季節を感じる独りご飯

CHOPI

季節を感じる独りご飯

 なんてことない、休日の午後。冷蔵庫の中身が丁度空になっていて、明日から始まる一週間、また仕事に追われて買い物に行く余裕はないだろうなと思って、少し重たい腰を上げる。近所のスーパーだし、と、半袖短パンに身を包み、財布とスマホ、家の鍵と買い物袋だけを持って、玄関のドアを開け外に出る。


 外に出ると見上げた青空が思いの外高く、どこまでも澄み渡っていた。日差しはまだまだ和らいではくれないけれど、吹く風はもうだいぶ心地の良いものになっていて。玄関の鍵を閉め、スニーカーの潰したかかとをちゃんと履き直し、アパートの階段を下っていく。炉端に自生している雑草の色が先週よりも少しだけくすんだ色に見えるのは、太陽の光が本当はもう、一時よりも和らいでいたりするから、なのだろうか。


 スーパーへ向かう道すがら、もう蝉の声がしなくなっていることに気が付いた。路上にも蝉爆弾は落ちていない。そうか、やっぱり。そして思う。今まさに始まったこの季節が、ボクはとても大好きだ。


「秋と言えば……」

 歩きながら独り言をポツリ、呟く。一人暮らしって独り言がどうしても増える、気がしている。最初は初めて家族と離れて少し寂しいと感じる気持ちを紛らわせる為だったと思うけど、今ではもうただの癖になっているのでちょっと直したいような気もしている。


 ……さて、秋と言えば。食べ物の秋、スポーツの秋、芸術の秋、読書の秋……。過ごしやすいこの季節に託けて言われるものはもちろんのこと、食べ物のように冬を目前にしてやってくる実りの季節でもあるわけで。一年を通して見ても意外と充実している季節だと、ボク個人では思っていたりする。


 目的のスーパーに着く。カゴを持って店の中に入ると、キンキンにかかっている冷房が少し暴力的に感じられる。少し前まではこれが天国だと思っていたはずなのに。


 野菜コーナーの売り切りの値下げされたコーナーに、もうすっかり元気を失ったズッキーニやトウモロコシの姿があった。今年の夏は食べてなかったなと思って、とうもろこしを一つ手に取る。もっと美味しい時期に食べておけばよかったなぁ、なんて少し後悔しつつ手持ちのカゴに入れた。そのまま野菜コーナーを順に辿ると、カボチャを見つける。



「カボチャって、冬の野菜じゃないの!?」

「カボチャは夏野菜よ」

 何年か前の夏、実家に帰省したお盆にカボチャの煮物を出してきたお母さんに、『えー、冬野菜の煮物ー?』なんてチラッと文句を言ったことがある。その時に返ってきたカボチャの旬、あまりに信じられずにその場でスマホを掴んで検索してみると、検索結果はお母さんの言葉を肯定する記事で埋まっていた。

「おわー……、本当だ。ずっと冬が旬だと思ってた」

「そうねー、確かに言われてみると冬のイメージもあるわねぇ……」

 そんな会話をしつつ、衝撃のあまりカボチャの煮物に何事もなく手を付けていたのはいい思い出だったりする。



 そんなカボチャを見て、何となくお母さんの煮物を思い出して食べたくなった。一つ手に取ってこれもカゴに。そうしてさらに進むと次に見つけたのはサツマイモ。あぁ、これは秋の味覚だ。少し早いけど、サツマイモご飯が食べたいな、と思って、これもカゴに入れた。


 他にもいろいろ買って、ようやく帰路につく。とうもろこしやサツマイモ、カボチャなんかをまとめて買ったから、いつもよりも袋が重たくて、家に着くころにはTシャツがしっとり汗ばんでいた。


 その日の夜。ご飯のメニューはとうもろこしと、カボチャの煮物と、サツマイモご飯。一人暮らしだと食べたいものでメニューが構成されがちで、今日みたいにまとまりのないメニューの日もよくあるけれど。


 とうもろこしの味がやっぱり薄くて。

 カボチャは少しだけ、お母さんのものよりも醤油の味が濃くて。

 サツマイモの甘みはきっとこれからさらに濃くなるんだろうと思って。



 夏の終わりと、夏の思い出。秋の始まりを感じた、とある日のご飯。

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