第10話 第二段階 セカンドフォーム

 「ほう? 良い角だな婿殿、姪はじゃじゃ馬だが良い娘だ♪ 安心して尻に敷かれると良い♪」

 「ど、どうもです! ジンリーさんと幸せになります!」

 「叔父様、余計な事を仰ると叔母様に言いつけますわよ?」

 「やれやれ、おっかない♪ まあ、俺も婿だから宜しく頼む♪」


 黒い中華風の衣装の、ジンリーの叔父らしい野性味のある黒髪に褐色肌の男性が微笑みながら立磨に黒い茶を注いでくれる。


 義理の叔父さんになる人のご厚意なので、ありがたく飲む立磨。


 「ほっほっほ♪ 坊主、沢山食って早くひ孫を抱かせてくれ♪」

 「お祖父様、お任せ下さい♪」

 「え? は、初めまして!」

 「ああ、堅苦しいのは良いから♪ お前さんの事は知っておるよ♪」

 

 入れ替わりに今度は、黄色いカンフー着の老人男性が現れて挨拶に来る。


 温和そうな笑顔、金髪の丸刈り頭にがっしりした体形の美形の老人であった。


 ジンリーの祖父だと知り固くなる立磨だが、お祖父さん当人はフランクだった。


 この後も赤や緑や青や白と、それぞれの鱗の色の服を着たジンリーの親類達と挨拶を交わしてお茶を飲ませてもらう立磨であった。


 不思議な事に慌しくても、立磨はどんどん喉が渇き腹は減る。


 立磨は大量の中華料理である満漢全席を、十回ほどお替りをしてもまだお茶とご馳走を食う手が止まらなかった。


 「頭が痛いけど、喉が渇く、腹が減ってドンドン食える」

 「それは成長痛です、どんどん食べて飲んで大きくなって下さいね♪」

 「ご馳走はどんどん作らせるから安心して♪ 人から龍になるなら、しっかり食べて体を作らないと龍の力に耐えられないわ♪」

 「私の計算だと、お義兄さんは後二十回は満漢全席食べないと!」


 ジンリーや社長にジンファが、付きっきりで立磨の世話をしながら宴は進む。


 「遠慮はいらん、しっかり食えよ婿殿♪」

 「婿殿は龍としてはまだ赤子、沢山食わせて育てねば♪」

 「貴方の修行はまずは食べる事です、頑張って下さいね♪」


 ジンリーの親戚達は微笑みながら立磨を見ていた。


 周囲の人達の言う事が嘘ではないと、立磨の体は感じていた。


 食べるごとに、飲むごとに体の底からに力が湧いてきて全身を駆け巡る。


 自分の中に金色の龍が生まれ、それがどんどん大きくなって来ているのを感じる。


「……もっとだ、もっと食わせてくれっ!」

「はい♪ どんどん召し上がって下さい♪」


 頭の角が伸び、顔の下半分が鰐のように伸びとドンドン肉体が金の龍へと変化しながらも飯を食う立磨。


 「ラストの一皿です、どうぞ♪」

 「それ皆、婿殿を外へっ!」

 「食後の運動に行ってらっしゃいませっ♪」


 ジンリーが最後の料理を立磨の開いた口に放り込む。


 それと同時に親族達が異空間への穴を開ければ、もう完全に龍になりかけていた立磨はその穴の中にするりと衣を脱ぎ捨てて飛び込んだ!


 飛び込んだ先は広い湖の中、人の体から完全に龍の体へと変化した立磨は湖の中を泳ぎ回りながらどんどんその体を巨大化させて行く。


 やがて湖を飛び出し、雄叫びを上げながら天へと昇ったのであった。


 「おおっ♪ 見事な産声じゃなあ、婿殿♪」

 「はい、私の自慢の旦那様です♪」

 「お姉ちゃん、お義兄さんを追いかけて上げて♪」

 「そうね、私もジンリンも行きたいけれどお嫁さんは貴方だし♪」

 「ええ、それでは私も行って参ります♪」


 親族達が見守る中、ジンリーも母と姉に促されて龍の姿となって立磨を追いかけて行った。


 二匹の黄金の龍は、螺旋のように空で絡み合いながら仲睦まじく飛び回り吠える。


 やがて、立磨の方は疲れ切ったのか急速に人間へと戻りジンリーの頭上に乗って地上へと戻って来た。

 

 「は~っ、やっと人の姿に戻れてこれまでの痛みやらが治まったぜ♪」

 「おめでとうございます、今日がご主人様の龍としての誕生日ですね♪」

 「ああ、色々と慣れてないけれど宜しく頼む」

 「ええ、お任せ下さい♪」

 「えっと、俺だけ服着てないな?」

 「素敵なお体ですよ♪」

 「いや、ごめん着替えとかはない?」

 「はい、こちらをそうぞ♪」

 「ありがとう、まっぱで帰るのはあれだから」

 「次は、服を着たまま龍に変化する方法などを覚えましょうね♪」

 「ああ、覚える事が色々増えたぜ」


 完全な龍となり、そこからまた人の姿に戻れた立磨はジンリーが差し出した服に着替える。


 「元に戻ったら戻ったで、また腹が減ったぜ」

 「城に戻ったら、今度は私の手料理をお召し上がりください♪」

 「じゃあ、今度は日本食で頼むぜ♪ お粥とかのあっさり目ので」

 「卵と鶏肉も入れておじやにしましょう♪」

 

 そう言いながら二人は、再び龍に変化して湖へと潜った。


 「あれ、何か俺さっきと違ってすんなり龍になれてないか? そして、水の中で普通に話してるし!」

 

 立磨は湖の中で自分が自然に龍の姿になれた事に驚いた。


 「私と暮らす中で私が人と龍の姿を自然に使い分けるのを見て来たから、ご主人様の脳がそういう物だとインプットしてるんですよ♪」

 「え、変化ってそういう物なのか?」

 「そういう物です、私がきちんと導きますからご安心を♪」

 「お、おう、何か意識しちまうな?」

 「駄目ですよ? そのように変に意識すると、ご主人様の脳が人の姿を思い出せなくなって戻れなくなります!」

 「な、マジかよ! ど、どうしよう?」

 「安心下さい♪ 変化のコツは、慌てずに気持ちを落ちつけて自然に流れに身を任せて行きましょう♪」


 水中でジンリーが人の姿になり、自分に手を伸ばして来たのを見た立磨は普通にその手を取ろうと思い人の姿に戻った。


 そのように立磨はジンリーに導かれながら、水中バレエのように体を動かして人になったり龍になったりを繰り返して変化のコツを覚えたのであった。


 城に戻て来た立磨とジンリーの二人は、再び親族達に出迎えられた。


 「お帰りなさい、二人共♪」

 「お帰り~♪」

 「……ただいまです、何か二人の顔が人になったり龍になったりして見えるのは一体どういう現象何だろう?」

 「ああ、私達の龍の姿が見えるようになったのね♪」

 「私達が人と龍にグルグル入れ変わって見えるのは、脳が混乱してるからだよ♪」


 立磨は自分が瞬きするごとに、ジンファとジンリンの姿が人と龍の姿を革たり戻ったりしているように見えていた。


 「ご主人様は今、変身された時に使っていた物事の真贋を見抜くドラゴンアイの機能がオンオフ入れ替わり続けている状態ですのでこれも気持ちを落ち着ければ直に元に戻ります」

 「ああ、そう言う事だったのか! そうか、あれが龍の視覚だったんだな」


 ジンリーの言葉に納得した立磨が呼吸を整えてジンファ達を見ると、今度は以前のように人の姿だけが見えた。


 「日本に戻るまでに、力と機能の使い方を身に付けましょうね♪」

 「ああ、うっかり爪とか尻尾とか出したらヤバい事になるしな」


 龍となり、新たな身体の機能を使いこなせるように立磨.


 日本に戻る前に、ジンリーの実家の異界の城でまずは日常生活のトレ-ニングに励む事となった。


 「お茶をどうぞ♪」

 「ありがと……うおっ!」

 「これが、ご主人様の今の力です」

 「いや、映画の小道具みたいに壊れたけど」

 「これは値段も百円ほどの物ですが、自然に振舞っても力加減が危ないですね」

 「これは、うっかり器物損壊とかやらかしたらヤベえな!」

 

 壁も床も石造りの部屋で、カンフー映画の修行である足を開いて腰を落とした姿勢を取らされる鍛錬法の馬歩站椿まほたんとうを終えた立磨。


 ジンリーから受け取った湯呑を受け取り握るも、バキン! 


 と固い音を立てて、空の湯呑を粉砕してしまった。


 「地面とか床とかは平気なんだが?」

 「黄龍は大地の力を司る龍、私達一人一人が大地と一体化してるような物なとも言えるのでセーフです♪ 暴れれば壊せますし地震等も起こせますが、自重などは無問題です♪」

 「サラリとヤバい事を言うな、その力には身に覚えがるけれど」

 「ファンロンアッパーなど、敵を格闘で粉砕する時に使用されてますね♪」

 

 ジンリーとそんな事を言い合いながら、 彼女から八極拳の中段パンチの冲捶ちゅうすい

 相手との間合いを一気に詰める箭疾歩せんしっぽ、足の踏み込みと同時に急激に腰を落として懐に入り込む闖歩ちんほと言った動き方などを彼女から教わる。

 

 「ジンリー? ありがたいけど、何で俺に拳法を教えてくれるの?」

 「それは勿論、ご主人様を私色に染めたいからです♪」

 「ちょ、言い方が不穏だよ!」

 「はい、肘の打ち方はこうです♪」

 

 立磨にピタリとくっつき、肘打ちの角度などを矯正するジンリー。


 「あの? ちょっと、胸がときめくんですけど?」

 「良い事です、私達は番なんですからもっとときめいて下さい♪ 私は最初からときめいてます、ラブです♪」

 「妹に私のバックルも用意させておりますので、これからは私達二人でダブルドラゴンシフターです♪」

 「お、おう! それは良いけれど、無理はしないでくれよ?」

 

 愛の重さが増して来たジンリーに振り回されながら、自分の体だけでなく身の周りも色々と変わって行くのを立磨は実感していた。


 「えっと、時間が一日しか経ってないってマジ? 向うには、一カ月ほどいたはずなんだけど?」

 「お義兄さんがいた間は、アニメや漫画の修行空間モードにしてたの♪」

 「わかった、気にしない事にする」

 「お義兄さんのメンタルの健康にはそれが良いよ♪ はい、新型のバックル♪」

 「ああ、何か形とかが変わってるな? 金の龍が宝珠握ってる形?」

 「アップデートして、デザインも変更♪ 如意宝珠にょいほうじゅも付いてパワーアップ♪」


 城から出て訪れたロンスター本社の開発ラボで、ジンリンから新たな変身アイテムのバックルを渡された立磨。


 金の龍のオブジェが、手に黄色い宝珠を握っている形の変身バックルであった。


 立磨が新たなファンロンバックルをいじって見る、龍のオブジェの手が動き宝珠の嵌められている箇所には他にスロットがあり昔の電話機のダイヤルのように回った。


 「そう、その穴は空きスロットで他の宝珠をはめ込んで回せばフォームチェンジができるの♪ 取り敢えず今用意してあるのはこの赤い火の宝珠♪」

 「お、おう、なるほどな? 取り敢えず試して見るぜ、ドラゴンシフト!」


 立磨はまずは基本フォームに変身すべく、バックルを腰に装着。


 掛け声と同時に、龍のオブジェの手を撃鉄のように上げてから下ろした!


 立磨の体を金色の光が包み、黒い全身スーツが覆う。


 次に胴と胸回りは、筋肉の上に重なる様に金色の鱗状のボディアーマーが付く。


 背中には背骨に沿うように、頭が首の裏で尻尾が腰と長く体を伸ばした金の龍が張り付いていた、四つの足は横に伸びて爪を広げて臓器を守る。


 それはまるで一匹の龍が、のびのびと夜空を泳ぐようだった。


 両肩は龍の爪を模した肩アーマー、両腕は黒スーツの上に金のガントレットと肘当てを装着。


 下半身は、ベルトの周りをぐるりと龍の尻尾が廻しの如く巻き付き腰と股間をガード。


 両足はスーツに沿うように膝には金の膝当て、脛には金のレガースで靴の部分はメタリックな五指を伸ばして爪が生えた金の龍の足と言うサバトンを履いていた。


 マスクは、フルフェイスなのは変わらないが以前は龍の頭を被っていた感じから口を閉じた龍の頭を伸びた顎を引っ込めて平べったい人間の顔に合わせた具合に変化。


 それまで頭頂部にあった二本の角は、額から生える形でVの字の触覚のよう形に変化した。


 「うん、何か前より動きやすくなった感じがするぜ♪」


 ドラゴンシフターが嬉しそうに感想を漏らす。


 「前より格闘向けの形にしてみたの、お姉ちゃんも同じような姿に変身するから楽しみにしていてね♪」


 白衣姿のジンリンが、ドラゴンシフターに笑顔で告げた♪

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