第32話 三人で過去へー4

 土曜日の昼過ぎ、二時半頃に陽菜とさくらが一緒に家に来た。

お母さんもお父さんも家にいる。

二人とも出かけて欲しかったけど、仕方ない。


 お母さんが二人を

「いらっしゃい」と迎えた。二人とも笑顔で

「お邪魔します」と言った。

「お母さん、二人と大切な話があるので、じいちゃんの部屋を使うね。邪魔しないでよ」

「はいはい、分かりました。じゃあ、その大切な話の前に飲み物とお菓子を持っていくわね」


 お母さんは私たちが何をしようとしているかなんて、分かるはずがない。

二人とじいちゃんの和室に入って、少ししたとき、お母さんがジュースとお菓子を持って来てくれた。

「ありがとうございます」陽菜が言った。

「あ、このお菓子大好き。ありがとうございます」さくらが言った。

「あら、良かったわ。じゃ、ゆっくりしていってね」

「はい」2人が答えた。


 三人でジュースを飲み、お菓子を少し食べた。

さくらはほんとに好きなようで、笑顔が消えない。


「陽菜、持って来てくれた?」

過去に行ったときにお金がないと困るので、陽菜のお父さんが紙幣やコインを集めていると聞き、頼んでおいた。

「うん、お父さんに内緒で少しもらってきた。たくさんあるので、きっと分からないと思う」笑いながら陽菜が言った。


 今は三時。以前にタイムスリップに成功した時間、四時にはまだ一時間ある。

二人にDISCO音楽を聞かせるには十分な時間だ。


「過去に行ったとき。DISCOで流れていた曲をかけるね」

CDの棚から〝ボニーM〟のベストアルバムを引っ張り出して〝マ・ベイカー〟をかけた。


 弾けるようなイントロからナレーションのような声が入り、歌が始まった。


 ♪Ma Ma Ma Ma-Ma Baker She taught her four sons


 ノリが良い曲で、陽菜もさくらも「マ・マ・ママー」って口ずさんでる。DISCOの私と一緒。

曲を聴きながら、サニーもいい曲だって、浩ちゃんが言ったのを思い出した。

「次は〝サニー〟をかけるね」


 ♪Sunny, yesterday my life was filled with rain


 この曲も思わず体が動いてしまう。

次々と〝ボニーM〟の曲をかけまくった。私が

「この曲好き」と言い、陽菜も

「いいね」と言った曲があった。

〝バビロンの河〟だ。

波の音からハミングが入り、そのあと軽やかなリズムで歌が始まる。


 ♪By the rivers of Babyron there we sat down

  Ye-eah we wept When remembered Zion


 さくらがある曲で

「あ、この曲、何かのCMで流れてた」と言った。私も陽菜も

「うん、聞いたことある」と答えた。

〝ガッタ・ゴー・ホーム〟という曲だった。


 ♪Ooohooohooohooo


っていうところが印象的。

「なんだか楽しいね」

さくらの顔が明るい。怖さはどこかへ飛んで行ったようだった。


 ちょうど四時十分前になった。


「準備しよう」陽菜が言った。


 成功したときと同じ、じいちゃんのソファで〝セプテンバー〟を聴くんだ。ソファは三人がちょうど座れる大きさだ。

私が真ん中に座り、

「さくらは左、陽菜は右に座って」と言った。


 陽菜もさくらも顔から笑顔が消えている。


〝アース・ウィンド・アンド・ファイアー〟のCDをセットして、私の左手をさくら、右手を陽菜が握った。

二人の手で写真を私の胸のところに抱いた。

オーディオのリモコンを陽菜が右手に持ち

「かけるよ」と言った。


〝セプテンバー〟をかけた。同時に三人で目を瞑った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る