スターチスが枯れる頃
「#適当なタイトルをもらうとそれっぽい小説の書出しが返ってくる」で頂いた題名⑤
──
貴方がそれを眺める時、悲しそうな顔をしているということは知っていた。
貴方がそれにどれだけの気持ちを込めているのか、それは知らなかった。
聞いてもはぐらかされるだけだと知っていたからだ。だから私は聞こうとはしなかった。それが冷たい、と思う人もいるかもしれない。しかしそこまで悲しそうな表情をするのなら、わざわざその話題を出して悲しませることもない、と思ってのことだった。
だから私は驚いたのだ。貴方がそれを手放そうとしたときは。
確かにそれは、とっくの昔に枯れてしまっていた。もう色が抜けて、どんな花だったかも、花に詳しくない私にはわからない。
「それ、捨てるの?」
私が問いかけると、貴方は一瞬驚いたように目を見開いてから、ゆっくり頷いた。決して枯れなそうな笑顔を浮かべていた。
「貴方がこれに関してで質問したのは、初めてだね」
貴方がそれを抱えながら、そう言う。これからそれを捨てようとしているのに、貴方はそれを大事そうに持っていた。
「この花はスターチス。……前の恋人が、私にくれたものなの」
「前の恋人」
「そう。私、これを見るたびにあの人のことを思い出していた。……きっとまだ好きだったの。でもそれは、今付き合っている貴方に失礼だから。……そう思っても、中々手放せなかった。でも……ようやく、これを手放す覚悟が決められたの。ごめんなさい」
貴方はそう言ってから、私の方を見つめて。
「待っていてくれてありがとう」
それを聞いて私は、貴方に向け、笑い返す。
「もちろん、貴方のためなら」
私はその花に関して、何も聞こうとしなかった。それが正しかったのか、それはわからないけれど。
彼女は自分の気持ちに折り合いをつけて、こうして私と笑い合ってくれている。
それだけで私たちは、きっと幸せなのだ。
スターチスの花言葉「永遠に変わらない心」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます