第47話 告白ー1

 私は、陽菜を助けた際の拓海の行動力や聡明さを身近に見て、ますます拓海に対する恋心が強くなったのを感じていた。


 胸が苦しいという感覚を初めて体験している。

拓海と同じ学園生活もあと半年で終わってしまう。


(打ち明けよう)

そう決意した。


 陽菜の無事を確認した次の日の放課後、一人で学校から駅に歩いていたら、前を歩いている男子と女子に気づいた。


 拓海と美奈子だった。仲良く話しながら歩いていた。


 二人が何で一緒に……


 何か、やり場のない、叫びたいような、とてもイヤな感情が私に芽生えていた。もしかすると、これが〝嫉妬〟なのかも知れない。

今まで、こんな感情を持ったことはなかった。


 なんだか恥ずべきおかしな感情を持ちながら、二人の後をずっと追っていた。

二人が駅の入り口に消えていった。思わず駆け出していた。

二人が駅の階段の踊り場を曲がるのが見えた。

急いで改札を抜けて後を追った。


 階段を降りる私の足音が響いた。


「アン、慌ててどうしたの?」と階段の途中で止まっていた拓海が言った。

美奈子は何か得意げな顔をして、

「じゃ、拓海くん、先に行くね」と階段を降りていった。

〝得意げ〟なんて感じることが嫉妬なのかも知れない。

何だか、自分がイヤになる。


 私は息が切れていたので、拓海がじっと私を見ていた。

少し落ち着いて

「大丈夫、ちょっと急いでいただけ」と拓海に答えた。

おそらく私の顔は上気していることと、嫉妬で赤くなっていると感じていた。

「ほんとに大丈夫か?」と拓海は心配そうに聞いた。

「ほんとに大丈夫……じゃあね」と、気恥ずかしさから、走ってホームに行った。


 座席に座って、自分の頭を拳固でぶった。

(拓海を前にするとどうして)

三人で陽菜を助けに過去へ行ったときは、普通に話せた。おそらく陽菜のことで頭が一杯だったからだろう。


 初めて会った日を思い出した。

あの時も、転んだ私を心配して声をかけてくれたのに……


 家に帰って、じいちゃんの和室で二人の姿を思い浮かべていた。

こんなとき、じいちゃんに話したらなんて言うだろう。

じいちゃんは何か問題があったとき、正面からそれに立ち向かう人だった。

おそらく「拓海くんにぶつかっていけ!」って言うかな。

(じいちゃん、そうだよね)


「そうなさい」と突然、薫さんの顔が浮かんだ。


 薫さんは、じいちゃんとの結婚を諦めた人。そして、自分の子供であるお母さんを、母だと名乗らず、ずっと見守っていた人。

薫さんに聞いてもらおう。唐突にそう思った。


 お母さんに、薫さんに会いたいって言ったら、何て言うだろう……

まずは……お母さんが帰ったら、お母さんにきちんと話そう。


 夕方、お母さんが帰ってきた。

「ただいま、何だか今日は疲れたわ」

「お帰りなさい」

「今日お父さんは?」

「遅くなるって言ってたから、十一時ころになるんじゃない」

「そう。お母さん、話したいことがあるの」

「うん? なに? 改まって」


「お母さん、拓海くんって知ってるでしょ」

「知ってるわよ。何度か家にも来たわよね。アンの好きな子でしょ」

「えっ……」

「アンの顔、目を見れば分かるわよ。母親だもの」

「分かっちゃうんだ……」

お母さんは優しい目で微笑んだ。


「私、打ち明けようか迷ってる」「じいちゃんなら何て言うかな?」

「お父さんだったら、絶対に『打ち明けろ!』って言うわよ」

「やっぱり。そうだよね」


「ねえ、お母さん、薫さんに会いたいんだけど……」

「薫さんに? どうして?」

「うーん、理由は良く分からない。話してみたいの」

「そう。じゃ、会ってみれば。年賀状に住所が書いてあるから。電話番号も書いてあるはず」「ちょっと待って」


 お母さんが年賀状を取ってきて、それを受け取った。

〝吉永薫〟、住所は世田谷区だった。




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