第21話 学園祭の予感

 秋も深まって来たある日、フロートシティヒーロー高等専門学校の教室。


 立磨と学友達は、HR前に雑談をしていた。


 体育祭が悪の組織との戦いで終わてしまった事や、ロボットの事などを語る立磨と委員長。


 「そう言えば、この学校は設立したばかりだから学園祭とかはどうなるんだ?」


 秋と言えば文化祭や学園祭の時期だろうと、立磨が時節の話題を出して見る。


 一年生として編入して来た立磨、新しい学校でどんな学園祭になるのか楽しみであった。


 「正直、俺もわからんな。 体育祭は、ダークカルテットの奴らが乱入して来たから学園祭が開かれたとしてもまた悪の組織との戦いで終わるんじゃないか?」


 委員長が溜息を吐く。


 「まあ、その可能性が高いよなこの学校と俺達の立場からすれば」


 この間の体育祭が、競技場を舞台にしたリアルヒーローショー状態。


 学園祭が開かれたとしても同じく、リアルなヒーローショーになる可能性が高い。


 そんな事を立磨は考えていた。


 「それに家の学校はまだ生徒は我々三十人しかおらず、各自が仕事もしていて出席率もまばらだから行事ができるかどうかもあるからな」


 立磨が呟くと委員長が答えた、学生とはいえヒーローとして組織に所属している者達も通っているこの学校。


 普通の学校とは毛色が違い、世間の常識で物事を計り切れる場所ではなかった。


 「その辺は、俺も企業に所属しているからわかる」


 立磨が納得した。


 「やっほ~♪ 今日は出席半分くらい?」


 そんな中、陽キャ風な少年である茜虎吉が教室に入って来た。


 「おはよう、今日は日高もいるんだな」


 虎吉に続いてやって来たのは、クールそうな風貌の少年な徹。


 「おはよう寒川君♪ そちらは勤務開けか?」


 委員長が徹に尋ねた。


 「ああ、都心の連続火災事件の助っ人だ」


 徹が答える、雪女の血を引き冷気を生み出したり操れる力を持つ彼に相応しい任務だと立磨は思った。


 「で、そろそろ先生が来るんっしょ?」


 虎吉が、耳を振るわせて立磨達に告げた。


 「そっか、じゃあまた休み時間にな」

 「ああ、先生も何か話枯れ梅雨だろうしな」


 虎吉の言葉に、立磨も委員長も徹もみんな自分の席に着いた。


 虎吉の言葉通り、グレーのスーツを着こなした美青年こと立磨達の担任で世界史の教師であるクリストファー先生が教室に入って来た。


 「おはよう諸君♪ 今日のHRを始めて行こう♪ 先日の体育祭は、お疲れ様だ」


 先生が教壇に立ち、皆に挨拶をする。


 体育祭の話には、出席していた生徒達からは乾いた笑いが出た。


 「まあ、我々はヒーローだ! 学校行事だけでなく、いついかなる時も悪との戦いに挑まねばならなくなると言うのはこれから覚悟して行って欲しい」


 申し訳なさそうに先生が語る、聞いている立磨達は神妙な面持ちであった。


 「だが、悪い事だけじゃあないぞ♪ 学校への出資の話や、仕事の依頼の増加など君達の生活の一助にもなる話も来ているぞ♪ 何か質問はないかな?」


 と、ここで一旦先生が話を止める。


 「はい♪ 質問です、家の学校は今年は学園祭はやるんでしょうか?」


 春原さんが元気に手を挙げて質問した。


 「学園祭かあ、その件に関してはこれから会議をしていく事になるので詳細は決まり次第通達する事になる」


 先生からの答えはまだ未定と言う事だった、そんな形でHRは終わり授業へと移って行った。


 一限目は数学、二限目は化学、三限目は家庭科と過ぎて行き四限目は体育。


 男子の体育は柔道、柔道着に着替えて武道場に集合した立磨達。


 「よし、まずは準備運動から始めよう」


 精悍な顔つきで中肉中背と言う体形な短い黒髪の青年が語り掛ける。


 道着の帯は黒帯、柔道担当の体育教師の土谷つちや先生だ。


 チームヒーローの黄色である先生の指導の元、準備運動から始める立磨達。


 体操が終われば技の稽古だ、身長が近い者同士で組み合い交互に技をかけ合う。


 「宜しくお願いします!」

 「お願いします!」


 立磨と組んだのは徹、立磨が背負い投げをすれば徹が受け身を取り次に徹が投げれば立磨が受け身を取る。


 次は組む相手を変えての技の掛け合い、受け身の取り合いだ。


 それが終われば、次の技を土谷先生と生徒の誰かが手本で組んで見せる。


 土谷先生と組んだのは、何人か黒帯をしている生徒の中の一人である虎吉。


 手本が終われば、その技を先生が組み方や姿勢などの矯正が必要な物に指導をしつつ皆で掛け合いとやって行った。


 そうして授業が終わり昼休み、男女ともに体育でカロリーを消費した生徒達が自前の弁当だけの者は教室や気に入った場所へと弁当を食いに行く。


 その他の者は、購買や学食へと食を求めて移動して行った。


 立磨は一人で、中庭に行きベンチでジンリーの弁当を開けて食う事にした。


 「さて、今日は事件で呼び出しとかありませんように♪ いただきます♪」


 コーラを飲み物に、主食の鶏肉おじやとおかずの羊のつくねを喰らう立磨。


 「ふう、ごちそうさま♪ 今日は無事に食い終えられたな♪」


 無事に完食して食後の余韻を楽しみ、平和の味を噛み締めていた。


 午後の授業が終わり立磨達が帰宅した後、学校の会議室では会議が行われていた。


 茶色い円卓を囲む教師達、議題は学園祭についてであった。


 「生徒からも質問がありましたが、行うべきなのでしょうか?」


 クリストファー先生は、学園祭の開催には懐疑的であった。


 「勿論、開催いたします♪ 敵が攻めてくるなら返り討ちです♪」


 理事長は笑顔で告げた。


 「まあ、ヒーローを育成する学校が悪の組織に怯んでどうするという話ですな♪」


 ゴートマン先生は顔を悪魔の顔にして笑う。


 「確かに、ここは普通の学校ではありませんからね」


 クリストファー先生もゴートマン先生の言葉に納得した。


 「生徒数もまだ少ないですし、規模などから考えて行かないとなりませんね」


 土谷先生が頭を捻る、他の先生達も意見を出し合い企画が練られて行った。


 「折角、競技場が出来たのですから競技場を利用して行いましょう♪」


 理事長が提案する。


 「それは、どのような形での利用でしょうか?」


 クリストファー先生が不安げな顔で理事長に問いかける。


 「ええ、テーマは闘う学園祭♪ リングを作って、参加した生徒達でバトルトーナメントを開催するのです♪」


 理事長が笑顔で答える。


 「なるほど、それならばダークカルテットの奴らが乱入して来ても元あkら戦闘態勢だから迎え撃てるし生徒達の経験値にもなる♪」


 ゴートマン先生が納得していやらしい笑みを浮かべた。


 「まあ、安全面は我々教師でサポートしましょう」


 土谷先生は理事長の言葉に納得した。


 「来年は模擬店や演劇やら戦闘以外の文化的な行事も、生徒達にさせたいですね」


 クリストファー先生も、思う所はあったが従う事にした。


 「大丈夫ですよクリストファー先生♪ 生徒達なら、楽しんでくれます♪」


 理事長は未来を見たような笑顔をクリストファー先生に見せた。


 「では、商品はどうしましょうか? 三位までは出す形式で、どこかスポンサーから引っ張ってきましょう♪」


 ゴートマン先生は魔法で虚空からファイルを取り出して、スポンサー企業を探し出した。


 「ならば、どういうレギュレーションでやるかも決めないといけませんね?」


 土谷先生が頭を悩ませる。


 「競技場の規模からして、巨大戦は無理でしょう」


 クリストファー先生も頭を回しだした。


 かくして、学園祭は競技場を利用して生徒達による格闘トーナメントを観客に見せたり企業の模擬店を誘致してグッズ販売などを行うと言う方向で進んで行った。


 「行くぜ、ジンリー♪ ドラゴンシフト!」

 「はい♪ ドラゴンシフト!」


 教師達が学園祭の会議をする中、立磨とジンリーは通常業務でドラゴンシフターに変身し事件に挑んでいた。


 「星を守る黄龍の牙、ドラゴンシフターッ!」

 「邪悪を引き裂く黄龍の爪、ドラゴンシフター二号ッ!」


 夕日をバックに市街のオフィスビルの屋上で、ダブルドラゴンシフターが背中合わせで掌を突き出した戦いの構えを取り名乗りを上げる。


 「おや♪ あなたがたですか? ここの所勢いづいてますねえ、新人なのに♪」


 対する相手はクライゾーンの下級幹部スリムマン。


 「龍は伸びて行くもんなんだよ!」

 「地球の管理者の端くれとして、あなた方異界の悪人は見過ごせません!」

 「これだから、神の一味は面倒くさくて嫌なんですよ!」


 珍しく自分で戦う事にしたスリムマン、鉤爪の生えた巨大な闇の手を伸ばして負t理に襲い掛かる。


 「邪悪な闇に抗うは幽鬼の光! 破っ!」

 「私達に余裕を見せていると滅びますよ!」


 ダブルドラゴンシフターが同時に金色に輝く拳を突き出し、闇の手を粉砕する。


 「くうっ! やはり光の力は痛い! 再生するだけでも、エネルギーを食う!」


 痛みに悶えつつ、自分の手を再生させるスリムマン。


 「この際、一気に成仏しろっ!」

 「我らが大地の光で浄化します!」


 今度はドラゴンシフター達が、突きと共に光の砲弾をスリムマンへと発射する!


 「おおっと~っ♪ それは避けさせていただきますよ~っ♪」


 スリムマン、名前の如く体を細めて回避する。


 ドラゴンシフター達の放った光弾は、避けられたと同時に空中で霧散化した。


 「だったら、噛み砕く迄っ! 行くぜ新技、ダブルファンロンバイトッ!」

 「はいっ!」


 ドラゴンシフター達が、全身をメタリックな金の龍の姿に変形させて空を舞い光り輝く牙でスリムマンを噛み砕こうと襲い掛かる。


 片方が避けられてももう片方が攻める! 二頭の龍の舞をスリムマンは避ける事が出来ずその身を粉砕された。


 「……ちっ! こいつは分身か!」

 「忌々しいですね!」

 

 ドラゴンシフター達が元に戻ると、何処からか声が聞こえた。


 「流石です♪ 私もこれ以上弱点の属性の攻撃を、受けたくありませんから逃げさせていただきました♪ また、次の催しでお会いいたしましょう♪」


 そう声だけを言い残して、スリムマンの気配は消えた。


 「……ち、また何か企んでやがるな?」

 「あの様子だと、壺中天フィールドの中からでも逃げ出しそうですね」


 ドラゴンシフター達も、スリムマンの今後の動きに警戒しつつ空を飛んで現場から撤収したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る