第36話 三人で過去へー8

「じゃ、そろそろスクエアビルに行こうか」、浩ちゃんが言った。

「うん」と私が答えた。


 スクエアビルまで、六本木は肩がぶつかるくらいの人込みだった。

途中、外人さんが十人くらい集まっていて、大声で叫んで盛り上がっていた。


「なんだか、凄いね」さくらが楽しそうに笑いながら言った。

「この街は遊ぶための街なんだね」と陽菜が言った。


 スクエアビルは前にも増して人でごった返していた。

「この前と同じ、NEPENTAにしよう」、浩ちゃんが言って、後についてきてというように、私たちに集まるよう手招きで呼んだ。


 四人で透明のエレベーターを待っている若い人たちの後ろに並んだ。

陽菜もさくらも、緊張しているようにみえた。


 八階に着いた。


 エレベーターのドアが開いた途端、大音量の音楽が襲ってきた。

音の風が体を押し返す。


「じゃ、入るよ」と浩ちゃんが言った。


 中に入ると、前と同じ、像の置物が迎えてくれた。

陽菜もさくらも目が輝いてる。踊る場所にはすでにたくさんの人が今にもくっつきそうに踊っている。


「浩ちゃん、この音楽はなに?」と私が聞いた。

「これは〝ステイン・アライブ〟。〝ビージーズ〟の曲だよ。今年公開された〝サタデー・ナイト・フィーバー〟で使われた曲」浩ちゃんが答えた。


 音が大きいので、顔の近くで話さないとよく聞き取れない。


「じゃ、みんなで踊ろう」と浩ちゃんが三人を誘った。

「はい」

陽菜とさくらが一緒に答えた。なんだか二人とも積極的でびっくりした。


 四人で、踊っている人たちをかき分けて奥まで進んだ。


 浩ちゃんが踊りだした。私も踊り始めた。

最初とまどっていた陽菜とさくらも踊り始めた。2人ともリズム感がいい。


 次にかかった曲は、和室でも恰好いいと思った曲だった。

「浩ちゃん、この曲は?」

「〝裏切り者のテーマ〟、オージェイズ」「ちょっとステップで踊ってみる?」

「うん」


 浩ちゃんが前後に移動する感じで踊りだした。

「これは〝ソウル・チャチャ〟って踊り」


 浩ちゃんを真似て、三人も踊った。それほど難しくない。

途中、


 ♪チャチャチャ、チャチャッチャ


というフレーズで手拍子を入れて、そのあとのサビ


 ♪What say do?


で両手の人差し指を前に向けて指す。

すごく楽しい。


 陽菜とさくらもほんとに楽しそうだ。


 二曲ほど踊ったら、照明が暗くなり、ゆったりとした曲が始まった。

例のチークタイムだ。


「えっ、なに?」、不思議そうな顔をして、さくらが言った。

「チークタイムだよ」「席に行こう」浩ちゃんが言った。

浩ちゃんの後に私たちも付いて、踊る場所を出た。


 ♪We skipped the light fandango

  Turned cartwheels `cross the floor


「この曲は〝プロコルハルム〟の〝青い影〟だよ」と浩ちゃんが教えてくれた。


 陽菜とさくらは、べったりとくっついて踊っているカップルたちを物珍しそうに眺めていた。

明るい中で見たら、二人とも顔が赤いかも知れない。

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