第28話 仮面の強盗獣と巨大戦

 「クライゾーンがついに、デーモニウムを加工したアイテムで商売を始めたか」

 「あの仮面、一般人の手に渡ると危険ですね」


 前回の戦いの翌日、午前中の業務の休憩時間に事務所で語り合う立磨とジンリー。


 「うん、俺もジンリーに力を与えてもらった身だから言えるが力を得たら使いたくなるのが人間だからな」

 「私達のような武装したヒーローだから対応できたものの、力なき一般人には自分を殺せる恐るべき凶器になるアイテムですからねあの仮面は」


 チョッパーの怪人薬のように、安易に普通の人間を越える力を得られる道具。


 それは力があれば叶えられる欲望を持つ者にとっては、最高の餌だ。


 「生活で心を壊された無敵の人など、喜んで飛びつくでしょうね」

 「変な正義感の強い人も危ないよ? 善人も暴走すれば、下手な悪人よりヤバい」

 「誰が手にしても世の中が乱れれば負の思念が生まれて、それを糧にするクライゾーンの得になりますね」


 ジンリーが溜息を吐く、クライゾーンは人間の負の感情が生み出すエネルギーを資源とする悪の組織だ。


 デーモマスクがどんな相手に渡ったとしても、使われれば被害者から負の感情が生まれて奴らの得になる。


 「だが、そうは問屋が卸さないのが俺達ヒーローだ」

 

 立磨が拳を握る、悪の好き勝手で人々を泣かせたり苦しませる奴は許さん。


 「流石です♪ ところで今、ヒーローを志された時の事を思い出されましたか?」


 ジンリーは立磨から何かを感じた。


 「ああ、幼稚園の時の記憶を思い出したぜ。 遠足の日に、幼稚園がチョッパーに襲われたんだよ」


 立磨が思い出した過去を呟く。


 ヒーローと悪が戦うのが、それなりによくある時代に生まれた立磨。


 ヒーローは警察官などの職業の人で、時折ニュースで見る程度の認識だった。


 立磨が通っていた幼稚園も、例外ではなく悪の組織の襲撃にあってしまった。


 「確か、幼稚園の教諭の方がヒーローの資格持ちの方だったんでしたね」


 その頃はジンリーも中国で子供時代を過ごしており、後から事件の事を知った。


 「ああ、花子先生が変身して俺達を助けてくれたんだ♪ 俺も、あの時の先生みたいになりたくてヒーローを目指して今に至るわけだ」


 立磨が思い出を語り終えると、ジンリーが微笑む。


 「素敵な思い出ですね♪ 今は私もおりますので、共に頑張りましょう♪」

 「ああ、宜しく頼むぜ♪ でも、ジンリーの事も大事にするからな?」

 「ありがとうございます、お互いに大事にですね♪」


 太陽の輝きの如く、素晴らしい笑顔で語るジンリー。


 二人が語り合っていると、インターホンが鳴り事務所に来客があった。


 「珍しいな、誰だろ?」

 「ご安心下さい、味方です」


 立磨が気にすると、ジンリーがドラゴンアイを使い瞳を光らせてドア越しで来客を確認すると微笑んだ。


 「失礼いたします、姫と若旦那♪」


 現れたのは、金のヒョウ柄シャツに黒のレザーパンツと言うワイルドな服装をした美形の坊主頭の中年男性であった。


 「ああ、もしかしてヒョウモンダコさんですか?」


 立磨が見えたタコのオーラから、来客の正体を察する。


 「ええ、結婚式では姫の髪のお手入れをしておりましたスタイリストのヒョウモンダコです♪」

 

 名乗るヒョウモンダコ、彼もドラゴンイレギュラーズだ。


 「珍しいですね、あなたがこちらに来るなんて?」


 ジンリーがキョトンとした顔で呟く。


 「尾行はされてないから安心して、二人の耳に入れておいてほしい話を拾ったので差し入れとタレコミよ♪」

 「うっす、ありがとうございます」


 立磨が差し入れのタコ焼きを受け取ると、ヒョウモンダコがおネエ口調で語る。


 「近所で悪さしてた半グレを締めて聞いたんだけどクライゾーンの奴ら、次はバンクラーに例の仮面を売るみたいよ?」

 「バンクラーかよ、奴らなら容赦しなくて済むけど」

 「なるほど、と言う事は巨大戦も想定しておく必要がありますね」


 ジンリーと立磨がそれぞれ感想を漏らす。


 「ええ、皆と探りを入れてくるからお二人は殴り込みの用意をしておいてね♪」


 ヒョウモンダコがウィンクをする。


 「うっす、情報提供ありがとうございました」

 「ありがとうございます、解決したらクリスマスは皆で楽しみましょう♪」

 「ええ、今年は船上パーティーって聞いてるから楽しみ♪」

 「そうなんですか? 気合い入れて、頑張ります」

 「若旦那は、当日は私と蟹でコーディネートしてあげるから楽しみにね♪」

 「そういやあ表の顔は美容師さんでしたね、蟹は将軍さんなんじゃ?」

 「服飾の蟹もいるのよ♪ それじゃあね♪」


 そう言うと、ヒョウモンダコはクールに去って行った。


 「イレギュラーズ、色々な個性の人がいるなあ」

 「ええ、自慢のスペシャリスト達です♪ ヒョウモンダコは、高スペックな忍術の達人ですので彼の言う事なら間違いないでしょう」

 「確かに、墨を吐いたりとか忍者っぽい事が出来そうだよな蛸って」

 

 ヒョウモンダコを見送った立磨達は、貰ったタコ焼きを食べた。


 「そういやジンリーの学生時代とかは、どんなだったんだ?」


 立磨はジンリーの過去が気になった。


 「はい、私の過去はずっと女子校育ちでして」

 「そうだったんだ、楽しかった?」

 「楽しさと辛さが半々でしたね、この頃の体形から動ける美形デブゴン等と不名誉な呼ばれ方をしておりました」


 ジンリーが、虚空から写真を取り出して見せた。


 ピンクのブレザーに、グレーのスカートの制服姿。


 金髪クレオパトラカットと今のジンリーと変わらない髪型だが、写真の彼女は可愛らしいが太めの女の子だった。


 漫画だと、柔道部や野球部のキャッチャーと言うポジな女の子がそこにいた。


 「うん、でもこっちのジンリーも穏やかな感じで可愛らしいな♪」

 「お恥ずかしい限りですが、そう仰っていただけて嬉しいです♪」

 「お世辞や嘘は言ってないぜ? ジンリーの事を知れてよかったよ」

 「私、隠し立てするようなやましい過去はございませんから♪」

 「いや、ストーキングはやましいよね?」

 「夫となる方の身辺調査は、何も問題ありません♪」


 二人は夫婦漫才をしつつ業務をこなして、時が過ぎて行った。


 「貴殿がキーロック殿か、お初にお目にかかる」

 

 テツベンダーが夜の廃工場の中で、金属製のトランクを持って待っている。


 しばらくして、虚空に穴が開き一人の人物が現れた。


 「ええ、私がバンクラーの経理幹部キーロックです宜しくお願いします♪」


 上下を白の高級スーツに包み、耳には金の錠前のイヤリングを付けた青白い肌に紫の髪をオールバックにした眼鏡の美青年が嫌らしく笑う。


 「こちらもお題をご用意いたしました、誠に嫌なんですが♪」


 キーロックが指を鳴らすと、彼の影から戦闘員が現れて銀のトランクを差し出す。


 キーロックがトランクを開けると、中には金塊の束。


 テツベンダーもトランクを開けると、中には黒いバイザーの形のデーモマスク。


 「ふむ、どうやら他の悪の組織のように誤魔化したりしないようですね?」

 「我らはつまらん小細工はせんのである」

 「素晴らしいです、では交換しましょう♪」


 テツベンダーとキーロックが、トランクを交換した時であった。


 「そこまでだ、ダークカルテット!」

 「大人しくその首を差し出しなさい!」


 ドラゴンシフターと二号が、廃工場の壁を壊してエントリーして来た。


 「断るのである、さらば!」

 「蛮族ですか、こちらも失礼しますよ! 仮面強盗獣,カモン!」


 両組織の幹部が瞬間移動で消えるのと入れ替わりに出現したのは、サングラスをかけたスパナが前飾りの兜の騎士という風体の怪人スパナクラ―だ!


 「ス~~パ~~ナ~~~ッ!」


 スパナクラ―は登場と同時に巨大化を始めた。


 「いきなり巨大戦かよ!」

 「こちらも出て金龍合神ごんりゅごうじんで迎え撃ちましょう!」


 ドラゴンシフター達も、廃工場を抜け出してロボを呼び出す。


 「まずはお約束の、周囲への被害ゼロを忘れずに!」

 「壺中天フィールド発動っ!」


 市街への被害はゼロ災で行こうと、適ごと特殊空間へ転移する金龍合神。


 物静かな水墨画空間で、スパナクラ―と対決を始める!


 「クラ~~~ッ!」


 スパナクラ―が虚空から巨大なスパナを生み出して振り回す!


 「おっと、危ねえ!」


 金龍合神が腕でガードをすると、鈍い打撃音が鳴り火花が散る!


 「距離を取って、龍頭鉄拳弾で行きましょう!」

 「よっし、行くぜ!」


 二号の提案でドラゴンシフターが操作しバックステップからの、龍の頭の形をしたナックルガードで覆われた拳を射出する!


 「クラッ!」


 だが、スパナクラ―は巨大スパナを振るい飛んできた拳を打ち返した。


 「すみません、ミスでした!」

 「気にすんな、そう言う時もある!」


 金龍合神が拳を腕に戻して、勝負は仕切り直し。


 「龍顎粉砕、ファンロンファングっ!」


 金龍合神が片腕を突き出せば、龍の頭のナックルガードの口が開きスパナクラ―の巨大スパナを噛んで挟む!


 「もう一本の腕からは放水だ!」


 続けて超高圧の放水を行い、スパナクラ―を突き飛ばす。


 だが、スパナクラ―もまだ負けてはいない。


 立ち上がり、巨大スパナを砲に変えると小脇に抱えてビームを発射して来た!


 「やられるかよ! そろそろ止めだ、龍牙雷鉞りゅがらいえつっ!」


 相手のビームを回避した金龍合神、必殺の武器を召喚する。


 天に雷雲が立ち込めて。落雷と共に金龍合神の手に斧頭が口を開けた龍の頭を模した金の鉞が握られる。


 それに対してスパナクラ―も、巨大スパナを剣のように持ち上段に構える。


 「相手もやる気だな、行くぜ!」

 「行きましょう、サンダースマッシュです!」


 金龍合神も鉞を大上段に構え、両者互いに突進っ!


 片や金の雷を纏う鉞、片や巨大スパナを同時に振り下ろす!


 勝負の結果は、金龍合神の方がスパナクラ―を巨大スパナごと真っ二つに両断して勝利を収めた。


 倒れたスパナクラ―の骸が、金属音を大地に響かせた後に煙の如く焼失した。


 「今回の敵は、結構粘ったな」

 「……はい、機体のエネルギーが残り二割まで減りました」

 「マジか、じゃあ今通常空間に戻ったらどうなる?」

 「普段なら自動で中国の工場まで帰還させられるのですが、暫くは無理ですね」

 

 コックピットの中でやり取りをする、ドラゴンシフターとドラゴンシフター二号。


 「じゃあ、敵も倒したし空間内のエネルギーを充電して待つか変身を解いて♪」

 「ええ、機体内に非常食などは積んでいますし交換前に使い切りましょう♪」


 金龍合神の中で変身を解いた立磨とジンリーは、通常空間へと帰還するまでの間。


 しばしの休息を取るのであった。

 

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