第29話 クリスマスと忍者 前編

 「ふう、何とかクリスマスを無事に迎えられたぜ♪」

 「お疲れ様でした♪ 成績も体育と文系科目が高成績で、理数系科目は平均点越えと無事に補習を回避できましたね♪」


 昼間の香港の海の上、会社の所有する豪華客船のデッキで立磨とジンリーは海を眺めながら語り合う。


 「ああ、そのおかげでここに来られてるよ♪ あれ、映画で見る観覧車だ♪」

 「パークでデートするのもありでしたね♪」


 二人の格好はまだ夜のパーティーの時間ではないので、立磨は学校の制服姿。


 ジンリーも仕事用のパンツスーツだ。


 「しかし、何も起きないとは言い切れないよなこういう時間を過ごしていても」

 「そうですね、悪党はこっちの休みとか気にしないですし」


 ヒーローと言う職業柄、平和な時間を過ごしていても事件の事が頭に浮かぶ。


 クリスマスは悪党が事件を起こす確率は百パーセント、この時期はどこもかしこもパーティーをするなら対策しようとヒーローを呼んで事件に備えていた。


 「その点この船は、参加者が全員戦力と敵に対してオーバーキルになるな♪」

 「船のスタッフも、参加者もほとんど龍宮の水怪すいかいや龍ですからね♪」

 「むしろ、俺達が海難救助とかに行く流れになる面子だよな」

 「今日はオフですから、大丈夫なはずです♪」

 「だと良いんだけどな?」

 「来たとしても、返り討ちにできます♪」

 「ちょっとした腹ごなしにされるよな、敵の方が哀れだよ」


 万が一敵が来ても、余裕で返り討ちにできる体制を整えていた。


 船の乗員のほぼ全員の正体が妖怪や龍、攻める方が地獄である。


 「まあ、来てからどう料理するかを考えれば良いか?」

 「ええ、今日は楽しいクリスマスイブなんですから♪」

 「とは言ってもパーティーまでは、まだ時間が大分あるな?」

 「それなら、船内でデートと参りませんか♪」


 立磨と景色を眺めつつジンリーが提案する。


 「ああ、そうだな悪い! 俺が鈍感だった!」

 「いえいえ、お疲れなのは存じておりましたから♪」

 「そりゃお互い様だよ♪ 俺、船旅は初めてなんだよな」

 「私としては、船室で二人きりで過ごすと言うのもお勧めですよ♪」

 「いや、それは出られなくなる奴だろ?」


 二人で船内に入り、何処へ行こうかとマップを見て話し合う。


 取り敢えず、九層ある船の中で、レストランがあるフロアへ向かう事にした二人。


 「何故、船内に甘味処があるんだろう? あんみつでも食べようか?」

 「母が和スイーツ好きなのです♪」


 立磨達が甘味処へと入ると、白い割烹着を着た鯉の半魚人の店員が出迎えた。


 「いらっしゃいませ、二名様ご案内いたします♪」


 鯉の店員さんが可愛らしい女性の声でしゃべる。


 「そう言えば、この船は全部龍宮の息がかかっていたんだった」

 「乗客も全員身内ですから、人間態にならずに仕事してますね♪」


 立磨は鯉の店員に驚いたが、すぐに正気を取り戻して席に着く。


 「すみません、クリームあんみつを二つで♪」

 「かしこまりました~♪」


 立磨の代わりにジンリーが注文する。


 「悪い、自分ももう龍になったのに時々驚いちまう」

 「いえいえ、まだ龍となって一年未満なのですから♪」


 体は龍でも気持ちは人間、立磨は龍の生き方にまだまだ不慣れであった。


 甘味処での休憩を終えて、再び船内でのデートを再開する立磨とジンリー。


 「ジンリーの笑顔って、やっぱり良いな♪」

 「ああ、そのお言葉で私は成仏してしまいそうです♪」


 ジンリーの背から後光が溢れる。


 「いや、成仏は早いから!」

 「ええ、死ぬ時も生まれ変わる時も一緒です♪」

 「縁起の悪い事は言わない!」


 夫婦漫才をしつつ船の中を進む二人。


 初めて見る客船の中は、小さな街と言う印象であった。


 「ここは、ホテルとデパートを纏めて船の中に入れたと言う具合ですね」

 「そう言う感じだなあ、レストランにカフェに寿司屋にバーラウンジに」

 「娯楽は精神の栄養ですからね、この先にシアタールームがあるそうです」

 「じゃあ、行って見ようか」

 

 船の中を探検し、今度はシアタールームへと入る二人。


 「運が良く二人きりだな♪」

 「はい、愛する人と映画デート♪」

 「上映作品は、スペースサンタ? 何か、微妙に気になるな」

 「B級ですね、まあ二人で同じ時間を過ごす事が大事なので良いでしょう♪」


 どんな偶然か、二人きりのシアターで映画を見る立磨とジンリー。


 映画の内容はクリスマスイブに地球を攻めて来た。悪の宇宙人をサンタクロース達が迎え撃つと言うアクション映画であった。


 内容はB級だが、ロマンスありバトルありで立磨とジンリーは手を握りながらそれなりに楽しく鑑賞できた。


 「……ふ、不覚です! このジンリー、B級映画で泣かされるとは!」

 「いや、世の中にはメジャーでないけど琴線に触れる作品ってあるな」

 「これは、私達に子供が生まれたら見せましょう!」

 「いや、そこまで気に入ったの?」

 

 ハンカチで涙を拭きながら、シアターから出てくるジンリー。


 「まあ、俺も映画デートができて良かったぜ」


 隣の席で握ったジンリーの手の感触は、生涯忘れないだろう。


 「ええ、私もご主人様と出会い結ばれてから初めてまともなデートが出来た事に感動しております♪」


 感涙の次は嬉し泣きをするジンリー、微笑む顔からは涙が垂れていた。


 立磨はジンリーの涙をその手でぬぐう。


 「俺も今日の事は忘れない」

 「はい♪ これはもう、子孫に代々語り継がせたくなる思い出です♪」

 

 立磨とジンリーの二人は、また一つ思い出を作り絆を深めた。


 「……ジンリー、腕組んで行こうか?」

 「はい、もうグルグルに♪」


 立磨が出した腕に、ジンリーががっしりと自分の腕で絡みつく。


 バカップルの平和なひと時、幸せな時間。


 その終わりを告げたのは、立磨達を呼び出す船内放送であった。


 「どうしたんですか!」

 「私達を呼び出すなんて、事件でしょうか?」


 二人が甲板に出てくると、ずぶぬれで頭部や胸から血を流し切り傷や弾痕のある赤のサンタクロース服を着た老人男性がスタッフ達に保護されていた。


 「……君達がこの船のヒーローか? すまないが、力を貸してほしい!」


 船にいた龍に、体に光を当てられる応急処置をされたサンタの老人。


 老人の言葉に、スイッチを切り替えて頷く立磨とジンリー。


 立磨とジンリーの目には老人の全身から出る白い光のオーラが見えており。老人が本物のサンタクロースであると理解していた。


 「もしや、サンタさんの基地が襲われたのか?」

 「アジア地域のサンタの基地と言うと、天山山脈てんざんさんみゃくから来られたのですか?」


 立磨とジンリーの言葉にサンタが頷く。


 サンタクロース、それは世界でも古い起源を持つヒーロー。


 現在では遥か銀河にまで物資集積所を兼ねた基地を持ち、ライセンスを発行して人員を増強して活動の範囲を広げている夢と希望の守護者達。


 過去に三度行われた恐怖の大王軍との世界大戦でも、物資の輸送や潜入能力による諜報活動に破壊工作で活躍した西洋の忍者とも呼べる大英雄だ。


 ヒーローもサンタクロースのライセンスを持つ者が多く、この時期は協力して世界平和の維持に励んでいた。


 サンタクロースの基地があるなら、サンタのプレゼントを奪おうと基地を襲う悪党も出て来て攻防戦が勃発する事がちょくちょくある。


 「子供の頃にプレゼントを貰った恩がある、ヒーローは助け合い! わかりました、サンタさんはここで休んでいて下さい!」

 「子供の頃からお世話になった方達の危機は見過ごせませんね、アジア基地は私達が救援に向かいます!」


 立磨とジンリーはドラゴンシフトと叫んで変身し、空へと飛び立った。


 雪に覆われた天山山脈の谷間。


 白いドーム型の巨大な基地を巡り、サンタクロースの戦闘部隊であるブラックサンタ達と凶星忍軍|ルビを入力…《きょうせいにんぐん》の忍者達が激闘を繰り広げていた。


 「サンタ殺すべし、プレゼント奪うべし!」

 「そんな事はさせん、子供達に夢と希望を届けるんじゃ!」


 下忍が手裏剣を投擲すれば、片手に白兵戦用の斧を装備したブラックサンタが空いている手からビームを出して応戦する。


 「悪党ども、黒炭を喰らえっ!」


 悪い子の家には黒炭を送り付ける、ブラックサンタが白い袋を開ければ無数の黒炭が発射されて大爆発を起こし敵の下忍達を爆散させた。


 だが凶星忍軍達も諦めてはいない、ゲートを開けて続々と下忍達を出現させる。


 出現した下忍達は様々な姿の怪物へと変化して、ブラックサンタ達の棒沿線を突破せんと突撃して来た!


 「そこまでだ、悪党ども!」

 「我らドラゴンシフター、サンタクロースの皆様に加勢いたします!」


 空に現れた二頭の金の龍、ドラゴンシフターの登場だ!


 ドラゴンシフターと二号が口を開けて金色のビームであるドラゴンブレスを吐いて敵を蹴散らし人間形態になって着地する!


 「お前さん達はヒーローか? あいつは無事か?」


 ブラックサンタの一人がやって来て、ドラゴンシフター達に尋ねる。


 「俺達の所に来た方は、こちらで保護して治療してます!」

 「我が株式会社ロンスターも商品を提供した身、見過ごすわけには参りません!」

 「協力感謝する!」


 ダブルドラゴンシフターとブラックサンタ達の合同チームが此処に発足、クリスマスを守る為の戦いが始まった。


 「ヒーローだと? たかが二人、やってしまえ!」


 現場指揮官らしい白装束の忍者が叫べば、正体は異形の怪物達である下忍の群れが襲い来る。


 「行くぜ二号♪」

 「お任せあれ♪」


 「「ダブルファンロンクエイク!」」


 ダブルドラゴンシフターが足踏みをすれば、敵の方にだけ地震が起こり一気に敵が倒れ出した!


 「こっちも行くぞ、黒炭爆撃じゃ!」


 敵が倒れた所へブラックサンタ達がプレゼント袋を開けて、曲射で黒炭の雨を降らせて止めを刺す!


 前線はヒーロー側が押し返していた。


 しかし、突如後方のサンタ達のアジア基地から爆発音が鳴り響いた!


 「しまった! 後方からも敵が来ていたのか!」

 「分担しますか?」


 ドラゴンシフター達はどうするか考える。


 「おい、ここはこちらに任せて二人は基地の方を頼む!」


 ブラックサンタの一人がドラゴンシフター達に頼む。


 「わかりました、必ず戻ります!」

 「お時間をいただきます、ご武運を!」


 かくして、ある程度持ち直した前線はブラックサンタ達に任せてドラゴンシフター達は基地の方への救援へと向かった。

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