第9話 悪の企みと龍化の始まり

 「ふ~む、Dクライ魔を元の存在に戻すとはやりますねえ」


 良く晴れた海岸通りの公園のベンチ。


 のんびりとベンチに腰掛けて新聞を読むのはスリムマン。


 人間に擬態しているので、通行人に正体はバレない。


 彼が読んでいる新聞には、ドラゴンシフターが見つけた回復魔法によるDクライ魔の対処法、マスクブレイクが記事になっていた。


 「対抗策が出たならば次は、別の使い方をしますか♪」


 そう言ってスリムマンは新聞を畳む、ウィルスと新薬の如く対抗策が出れば新たな手を打つ。


 互いに休息を取りつつ、血を吐きながら続けるマラソンをするのがヒーローと悪の組織であった。


 「日高君、私に聞きたい事がありそうですね♪」

 「先生なら、デーモニウムのまだ知らない使い道を知っているかなと?」

 「勿論です、学習意欲の高い子ですね君は♪」

 「まあ、実務にも関わるので」

 「Dクライ魔に関しては私もあの使い方は、思いつきませんでしたがあれ以外にもデーモニウムの使い道は広いのです♪」


 学校にて立磨は、ゴートマン先生の研究室を訪ねていた。


 「攻撃魔法以外にも目を向けた君のセンスは良いですね、人間の皆さんは脳筋の気があり過ぎる♪ まあ、魔界のマッチョ共もそうですが♪」

 「で、前に授業で聞いた貨幣以外のデーモニウムの使い道で地球で悪用できる使い道は何ですかゴートマン先生?」

 「ふむ、良いですね♪ まずは簡易的な手榴弾、次に召喚のコストですね」

 「そっちの方が、怪人作るよりも手軽に他人様を殺傷できる罠だっ!」


 正体が山羊の悪魔である老紳士にツッコむ立磨、先生は微笑んだ。


 「良いツッコミです、魔界の宝石である魔石のデーモン二ウムは便利ですよ♪」

 「便利ゆえに人の魂の堕落を呼ぶとかですか?」

 「堕落するかどうかは人間次第です、堕落は良いですよ♪」

 「まあ、今はこの人工島だけでお試し期間ですが本土で使用したらヤバいなあ」

 「人体に害のないクリーンなエネルギーですよ魔力は♪ 世界変動で今や全人類に魔力が備わってる時代、ドンドン魔力を使いましょう♪」

 「先生は、授業以外にもデーモニウムについての情報の開示をお願いしますね?」

 「わかりました、勉強熱心な生徒に免じて私も契約以外の事はしない主義を曲げて行いましょう♪」


 ゴートマン先生を、面倒くさい悪魔だなと立磨は思い研究室を後にした。


 「面倒な物質ですね、デーモニウムというのは?」

 「俺は、人間が使うから面倒な事になってる気がするよ?」

 「同意です、デーモニウムの兵器転用を考えて動いている者達もいるようですし自分の国でもデーモニウムが採掘できないかと鉱脈を探す国があるとか?」

 「環境に無害な破壊兵器ができるなら、そりゃ必死で探すよな? ABCと来て次はD兵器とかいずれ出るとなると面倒臭いよ」

 「どんな手を使うかはわかりませんが、テロの警戒はしなければなりませんね」


 学校から帰宅して、事務所でジンリーとそんな会話をする立磨。


 「まあ、あれこれ考えないといけませんが今日は上りといたしましょう♪」

 「そうだな、休める時に休もう♪」

 

 気分を切り替えて住居に戻り、食事の用意に取り掛かる二人。


 出来たのはビーフカレーであった。


 「如何ですか、私達のお家カレー♪」

 「美味いけど、その言い回しは?」

 「日本ではカレーは家庭料理として定着してます、お義母様から日高家のお家カレーのレシピを教わりましたのでそこに私の手を加えて将来は子供達にも食べさせる我が家流のお家カレーを作ろうかと♪」

 「うん、俺はこの味が好きになりそうだよ♪ ジンリーには胃袋とか人生とか色々掴まれてるけどさ?」

 「んまあ♪ 私も、ご主人様にハートやら掴まれておりますからお相子ですわ♪」


 おほほと笑いお嬢様ぶるジンリー、食事と片づけを終えた二人は夜を共にした。


 「……あれ? 俺、ドラゴンシフトしたっけ?」

 「おはようございます、ご主人様がいつもよりも素敵なお姿に♪」

 「えっと、ジンリーさん? 俺、もしかして外見に何か変化起きてる?」

 「はい、しっかりと♪ あらあらまあまあ♪ ウホ、良い雄龍っ♪」


 目覚めた立磨、まだ寝ぼけている頭ながらも自分の右手が鋭い爪を生やした金色の龍の物に変化している事に気付く。


 そして、自分を見たジンリーが頬をピンクに染めて目がハートマークに変化しているのを見て事態がヤバい事になったと自覚した。


 「失礼いたしました、ご主人様の頭の角が素敵でしたので♪」

 「……えっと、手だけじゃなくて角もって? もしかして、俺の龍化ってのが始まったの?」

 「はい、おめでとうございます♪ 龍化のスタートですね♪ おめでたいことなのですが、これは龍からしてみればセクシー過ぎていけません!」

 「いや、ちょっと何言ってるのかわからないよ?」

 

 ジンリーが落ち着いてから、姿見で自分の全身を見た立磨。


 右手が手首まで龍の物になり、頭からは二本の角が生えて尻からは龍の尾が生えていた。


 「……ああ、確かにこれはまずいな! 外に出たら怪人と間違われる」


 中途半端な龍人となってしまった立磨、このままでは外出もままならない。


 「いけませんね、ご主人様のセクシーな姿は私が独占して守らないと!」

 「いや、ちょっと俺達の考え方がすれ違ってない? って言うか、鼻血っ!」

 「私、悩殺されてしまいそうです♪ ご主人様のドラゴンたらし♪」

 「落ち着いたかと思ったら落ち着いてねえ! 正気に戻れ!」


 朝からぐだぐだな展開に戸惑う立磨であった。


 立磨の今の状態が、龍族の女性にとっては魅力的すぎると言うのは置いておき一気に自分の身に変化が起きた事をジンリーに尋ねてみる。

 

 「申し訳ございません、ファンロンバックルは少しづつ龍の力を装着者に与えるベルトだと言うのはご存じですよね?」

 「ああ、そして時間を駆けて体に力を馴染ませながらゆっくりと装着者を人間から龍へとバージョンアップさせるんだよな?」


 まずは、変身アイテムの効果についておさらいする二人。


 「それに加えて、疲労や怪我の回復と龍の力への親和性を高める為にご主人様に私の血を飲んでいただいた事などが龍化が早まった原因だと思います」


 ジンリーが原因についての考察を語る。


 「そう言われて思い返すとなるべくして起きた変化か、自分が実感して見て慌てたが納得できたよごめん!」

 「いえいえ、人から龍になるなど滅多にない事なのですから♪」

 

 起こるべくして起きた変化だと納得した立磨と、彼が自分と同じ種族になる事を喜び微笑むジンリー。


 「私の実家で修行すると言う事になりますが。学校などは如何なさいますか?」

 「学校は事情を話せば何とかなるだろうけど、まずは完全に龍になる方向で行く」

 「なるほど、中途半端に魔法などで変化をごまかすより完全に龍の力を身に付けて制御すると言う事ですね♪」

 「そう言う事、龍化した体の所為で何か被害を出すよりは良い♪」

 「では、学校には中国に研修に行くため休むという旨で連絡をしておきます♪」

 「研修って便利な言葉だよな、こうなったら最速で力の使い方を身に付けるぜ♪」

 「では、根回しなどの準備を始めますね♪」

 「ああ、俺も何か用意した方が良いかな?」

 「ご主人様の準備は特になしですね、滞在時の衣食住はお任せを♪」


 ジンリーが各所に連絡をして、立磨に起きた龍化と言う変化に対処すべく研修の準備を始めた。


 諸々の手続きを終えて、ジンリーと共に本社が用意してくれた専用機に乗って空の旅へ出た立磨。

 

 「そういえば、ここってもしかして人の世界じゃないとか?」

 「はい、中国と繋がっている神仙達の異界です♪」

 「どうりで、何か空気が違うと思ったよ」

 「私の実家のあるこの異界なら、龍化も早まり修行もしやすいので」

 「そうか、ありがとう♪ あの湖の中だっけ?」

 「はい、家族も揃っております♪」


 飛行機の窓の外に広がる景色は、何処か幽玄な雰囲気の広大な山林と巨大な湖。


 立磨とジンリー乗る飛行機が湖畔に着陸し二人は降りる。


 ジンリーが、近くの木を手で叩くと叩くと湖面に波が立ち、湖の中から中華風の鎧を身に纏った赤いカニ人間や半魚人の部隊が現れた。


 「おお、凄いお出迎えだな♪」

 「龍宮の兵達です♪」

 「姫、婿殿、お迎えに上がりました♪」


 カニ人間が代表して立磨達に挨拶をしたので、立磨も拱手礼で返礼する。


 「おお、婿殿は恐れ入ります♪ 私は黄家に仕える蟹将軍です♪」

 「日高立磨です、宜しくお願いします♪」

 

 立磨とジンリーは蟹将軍達に案内され、歩いて湖の中へと入って行く。


 立磨は変身しなくても水の中で平気な自分に内心で驚きつつ、湖の中を歩く。


 目の前に聳える中華風の城が、ジンリーの実家かと思いながら開かれた門をくぐり中庭に入る。


 すると門の内側では、天女のような着物姿の女性達と金のチャイナドレス姿のジンファ社長と白いフリル付きの黄色の着物姿のジンリンに出迎えられた。


 「ようこそ我が城へ、黄家一同歓迎するわ婿殿♪」

 「いらっしゃい♪ 立磨さん、私の服装はどうですか?」

 「……えっと、社長はお世話になります? リンちゃんは可愛いぜ」

 「お母様、ジンリン? ご主人様は私の旦那様ですよ?」

 

 母親と妹に釘を刺すジンリー。


 「えっと、修行に来たはずなんだけど俺?」

 「その前に、あなたとジンリーの婚礼をしましょう♪」

 「親戚達に、しっかりとご主人様は私の番だと知らしめないといけませんし♪」

 「他の家にお義兄さん取られちゃったら、戦争で取り返さないといけないから」

 「……ちょっと龍の社会って、バイオレンス過ぎませんか?」

 「その、バイオレンスな事にならない為に必要な儀式よ♪」

 「ご主人様が十八歳になったら、人間としての結婚式も盛大に挙げましょうね♪」

 「……わかった、驚いたけれど俺の人生も龍の生もジンリー達にベットする!」

 

 腹を決めた立磨、驚きつつもこうなれば毒を食らわば皿までと受け入れる。


 元よりジンリーとは、男女の仲となったのだから自然な事だと割り切る。


 すると、役人の着物を着た半魚人達がわらわらと現れて立磨を担ぎ上げて城の建物の中へと連れて行く。


 そして、衣裳部屋らしき場所で服を脱がされて金色の拳法着のような花婿衣装に着替えさせられた立磨は再度わっしょいと担がれて宴会の準備が整った広間に運ばれた。

 

 「……えっと、素敵です♪」

 「……ありがとうございます、ご主人様も素敵です♪」

 

 金のロングドレスの花嫁姿のジンリーに見惚れる立磨。


 立磨が龍になる修行の前に、二人の龍としての婚礼の宴が始まるのであった。

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