第40話 薫さんの秘密ー3

 月曜日、学校に行くと、陽菜とさくらが話をしていた。


「朝から二人で何の話?」

「あのことに決まってるでしょ」さくらが言った。

さくらはまだ興奮が覚めていないようだった。

「なるほどね」私の返事に陽菜が

「アン、何かすっきりした顔してるね」

「そう言われると、確かになにかすっきりしてる」と、さくらも言った。


「うん、今日の放課後、良かったらエンゼルに行かない?」

二人に薫さんのことを話そうと思った。私がモヤモヤとしていたときから、二人はそばにいたから。

この前は、タイムスリップ、今後はなに? と思ったのかも知れないが、二人は

「いいよ」と答えた。


 放課後、三人で、エンゼルのいつもの重いドアを開けた。

「いらっしゃい」、マスターの笑顔もいつものままだ。

「こんにちは」三人で挨拶をして指定席に座った。


「今日は何のパフェ食べる?」さくらが早速聞いてきた。

「私はフルーツパフェにする」陽菜が言った。

「私も」

「じゃー、私はバナナパフェ」

さくらがバナナパフェを食べるのは初めてかも知れない。


「マスター、注文いいですか?」

陽菜がマスターを呼んで、三人の注文を伝えた。

「はい、了解」マスターが奥にいる奥さんに注文を復唱した。

「アン、どうする? パフェが来てからにする?」陽菜が聞いた。

「どちらでもいいけど、食べながらにしようよ」と私は答えた。


 少しして、マスターが三人のパフェを運んで来た。

「はい、お待たせ」

いつものことだけど、さくらがほんとに嬉しそう。


「いっただっきまーす!」さくらの合図で3人が食べ始めた。

「美味しい、ほんとに美味しいね」さくらの笑顔は人も優しくする。


「陽菜、さくら、食べながらでいいので聞いてね」

「うん」二人が答えた。


「前に葬儀のときに会った薫さんのことを話したでしょ。そして、過去でも会ったよね」

「会ったね」陽菜が言った。

「私のお母さんにそっくりだった」

「うん、そっくりだった」さくらが言った。


「薫さんは、じいちゃんのただの友達じゃないって、何となく思ってたけど、疑惑は当たってた」

「当たってたって、どういうこと?」陽菜が聞いた。


「薫さんは、私のお母さんの生みの母親だった」


「えっ、じゃあ、おばあさんは?」さくらが言った。

「おばあさんは育ての親、薫さんの実家のお父さんが厳しい人で、じいちゃんとの結婚を許さなかったので、私のお母さんを養子にして、ばあちゃんが育てることにしたんだって」

「ばあちゃんは、薫さんとのことを全て知ったうえで、お母さんを育てること、決意したって」

「お母さんは、若い頃に戸籍を見て知っていたみたいだけど、じいちゃんとばあちゃんが話してくれるのを待ってたって」

「ばあちゃんが亡くなるとき、ベッドのところに呼ばれて伝えられたって」


「そうだったんだね」陽菜が言った。

「薫さんは、名乗らずにずっとお母さんを見てきたの」

「なんだか、切ないね」さくらが今にも泣きそうに言った。

「おばさんはばあちゃんの子供だから、お母さんとは異母姉妹」

「そうか」陽菜が頷いた。


「でも、アンの家庭はいつも明るくて、私はうらやましかった」と陽菜が言った。

陽菜のお父さんは早くに亡くなっているので、お母さんと二人だけだ。

さくらは三人姉妹の末っ子、いかにも末っ子だ。


「薫さんのこと、分かってすごくすっきりしてる」と二人に言った。

「うん」二人が答えた。


「薫さんのことや、文化祭のこと、タイムスリップ、陽菜とさくらは私のかけがえのない友達。ほんとにそう思ってる」私は二人の目を見てそう言った。

「私も同じだよ」陽菜が言った。

「私も。大親友〜」さくらが言った。

「さくらが言うと軽い」と陽菜が茶化した。

「なによ、ほんとにそう思ってるもん」

陽菜と私で笑った。


 二人とは大人になっても付き合っていたい。

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