第46話 陽菜の死ー6

 次の日、教室に入ると陽菜がいた。


 


 陽菜に近づいていくと、さくらも教室に入ってきて足早に私の横に来た。

私とさくら、二人で陽菜を抱きしめた。

思い切り、思い切り、二人で陽菜を抱きしめた。


「なに? なんなの? 二人して」陽菜が悲鳴をあげた。

「いいから、陽菜はじっとしてて」さくらが泣き始めた。

「さくら、なに泣いてるの?」「アンも一体どうしたの?」

「いいから」私も言った。


 クラスの仲間は、どうしたんだって顔で私たちを見ている。


〝えんたく〟が教室に来て、

「お前たち、何を朝から抱き合ってるんだ」と困った顔をして言った。


(先生は、死んでしまった陽菜の顔を見て立ち尽くしてたんだよ)

あの日の先生の行動は早かった。〝えんたく〟が担任でほんとに良かった。


 気が付いたら、〝えんたく〟の後ろに拓海が立っていた。

拓海は〝えんたく〟をよけて私たちに近づき、陽菜の背後から三人を包み込むように腕を回した。


「拓海くんまで何なの?」と、いつも冷静な陽菜も声が裏返っていた。


「なんだ? 高木まで。おまえたちどうかしたのか?」

「とにかく、授業が始まるから、解散してくれ!」

〝えんたく〟があきれたように言った。


 陽菜を囲っていた私とさくらと拓海は手を解いた。


 陽菜が、少し落ち着きを取り戻して、間を置いて言った。


「何かあったのね?」

「私が知らなくて、あなたたち三人が知ってることね?」

さすがに陽菜だと思った。

「陽菜、あとでゆっくり話すね」と私が言った。

さくらと拓海が頷いた。

「さくら、拓海くん、陽菜、今日の放課後、私の家に集合!!」

「おー!」さくらと拓海、二人が右手を振り上げた。

陽菜は苦笑していたが、

「了解!」と言った。


 その日の放課後、私の家に三人がやってきた。

私もさくらも拓海も、とにかく嬉しくて仕方がなかった。

陽菜は、落ち着いていた。


「さあ、話してもらいましょうか、何があったの?」と言った。

他の三人で顔を見合わせて、一緒にニコッと笑った。

「あんたたち、いい加減にしてよね。私だけ仲間外れにして」と陽菜が少し怒った。


「陽菜、驚かないで聞いてね……」私が言った。

「十月二十日、陽菜は事故にあって、死んじゃったの」


「えっ……、私が死んだ? なに言ってるの? 今、こうして話してるじゃない。私は幽霊ってこと?」、そう言った陽菜を私たち三人は笑顔で見ていた。


 三人の顔を交互に見ていた陽菜が、


「もしかして……」


「あなたたち、タイムスリップして死んだ私を助けてくれたの? 過去に行って未来を変えたの?」

「さすが陽菜、その通りー!」さくらが、ご名答!とばかりに声をあげた。

「じゃあ、ずっと昔じゃなくて、近い過去にタイムスリップ出来たの?」

「うん、陽菜が事故にあった前の日にタイムスリップした」


「陽菜とさくらと三人で過去に行った日、陽菜が言ったでしょ。『別の写真でも過去に行けるかも』って」「陽菜が事故にあった場所の近くにコンビニがあったので、そこの防犯カメラから写真を手に入れて、やってみた」と私が説明した。


「拓海くんが、事故と同じ日だと、タイムスリップした時間が事故後になってしまうかもって。なのでコンビニの店長さんに前の日の写真をもらったの」

「正解だった」と拓海が言った。

「拓海くんって頭いいって思った」とさくらが言った。


「そうだったの。私、一度死んだのね……」と陽菜がしみじみ言って、

「拓海くん、アン、さくら、ありがとう!」、陽菜の目は少し潤んでいた。


(浩ちゃん、未来を変えたけど、良かったよね)



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