第4話 バンクアンドクラッシュ

 「先日はお疲れ様でした、ご主人様♪」

 「戦いよりも、その後のレポートの方が面倒だったよ」

 「SNSや公式サイトでの動画視聴も好評ですよ♪」

 「あの、何処で撮影してたとかそこらへん俺ノータッチなんだけど?」

 「雑務処理は我々にお任せ下さい♪」

 「いや、成り行きで所属扱いになっているけれどさ? 俺、ロンスターって会社に挨拶とか行かなくて良いの?」


 日曜日、事務所でジンリーと話をする立磨。


 突如助けに来てくれたジンリーにより全て手続きがされたが、立磨は自分を支援してくれている組織の事を何も知らなかった。


 「駄目です、本社は飢えた凶暴な雌ドラゴンの巣窟なので危険です!」

 「ゲーム会社じゃなかったのかよ?」

 「龍が運営するゲーム会社です、民間軍事警備部門や系列病院もありますが」

 「龍神様って、御伽噺みたいに竜宮城で魚達の王様とか天気の管理するのが仕事じゃなかったのかよ!」

 「神も副業をする時代なんです」

 「いや、俗っぽいな!」


 朝っぱらからの夫婦漫才であった。


 「まあ、身内なんだから仲良くしておかないとな? やっぱり、挨拶は大事だからな♪」

 「かしこまりました、社長である母に伝えておきますね♪ 母も私と好みが同じなので、一番心配な相手ですが」

 「一族経営だったのか! ところで、俺ってもしかして龍に好かれる性質なの?」

 「ええ、そしてご主人様は龍に愛される性質をご先祖様から受け継がれてます♪ まあ、そんな性質があろうともあなたを誰にも渡すつもりはありませんが♪」

 「変なもん継がせるなよご先祖さまっ!」


 立磨は先祖に叫んだ、ちょっと自分の家系を調べておこうと思う立磨であった。


 そんな話を終えて、二人は二階の住居スペースで朝食を摂る。


 「どっかの漫画で見たような、回復する薬膳を食わせてくれるのはありがたいんですけれど?」

 「神パワーで作りました、お召し上がりください♪」

 「ツッコむ気力がなくなったよ」


 腹は減るのでガツガツと食べる立磨、シリアルを食べながらその様子を見て微笑むジンリー。


 「ごちそうさまでした」

 「お粗末さまでした♪」

 「やっぱりジンリーの血とか、入れてたの?」

 「はい、ご主人様の心身を最速で浄化して回復させる為です」

 「助けてくれてありがとう、そっちは体調は大丈夫か?」

 「高位の霊獣なので問題なしです♪」

 「無理せず休む時は一緒に休もうな?」

 「お優しいのですね♪」

 「もう身内だからな、大事にするよ」

 「やはり、あなたは私の素敵な伴侶です♪」

 「いや、日本じゃまだ結婚できる年じゃねえよ♪」


 食事を終えて、二人で洗い物や片づけをする立磨とジンリー。


 「そう言えば、本日のご予定は? 仕事は入れてませんが?」

 「二人で街を見て回ろう、買い物ついでのパトロールだ」

 「デートですね、了解いたしました♪」

 「いや、この街が狙われてるって言ったのお前だろ!」

 「今日はオフですね、それでは銀行に参りましょう♪」

 

 立磨は、イエローのパーカーとストレッチパンツにスニーカーとラフな格好。


 ジンリーの方はというと、黄色地に金の龍が描かれたチャイナドレスと一人中華街な気合いの入れようだった。


 「お前のセクシーな姿を俺以外に見られたくないから、それは止めてくれ!」

 「あらあら♪ では、こうガーリーな物で♪」

 

 打って変わって、今度は黄色のベレー帽に黄色のフリル付きのワンピースドレスと一気に可愛い路線になる。


 「うん、美人が可愛い服を着てる」

 「飾らない誉め言葉、ありがとうございます♪」


 こうして二人は、周囲にどういう関係だと見られながら二人で市外へと出かける。


 「まずは銀行へ行って、資金を用意しましょう♪」

 「いや、怪しい魔力とか探知しろよ!」

 「今日はオフです~! お休みです~! 彼氏彼女の時間です~!」

 「休みが休みにならねえのが、俺らヒーローだろうが?」


 普段はテキパキと事務的に仕事をするジンリーが、今は立磨の腕に抱き着きべったりだった。


 そして、通りを進み街で一番巨大な銀行である中央銀行へとやって来た。


 「ホテルみたいな銀行だな?」

 「やはり、チャイナドレスで来ても違和感なかったような?」

 「いや、そこの設置場所もホテルの受付みたいなATMでさっさと済ませよう?」

 「ご主人様? 外の空に時空の揺れが?」

 「良し、ドラゴンシフト!」

 「む~~っ! 折角の初デートなのに~っ!」


 立磨は変身して外へ駆け出し、ジンリーはむくれながらドラゴンシフターを追う!


 ジンリーの言う通り。空に黒い穴が出現した。


 「ジンリー、銀行を守れ!」

 『お金が下せなくなりますからね』


 人間の姿からドラゴンへと変身したジンリーが、銀行を守る盾となる。


 その前で、ドラゴンシフターが敵を待ち構える。


 「皆さん、これから戦闘になりますので急いで避難をして下さい!」

 「あ、ドラゴンシフターだ!」

 「マジかよ、急いで逃げろっ!」

 「お金下したかったのに~っ!」


 避難勧告を出すドラゴンシフターと、不満を言いつつ逃げていく市民達。


 周囲の建物も、次々とシャッターを下ろして守りを構る。


 ヒーローが待ち構えていると知らずに、空の穴から一体の怪人が落ちてきた。


 「バ~ンクラ~~♪ 俺様はバンクラーの強盗獣ごうとうじゅう、ドリルクラ―様だっ! 銀行、襲わせていただきます♪」

 「そうはさせるかよ馬鹿野郎、ドラゴンシフターが相手だ!」

 『強盗獣は最初から人間ではないので、問題なく抹殺できます』


 ドリルクラ―は右腕がドリル、左腕が掃除機な黒いロボットタイプの怪人。


 あらゆる銀行がターゲットと言う悪の組織、時空銀行強盗団バンクラーの手先だ。


 それに立ち向かうドラゴンシフター、自分を含む皆の預金を守る為に構える。


 「おおっと、すでにヒーローがいたとは? ならばお前も破るだけだ!」

 「やられるかよ!」

 「一人で俺らに勝てるのか~♪」

 「勇者隊の皆さんを馬鹿にするな!」


 ドリルクラ―が突進し、ドラゴンシフターが肩から突っこむという形で戦闘が開始された。


 唸るドリルが、ドラゴンシフターのアーマーにぶつかり弾かれる!


 「そんなもんで貫けるかよ!」

 「な、何だこいつの鎧はっ! 出てこい、タタッキー!」


 驚いたドリルクラ―が飛び退き、戦闘員を召喚する。


 虚空から現れたのは、バールのような物で武装した全身黒タイツの戦闘員タタッキー達だった。


 「行け~っ! 相手の守りを突破しろ~っ!」

 「させるか、吠えろジンリー!」

 「キキ~~~~ッ!」


 戦闘員をけしかけるドリルクラ―だが、戦闘員達はドラゴンシフターの背後のジンリーの叫び声で全員吹き飛ばされた!


 「ば、馬鹿な! 何だあの化け物は!」

 「俺の愛しの幸運の女神だよっ!」

 「こ、今度は俺のドリルを片手で止めただとっ!」

 「お望みなら噛んで止めるぜ、ドラゴンバイト!」


 ドリルクラ―のドリル攻撃を、ドラゴンシフターは片手で止める!


 そして止めた方の手が龍の頭に変化して、ドリルクラ―のドリルを噛み砕いた!


 「馬鹿はお前だよ、強盗はあの世へgotoだ! ファンロンアッパーッ!」


 ドラゴンシフターの黄龍の拳がドリルクラ―を空高く、焼告げ落ちてきた穴まで打ち上げて爆散させた!


 『バンクラーの時空通路、消滅です♪』

 「よっし、撃破成功被害なし♪」


 ドラゴンシフターがガッツポーズを取ると、周囲から拍手が上がった。


 「ジンリー、行くぞ!」

 『ええっ? 銀行は? 私達の初デートは、如何為されるのですか!』

 「戦いが済んだらな、市民の皆さんの邪魔になるから行くぞ」

 

 ジャンプし、ジンリーの頭に飛び乗るドラゴンシフター。

 ジンリーは、主を乗せて空へと飛び上がる。


 ドラゴンシフターは、ジンリーが言う事は聞いてくれたものの彼女から不満げな感じが伝わっていた。


 変身を解いて立磨に戻り、ジンリーの頭にキスをして告げる。


 「お前と二人きりになれる所に連れて行ってくれ、そこで過ごそう!」

 『そのご命令、万難を排してでも実行いたします~~~っ♪』


 ジンリーは、喜びの叫びを上げると空の上を踊りながら飛び回り振り落とした立磨を拾い上げると飲み込んで保護して何処かへと飛び去る。


 「……黄色が多い所だな?」

 「それはもう、我ら黄龍の城ですから♪」

 「詰まり、ジンリーさんのご実家?」

 「いえ、別荘です♪ 実家ですと、祭りになりますので二人きりになるならと♪」

 「うん、人間の理解を越えてるな♪」

 「私、龍神の姫ですので♪ 財と権力はそこそこございます♪」

 「ガチで二人きり?」

 「イエス♪ 貴方様の運命は、我が手中でございます♪」


 立磨が意識を取り戻すと、そこは中華風の広い寝室だった。


 壁は白いがカーテンや布団は黄色、立磨は覚悟を決めた。


 セクシーなチャイナドレスに着替えたジンリー、角も尻尾も出していた。

 

 結論、立磨とジンリーは結ばれた。


 後日、学校から帰った立磨に事務所でジンリーが告げた。


 「ご主人様、中央銀行から感謝状を贈呈したいと?」

 「ああ、何時かな? 変身して行けば良いんだよな?」

 「はい、金一封も出るそうです♪」

 「わかった、後は仕事は?」

 「大陸の本社から、ゲームのモーションキャプチャーの依頼が来ております」

 「了解、引き受けるよ♪」

 「チケットは、エコノミーが送られてくるそうです」

 「ジンリーに乗せてもらって、飛んで行けば早いんだがな♪」

 「大陸では、龍の飛行の規制が面倒なんです」

 「面倒だけど、あっちだから仕方ないか」

 「申し訳ございません、なるべく日本だけで活動できるようにしたのですが!」

 「いや、いつかは行かないといけないし大陸の工場で作ってくれてるんだよね?」

 「はい、金龍合神ごんりゅうごうじんと言う私達のスーパーロボットです♪」


 あれから、立磨もできる限り戦闘以外でジンリーと仕事について事務所で相談や書類のチェックを手伝い程度だが行うようになった。


 ドラゴンシフターの活動は、大陸の本社でも評判が良いらしく予算が降りて専用の巨大ロボットも作ろうと企画が動き出した。

 

 その名は、金龍合神ごんりゅうごうじん


 ドラゴンシフターと、コアになるメカとジンリーの三位一体で完成する科学と仙術の技術を混ぜた合体と変形機能を持つスーパーロボットらしい。


 「それでは、本日は定時で上がりで日報を書きましょう♪」

 「ああ、そしたら上で夕飯だな♪」


 立磨とジンリーは、それぞれの机のPCに向かい日報を書き出した。

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