第5話 春の川原で

 三月になってウォーキングを始めました。

 近所の河川敷がウォーキングコースになっているので、毎朝三十分ぐらい歩いています。

 そのウォーキングコースの土手には、土筆つくしがたくさん。

 春の味覚として親しまれてきた土筆ですが、最近は取ってる人って見かけませんね。

 近況ノートに土筆の写真を載せますね。


 はかまと呼ばれる、ギザギザした黒い部分(アスパラの茎についてる三角みたいなヤツです)を全部取って、少しの間、水にさらして灰汁あくを抜きます。

 それを出汁で煮て卵とじにすると、ほんのり苦くて大変美味です。


 ウォーキングをしながらも、あの土手のあの辺に生えているなと、チェック済み。


 ビニール袋を片手にして、結構な急こう配の土手によじ登りながら、目星をつけた土筆をどんどん取ります。ハンターです。

 土筆は群生して生えるので、一本見つけると、周囲にもザックザク。

 そんな私に、


「取れますか~?」


 と、優しそうな老齢のマダムに、土手の上から声をかけられ、


「結構、取れますよ~」


 と、阿吽あうんの呼吸で会話をしました。

 要約すると、「土筆、生えてます?」「生えてますよ」の応答です。


「楽しそうですね」

 

 屈託なく仰られたので、「楽しいですよ」と答えた私。

 

「あら、こっちにもありますよ」


 マダムも土手の上から土筆を発見。

 ベレー帽をお被りになり、日傘をさした上品なマダムは傘を置き、手の届く範囲で土筆取りを始めました。そのうち夢中になってきたのか、土手の方にもお越しになられて、どんどん摘みます。


 あっ、危ない、マダム。

 急こう配の土手なので、下からよじ上る分には大丈夫ですが、上から降りるとなると、頭が重いため、転がりやすくなりますので。


 それに、どうして私。見ず知らずのご婦人と土筆取りで戯れているのでしょう。


「結構たくさん取れたんで、そろそろ帰りますね」

「あら、そう。じゃあね」


 マダムの身の安全を慮って、ここはひとつ帰る振りをしようかと。

 すると、ご婦人は土手の上まで上っていらして、摘んだ土筆を全部私に下さいました。

 こういう何気なさが嬉しいですよね。

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