第38話 薫さんの秘密ー1
次の日は日曜日、タイムスリップの興奮が覚めていなかった。
DISCOの音楽が頭の中でまだ鳴っている。きらびやかな照明も見えている。
ただ、頭の中のもう半分には薫さんの顔がずっと浮かんでいた。
お母さんに似ていた。
「パン焼いたので食べましょ」お母さんが声をかけてきた。
「はーい」
タイムスリップから帰ったとき、お母さんの顔を凝視したので、
「なに? なんなの?」と言われたが、リビングのテーブルに座り改めて顔をじっくりと眺めた。
やっぱり似てる、というより〝そっくり〟だ。
お父さんはゴルフに出かけたので、お母さんと二人。パンを食べながら、聞いた。
「薫さんの昔の写真ってある?」
「えっ……、おじいちゃんのアルバムの中にあるかも知れないけど、なんで?」
「昔は美人だったのかなって」
「探してみれば」
きっと不思議に思ったかも知れないが、お母さんはそれだけ言って、またパンを食べ始めた。
やはり、薫さんの話になると何か会話が途切れてしまう。
火葬場や、おじさん、おばさん、ノンが来たときもそうだった。
テレビを見ながら、黙々とパン、ベーコンエッグを食べていたが、
「そう言えば、文化祭行けなかったけど、どうだったの?」とお母さんが言った。
「たこ焼きの屋台を出すことは言ったでしょ。大成功だったよ」
「そう、良かったね。ほんとは行きたかったんだけど」
「でもね」
ポップの件は話していなかった。
「なに?」
「私と陽菜とさくらと三人は、人を呼ぶためのポップを作ったの」
「ポップってスーパーとかでもよくある広告ね」
「うん、そう」
「それがどうしたの?」
「開催前に破られてた」
「破られた? どうして?」
「分からない」
「誰に破られたの?」
「犯人は結局分からなかった」
「……そんなことがあったのね」
「遠藤先生にも相談して犯人を捜したけど、やった人も後悔しているだろうって、先生も私たちも考えて、犯人探しも打ち切ったの」「最初は絶対に許さないって思ってたけど」
「うーん、そうね。お母さんも、犯人は後悔していると思う」「作り直して、成功したんでしょ。よくやったね」
「うん、ありがとう。陽菜とさくらとの絆も強くなったと思う」
「そう、大切な友達ね」
私もそう思う。
その大切な友達とタイムスリップをしたこと、ほんとは話したいけど、黙っていた。
「ごちそうさま」
「はい」
食べ終えた皿を流し台に片付けて自分の部屋に戻った。
じいちゃんの和室に確かアルバムがあったはずだ。一回だけ見たことがある。
古い書棚をいろいろ散策して、三冊のアルバムを見つけた。
一冊目は、じいちゃんが赤ちゃんの頃から中学生くらいまでの写真で構成されていた。
中学生くらいになって、カラー写真になるけど、それ以前はモノクロだ。
二冊目に大学時代のものがあった。
その中に、居酒屋と思われる店で、じいちゃんと薫さん、全員で六人が写っている写真があった。
(間違いない、薫さんだ)
バイト先で知り合ったと言っていたので、この居酒屋がそうだったのかも知れない。
前にも見たはずだが、記憶にない。
そこに写っている薫さんは、どう見ても〝お母さん〟だ。
薫さんはじいちゃんのただの友達じゃない、そんな疑念をずっと抱いてきていたが、一層、その疑念は大きくなった。
二冊目の後ろの方にじいちゃんとばあちゃんの結婚式でのスナップ写真があった。
正式な結婚式でのアルバムはどこか別に保管されているのだろう。
スナップ写真を見る限り、薫さんの姿はない。
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