リフレイン
アイオラ(@aiora_Iolite)様主催の、「#アイオラ秋の企画祭り」に参加した際の作品です。
企画の主旨としては、「目の前を一枚の紅葉が横切る。」から始まり、「まだほんのりと温もりが残っていた。」で〆、というものです。
──
目の前を一枚の紅葉が横切る。
温かいのかな、と思って、落ちたそれを手に取ってみた。……当たり前だが、温かくない。それはただ赤いだけで、私の冷たさを癒してはくれない。手放して、また落ちるのを見送った。
──麻衣って冷たいよね。
先程言われた親友からの言葉が耳の奥でリフレインする。長い付き合いの親友だ。だから、伝わっているものかと思っていた。私は冷たくないと。ただ少し、感情を出すのが苦手なだけで。
……いや、もしかしたら……私が知らないだけで、私は本当に冷たい人間、なのかもしれない。
「……」
ひらひら、紅葉が舞い踊る。どれも冷たい。吹く風も容赦なく私の体を叩く。身に纏う冷たさから逃れたくて自分の手を握ったけれど、ずっと外気に晒されていた手も、やはり冷たかった。
ああやはり、私は冷たい人間なのかもしれない。
少しでも温もりに縋りたくて、私はスクールバッグを探った。でも寒さをしのげそうなものは何もない。だから制服のポケットに手を突っ込んで。
ポケットの中は、外よりは微かに温かかった。しかしそれだけあれば、少し変わってくる。冷たくなった私の手に、じわりじわり、温もりが染みる。息を吐き出す。それは白く変わるにはまだ早い。
あ、と呟いた。思い出す。
去年の冬、その日は雪が降るくらい、本当に寒くて。なのに二人で手袋もつけず、雪合戦をした。本当に馬鹿だと思う。冷たくなって指先の感覚がなくなっても、どちらも雪の塊を作って投げるのを、やめなかった。たぶん、先に止めた方が負けだと、お互い思っていた。
やがて疲れて、合図するわけでもなく雪合戦は終了し、その時初めて手が冷たいことに気が付く。だから私たちはその冷たい手同士で、温め合おうとした。もちろん無理だった。だからお互いの制服のポケットに濡れた手を突っ込み合って。やめろよぉ、なんて二人で笑い合った。
……どうして今、それを思い出したんだろう。紅葉の形が手に似ているからかな。それとも、温もりに釣られて思い出したのかな。
何でも良い。私は踵を返した。そうして一目散に走り出す。唯一無二の親友の元へ。走るのに手が不自由だと困る。だから自分の手をしっかり握りしめて、走って。
きっと私は、冷たい人間ではない。
まだほんのりと温もりが残っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます