第五章:冬本番編

第27話 冬休みに向けて

 「クライゾーンの新幹部、謎の変身しやがったな?」

 「デーモアップ、おそらくデーモニウムを用いた変身アイテムでしょう」

 「名前からしてそうだろうなあ、奴らの方がデーモニウムに詳しいし」

 「あまり気は進みませんが、魔界側との協力もしていく必要がありますね」

 「うん、学校にもゴートマン先生って悪魔がいるけれど価値観のずれが凄いな」

 「お互いのユニバースの価値観が違うので、人間を好むのは同じですが?」

 「どっちも千差万別だよな、どっちとも付き合える人間って一体?」

 「そう考えると、人間とは不思議な種族ですよね」

 「うん、俺も元人間だけどそう思う」

 「まあ、人間の不思議さについて考えると深すぎるので話を切り替えましょう♪」


 朝から事務所スペースで話し合う、立磨とジンリー。


 立磨は無事に期末を赤点無しで乗り越えて、学校が試験休みに入れた。


 ならば仕事だと、ヒーロー稼業に勤めるべく朝食後に事務所に出てお仕事である。


 「他の仕事も来てまして。年末のヒーロー運動会は予選からの出場で本戦出場からでないとギャラは発生しないそうですがお受けしますか?」

 「それは断って欲しいかな、コンプラ違反が酷いらしい番組だから」

 「かしこまりました♪ では大晦日はオフで調整いたしますね♪」

 「ああ、俺達の休む時間も確保したいしな♪」

 「大晦日は年越しラーメンを作りますね♪」

 「ああ、それで三が日を乗り切ろう♪」

 「旧正月の春節が、私達の本番の冬休みです♪」

 「太陰暦からは逃げられなかったよ♪」


 そんな夫婦漫才をしながら、悪の組織との戦い以外の芸能関係の仕事の割り振りなどをする二人。


 大晦日のヒーロー格闘技大会の出場オファー、バラエティ番組のゲスト出演などの知名度向上や収益に繋がりそうな仕事がドラゴンシフター達に来ていた。


 だが、立磨はどうにもそれらの仕事は厄介そうな臭いを感じてジンリーに断らせたのであった。


 「では、年末はご近所のパトロールや夜回りに突発の事件対応と通常営業で♪」

 「ああ、クリスマスもオフで大丈夫だったよな?」


 立磨がジンリーに、クリスマスについて尋ねる。


 「……申し訳ございません、クリスマスイブとクリスマスですが本社へご一緒していただけませんか?」

 「ああ、デートはしたかったが何かあったの?」

 「本社のクリスマスパーティーに二人で来いと、ぐぬぬ!」


 血涙を流して悔しがるジンリー、ちょっと怖かった。


 「……うん、それは仕方ないね? 社長が義理のお母さんだし」

 「こうなったら、ご主人様からのプレゼントを身に付けて自慢してやります!」

 「……いや、家族は仲良くしようよ?」

 「まあ、敵対するよりは? 他の家の龍に、ご主人様を狙われた時の戦力ですね」

 「えっと、俺は龍になったけど龍に好かれる性質は消えてないの?」

 「はい、龍好みの人間の少年から龍好みの龍にバージョンアップです♪」

 「……龍になったけど、龍のセンスはまだ良くわからないぜ」

 「自覚されて、雌ドラゴンたらしになられては困るのでそのままでいて下さい」

 「わかった、仕事時間中だからキスできる距離に詰め寄らないで?」


 鍛えて来た武術の技術を無駄遣いして、体をブレさせず瞬間移動じみたノーモーション移動で立磨に近づくジンリー。


 「私、今からタイムカードを切りたいのですが?」

 「ジンリーは支社長でマネージャー、コンプラ大事だからステイ!」

 「ご主人様も試験休みに入られましたし、今日はもう二人共お仕事は終わりにしませんか♪」


 お互いが両想いな相手だからこそ、公私の区別はつけようねと諭す立磨。


 恋愛に関しては、暴走しがちなジンリーの手綱を必死に取るのであった。


 「取り敢えず、魔界系のヒーローとどこかで縁を持って協力して行こうか?」

 「はい、我々と価値観が共有できる良い魔物の方がいればですね」


 その日の午前中は、会話をしつつ公式SNSの更新作業やメールマガジンの執筆とオフィスでの仕事に励んだ立磨達。


 「そろそろお昼ですね、今日はシャコの営むお寿司屋さんに参りましょう♪」

 「いや、何か飲食店やっているエージェントさん多くない?」

 「古来より、飲食店は情報収集の場でもありましたので」

 「床屋さんとかもそうだとか聞くなあ?」

 「美容室はヒョウモンダコ、フグは治療院を営んでおりまして表の顔の腕も確かです」

 「中国の秘密結社文化は凄いな」

 

 そんな事を言い合いつつ立磨は、自分達を支援してくれる秘密ネットワーク。

 

 その名もドラゴンイレギュラーズの一人、シャコの寿司屋へと立磨達は向かった。


 「バスやタクシーはあるが、鉄道がないんだよなこの島?」

 「当初は路面電車が計画されていたようですが、悪の組織の的になるからと廃案になっておりますね地下鉄もです」

 「それを言ったら、バスやタクシーも同じだよな?」

 「まあ、車両の方がまだ自由が効きますから♪」

 

 事務所の戸締りをして徒歩で出かける二人、ヒーローの脚力で素早く歩く。


 中央通りの路地裏にある、和風な造りの二階建ての住居兼店舗の寿司屋。


 『シャコ八』と言う看板が掲げれた店に、ジンリーから入って行く。


 「いらっしゃい♪ ひ、じゃなかった姐さんと若旦那♪」

 

 ボクサーのような引き締まった体を白い割烹着に包んだ、坊主頭の男性が笑顔で出迎える。


大将が、龍王の姫であるジンリーを姫と呼びかけて言い直したのは気にしない。


 「大将、ランチ二人前と帰りにお土産二つで♪」

 「宜しくお願いします」

 「かしこまりました♪」


 コの字カウンターに座りジンリーが手慣れた口調で注文する。


 立磨は、調理を始めた坊主頭の大将からシャコのオーラが出ていたのを見た。


 「こちらから連絡を入れていたので、人避けと魔除けの術が使われております」

 「そうなんだ、盗聴とかはなさそうで安心したぜありがとう」

 「今の所クライゾーンや魔界の者達に、仙術は技術的に勝ってますのでご安心を」


 魔法にも業界の技術の優劣などがあるんだなあと、立磨は感じた。


 「となると、邪仙とかがあっちに付くと面倒だな」

 「その可能性も視野に入れて動いております」


 立磨の言葉にジンリーが答えてしてくれた。

 

 「ヘイ、ランチ二人前お待ち♪」


 ズラリと寿司が載った寿司下駄が二枚、立磨とジンリーの前に差し出された。


 魚介類の妖怪が魚介類を調理するのはシュールだが、立磨は手を合わせて合掌していただきますと言い食った。


 「食いながら聞いて下さい、クライゾーンの新幹部についてはご存じでしょうが奴らがチョッパーに自分達の技術を売りだしたようです」


 シャコが情報を語り出す、どうやらこの店とドラゴンシフターの関係を知らずに利用したチョッパーの下級幹部が漏らしたらしい。


 この寿司屋も、警察官立ち寄り所ならぬヒーロー立ち寄り所の表示はしてあるのだが悪の組織の輩も利用するらしかった事に立磨は内心驚いた。


 「悪の組織も、飲食店を金を払って利用する事があるのでしょう」


 立磨の心を読んだかのようにジンリーが呟く。


 「まあ、悪党だって飯は食いますわな♪ その点を突いてこの商売をしてます」


 シャコの大将も微笑む。


 「まあ、そうだよな元人間とかいるし」


 特にチョッパーなどは、人間を改造して行く悪の組織だと思い出す立磨。


 「詳しい情報は、お土産に包んでおきます♪」


 立磨が呟くと、大将が寿司の折り詰めを二つ出して来た。


 「ご馳走様でした、美味しかったです♪」

 「ご馳走様でした」

 「またのお越しを♪」


 立磨達は寿司を食い終えてお土産を受け取り、一万円きっかりで会計を済ませて出て行く。


 食事と情報取集を終えて事務所に戻る立磨達、寿司折の一つには歴史の教科書でしか見ないような竹簡ちっかんが入っていたのをジンリーが紐解く。


 「どうやら今夜、クライゾーンとチョッパーが港の倉庫で取引をするようですね?」

 「マジか、シャコの大将とか本当に凄いな!」

 「ええ、彼らの労に報いましょう♪ 港にも工作員を送り込んでおりますので、問題なく攻め込めます」

 「いや、マジで中国の秘密結社文化はヤバいな」

 「当家のは、正義の秘密結社ですのでご安心を♪」

 

 安心とは一体? 


 と思いつつ、立磨はジンリーと共にドラゴンイレギュラーズの協力を受けて殴り込みの準備を始めた。


 「あちらが奴らの使っている倉庫です、事後処理は我々で戦闘は若旦那達でお願いします」


 夜の倉庫街、工場の作業着を着たナマズが人に化けたインスマス顔の男性エージェントに案内された立磨達が目的地の倉庫を見る。


 「ありがとうございます、先に上がていて下さい」

 「ご苦労様でした」

 「はっ! 失礼いたします!」


 ナマズのエージェントが、敵の倉庫の裏口の鍵を手渡して静かに立ち去る。


 それを使い立磨達が敵の倉庫に潜り込めば、いかにもギャングの親分と言う風体のスーツ姿のいかつい中年男と緑軍服のテツベンダーが向き合っていた。


 「ではシャークシルバー殿、これがお約束の品である」

 「おう、こっちもじゃ」


 シャークシルバーの人間態とテツベンダーが、銀色のトランクを交換して開く。


 「ほう、これがそちらの強化アイテムか?」

 「こちらも高純度のデーモニウムを確かに」


 シャークシルバーとテツベンダーが確認し、取引が成立する。


 「そこまでだ! 星を守る黄龍の牙、ドラゴンシフターッ!」


 「邪悪を引き裂く黄龍の爪、ドラゴンシフター二号ッ!」


 「「ダブルドラゴンシフター参上っ!」」


 変身したドラゴンシフター達が乗り込み名乗る。


 「ふん、忌々しい! だが我輩は、今日は取引だけなので帰るのである!」

 「ほう、こっちは早速買った物を試してやるぜ!」


 ドラゴンシフター達の登場に、テツベンダーは去りシャークシルバーは笑う。


 「デーモアップじゃ!」


 シャークシルバーが銀色の鮫怪人に変身し更に、黒いバイザー型の仮面を付けて変身する。


 鮫の頭部を模した兜を被った、漆黒の鎧を全身に纏う騎士型の怪人が現れる。


 「今から俺はデーモシャークじゃ、くたばれっ!」


 手足からヒレのようなブレードを生やし、デーモシャークが振るえば黒き斬撃が飛翔する!


 「そっちがヒレならこっちは爪だっ!」

 

 二号を庇い、ドラゴンシフターが腕から光り輝く爪を生やして飛んで来た闇の斬撃を爪で切り払う!


 「斬撃はこちらもできます!」


 二号が足から爪を生やして蹴り、光の斬撃を飛ばす!


 「はっ! 潜って避けるわ!」


 デーモシャークが地面に沈み回避する。


 「大地は俺達の領域だ!」


 ドラゴンシフターが大地に手を当て、現場に軽く地震を起こせばデーモシャークが地上に飛び出す。


 「ちいっ! 確かに強化されたのに、何で勝てんんのじゃ!」


 強化して、楽にヒーローに勝てると思っていたデーモシャークが苛立つ。


 「五行や四大の属性の相性を理解しない、力だけの者には負けません!」

 「ようは、お前はこっちが対抗できる相手だって事だ!」

 「知るかそんなもん、力こそパワーじゃ!」


 デーモシャークが両手を組み、手から巨大な闇のエネルギーのヒレを出して倉庫の屋根を壊しつつ大上段から振り下ろす!


 「これは私が止めます、馬歩掖掌まほえきしょうっ!」


 二号が、馬歩の体勢から上下に同時に掌を打つ技で敵の攻撃を止める。


 「よし、決めるぜ! ファンロンエルボー!」


 ドラゴンシフターがそ二号の作った隙を突き、デーモシャークに裡門頂肘を打つ!


 すると、敵の鎧が弾けて本来の銀色の鮫怪人に戻り倉庫の外へと吹き飛ばされた。


 「……くそがっ! 騙された!」


 ドラゴンシフター達には属性の相性で負けた事を理解できず、テツベンダーに騙されたと誤解するシャークシルバー。


 「「ダブルファンロンキ~~~ックッ!」」

 「ぐわ~~っ!」


 戦いの最中にも関わらずテツベンダーを恨んでいる間に、ドラゴンシフター達の必殺技を受けて爆死すると言う最後を迎えたシャークシルバーであった。


 「ふう、クライゾーンが厄介なアイテム作りやがったな」

 「ええ、これからあちこちにばら撒かれるようになるのが厄介ですね」

 「情報は上げておこう、チョッパーみたいに手軽に怪人や戦闘員増やせる物だ」


 事件を解決したドラゴンシフター達、彼らが提供した情報を元にクライゾーンが作った仮面はデーモマスクと名付けられてヒーロー達や警察に警戒される事となった。

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