第42話 陽菜の死ー2
土曜日、陽菜のお通夜が執り行われた。
多くの生徒が参列した。
私も私のお母さんと一緒に参列した。
大切な親友が亡くなったのに、私はどうかしてしまったんだろうか、なぜか涙が出ない。
木曜日の朝、さくらから電話があってから、心はどこか別のところを彷徨っている。
下級生に陽菜ファンが多いことは知っていたが、改めて陽菜が部のエースで、人気者だったことを実感した。
たくさんの、下級生だと思われる女子生徒が参列し、泣いていた。
学校のほとんどの先生、生徒が参列していたのではないだろうか。
お通夜の席は、人で溢れていた。
悪玉三人娘も来ていた。
いつもやりあう関係だったが、三人とも泣いていた。
さくらは木曜以来、ずっと泣き続けていて目の腫れがひどく、顔を見てさくらだと分からないくらいだった。
日曜日、告別式が行われた。
拓海も参列していた。
「アン、大丈夫?」
「うん、大丈夫」
「まさか陽菜がって、最初に聞いたときは思った。何かの間違いだと」
拓海は悲しみでなく、怒っていた。
拓海の怒りの顔を見て、なぜか陽菜の顔が浮かんだ。陽菜が問いかけた気がした。
(アン、大丈夫?)
そして、陽菜とさくらと三人でタイムスリップしたとき、陽菜が言った言葉を思い出した。
(別の写真でも過去に行けるかも)
そうだ……そうだ……
過去に行って陽菜を救うことが出来るのでは?
「拓海くん、相談がある」
「相談? なに?」
「今日の夜、私の家に来て。さくらも呼ぶ」
「分かった。八時くらいでいいかな?」
「うん、じゃ八時に」
その日の午後八時、さくらにも声をかけたので、二人は待ち合わせしたかのように、同時に家に来た。
「いらっしゃい」お母さんもいつもの張りがある声ではない。
「お邪魔します」二人が答えて家にあがった。
拓海が家に来たのは久しぶりだ。
和室に入った途端、
「おー、相変わらず凄い!」ってオーディオを見て目を輝かせた。
「拓海くん、さくら、ソファに座って」と言った。
さくらは、なぜ拓海と一緒に呼ばれたのか分かっていない。
「さくら、あの話を拓海くんにするよ」と私は言った。
「あの話……分かった」
「何だか意味深だな」拓海が言った。
「拓海くん、真剣に聞いてね。信じられないかも知れないけど」
「分かった、聞くよ」
私は、ゆっくりと呼吸し拓海の目を見て、話し始めた。
「文化祭の次の日、代休だったよね。その日、私は一人でタイムスリップを経験した。そして、十五日の土曜日、今度は陽菜とさくらと三人でタイムスリップした」
拓海は驚いて、
「タイムスリップ? 過去や未来に行く?」
「そう、行ったのは過去。1978年だった」
拓海は、私を見て、次にさくらを見て言った。
「僕をからかってる?」
「ほんとなの!!」さくらが強く言った。
拓海はまた二人を交互に見て、しばらく黙っていた。
私は例の写真とメモを出して、拓海に渡した。
「これは?」
「写真の裏に〝1978〟って書いてあるでしょ。そのビルは六本木にあったスクエアビルっていうビル。メモの通りのことをすると1978年のそのビルの前に行くことが出来るの」
「信じられないのは分かるけど、ほんとのこと」
「そして、三人で行った日、現在に戻ったときに陽菜が言った言葉を思い出したの」
「『別の写真でも過去に行けるかも』って陽菜は言った」
「もしそれが出来るなら、陽菜の事故を防げるかも知れない」
「そうか、そうだよね。陽菜を助けられる」さくらが立ち上がって言った。
聞いていた拓海が、ゆっくりと自分の言葉をかみしめるようにこう言った。
「信じられないことだけど、二人の話や目を見ていて、分かった。ほんとのことなんだね。アンの言う通り、陽菜を助けることが出来るかも知れない」
「でも、1978年は二度の実績があるみたいだけど、陽菜を助けるなら〝近い過去〟になるよね。その実績はないから危険かも知れないよ」拓海は冷静に言った。
「うん、それは私も考えた。でも、陽菜を救うためなら、私は平気」
「私も」さくらが言った。
「なら、やろう! 陽菜の事故は木曜日。事故の前にタイムスリップして陽菜の行動を止めないといけない」
「アンたちがタイムスリップしたとき、〝年〟はこの写真の裏書の通りだったみたいだけど、月日は?」拓海が言った。
「月日は今の月日と同じだった」私が答えた。
「それだと、事故の一年前にしか行けないね」「もし写真の裏側に日付まで書いてあったらどうだろう、その日に行けるかも知れないよ」
やっぱり拓海を呼んでよかった。改めて拓海が頼りになる、信頼できる人間だと思った。だから私は彼を好きになった。
「それから、メモの通りにすると過去に行けるんだよね。今に戻るのは?」
「エンゼルの扉が過去と未来を繋げていたの」私が答えた。
「〝エンゼル〟? あの喫茶店?」
「うん、そう」
「ふーん」
「近い過去に行けたとして、もしエンゼルで戻れなかったら?」
「陽菜が助かるなら、私は大丈夫」
「怖いけど、陽菜を助けたいから、私も大丈夫」さくらが少しおどおどして言った。
「陽菜が事故にあったのは三田(みた)の道路だよね、そこの写真、近い過去の写真を探そうよ」と拓海が言った。
「そうだね、明日の放課後、事故があった場所に行こう」と私が言った。
「そうしよう」拓海が言った。
「うん」とさくらが答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます