一目惚れ
さわこ(@rinrinko0101)様主催企画、「#ひと夏なんかじゃない2023」参加作品。
お題③:ビアガーデン
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こんなところ、来るんじゃなかった。私は思わずそう思っていた。
大学のサークルで、他の大学との交流会。……という名の、ただの飲み会だ。
正直そこまでお酒は強くないし、サークルの中にそこまで仲の良い人は多くない。つまり、コミュ障なのだ。ただでさえサークル内でも仲の良い人は多くないのに、他の大学の人と話すなんて! ……そうは思ったけど、そのサークル内の仲の良い人に、一緒に行こうよ、と言われてしまったのだ。どうやら他大学に、気になる人がいるらしい。不安だから、横にいてほしいと。その恋路を応援したかった私は、それを了承した。
……だけど始まってしまえば、彼女はすぐにその人といい雰囲気になってしまった。私が横にいる必要などなくなり……というか、私がいると、邪魔だった。
彼女は申し訳なさそうにしていたが、いいよ、気にしないで。と笑ってしまった。……ああ、人にいい顔をしてしまう自分、こういう時は困る。
そして今だった。私はどこの大学の人かも分からない人に、めちゃくちゃ話しかけられている。どこの大学? 彼氏いる? え、それお茶じゃない? ビアガーデンなんだからビール飲もうよ~。ちょっと2人で抜け出そうよ。てか連絡先交換しない?
……うるさいっ!! 彼氏もいないしお酒飲めないのっ!! 誰がアンタなんかと抜け出すかっ!! ほっといてっ!!
……と、叫べたのは心の中だけ。実際にそんなことを言って、もし逆ギレとかされたら、私にはどうしようもない。……怖くて、愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。それで調子に乗らせるということも、分かっているけれど。
どうしよう、と友達の方に視線を送ってみるけど、もちろん彼女はお相手に夢中。そりゃ、私に気づくわけない、よね……。
そこで目の前の青年が、私の肩を抱いた。……それで、全身の毛がぞわりと逆立つのが分かる。触らないで!! と叫びたくて、でもやはり、それが声になることはなかった。
ただ私は、震えることしか出来ない。
「──やめてください、彼女、困ってるじゃないですか」
そこで、背後から声が聞こえた。
登場人物が増えた、と思いつつ振り返ると……そこには、ものすごく背の高い、知らない人が。……だ、誰。
彼は目の前の青年の手を払うと、先程まで手が置かれていた場所に、今度は彼が手を乗せた。やめて、と心の中で叫び……それから私は、気づく。
この人の手、震えてる。
「お前何?」「この人の彼氏ですが」「……ンだよ、彼氏いるなら初めからそう言えって。萎えるわー」。……私の頭上で、そんな会話が飛び交う。私は置いてけぼりだった。
他の男の手の付いた女には興味がないということか。先程まで熱心に私に話しかけていた人は、あっさりとどこかへ行ってしまった。
……そして残される、私と彼。
「……あの」
「ひゃいっ!!」
後ろから話しかけられ、思わず私は大きく体を震わし、大きな声を出してしまった。……恐る恐る振り返ると同時、彼は私から手を離して。
「……すみませんでした。勝手に彼氏とか名乗って……その、困ってるみたいでしたから……」
「あ、あっ!! えっと、その、そうですっ。……あの、ありがとうございました。助かりました」
「あ、それなら良かったです」
2人でぺこぺこと頭を下げ合う。なんと滑稽な光景だろう。
「じゃあ俺は、これで……」
そう言うと、彼は踵を返そうとする。……思わず私は、その腕を掴んだ。
「……え?」
「……えっ?」
掴んでしまった私も、同じように聞き返してしまう。……自分の行動の意味に気づいた私は、あっ、と言い、手を離した。……だけど、引き留めるのには成功したらしい。いや、引き留めてどうするんだ。なんで引き留めたんだ。……そんなことをぐるぐる考えてから、ええい、どうにでもなれ! と、私は口を開いた。
「あっ、あのっ!! ……良かったら、このまま一緒に飲みませんか。……って言っても私、お酒とか苦手なんですけど……」
ほら、その、さっきみたいな人がまた来たら怖いし、なんて、言い訳がましく付け加える。……すると彼は、ふは、と笑って。
「はい、俺で良ければ」
あと俺も、お酒苦手なんです。
そう言ってウーロン茶を見せてきた彼に……私は、高鳴る心を感じていた。
──というのが、私と彼の馴れ初めである。
今なら分かる。彼が私を庇った時、手が震えていたのは……彼はきっと、私以上に怖がっていたからなのだと。だってこの人、背は高いから威圧感はあるけど、私以上にビビりだもん。
ねぇ、あの時、何で庇ってくれたの? ふとそう聞いてみると、彼は頬を赤く染める。そして、あー、とか、えーっと、とか言ってから。
教えて? と念を押すと、彼は観念したように喋り出した。
「実は、一目惚れで……あの時、ずっと君のことを見ていたんだけど……少し目を離したら、なんか絡まれてて。あ、これは助けないと! って思って、無我夢中で。……でも、ほら、助けたからその後一緒に居るとか、なんかそういうの、下心があって助けたみたいで嫌だと思って……」
語尾が段々小さくなっていく。そこで私が、一緒に居たいと言ったのか。……ふふ、と思わず笑ってしまう。
何、と貴方が頬を膨らませて。私は貴方の膝の上に座る。
「貴方なら大丈夫だと思ったの。……きっと私も、一目惚れだったんだと思うよ」
貴方と出会えたから、あの日、行って良かった。……今ではそう思っている。
私の言葉に、貴方は顔を真っ赤にして、目を逸らしてしまった。
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