第25話 期末前のラーメンデート
「転校先の学園祭がバトル大会になるとは思わなかったが、無事に終わったな」
「もう、すっかり冬ですねえ♪ ご主人様的には残る学校のイベントは期末試験でしょうか?」
「ああ、無事に進級する為にも避けれず負けられない戦いだ!」
「学業に闘志を燃やしている、そのお顔も素敵です♪」
「仕事抜きで、ジンリーと冬休みを過ごせる日を稼ぎたいからな♪」
「サポートいたします♪ 寝食を共に過ごし共に働くだけが、過ごすと言う事ではないですからね♪」
ジンリーと二人で、軽く雑炊で朝食を取る日曜の朝。
学闘祭が終わり、季節も冬になった。
学校の行事としては期末試験が終われば、終業式で冬休み。
「クリスマスイブとクリスマスは、仕事抜きで平和に過ごしたいよな」
「ですねえ、大抵そう言う目出度い日に悪の組織は事件を起こしますけど」
立磨とジンリーは、言っていてあ~あと同時に遠い目をする。
クリスマスイブや大晦日に正月は、ヒーローも悪も忙しくなる。
悪党は人が集まる行事を襲う為、ヒーローは悪の手から平和を守る為。
「本当の冬休みは、
「ロンスター、一応中国の会社だからな俺達は日本の離島にいるけれど」
「本社だけでなく。工場も春節で休暇になるのが懸念事項です」
「……今の内に、春節休暇でもロボの出撃ができるように打ち合わせを頼む」
「お任せ下さい、死活問題ですから」
黙る立磨、怪訝な顔をするジンリー。
「どうかなされましたか?」
「いや、家に仕事持ち込んじまって悪い」
「いえいえ、公私のパートナーですから♪」
「ああ、私の部分で相談なんだが聞いてくれれるか?」
「ええ、どのようなお話でしょう?」
「日頃の感謝と初めての恋人への贈り物ということで、ジンリーにクリスマスプレゼントを企画してるんだが本人の意見を聞きたいんだが?」
「そ、それはまことに嬉しいお話ですね♪」
立磨の言葉に、頬を赤く染めるジンリー。
「言っておくが、レーティングは健全だからな!」
「健全なのは大事ですね♪」
立磨は、ジンリーが笑顔の裏でヤベえ事を考えていないか不安になった。
「賢者の贈り物じゃねえけど、意思疎通や双方のすり合わせは大事だろ?」
「あの、互いを思い合うゆえにすれ違う話は名作ですが確かに」
冬の仕事が忙しいからこそ、楽しみを作ろうと提案する立磨。
ジンリーのお陰で今の自分がある、礼はせねばならない。
男が相手の好みや欲しい物を調べて贈るのだろうが、そんなまどろっこしく独りよがりになりがちな事じゃ駄目だと思った。
そして何よりも、立磨自身の財布の管理もジンリーがしているからだ。
いつの間にかそれまでの立磨の口座が解約されて、ジンリーが一括で管理している為に立磨には自由に使える金がなかった。
「そうですね、一番欲しい貴方の愛は手に入れてますから悩みますね♪」
「俺からすればまだまだ愛を捧げ続けたいし、この話もその一貫だよ」
「ちなみに、どのようなプランなのですか?」
「ああ、ハッピーオレンジって言う風習があるらしくてな?」
「存じております、起源がゼウス神なのが残念ですが」
「まあ、起源は置いておこう」
「はい、ご主人様の身も心も財布も確保しておりますので心配はないです♪」
「俺としては蜜柑の髪飾りとか、ジンリーに贈りたいし着けてる姿を見たい」
「では、クリスマスイブの夜はいただいたアクセサリ―を付けてチャイナドレスを着た私とデートと言うプランで参りましょう♪」
「いや、一気に話が飛んだな!」
「私の頭脳が、ご主人様のお言葉から最適解をはじき出しました♪」
「まあ、喜んでくれたならこっちも嬉しいよ♪」
「モチベーションが高まった所で、二人で冬のあれこれを乗り越えましょうね♪」
そんな風に立磨達は、冬を乗り越えるモチベーションを作り出した。
朝食後は、事務所の屋上へ二人で向かう。
ジンリーは上は黄色のカンフージャケット。
下は白のロングパンツに黒の功夫シューズ、いわゆるカンフーの練習着。
立磨の方は、上下黄色のジャージにスニーカー。
「それでは、
「おう、頑張るぜ♪」
ジンリーから教わる形での拳法のトレーニングが始まった。
馬歩と呼ばれる足を開き、腰を落とし背筋を伸ばし両腕を前へと突き出すポーズ。
簡単に言うと、空気椅子の様な下半身のトレーニングである。
ただ、立磨の習う
「はい、お背筋が乱れてますよ♪」
時間が経過して立磨の姿勢が乱れて来ると、ジンリーがカンフー映画の師匠のように矯正を入れて来る。
「共に戦いで生き延びる為、基礎は念入りに指導させていただきます!」
と言うジンリーの指導方針に従う立磨、自分で教わると決めた以上は師の教えには従う。
馬歩站椿を終えたら、部位鍛錬。
肩や肘や拳など、技で使用する体の部位をぶつけ合う。
準備運動と言うには念入りな基礎鍛錬をしてから、技の練習。
突きの技、肘打ち、蹴り、体当たりや歩を進めてからの攻撃技。
ジンリーの動きに合わせて、トレースするように立磨も体を動かす。
技の出し方の練習をしたら組手形式で出して見る。
互いに向き合い礼をしてから、映画のように双方が技を繰り出しては受けや捌く。
立磨は教わった技を、きちんと出そうと意識して手数が少なめになる。
逆にジンリーはバシバシと入れて来るのは、互いの年季の違いであった。
「ふ~っ! やっべえ、やっぱりジンリーは強い」
「それはもう♪ 私、幼少時からご主人様をお守りする為に鍛えて参りました♪」
「俺も頑張って、追いつけるようにするよ」
稽古後、立っているジンリーと大の字の立磨。
双方、正体は龍であるが人間に変化すると身体能力は人間に寄ってしまうのだ。
なので、龍として修業を積んで来たジンリーと人間から龍となった立磨には、同じ人間形態でもまだまだパワーの差はジンリーが上であった。
力を得て使い方を学びつつ難敵を迎え撃って来た立磨だが、人としてもヒーローとしても龍としてもまだまだ成長の途中であった。
「何事も一足飛びには行きませんよ、焦らないで下さいませ♪」
立磨を優しく起こすジンリー。
「ああ、しっかり道を踏みしめて行くよ」
ジンリーに答えて起き上がる立磨、時間的には昼食時だった。
「そろそろお昼ですね、パトロールついでにラーメンにしましょう♪」
「ジンリー、本当にラーメンが好きだよな?」
「実はこの人工島、何気に才のある方が屋台なり店なりを出しているのです」
「うん、実際ジンリーの作ってくれるラーメンは美味いからツッコまない」
事件に挑む時と同じ真面目顔でのたまうジンリー、立磨はもはや相棒にツッコまなかった。
シャワーに着替えに戸締りと、支度をしてから出かける二人。
ジンリーは黒のパンツスーツ、立磨は黄色パーカーにストレッチパンツ。
普段の格好で腕を組んで一緒に並んで街を歩き、周辺の様子をそれと気づかれないように探る。
「周囲の人達の気を探る時に、目を凝らし過ぎてはだめですよ?」
「悪い、気を付ける」
パトロールも建前ではなく、きちんと行う二人。
やがて二人が辿り着いたのは静かな公園、そこにジンリーが言った屋台があった。
「いらっしゃい、ご注文は?」
「醤油ラーメンを特盛り二つで」
「あいよ、この人が姐さんの良い人かい?」
「どうも、宜しくお願いします」
「こっちこそ今後ともごひいきに、特盛二つお待ち♪」
立磨はジンリーに任せて共に座り、出されたラーメンをいただく。
味は確かに美味かった、だが立磨は目の前の男性の店主から湯気とは別にオーラを感じた。
「ああ、若旦那♪ 私は黄家に仕える海亀の精です、奥様の命でここらでラーメン屋兼密偵として動いてますのでお見知りおきを♪」
店主が一瞬だけ、顔を海亀の物に変える。
ひょんな所で、新たな味方に出会い驚く立磨。
「宜しくお願いします、ラーメンも確かに美味かったです♪」
取り敢えず味の感想しか言えなかった。
「出汁にスッポン使ってますから♪ 取り敢えず、今日の所は特に大物の動きは無しですね」
「ありがとうございます、顔合わせも済みましたし今後も宜しくお願いします♪」
ジンリーの言葉に頷く店主、食事を終えて金を払って立ち去る立磨達。
「会社の人以外にも、味方してくれる人ていたんだな?」
「申し訳ございません、実家に頼んで人を寄こしてもらっておりました」
「ああ、驚いたけど教えてくれてありがとうな♪」
「秘密にしていた事を怒らないのですか?」
「教えてくれたって事は、俺も本当に身内として認められて来たって事だろ?」
公園からの帰りでの会話で、立磨の問いにジンリーが首肯する。
立磨は、ジンリーの実家なら何か秘密の結社とかもっていてもおかしくはないだろうなと感じていたので驚きは予想が当たった事に付いての驚きであった。
「私達には、裏にも支えてくれる味方がいるとお伝えするべくお誘いさせていただきました」
「ああ、今後もそう言う時々で良いから俺達をバックアップしてくれている人の事も教えてな♪」
「はい、折を見てご紹介させていただきます♪ 皆、我が家の信頼のおけるスペシャリスト達です♪」
「もしかして、カニの将軍さんみたいな人とかいるの?」
「他には、ヒョウモンダコにシャコ貝やフグの精などもおります」
「黄龍って、大地属性なのに味方は水の生き物なのか?」
「ええ、城も湖の中にありましたでしょ♪」
「そう言えばそうだったな、あの亀の人は元はどういうの係だった人?」
「彼は、以前は料理長でしたね」
「いや、普通に料理の仕事させてあげようよ!」
期末試験も前だと言うのに、脳みそに新たな味方の情報を得た立磨であった。
学業や戦いの合間のオフの日でも、心が休まらない時もある。
「取り敢えず、帰ったら試験勉強しないとな」
「お夜食は、あの亀の料理長直伝のラーメンをお作りしますね♪」
立磨とジンリーは、事務所に帰り仕事に学業にと冬の戦いに備えるのであった。
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