


 「兎と猫だな」

 「今後は迂闊なフラグ立てはなさいませんように?」

 「何がフラグになるかわからねえよ!」


 ドラゴンシフターがラビットシルバーを、二号が黒猫の忍者を相手にする。


 「地獄へ落ちろ賞金首!」

 「お前が落ちろ!」


 振り下ろされる敵の杵を、拳で殴り返して立ち向かうドラゴンシフター。


 「中忍ナーゴ、ドラゴンシフター殺すべし!」

 「お断りいたします、宝珠チェンジ!」


 二号は赤龍フォームに変更し、火炎放射でナーゴを迎え撃つ。


 「兎は杵だけじゃないんだぜ、ラビットキック!」

 「筋肉馬鹿か? 付き合てやるよ、ファンロンキック!」


 銀の兔と金の龍、双方が金と銀のエネルギーを全身から放出しながらの跳び蹴りがぶつかり合いせめぎ合う!


 「兎が龍に負けるわけがねえ♪」

 「やかましい、主役は俺だ~~~っ!」

 「ぐわ~~っ!」


 ドラゴンシフターのファンロンキックのエネルギーが増幅し、巨大な金の龍の頭となってラビットシルバーを噛み砕き消し去った。


 兎と龍、どちらも干支のモチーフの対決は龍の干支ことドラゴンシフターが勝利したのであった。


 「おっしゃ、二号は無事か!」


 地面に着地して、相方を案じるドラゴンシフター。


 「おのれ、奴はやられたか!」

 「貴方も後を追いなさい、赤龍ホールド!」


 ドラゴンシフター二号も、巨大な炎の龍を生み出してナーゴへと打ち出す。


 「何っ、回避しても追尾してくるだと!」


 炎の龍から逃げ回るナーゴだが、二号が生み出した炎の赤龍は獲物を逃さず巻き付き締め上げながら焼き上げた。


 「ご安心下さい、こちらも勝利しましたので♪」

 

 落ち着き払った様子で答える二号。


 「ああ、良かった♪ 状況は終了だな」

 「はい、お疲れ様でした♪ 後はナマズに連絡して事後処理は任せましょう」

 「そうだな、帰ろうか♪」


 二人は変身を解くと、現場から立ち去り帰宅したのであった。

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