第3話 外国人ジェントルマン


 私は自転車に乗り、午前の買い物帰りの途中でした。

 自宅近くの四辻の中央。

 サングラスにスーツ姿の外国人男性が片手にメモらしき用紙を持ち、わかりやすく道に迷っておいでです。


 頭が小さく、スレンダー。びっくりするほど足が長い。

 ブラックスーツに白いシャツ。ブラックのネクタイ。サングラス。

 このままミラノのランウェイを歩いていても、まったく遜色ないほどの超絶イケメン。見とれた私に気づいた男性。


「すみませ~ん」


 イントネーションではアメリカ人っぽい感じです。ですが、そのあとが続かない。たぶん「ありがとう」と「すみません」しか習っていない外国人。私は自転車を止めました。

 すると、こちらに向かって来ました。


 メモを渡され、「ここに行きたいんですけど」的なことを言われました。英語です。私は自転車を降りました。

 受け取ったメモにはテキトーな手書きの地図。そして矢印で示された目印と目的地まで英語表記。

 大ピンチ。


 黙り込む私の側で、迷い人も不安げです。


 しかし、なぜか私たちが佇む四辻の西にある神社だけが、日本語表記になっていた。


 それにより、私は南北東西の方角を知り、目的地が区役所なのだと理解した。地図には『〇〇office』と書かれています。なるほどね。


 ちょうど私の帰り道の途中にあります。説明するより連れて行った方が早いと思いました。


「I know. Let's go for that together.」


 中学生英語で精いっぱいに答えた私。出川哲郎さんみたい。すると、彼は感激したのか、「oh~」と言い、グラサンを取ってくれました。

 まあ、素敵。

 目と目を合わせて話しましょうって意味ですね。ジェントルマンです。

 サングラスの下のお顔も、ハリウッドスターみたい。眼福です。


 私は自転車を引き、歩き出す。すると彼も歩調を合わせて歩きます。

 

 そのうち市役所が見えてきて、指差しました。「that building」。正面玄関まで来て掌を向け、「hear」。以上。


 彼は最後は「Thank you.」と、母国語でお礼を言ってくれました。

 

 束の間の英会話が新鮮でした。

 それにしても私がじっと見つめたとはいえ、自転車乗ってたんですよ?

 呼び止めますか?

 呼び止めますか?

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