朝の箱庭

「箱庭文学」参加作品(2022/5/3)


 ──


 顔の上に置かれた自分の手の指の隙間から差し込む光で、目を覚ました。


「……」

 手探りで時計を探す。指を這わせて、何かがコツン、と当たったから、引き寄せる。五時。起きるにはまだ早い。

 布団の中で伸びをすると、その拍子に布団の隙間から冷たい空気が入って、慌てて伸びをやめて体を丸める。春だから、朝はまだ寒い。

「……ん……」

 すぐ隣、少し呻くような、そんな声が聞こえた。確かめるまでもない。一糸纏わぬ、貴方の姿。そして同じく一糸纏わぬ私は、貴方の肌に頬を寄せる。温かい。

 正直、このシングルベッドに二人は狭い。それでも良かった。ここには、私と貴方の二人っきりだから。

 起き上がってしまったら、地面に立ってしまったら、私たちは一人ぼっちになってしまう。ここで二人抱き合っていれば、私たちは二人ぼっち。

「……どうしたの?」

「……あ、起こしちゃった? ごめん」

「いや、大丈夫……今何時?」

「五時」

「……起きるには、まだ早いね」

 うん、と頷く。わかってる、もう少ししたら、ちゃんと起きて一人ぼっちにならなきゃ。でも、それまでは。

「……おはよう、おやすみ」

「……おはよ、おやすみなさい」

 私たちは挨拶をして、抱き合って、再び目を閉じる。

 一人ぼっちになるまで、この狭い箱庭で二人ぼっち。

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