月を片手に飲む酒は旨い

「#私は満月三日月新月月の裏側どのイメージですか」のアンケート結果より

三日月でした。


 ──


 月を片手に酒を飲みたい気分だった。

「月を片手に?」

「そう、月を片手に。こう……ほら、三日月ってさ、持ちやすそうな形してるじゃん。あの細い両端を、こう、両手でグッって掴んで、目の前でピカピカしてるのを見ながら、ぐいーっと酒をあおってさぁ」

「……馬鹿? 両手で掴んだら、どうやって酒飲むの」

「ひっどぉい!! でも確かにそれもそうだぁ、あははは」

 私は手を叩いて笑う。その拍子に机の上の缶が一個、倒れた。幸い中身は少ししか入っていなかったけれど、君は「あーあーあー」、と謎の声を上げながら缶を立て直して、机を拭き始める。その光景が何だか面白くて手を叩いて笑っていると、笑い事じゃないわ、とデコピンされた。

「いったぁい、ぼーりょくはんたぁぁぁぁい」

「黙ってろ酔っ払い」

 君の声は夜風よりも冷たかった。酷いなぁ、とまたケラケラ笑う。確かに今の私は、誰の目から見ても酔っぱらっているのだろう。

「……でも確かに」

 酒に弱いから、と一切酒を口にしない君が、水の入ったコップを片手に言う。

「月を片手に酒は、旨そうだ」

「でしょ」

 分かってるじゃないか、と君を指差し、それだけじゃなくて、背中をバシバシと叩く。痛い、と氷より冷たい声色で言われ、睨まれ、舌打ちをされ、デコピンをされた。あれ、これ、私の方が被害大きくない!? そう文句を言うと、自業自得、と言い返された。血も涙もない。

「ああ……ほしいな……あの三日月……ピカピカ~……ピカピカ、って……それを明かりにしてぇ、端っこの方をちょっとだけ砕いてぇ、お酒に混ぜたらぁ……んふふ、隠し味にお月様の味ぃ」

「月の味って何」

「わかんない~……レモン?」

「完全に色に引っ張られてるじゃん」

「何でも良いの~、問題はそれが、めっちゃお酒に合って美味しい~ってことだけ~」

 私は重力に任せて机に突っ伏し、顔をずらして三日月を見上げる。

 とってもきれいでうつくしい、にほんのふうぶつし、おつきさま。


 気づけば私はそのまま眠ってしまっていたらしい。目を覚ました時、君の姿は無く、代わりに、私は誰かが手作りしたであろう三日月の小さなぬいぐるみを抱きしめていた。

 その状態のまままだ開けていない缶を迷いなく開けて、一気に仰ぎ。

 ……うん、やっぱり私の予想通り、旨い。

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