第20話 忍者と爆弾サッカー

 悪の組織の乱入で、競技場の掃除をしなくなってはならなくなった立磨達。


 「敵がやらかしたのに、後片付けはこっち持ちかよ~!」

 「死んでしまったのだから仕方あるまい、この世は生者が動かすものだ」


 虎吉はぼやきながら、委員長は真面目に競技場の清掃作業を行う。


 戦闘員や怪人の死体の運び出し、汚れた場所や破損箇所の補修。


 生徒達が魔法や超能力などを駆使して、自分達の力で行う事で外部にきちんと能力や装備の健全な使い方を学んでいる事を世間にアピールしているのだ。


 ヒーローは社会と共存できる存在であると証明する。


 それが、外部にも公開した状態での体育祭を開いた理由でもあった。


 「まあ、これが終わったら飯だから♪」

 「そうだな、それで体育祭は内容を変更して午後から男女対抗サッカーだけになるんだろ?」

 「ああ、先生達がそう言っていたな? まあ、今年は仕方ないさ♪」


 立磨と徹は、軽い気分で片付け作業を行う。


 倒した怪人達の賞金は学園の収入になるのと言うのに不満の声も上がるが、焼肉の無料券の支給で生徒達は妥協した。


 片付けが終われば、楽しい昼食の時間。


 家族が見に来ていた生徒は観客席へ、それ以外は各々自由に食事を取りに行った。


 「たっつん、俺らはフードコート行くつもりだけどど~する?」

 「虎、日高と委員長は嫁と飯だろ?」

 「あ~もうっ! リア充共、爆発しろ~っ♪」


 徹が溜息を吐く中で、虎吉にからかわれる立磨と委員長。


 「……ふっ♪ 虎よ、お前も早く見つけるがいい♪」

 「そうだぞ~? お前、顔と性格は悪くないんだから頑張れよ~♪」

 「徹~? リア充がいじめる~!」

 「ほらほら、付き合ってやるからおごれよ?」

 「いや~! 割り勘~っ!」


 立磨達も言い返しながら、フードコートへ行く虎吉達を見送った。


 「さて、福子さんが弁当を作って観客席で待ってくれているので俺は失礼する♪」

 「ああ、委員長も仲良くな♪」


 恋人でありパワーソースでもある座敷童の元へと向かう委員長。


 同じ幸せ者組である委員長と別れた立磨は、競技場のフィールド内で気配を探り自分の伴侶でもある相棒のジンリーを探した。


 「私はいつも貴方のお傍に、お待たせいたしましたご主人様♪」

 「ああ、撮影お疲れ様」


 上下黒のパンツスーツ姿で手に持ったハンディカメラを立磨に向けた状態で、ジンリーは彼の傍へと音もなくノーモーションで移動して来た。


 「我が社の広告も無事で、ご主人様も活躍されてと何よりです♪」

 「そういやあ、観客席の方にあったなあ本社の看板」

 「では、さっそくお昼を一緒にいただきましょう♪」

 「おう♪ ガッツリ食って午後のサッカーを頑張るぜ♪」

 「私も薬膳をガッツリご用意いたしました♪」


 ジンリーと共にフィールドを出た先は、異次元の別荘。


 丸テーブルの上には、ズラリとよだれ鶏やすっぽんの小籠包などの中華料理の皿が並べられていた。


 「うおっしゃ、ジンリーの薬膳食って回復するぜいただきます♪」

 「はい、いただきます♪」


 立磨とジンリーが手を合わせて、いただきますと挨拶をしてから箸を持ち食事を始める。


 「魚や鶏肉にかかっているソースは、全部辛味噌?」

 「ええ、黄家秘伝の辛味噌です♪ 魚はタラで、鶏は五羽ほど使いました♪」

 「……うん、美味いぜ♪ 鶏の湯麺も辛味噌のスープが、体を温めてくれる♪」

 「お気に召していただけて何よりです。夕食は軽く湯麺などで済ませましょう♪」

 「そうだな、ジンリーは何気に麺料理が得意だよね?」

 「黄家では、夫の魂は胃ごと巻き取れと武術に加えて料理も修行しました♪」

 「うん、巻き取られてるよ俺」

 「事前にご主人様が麺類や牛肉が好みとリサーチしていたので、大成功です♪」


 互いに料理を食べさせ合いながら語る二人、食事を終えてごちそうさまと相成った。


 「「ごちそうさまでした♪」」


 最後に果糖水を飲み二人同時に食べ終えて合掌、食への感謝は大事である。


 「では、後片付けは使い魔に任せて戻りましょう♪」


 ジンリーがポンと両手を叩くと、キョンシーの服でお馴染みの清王朝の役人服を着た幽霊達が現れて後片付けをしてくれる。


 「ああ、ありがとう♪」


 立磨は幽霊達に、中国で買ったあの世の通貨である紙銭を懐から取り出して渡す。


 すると、幽霊達は大喜びで礼を言い作業を終わらせて消えて行った。


 「あらあら、ご主人様? そのような事をなさらなくても、彼ら使い魔達にもボーナスや月の俸給は支払っておりますよ?」

 「いや、働いてくれてるんだからお礼はしないとね♪」

 「では、私にもいただけますか♪」

 「……家に帰ったら、ガッツリお礼させていただきます♪」

 「では、夕食の献立もガッツリしたものに変更いたしますね♪」

 「おう、覚悟完了だぜ」


 ジンリーととんでもない約束をしつつ、午後の競技に備えて立磨はジンリーと二人で競技場へと戻った。


 昼飯を楽しんだ後、学生ヒーロー達が男女対抗サッカーだと競技場に立った時。


 空から虚空を裂いて、黒い忍者装束を着た灰色のアルマジロ人間が落ちてくる。


 ついでに、同じ黒い忍者服を着たリトルグレイの集団を引き連れて。


 「我が名は中忍ちゅうにんマジーロ、ヒーロー共よ爆弾サッカーで勝負だ!」


 マジーロが名乗りを上げた。


 「凶星忍軍が挑んで来やがったか、何でサッカーなんだよ!」


 立磨が仲間達を代表して、敵に対してツッコミを入れる。


 「教えてやろう、地球のサッカーも含めてすべての宇宙のサッカーの起源は我ら宇宙忍者の爆弾サッカーが起源だからだ!」


 マジーロがべらぼうな事を言い出したので、皆は唖然としていた。


 「いや、何でも忍者と絡めるのもどうかと思うが?」

 「そうだよね~? ちょっと、ひどいよね?}

 「トンデモ過ぎる、宇宙に帰れ!」


 立磨の後ろで友人達が口々に言い合う。


 「何を言う! これだから地球の猿共は度しがたい! 強制キックオフだ!」

 「ちいっ! 勝手に攻めて来やがって、こうなりゃ皆で変身して迎え撃つぞ!」

 

 「「応っ!」」


 突然の敵襲、だが学生ヒーロー達もこれ以上体育祭の邪魔をされてたまるかと黙ってはいない!


 男女対抗からヴィランが相手に変わっただけと、皆が変身して立ち向かう。


 「こっちのキーパーは任せて~♪」


 プリティボックスに変身した春原さんが、ゴールキーパーになる。


 「ルールも戦いも守りは任せろ!」

 「俺と委員長がディフェンスに行く、攻撃は頼んだ!」


 ヒノカミレッドとスノウブリンガーがディフェンダーで、まだヒーローネームなどがない支給品のヒーロースーツ姿に変身した生徒達も守備に就いた。


 「ギギ~~~ッ!」


 リトルグレイの下忍達が、牙を剥き叫びながらボールを回して進みつつドラゴンシフターやヒーロー達に手裏剣や忍者刀で攻撃を仕掛けて来た!


 「いや、サッカー関係ないだろもうこれ!」

 「あいつらルール無用じゃん!」


 ドラゴンシフターと、虎吉が変身したアームドタイガーがツッコみつつ下忍達の攻撃を避けながら普通にサッカーのルールを守ってボールを奪いゴールを目指す。


 「よっしゃ、ボールゲットっしょ♪」


 アームドタイガーが、リフティングをした途端ボールが爆発した!


 「あば~っ!」


 ボールの爆発で吹き飛ばされるアームドタイガー、スーツの防御力の高さで五体は無事だが観客席の方まで転がる。


 「馬鹿め♪ 爆弾サッカーは不用意に蹴り上げると三秒で爆発するのだ♪」

 「そんなルール知らないっしょ! もはやサッカー関係ないし!」

 

 マジーロが笑う、アームドタイガーが立ち上が風の如く突進して、マジーロに襲い掛かる。


 「爆弾サッカーはゴールまでボールを運び、シュートでキーパーを倒す競技だ!」


 マジーロが、再度爆弾ボールを取り出してアームドタイガーにぶつけようとする。


 「そんな、サッカーやってられるか! 赤龍フォーム!」


 ドラゴンシフターが赤龍フォームにチェンジして、爆弾ボールのエネルギーを吸収する。


 「何っ! 爆弾が爆発しないだと!」

 「爆発するのはお前っしょっ! タイガースローッ!」


 アームドタイガーが、マジーロをドラゴンシフターへと投げ飛ばす。


 「ナイスパス♪ お前がボールになれ! 赤龍ダイナマイトキックッ!」


 投げ飛ばされて来たマジーロを、ドラゴンシフターが跳躍して真紅に燃える足で空高く蹴り上げた!


 マジーロは空の上で大爆発を起こした!


 「……これは、やったか?」

 「委員長、その台詞はアウトだ!」

 「お約束通りまだだよ~っ!」


 戦闘員達を倒し終えたヒノカミレッドの言葉に、スノウブリンガーがツッコむ。


 そして、プリティボックスが指摘した通りまだやれてなかった。


 「我ら凶星忍軍は、巨大化してからが本番よ!」


 爆発が消えて、空の上でマジーロが巨大化しながら競技場へと落下して来た!


 「そうはさせません!」


 マジーロの落下を空中で抑え込んで阻止したのは、ドラゴンシフター二号が操る金龍合神であった。


 「ナイスタイミング♪ 俺も乗り込むぜ!」


 ドラゴンシフターがジャンプして、金龍合神に乗り込んだ。


 「……あれが噂の課金ロボか」

 「金色が、金が掛かってる感じっしょ」

 「巨大化した敵は枯れれ穴井任せよう」


 仲間達は最後のトリをドラゴンシフターに譲った。


 「壺中天フィールド起動! 被害ゼロで決着だ!」

 「ええ、最後は夫婦二人で決めましょう♪」


 自分達の機体ごと、巨大マジーロを異空間へ放り込むドラゴンシフター達。


 「な、何だこの殺風景な場所は!」


 水墨画ワールドの異空間に驚くマジーロ。


 「忍者の癖に風情のない奴だな」

 「ここで葬ってやりましょう! 霹靂鉄山靠っ!」


 金龍合神を操作して、マジーロを攻撃するドラゴンシフター達。


 まずは機体全体に電撃を纏った体当たりをぶちかます!


 「あば~~っ!」


 電撃と衝撃のダブルパンチでぶっ飛ばされるマジーロ。


 「ええい、こちらも忍法ボール変化の術!」

 「こっちは龍頭鉄拳弾だっ!」


 自分の体を丸めて砲弾にして飛び掛かるマジーロ。


 それに対して、拳を飛ばして突き返す金龍合神。


 激しい衝撃音を上げたぶつかり合いを制したのは、金龍合神だった。


 その勢いに乗り、金龍合神が召喚して振り上げた巨大鉞の龍牙雷鉞に雷が落ちる。


 「止めと行くぜ、霹靂両断へきれきりょうだん・サンダースマッシュ!」

 「ぐわ~~~っ!」


 立ち上がりかけたマジーロに、無慈悲な稲妻の刃が振り下ろされる。


 「これにて終劇、大団円♪」

 「お見事です、ご主人様♪」


 金龍合神が残心を決めた背後で、両断されたマジーロが爆発し滅び去る。


 これにて、敵襲に見舞われた彼らの体育祭は勝利で幕を閉じたのであった。


 「やれやれ、とんだ体育祭だったぜ」

 「お疲れ様でした、次は私とのお約束を果たしていただきましょう♪」


 片づけを終えて帰宅した立磨、次に彼を待ち受けていたのは女難であった。

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