第15話 実機テスト

 「計器類動作確認よっし、金龍力士一号ごんりゅうりきしいちごう起動っ!」

 「同じく二号、起動します♪」


 ドラゴンシフターと二号が、ヒーローへと変身した姿でシートに座りそれぞれの機体のコックピットの中でシートに座りレバーを握る。


 音声入力で行われるパイロットの声紋認証。


 工場内のハンガーに設置された二人の機体の瞳が光り、命の火が灯る!


 「「野郎ども、天井開けろっ! 機体射出だっ!」


 張さんが叫べば、工場の天井が開き二体の巨大ロボが設置されているハンガーからロケットの如く打ち出された。


 「うおっ! 変身してても振動が来るな、バーニア噴射っ!」

 「バーニア噴射、こちらは姿勢制御に問題なしです」


 一号機は、慌てて足裏と肩甲骨のバーニアを噴射して空中で姿勢制御を行う。


 二号機は、一号機と比べると慣れた様子で機体を操り空中にとどまる。


 「手間取って悪い、しかし二号の方は慣れてるな」

 「中国本土の教習場で少々課金して、ロボだけでなく戦闘機も乗っていたので♪」

 「課金は力だな、俺も早くそっちと上手く動きを合わせられるようにしないと!」

 

 機体で空を進み逆噴射を行い、砂漠地帯の指定ポイントへと二体のスーパーロボットが衝撃波を立てて着地する。


 「で、砂漠に着地したけれど次は合体前の動作テストか?」


 ドラゴンシフターがコックピット内で、サイドボードから取り出した紙のチェックシートの項目をぺらぺらとめくり確認する。


 「はい♪ ここならライフラインの破損を気にせず動かせますから♪」

 「確かにな、今の所手足は普通に動くな?」


 ドラゴンシフターがレバーを操り、金龍力士一号の手足を動かして見る。


 足踏みでの衝撃波で道路陥没や、車両破壊。


 パンチで空気を切った時に起こる、ソニックブームでの窓ガラス破損を気にせず動かせるのは気分が良かった。


 「足はがっしりしてて、可動範囲が決まってるからキック技は限られるな?」


 ドラゴンシフターの操作で金龍力士一号が、足踏みから中国拳法のローキックの一種である斧刃脚ふじんきゃくを左右の足で行い試して見る。


 「バランサーも正常作動してますね♪ 格闘は蹴りよりも上半身での技を主体で設計されてます♪」


 二号もコックピット内でレバーを動かして自分の機体を操り、肘の打ち上げや鉄山靠と八極拳の動きを披露して見せる。


 「上半身が回転するから、相撲みたいな投げもできそうだな」

 「ショックアブソーバーはありますが、合体前の背部からの転倒は避けて下さい」

 「ああ、背中合わせで合体だからな結合部の損傷とかは不味いよな?」


 今度は互いに向き合い、手を突き出し掌を合わせてグルグル動かし合う推手すいしゅと言われる中国拳法の鍛錬の動きをしてみる。


 「そう言えば、こいつのバッテリーとかどうなってるんだろ?」

 「私達自身の魔力に加えて地熱と太陽光を電力に変換してます、エコですね♪」

 「今気づいたが、ベルトの宝珠とコンソロールにある宝珠が連動してるんだな?」

 「裏技ですが、私達黄龍は大地の産物である金属から作られた機械と一体化が可能なのでいざとなればその手も使いましょう♪」

 「だから、トライクに変形とかできたのか?」


 まだまだ知らない事があるなと思いつつ、ドラゴンシフターはテストを進めた。


 「さて、お次は内臓武装のテストですね♪」

 「ああ、まずはこの気弾拳きだんけんからか? レバーがスイッチだっけ?」

 「いえ、パイロットの気を変換して機体から射つのでコンソロールの宝珠に手を添えて使用して下さい」

 「おっけ、気弾拳発射っ!」


 通信で相棒である二号とやり取りをしつつ、ドラゴンシフターが中央のコンソロールの宝珠に手を添える。


 すると機体の外では、金龍力士一号の右の拳が金色に光ると同時に拳から光の砲弾を発射して岩を砕く。


 「これはエネルギー使う武器か、拳が飛んで行くのかと思った」

 「拳を飛ばすのは、合体後の龍頭鉄拳弾りゅうとうてっけんだんです♪」

 「やはり本番は合体後って奴だな」

 「はい、この単独形態でも倒せる敵は倒せますが夫婦のように合体してからが重要なのです♪」

 「……察したよ、合体シークエンス開始だ! 単独形態の残り項目は後回し、金龍合神ごんりゅうごうじんになるぜ♪」

 「はい、お傍に参ります♪」


 言外から二号に合体を急かされたドラゴンシフターは、コックピット内の天井から降りて来た銅鑼を拳でぶん殴った!


 機体の外に銅鑼の大音声が鳴り響き、一号と二号が背中合わせで張り付き大の字状態になる。


 結婚式の新郎新婦の立ち位置の如く、一号が右半身で二号が左半身となりそれぞれの両手足も合体して合体後の手足となる。


 機体の頭部も合体して一つになり、金の龍の頭の兜を被る!


 それぞれの単独形態時に胸に付いていた龍の頭は、肩アーマーとなった。


 胴体は黒で胸に赤字で合の字が描かれた中華武将風の金色のロボ、金龍合神ごんりゅうごうじんの完成である!


 機体が合体すればコックピットも一つになり、ドラゴンシフターと二号のパイロットシートも隣同士になる。


 「「完成、金龍合神ごんりゅうごうじんっ!」」


 お約束の如く声を合わせて叫び、拳を突き出して構えを取る。


 「ああ、ついにこの時が♪ ご主人様が隣にいる、幸せです♪」

 「いや、嬉しいけれど恥ずかしいわ! 工場の人達、モニタリングしてるから!」

 「お構いなく、夫婦円満な様子を会社にアピールする必要がありますので♪」

 「いや、そこは構おうね? まだ俺達、お仕事の時間だしさ?」

 

 機体の中で夫婦漫才を始める、二人のドラゴンシフター達。


 「お前さん達、機体の中を砂糖まみれにするのはそこまでだ」


 整備班長の張さんから通信が入る。


 「は、はい! 合体成功です、テスト続けます!」

 「ガンガン項目をこなして行きますよ♪」

 「おう、まあ飛ばした項目は後でまたじっくり見るとしてひと狩りしてもらおうか?」

 

 張さんから、奇妙な指示が入る。


 「中国では、家畜や野生動物の怪獣化が発生しておりまして怪獣化した動物の肉は栄養価は高く値段は安くとお得な食材になってます♪」

 「デカいから肉がたくさん取れる、食いでがあるな♪」

 「はい、こちらでは倒した怪獣の肉は倒した者に権利が行くので売るも良し食べるも良しです♪」

 「そう言う仕事もできるな、じゃあやるか♪」

 「はい、三時の方向から一体接近して来ます♪」


 機内のレーダーに反応がある、自動的にモニターが作動して映し出した敵の姿。


 「デカすぎるだろあの羊っ! 毛が帯電してやがる!」

 「巨大羊ですね、こちらも突っこみましょう! 霹靂鉄山靠へきれきてつざんこうを使用します!」


 それは砂漠を駆ける白い雷雲とでも言うべき、巨大羊であった。


 そのサイズ、全長五十メートルと金龍合神と同じ大きさであった。


 巨大なだけでも迷惑だが、更に白い体毛は空気との摩擦の所為か発電所レベルの電気を帯びていた。


 テストとは言えとんだ相手との初戦闘となった金龍合神、こちらも機体に金色の雷を纏いバーニアを噴かせて体当たりを敢行した!


 ぶつかり合う巨体と巨体、弾かれて転倒したのは巨大羊。


 進行を止められた巨大羊は、起き上がると身震いをして雄叫びを上げながら全身から放電を行った!


 「ヤバイ、バリア展開っ!」


 ドラゴンシフターの操作で、光の球のバリアーが張られて放電を防ぐ金龍合神。


 「流石です♪ やり返しましょう♪」

 「じゃあ、あの鼻っ面を殴り飛ばすぜ! 龍頭鉄拳弾りゅうとうてっけんだん、発射っ!」


 ドラゴンシフターが叫びながらレバーを動かすと、金龍合神が巨大羊へと左腕を突き出す。


 するとの肩の龍頭がスライドして拳にグローブの如く覆い被さり、龍頭が口を閉じて爆発とともに手首から射出されたっ!


 空を舞う龍の頭が、何を思ったか突っ込んで来た巨大羊を殴り飛ばして仰向けにひっくり返す。


 敵を倒したと同時に、拳が自動的に金龍合神へと戻って来た。


 龍頭鉄拳弾の一撃で、巨大羊の頭部が陥没していた。


 しばらく経っても、動き出す気配はない。


 「目標沈黙、私達の勝利です♪」

 「よっし、じゃあ巨大羊肉ゲットだぜ♪」

 「念の為に、止めを刺しておきましょう」

 「ああ、成仏してくれよ」


 倒した巨大羊に近づき、合掌をしてからヘッドロックで首を折り仕留める金龍合神。


 こうして、金龍合神はテストで初の戦果を挙げたのであった。


 巨大羊を持ち帰った金龍合神は、外で放水車による洗浄と消毒がまず行われた。


 持ち帰った巨大羊も、別のスタッフが洗浄や解体を行い食肉に加工をするべく持っていかれた。


 洗浄が終わった金龍合神は、分離し機体の損耗のチェックと整備が始まった。


 変身を解いて機体を降りた立磨とジンリーを、張さんが出迎える。


 「二人ともお疲れさん、機体とパイロットが無事に帰って来たのは何よりだ♪」

 「ありがとうございます、整備の方は宜しくお願いします!」

 「ありがとうございます、今回のレポートは休憩後に取り掛かります♪」

 

 張さんに労われて礼を言う立磨達。


 「まあ、整備の方は任せな♪ だが、明日はテスト項目ははしょるなよ?」

 

 二人に答える張さん。


 「いや、整備ってもっと掛かるもんじゃ?」

 「まあ、普通ならな♪ だが、お前さんが大事に扱ったのと機体が元から丈夫な設計のお陰で何とかなるさ♪」

 「おっす、恐縮です」

 「まあ、暫くは野生の怪獣相手に実地訓練してくれや♪」


 そう言って張さんは作業に戻って行った。


 「それでは、私達は一休みいたしましょう♪」

 「ああ、面倒なレポート作業に備えてな」

 「共同作業で頑張りましょう♪」


 立磨達も工場の社員食堂へ向かい、牛肉麺で昼食を取った。


 「もしかして、この肉も怪獣のか?」

 「ですね、怪獣化しても牛は牛と言う事です♪」

 「もしかして家の会社って、巨大ロボットで怪獣倒して料理するゲームとかあったりする?」

 「はい、メタリックストーリーがそう言うタワーディフェンスです♪」

 「あったのか、つまりそのゲームに金龍合神が加わると?」

 「ええ、またアフレコですね♪ その時は私も参加します♪」

 「まあ、ゲームでもリアルでも悪と戦うのは変わらないか」

 「はい、二人でそしていずれは家族で戦って行きましょう♪」


 料理を食べつつ語り合う二人、生身での戦いに加えて今後はロボでの戦いも待ち受けているのであった。

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