第44話 陽菜の死ー4

 次の日、授業を受けていても内容は全く頭に入ってこなかった。

〝陽菜を助ける〟頭にあったのはそのことだけだ。


 放課後、私の家に拓海とさくらが来た。

お母さんも仕事で出かけていて、家には私たち三人だけ。

「昨日コンビニでもらった紙の裏に、日付を書くよ」と言って、拓海が一枚には〝2022.10.19〟、陽菜が写っているもう一枚には〝2022.10.20〟と書いた。


「陽菜の事故の前の日にタイムスリップできれば、事故は防げるね」私が言った。

「うん」拓海とさくらが答えた。


 もうすぐ四時になる。


 アース・ウィンド・アンド・ファイアーのCDをセットし、オーディオのリモコンをさくらに渡し、〝2022.10.19〟と裏に書かれた写真を持ってソファに座った。


「拓海くん、右に。さくらは左に座って」


 右手で紙を持ち、その手を拓海が掴んだ。左手はさくらと手を繋いだ。

「じゃ、いくよ。音楽がかかったらコンビニの前の光景を思い浮かべて」

「さくら、曲をかけて」

「うん」


〝セプテンバー〟がかかった。三人で目を瞑った。


 軽やかなイントロからブラスが入り、歌になった。


♪Do you remember The 21st night of September?

 Love was changing the minds of Pretenders

While chasing the clouds away

(君は覚えてるかい 九月二十一日のあの夜を

 よそよそしかった僕らのこころを愛が変えていったよね

 雲を追い払うように)


 最初のフレーズが繰り返して聴こえた。


 目の前が真っ白になり、目がぐるぐると回る。


 拓海はしっかりと私の手を掴んでいる。さくらとも手を繋いでいる。


 体が飛んでいく。どこまでも飛んでいく。


「アン、さくら、大丈夫?」拓海の声で我に返った。さくらも

「うーん」と言って目を開けた。


「来たよ。ほんとに来た。過去なのか分からないけど」拓海がそう言ってコンビニを指さした。


「ちょっと見てくる」私はコンビニに入った。

「いらっしゃい」

まずは、時計を見た。時計の針は四時二十分を指していた。

次にレジを見た。

デジタルカレンダーの数字が十月十九日を示していた。

ガムを一つ買って、レジで店員さんに聞いた。

「今年は2022年ですか?」

店員はびっくりしたようだったが、丁寧に答えてくれた。

「はい、そうですよ」

「ありがとうございます」

ガムを持って外に出た。


「拓海くん、さくら、成功したよ。今は、2022年10月19日、16時20分」

「よし。陽菜の事故は明日の朝、どうやってそれを止めるか」

「陽菜に会って登校時間を変えるように言えばいいんじゃない?」とさくらが言った。


 拓海は少し考えて、

「陽菜は男の子をかばおうとした。もし陽菜がいなければ、男の子が事故にあうかも知れない」

「確かに。そうね」私が言った。

「どこかで一夜を過ごして、明日の朝、男の子が道路に飛び出すのを防ごう」

「拓海くんの考えでいいと思う」私が言った。

「うん」さくらも言った。

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