第32話 ドラゴンシフターの年越し

 「ふう、忘年会はとんでもない目にあったな」

 「まったくですね、ヒーローと悪党に盆暮れ正月はないとは言いますが」

 「働き方改革が必要だよな、まだまだ」

 「この島は日本なので冬休みですが、私達の会社の冬休みはまだ先です」

 「忘れがちだが、家は中国の会社だから旧正月が会社の冬休みになるんだよな」


 ベアゴールドと遭遇し、激闘を乗り切った忘年会から数日後。

 

 大晦日、事務所の大掃除をしながら語る立磨とジンリー。


 そんなに広くはなく物も少ないオフィスなので、割と早めに掃除自体は済んだ。


 「正月を二度お祝いする事になりますが、お節料理のご用意はお任せ下さい♪」

 「魚関係に不自由しなくなったって、魚食う民族としては素晴らしいぜ♪」


 龍は魚類の王、王様が国民を拉致して食い殺してる事になるよな?


 ふと、立磨は共食いとかじゃねと思ってしまった。


 「食べたり食べられたりは、普通の事ですよ♪」

 「美味い物は美味いから仕方ないな、美味しく食べて供養しよう」


 食うか食われるかの運命、生きる為には食える物は何でも食う。


 「食い物で思い出したけれど、明日は全国ヒーロー餅つき大会の仕事か」

 「依頼主がヒーロー連合なので基本の報酬は低いですが、精神衛生に良い案件でしたので受けさせていただきました♪」

 「餅をついて雑煮や汁粉にして炊き出し、ダイレクトに人の役に立つ仕事だ♪」


 全国ヒーロー餅つき大会。


 それは、日本全国の野球場などを借りて行われる一大イベント。


 ヒーロー達が搗いた餅は、各地の会場に来れない人用にパッケージされたり煎餅に変えられたりして無料で日本全国に満遍なく配られるからフードロスはない。


 「ヒーローにとって、飢えも倒すべき敵ですからね」

 「飢えから悪事に走るなんてのは、今でもあるからな」

 「クライゾーンなど、人の心の闇を好む悪党がつけこみやすいです」


 衣食足りて礼節を知るという言葉があるように、食は社会基盤の一角だ。


 食う為に又は食わせる為にを理由に悪事を働くと言うのは、古代からの人の悪業。


 「新しい年になるのに、気分が暗くなるな」

 「ええ、暗さは適度には必要ですが今は無用です」


 一旦、話を止める二人。


 「気を取り直して来年になりますが、ジンリンが新たな宝珠の開発に協力して欲しいとの事です♪」

 「宝珠か、俺も龍になったから作れるっちゃ作れるんだよな自覚ないけど」

 「初期は、私の宝珠をお渡ししておりました♪」

 「もしかして、バックル変えてからの宝珠って付属品とかでなくて俺の自前?」

 「はい♪ ゲームで言う所の新規キャラ作成ですね♪」

 「初期の頃は、高レベルのセーブデータでプレイしてたみたいなあれか?」

 「レベル上げは一生ですよ、ご主人様♪」

 「頑張ってレベル上げて強くなるよ」

 「で、新しい宝珠ってどういうコンセプト?」

 「ええ、私とご主人様が生身で一体化する為の宝珠です♪」

 「俺達は、二人で一人のドラゴンシフターだ♪ とかやる?」

 「そういう事も出来ますが、宇宙の巨人の方々のノリです♪」

 「ああ、そっちか? イメージがつかめた♪」


 新たなパワーアップアイテムのコンセプトを理解する立磨。


 彼女と 話しつつも、公式ブログの更新などの任された仕事を行う。


 「と言うわけで鬼に笑われようとも来年も色々とあります♪」

 「おっけ♪ じゃあ、取り敢えず事務所で今日やる仕事は終わりだな♪」

 「はい、ひとまず今年もお疲れ様でした♪」 

 「ああ、お疲れさま来年も宜しく♪」

 「宜しくお願いします♪」


 ひとまずの年内の仕事を終え、住居へと戻った二人。


 ひとまずと言うのは、所属するロンスターでの仕事は終わりと言う事。


 夜回りもするし事件が起これば出動となるので、待機時間でもあった。


 「ご実家へは旧正月に参りましょうか♪」

 「そうだな、明日は餅つき大会だし帰れないからな」


 ジンリーと居間で桃饅頭で飲茶をしながら語る立磨。


 「もうすっかり、ご主人様は黄家の事言う感じですね♪」

 「ああ、すっかり染まったので今更実家に帰っても違和感が出る」


 実質婿入り状態なので、立磨にとって今や黄家の方が実家と言う感じだった。


 飲茶を終えたら本日のメイン、年越しそばならぬ年越しラーメンだ。


 「さて、二人の愛の共同作業の時間がやって参りました♪」

 「いや、間違いではないけれど言い方っ!」


 ジンリーにツッコむ立磨、夫婦漫才では相も変わらず立磨の方がツッコみ役だ。


 「まあまあ♪ 楽しくお料理と参りましょう、下拵えはすでにできております♪」

 「数分くキングか! いや、下拵えありがとうございます」

 「いえいえ、ご主人様は生地をこねて切って製麺をお願いいたします♪」

 「おっし、気合い入れて作るぜ♪」

 「それでは、クッキングスタート♪」


 料理番組なら軽快な音楽が流れて出て来そうなノリで、夫婦漫才をしながら二人は調理作業を始める。


 「うおお、ドラゴンパワー!」


 キッチンで立磨が生地をこねる¥、ジンリーがスープの鍋と麺を茹でる湯の鍋をコンロの火にかける。


 「ちなみにスープはどんな感じ♪」

 「羊の肉と骨を出汁にした、辛味噌味でございます♪」

 「オッケ~♪ 後は麵が茹で上がれば完成だ~♪」

 「湯切りは私にお任せを♪」

 

 立磨が湯の鍋へと麺を投入、後は茹で上がった麺とスープを合わせれば完成♪


 「そしてラーメンだけでなく、ラーメンのスープでチャーハンも作ります♪」

 「俺は、生地の残りで餃子作りだ♪」


 ジンリーがチャーハンを作り、立磨がラーメンにも使った羊肉でできた餡を生地に包んで餃子を作ってと中華な年越しメニューを二人で作って行く。


 「いただきます♪」

 「召し上がれ♪」


 完成した料理を、居間で仲良く二人で食べる立磨とジンリー。


 「……はあ♪ 愛しい方の手でこねられた麺、至福です♪」

 「いや、恍惚としたセクシーな表情でラーメン食うなよ?」

 「真面目な業務モードは終わりましたので、蕩けております」

 「わかった、その分俺が気を引き締めるよ」

 「今日はもう、事件などは他のヒーローに任せてもいいのでは?」

 「気持ちはわかるが、食事したら夜回りだからな自治会の」

 「はい、夜のデートですね♪」

 「うん、メンタルがポジティブすぎるな」

 「私、テンションは上昇中でございます♪」

 「俺達、ヒーロー漫才でもやろうか?」

 「私が的確なツッコみを入れますね♪」

 「いや、お前がボケだろ!」


 夫婦漫才をしながら食事をする立磨とジンリー。


 「でも、飯が美味い事は確かだな♪」

 「この日の為に仕込んでおきました♪」

 「いつの間にと言いたくなるな」

 「仙術を応用してあれこれと♪」

 「仙術とは一体? 不老不死目指してる人達の技なんじゃないの?」

 「神仙の方々は、その過程で退屈しのぎに超兵器作ってる方達なので♪」

 「封神演義とか大概すぎるからな、まだ仙人には会った事はないけれど」

 「まあ、基本は籠られてますからね♪ 餃子も素晴らしい♪」

 「うん、チャーハンも美味いな」


 スルーする所はスルーする立磨であった。


 楽しい年越しの晩餐を終えた二人は、後片付けをすると真面目な顔になる。


 「それでは、年内最後の変身と参りましょうか?」

 「ああ、今年最後のドラゴンシフトだ!」


 二人が事務所の前で、バックルを腰に当てるとベルトになってセットされる。


 「「ドラゴンシフト!」」


 立磨とジンリーが同時に叫び、バックルの中央部に黄色の宝珠を嵌め込み龍の手の形のスイッチを指で弾いて作動させる!


 二人の全身が発光し、金色の龍の装甲を纏った正義の戦士。


 ドラゴンシフターとドラゴンシフター二号へと変身した!


 「さて、夜回りに行くか♪」

 「はい、夜のデートに参りましょう♪」

 「デートじゃない!」


 変身してもボケをかます相方にツッコミみとお約束をしてから二人は、ジャンプして空へと舞い上がった。


 「さてと、大晦日だってのにあちこちで事件が起きてるな?」

 「取り敢えず、他のヒーローが動いていない所に向かいましょう」

 「おっけ、じゃあ中央通りの銀行からだな!」

 「バンクラーの銀応強盗ですね、潰しましょう!」


 空中で正体看破以外にも索敵に使える能力のドラゴンアイで、自分達が向かう場所を決めた二人は龍となって空を駆けた!


 「グオオオゥ! 今年最後の大仕事じゃ!」


 過行く干支の怪人、虎の姿をしたバンクラーの強盗獣タイガークラ―が吠える。


 「お前の命も今年で最後だよ!」

 「明日からは兎年なので、虎には死んでいただきます!」


 空から舞い降りて、タイガークラ―の前に立ちはだかるダブルドラゴンシフター。


 「げげっ! お前らは噂の金ぴか野郎どもっ!」

 「いや、どんな噂だよ!」

 「きっと、世界一仲の良い夫婦のヒーローという噂でしょう♪」

 「うん、俺らの仲の良さは否定しないがそれはないかな?」


 敵の前でも夫婦漫才をするドラゴンシフター、あくまでもこれは敵を挑発し思考をかき乱す作戦だ。


 「腐れリア充のバカップルヒーロー共、地獄へ送ってやるっ!」


 ドラゴンシフター達の煽りに乗せられたタイガークラ―が、ブチ切れて襲い来る!


 両手から爪を生やし、大地を蹴って砲弾の如く突進するタイガークラ―。


 「そら来た♪ 行くぜ相棒♪」

 「お任せ下さい、マイダーリン♪」


 「「ダブルファンロンストレート!」」


 掛け合いをしながら、二人同時に足を踏み金色の光りを纏った拳を突き出す!


 激しい衝突音を上げて、タイガークラ―が交通事故の如く突き飛ばされた!


 「がはっ! 畜生、まだやられねえぞ! デーモアップだ!」


 タイガークラ―が起き上がり、虚空から黒いバイザー型のデーモマスクを取り出して顔に当てる。


 虎人間から、漆黒の鎧を纏った怪人に変身したタイガークラ―。


 全身から夜でも黒いと認識できる闇を噴き出して、再び襲い掛かって来た!


 「上等だ、邪悪な闇は光で打ち砕く!」

 「行きましょう、次で決めます!」

 「ああ、全力全開で叩き込む!」


 「「ダブルファンロンキ~~ック!」」


 ドラゴンシフター達が、全身から金色の炎と言うべきエネルギーを噴出させて跳び蹴りで迎え撃つ!


 光と闇のぶつかり合いを制したのは、光の側。


 ドラゴンシフター達の必殺キックを受けたタイガークラ―は、ガラスが割れるように全身が砕けて風に流されて消滅した。


 技を決めて着地し、残心を決めるドラゴンシフター達。


 「良し、これにて状況終了♪」

 「はい、今年もお疲れ様でした♪」


 変身を解き、立磨とジンリーに戻る二人。


 「うん、ジンリーもありがとうな♪」

 「いえいえ、ところでこれからどうしましょうか♪」

 「近くの教会で、自由参加のカウントダウンがこれからみたいだから行こう♪」

 「はい、やはり夜のデートでしたね♪」


 突発の事件を片付けて、年越しのカウントダウンへと出かける二人であった。

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